2012/06/26

わずか3問:NBAファイナルで見た秀逸な質問力

世界最高峰のバスケを魅せてくれるNBA。11-12年の今シーズンは、マイアミヒートの6年ぶり2度目の優勝で幕を閉じました。何気にNBAフリークだったりするので普段から結構見ていて、特にプレイオフはカンファレンスファイナル(東西リーグ優勝決定戦)、ファイナルの全試合をばっちり見ました。連日のNBA三昧で楽しい日々でした。

マイアミヒートは”3 Kings”と呼ばれるレブロン・ジェームス、ウェイド、ボッシュという3人のスーパースターを擁す強豪です。昨年はファイナルで惜しくも敗れましたが、今年は3人以外のチームメイトのいぶし銀の活躍もあり、ファイナルは初戦で西リーグチャンピオンのオクラホマシティサンダーに負けたものの、その後は破竹の4連勝。事前の予想に反しての圧勝でした。

■秀逸だったMVPレブロンへのインタビュー

ヒートの優勝が決まった第5戦の試合終了後、大歓声を送る地元ファンの前で優勝セレモニーに移りました。チームに優勝トロフィーが授与され、その後にファイナルの最優秀選手(MVP)を受賞したのは「3キングス」の1人であるレブロンでした。

引用:LeBron James - 2012 - NBA Finals MVPs|SI.com

MVPトロフィーを受け取った後、檀上でそのままレブロンへのインタビューが始まったのですが、その内容が考えさせられました。それまではあまり考えずに見ていたのですが、インタビュアーとレブロンの対話が深く、それを引き出したのがインタビュアーの質問でした。

日本だと、試合直後に活躍した選手に来てもらって、「放送席、放送席。それでは○○選手へのインタビューです」と続く質問とその返答は、ありきたりな内容がほとんどです。もちろんたくさん答える選手もいれば、誠実に対応する選手、考えて自分の言葉で話す選手もいますが、個人的に思うのはそもそもインタビューの質問に工夫が感じられない点。

それが、この時のインタビューはおもしろかった。思わずボリュームを上げてしまうほど。以下のYouTubeの動画が実際の試合直後のMVP授賞式のもので、インタビューは1:10あたりから始まります。


LeBron James, The 2012 NBA Finals MVP - Trophy Presentation!|YouTube

以下、レブロンへのインタビューの抄訳。
インタビュアー(I):MVPに相応しい大活躍でした。試合終了の瞬間の気持ちは?
レブロン(L):やっとこの時が来たという思いでした。
I:(優勝を逃した)昨年のファイナルの後はいろいろな批判がありました。その中で一番気になった批判は何でしたか?
L:自分勝手だという批判です。それだけが心に引っ掛かりました。優れたチームプレイヤーになるために自分は何でもやってきた。しかし、その一方で、その批判をモチベーションとして優勝に貢献できた。本当にうれしいです。
I:昨年は、「自分を証明しようとしすぎた」と言っていました。それを今年はどのように気持ちをきり変え、どう対応したのですか?
L:基本に戻りました。全てを捧げ貢献するという気持ちです。2シーズン前までは試合に集中し、自分を証明するという気持ちはありませんでした。しかし、昨年は自分らしくなくつらい気持ちを抱えながらのプレーでした。そして今年はバスケットボールを愛し、情熱を持ち、自分の基本に立ち返りました。
I:試合終了時、ベンチで大喜びしていましたね。どのような気持ちでしたか?
L:人生で一番幸せです。チームメイトやファンとこの瞬間を分かち合いたいと思います。皆さん、応援ありがとうございます。夢が叶いました。

インタビュー自体は4問で、時間にして2分ちょっとでした。優勝を決めた直後という状況でなかなか深い会話だと思います。印象的だったのが2問目の質問。自身初の優勝を決め、ファイナルMVPという気分が最高潮の時、いきなり昨シーズン終了後に浴びせられたレブロン自身への批判について質問したのです。「あなたは数多くの批判を受けましたが、その中で最もつらかったものは?」と。

それに対してレブロンも誠実に答えています。自分勝手なプレーと言われたこと、自分はチームプレイヤーとしてあらゆることをやってきたこと。同時にその批判に向き合い乗り越えたからこそ優勝につながったこと。

続く3問目もおもしろいやりとりです。昨年にレブロンが「自分を証明しようとしすぎた」と言っていたことを引用し、それをどう変えたのかを聞き出す質問。レブロンの答えは「自分の原点に戻る」というシンプルなものでしたが、一昨年・昨年・今年と比較しながらのわかりやすい回答になっています。

ちょっとだけレブロンとこのインタビューの背景を解説しておくと、レブロンという選手はNBAの中でも超がつくほど一流選手です。高校の頃からマイケル・ジョーダンの再来と言われ、これまでの経歴は、03-04年シーズンに新人王、オールスターMVPを2回、シーズンMVPを3回、そして今回のファイナルMVPと悲願だったチャンピオンズリングの獲得。輝かしい実績です。NBAキャリアは地元チームのクリーブランドキャバリアーズに入団。順調に活躍を見せますが、昨シーズン(10-11年)前に今のチームであるヒートに移籍しました。

この移籍イメージが良くなく結果的にその後のレブロンはヒール(悪者)扱いされることも少なくありませんでした。そしてチームのエース故にファイナルで敗れたことへのバッシング。これが2問目の「あなたは数多くの批判を受けましたが、その中で最もつらかったものは?」と、3問目の「(ヒートに移籍した)昨年は『自分を証明しようとしすぎた』と言っていたが今年はどう変わったか?」の背景です。

■レブロンへのインタビューに学ぶ「具体的&本質的」な質問力

質問って、何を聞くかでその後の会話は全然違ってきます。良い質問が投げかけるとそれにより相手の経験や考えが引き出される。良い質問とは、具体的かつ核心をついたものだと思っています。核心をつくとは、本質的な質問、あるいは相手が話したいと思っていることに触れる(&自分が聞きたいこと)、という理解です。

もう1つの条件である具体的に聞くこと。これも答える側としては大事なことで、抽象的な質問だとえてして話の流れが発散してしまいます。例えばもしレブロンへのインタビューで「あなたにとってバスケは何ですか?」という質問だったら、聞く内容は本質的なのですが抽象的すぎます。抽象的に聞くと話していることのレベルが合わなくなる。議論や交渉ではあえて論点のレベルをずらすこともありますが、会話やインタビューでこれが起こるとかみ合わなくなります。

上記インタビューでは4問のうち、2問目と3問目が具体的かつ本質的な質問でした。インタビュアーの質問の意図は、レブロンのこの1年間での成長についてコメントを促していること。何に苦しみ、どう乗り越え、自分はどう変わったか。これをたった2問の質問で引き出している。もっと言えば、これが優勝後の落ち着いた記者会見だったり、雑誌の取材、TV等の出演ならわかりますが、優勝直後のMVP受賞場面で行なわれたのです。

レブロンへのMVPインタビューで学べる質問力とは、「本質的なことを具体的に問うこと」だと思います。例えば、複数の中から最も印象の強いことを1つ聞くこと、過去と現在の比較からどう成長したのか、何が自分を変えたのかを深掘りする、過去のその人の発言を引用して質問をする、等でしょう。

今年のNBAファイナルは対戦内容だけを見るとヒートの強さと、対戦チーム・サンダーの若さゆえの精神的な弱さが印象的で、もう少し拮抗するかと思っていました。少なくとも4勝1敗で決着するとは予想してませんでした。もう少しファイナルの試合を楽しみたくそこは期待を下回ってしまいましたが、一方で最後のセレモニーで見たインタビューはあらためて考えさせられる質問力でした。


※参考情報

LeBron plays just well enough to lead Heat to NBA Championship|Scrape TV
NBA final: LeBron James leads Miami Heat to title over Oklahoma City Thunder|thestar.com
NBA=ファイナルMVPのジェームズ、「最高の気分」|Reuters
ヒートが制覇!“キング・ジェイムズ”が開いた新たな扉=NBAファイナル|スポーツナビ
LeBron James - 2012 - NBA Finals MVPs|SI.com
LeBron James, The 2012 NBA Finals MVP - Trophy Presentation!|YouTube

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