#マーケティング #トレードマーケティング #インサイト
自社商品は、店頭で十分な存在感を示せているでしょうか?
小売のバイヤー担当者は積極的にあなたの会社の製品を扱いたいと思っているでしょうか?そして何より、消費者は自社商品に魅力を感じているでしょうか?
今回は、マウスウォッシュブランドの営業事例を深掘りし、バイヤーとショッパー (お店への来店客) のインサイトを捉えたトレードマーケティングの成功の秘訣を紐解きます。
事例を通じて、マーケティングに役立つ学びを深めていきましょう。
リステリンの小売営業
ジョンソン・エンド・ジョンソン (J&J) は、1886年にアメリカで設立され、製薬や医療機器、各種ヘルスケア関連製品を取り扱う多国籍企業です。
日本市場でもいくつかの商品カテゴリーで No.1 シェアを握る J&J は、ドラッグストアチェーンのバイヤーからの支持も厚く、店頭では生活者が手に取りやすい商品の "棚取り" ができています。強い営業部隊がバイヤーの心をつかみ、そしてリピーターを生み出し続けているのです。
Kenvue の営業部隊
J&J の営業を担うのは、リステリンの販売元である Kenvue (ケンビュー) です。Kenvue は2023年8月にアメリカの J&J からコンシューマーヘルス事業部門がスピンオフした別会社です。
Kenvue 日本法人は日本の全国のドラッグストアのバイヤーに対し、競合メーカーとはひと味もふた味も違った魅力的な販促提案を行っています。
「お口でストップ悪玉菌」 キャンペーン
「リステリンは何のため?口臭?爽快感?だけじゃない。善玉菌と一緒に悪玉菌も口から中へ。お口でストップ悪玉菌。お口の中の悪玉菌をバイオ殺菌」 ――。
日本の Kenvue は2023年夏ごろから、こんな日本独自のメッセージで洗口液 (マウスウォッシュ) の販売を加速させることを全国の主要ドラッグストアチェーンに対して提案し始めました。
マウスウォッシュの位置づけや価値イメージを変えようとする挑戦的な試みで、マウスウォッシュが口の中だけではなく体全体の健康につながるという新しい売り出し方です。
この施策によって J&J のリステリンを取り扱うドラッグストアの店頭風景が大きく変わり、商品へのイメージチェンジに成功しました (参考記事) 。
トレードマーケティングのお手本例
Kenvue が展開したリステリンの事例は、バイヤーとショッパーのインサイトをとらえた成功例です。
カテゴリー売上の増加や隣接カテゴリーへの販売増加、そしてバイヤーの 「売りたい」 と 「売れそう」 の両方に応えるマーケティングです。
新しい価値提案
リステリンの販売元である Kenvue の営業部隊が実施した 「お口でストップ悪玉菌」 キャンペーンは、バイヤーとショッパーの両方のインサイトを巧みに捉えたものでした。
このキャンペーンではリステリンの口臭予防や爽快感だけでなく、口腔内の悪玉菌をバイオ殺菌することで、体全体の健康をより良くする点を強調しました。新しい価値を訴求したメッセージは、健康意識の高い消費者に響きました。
バイヤーのインサイト
ドラッグストアなどの小売店のバイヤーにとって、実はオーラルケア商品コーナーは悩みの種でした。
日本の洗口液 (マウスウォッシュ) の使用率は 30% 程度にとどまり、アメリカの 64% に比べて半分にも満たない状態でした (参考記事) 。マウスウォッシュは商品サイズが大きく、商品棚でスペースを占有するわりに、もしあまり売れなければ、オーラルケア商品を担当するバイヤーにとっては積極的に扱いたくないカテゴリーとなってしまいます。
バイヤーの課題感として、オーラルケア商品の中でマウスウォッシュカテゴリーの売上をなんとか伸ばせないかという思いがありました。
ここに Kenvue はビジネスチャンスを見出しました。バイヤーの課題感を的確に捉え、リステリンだけでなくマウスウォッシュ全体、さらにオーラルケア商品コーナーそのものの活況を目指す提案を行ったのです。
マウスウォッシュが体全体の健康増進につながるものとして来店客 (ショッパー) に打ち出し、さらに、マウスウォッシュの使用が歯ブラシや歯磨き粉の買い替えを促進するという、オーラルケア全体の売上を増やす施策を提示しました。
これにより、バイヤーはリステリンを今までの課題に対処できると期待でき、「売りたい」 と感じるようになったのです。
ショッパーのインサイト
ショッパーにとって、従来のマウスウォッシュの主な使用目的は口臭予防や爽快感でした。
Kenvue は 「お口でストップ悪玉菌」 キャンペーンを通じて、マウスウォッシュが口の中の健康だけでなく体全体の健康にもつながることを訴求しました。この新しい価値提案は、健康意識の高い消費者のニーズにぴったり合いました。
加えて、Kenvue は小売の ID-POS データを活用し、ショッパーの購買パターンを詳細に分析し、ショッパーへの新しい打ち出し方を考案しました。
たとえば、乳酸菌飲料のブームに合わせて、口腔内の健康維持が体全体の健康に良い影響を与えるというメッセージを投げかけることでトレンドに合い、健康志向の消費者にアピールしました。これにより、バイヤーはリステリンを 「売れそう」 と感じるようになったのです。
カテゴリー売上の増加と隣接カテゴリーへの波及効果
リステリンのキャンペーンにより、リステリンの売上は増加しました (参考記事) 。
リステリンは、マウスウォッシュカテゴリーのシェアで No.1 を獲得し、売上も前年比 5% 増を達成。さらに、リステリンの販売促進はマウスウォッシュ全体の売上を押し上げました。
また、マウスウォッシュの使用が歯ブラシや歯磨き粉の買い替えを促進するという提案も功を奏しました。結果としてこれらマウスウォッシュの隣接カテゴリーの売上も伸びました。オーラルケア商品コーナー全体の活性化にもつながったのです。
バイヤーの信頼とリピート購入者の獲得
Kenvue は、バイヤーに対する信頼を築く上でも成果を挙げています。
バイヤーのニーズや課題に応じた具体的な提案を行い、カテゴリー全体の成長を目指す施策を打ち出したことで、バイヤーからの信頼を獲得したのです。バイヤーはリステリンを 「 (自分たちの課題対処につながる期待が持てるので) 売りたい」 と思い、リステリンを積極的に扱ってくれるようになりました。
さらに、ショッパーに対してもマウスウォッシュからの新しい価値を訴求することで成功をもたらしました。リステリンを使って得られる健康効果が実感できたことで、ショッパーからのリピート購入につながったのです。
バイヤーとショッパーのインサイトを捉える
Kenvue が展開したリステリンの成功事例は、バイヤーとショッパーのインサイト (無意識的な選択・購入意識決定への判断軸) を的確に捉えたマーケティングのお手本となるものです。
バイヤーの課題感に応え、バイヤーから 「売りたい」 と思ってもらえる提案を行うと同時に、ショッパーのニーズに応じた新しい価値を提供することで、バイヤーからの 「売れそう」 という期待の両方を満たすことができました。
カテゴリー全体の売上増加や隣接カテゴリーへの販売増加にも貢献し、バイヤーとショッパーの双方からの支持を得たのです。
まとめ
今回は、J&J の営業を担う Kenvue の事例から、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- バイヤーの 「売りたい」 とショッパーの 「買いたい」 を同時に満足させる提案が、小売営業への成功のカギを握る
- バイヤーの課題感やインサイトを理解し、バイヤーが 「売りたい」 と思えるような、たとえばカテゴリー全体の成長を目指す施策を提案する
- さらに、データ活用によるショッパーの購買パターン分析するなど、「これならショッパーに売れそう」 という期待を持ってもらうことでバイヤーからの信頼を得ていく
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