#マーケティング #利用シーン #市場創造

ある商品が売れないとき、商品の 「中身」 を変えようとするでしょう。しかし、本当に変えるべきは 「中身」 ではなく商品が 「使われるシーン」 かもしれません。

今回は、成熟したヨーグルト市場で固定観念を打ち破り、ユニークな商品を生み出した小岩井乳業の事例から、マーケティングに学べることを解説します。

小岩井 「むぎゅう〜っと搾るヨーグルト」 

出典: Makuake

まずは、今回取り上げる主役、小岩井乳業の 「むぎゅう〜っと搾るヨーグルト」についてご紹介しましょう。

小岩井乳業が応援購入サービス 「Makuake」 と組んで開発した新コンセプトの商品です (終了済ですが応援ページはこちら) 。

特徴はパッケージです。ヨーグルトのカチッとしたカップではなく、マヨネーズのような 「チューブ型パウチ容器」 を採用しました。

これまでの 「ヨーグルトはスプーンですくって食べる」 というものではなく、片手で搾り出せることで、ヨーグルトを料理やスイーツに 「かける・飾る・混ぜるもの」 へと進化させたのです。パンやフルーツ、サラダなど、さまざまな食品にトッピングできる新しいヨーグルト体験の提案です。

出典: Makuake

では、このヒット商品が生まれた背景を、利用シーンの発見から新規顧客獲得に至るマーケティングの全体プロセスとして見ていきましょう。

マーケティングの全体像

小岩井の 「搾るヨーグルト」 が、なぜ市場を広げることができたのか。順を追って見ていきましょう。

課題の特定

市場が成熟すると、見えない壁にぶつかることがあります。小岩井乳業が直面したのも、そんな構造的な課題でした。

ヨーグルトは 「朝食」 「健康のため」 「スプーンで食べる」 というイメージが定着している食べ物です。実はこの固定観念が 「朝以外の時間帯」 や 「健康意識以外の動機」 が生まれにくく 、市場の成長を制限していました。

これはマーケティングの用語で言えば、カテゴリーエントリーポイント (Category Entry Point: CEP) が偏っている状態です。

CEP とは、人がそのカテゴリーを思い出して買うきっかけになる瞬間のことで、カテゴリーへの入口です。「朝の健康習慣」 という CEP だけでは、ヨーグルトの利用シーンが広がらず、既存顧客の購入頻度は頭打ちになります。

小岩井乳業は、この見えない壁を突破するために、数十年ぶりの新商品開発に踏み切ったのです。

消費者心理の探索と新しいニーズの発見

課題を特定した小岩井乳業は、新しい利用シーンの探索に取り組みました。ここで活用されたのが、Makuake の事前リサーチ機能です。

生活者の声を丁寧に観察すると、これまで見過ごされていた具体的なニーズが浮き彫りになりました。

親子で一緒に搾ることが楽しいという声がありました。

子どもが自分で搾ってデコレーションすることで、食事の時間がコミュニケーションの場になる。一緒に作る体験へのニーズです。

また、ドレッシング代わりに使いたいというニーズも発見されました。野菜サラダに健康的なトッピングとして使いたい。ドレッシングよりもヘルシーで、かつクリーミーな味わいを求める声です。

他には、片手でそのまま食べたいという要望もありました。忙しい朝や間食の時に、スプーンやお皿を使わず、手軽にヘルシーなおやつを済ませたいという消費者心理です。

ヨーグルト市場で今まで想定されていた消費者ニーズは、主に 「朝に健康に良いものを食べたい」 というものでした。しかし、小岩井乳業が発見したのは、それとは異なる新しいニーズだったのです

ヨーグルトを食べたいという機能的なニーズではなく、その背後にある体験や解決したい課題が明確に見えてきた瞬間でした。消費者が本当に欲しいのは、商品そのものというより、商品がもたらす体験や解決策です。

Makuake の事前リサーチ機能で実際の反応を見ることにより、マーケティングメッセージの優先順位が明確になります。どの価値訴求が最も刺さるのか、どの利用シーンが人気なのか——。お客さんとの対話を通じて、商品コンセプトとメッセージを磨き上げていったのです。

パッケージデザインの最適化

発見した新しいニーズを満たすために、小岩井乳業が出した答えが、ヨーグルトのパッケージをチューブ容器とし、搾って出すというデザインでした。

従来のカップ容器とスプーンの組み合わせには、いくつかの問題がありました。

スプーンを洗う手間、小さな子どもには扱いづらい、料理のトッピングとして使いにくい——。チューブ容器は、これらの問題を一気に解決しました。

新しい価値の提案

新しいデザインが生み出した体験は、どのような価値として消費者に届いたのでしょうか。

かけたり挟むことが簡単にでき、子どもでも片手で簡単に扱えます。量を調整しやすく、必要な分だけを搾り出せるため、サラダのドレッシング、パンケーキのトッピング、フルーツのソースなど、ヨーグルトの利用シーンの幅が広がりました。

容器というデザインは、見た目の変化にとどまらず、新しい体験を生み出し、行動を変容させる価値提案につながる要素だったのです。

搾るヨーグルトの顧客価値は、三階建ての価値構造という枠組みで整理することがてきます。

  • 1 階の 「基本価値」 は、ヨーグルトとして美味しい、栄養がある、品質が良いという土台部分です。この基本は今までの小岩井のヨーグルトとは変えていません
  • 2 階は 「機能的な価値」 として、多様な食材との組み合わせができ、搾ってかける、量が調整できる、手が汚れないという新しい使い方の選択肢を提供しました
  • 3 階の 「情緒的な価値」 として、親子でデコレーションを楽しむ、料理が映える嬉しさ、いろいろな食事にヨーグルトが使えて創造性を発揮できる喜びという、感情に訴える価値を積み上げました

このように土台となる基本価値の上に、搾るヨーグルトは新しい利用シーンにもとづく機能と情緒を積み上げる価値の拡張を行ったのです。

利用頻度向上と新規顧客獲得

この一連の商品開発とマーケティングが、最終的な成果に結びつきました。

小岩井の 「むぎゅう〜っと搾るヨーグルト」 は、Makuake での発売開始後の 1 週間で完売。購入者からは、子どもの 「やりたい」 に寄り添える、ヨーグルトの新しい楽しみ方が広がるといった声が集まりました。

朝食だけでなく、おやつタイム、夕食のサラダなど、利用シーン (CEP) が拡大しました。利用シーンが増えれば、当然、既存顧客の利用頻度が上がります。同時に、これまでヨーグルトを食べていなかった層、例えば料理好きやサラダ派が新規顧客として買ってくれました。

搾るヨーグルトは朝の健康習慣だけではなく、楽しくて便利なヘルシートッピングへと、その位置づけが変化することでしょう。ヨーグルトのカテゴリーの拡張と小岩井のヨーグルトのブランドの再活性化を同時に達成することが期待できます。

学べるマーケティングの本質

この事例は、成熟した市場において売上を伸ばすための示唆を与えてくれます。

まず、「文脈 (コンテキスト) の転換」 です。商品の中身を新しくすることだけが新商品開発ではありません。使われる顧客文脈 (利用シーン) を新たに捉えることで、商品は新しい価値を帯びます。

次に、「消費者起点の発想」 です。ヨーグルトをどう売るかではなく、想定する注力顧客のどんなニーズ (楽しみや不満解消) を解決するかから発想することによって、カテゴリーの固定観念を打ち破れます。

そして、「デザインによる価値創出」 です。デザインは価値そのものです。

デザインを見た目を良くするものと捉えがちですが、搾るヨーグルトが示すのは、デザインは機能であり、体験そのものであり、顧客価値に直接つながるということです。デザインはお客さんの行動を変え、新しい利用シーンを生み出すための戦略的な投資にできるのです。

まとめ

今回は、小岩井乳業の 「むぎゅう〜っと搾るヨーグルト」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 成長が頭打ちになっていると見えたら、商品スペックではなく利用シーンの固定化を疑ってみるといい。商品の中身ではなく 「使われる文脈 (シーン) 」 を変えることで、新たな価値が生まれる
  • お客さんが本当に欲しいのは商品というよりも、商品を使うことで得られる体験や解決策。お客さんの 「達成したいこと」 を起点に発想すると、固定観念から自由になれる
  • 利用シーンの拡張は、既存顧客の頻度向上と新規顧客の獲得を同時にもたらす
  • テストマーケティングで顧客と対話し、お客さんと共につくるという共創をすることで、本格展開前にコンセプトや訴求メッセージの精度を高められる