#マーケティング #ヒト・コト・ココロ #共創

9 年連続でシェアを落とし続けていた花王のヘアケア事業。しかし 2024 年に投入した THE ANSWER (ジアンサー) は、売上計画比 2 倍を達成し、わずか 10 ヵ月で出荷 150 万本を突破しました。

この逆転劇を支えたのは、何だったのでしょうか?

今回は花王の事例から、VUCA の時代に求められるマーケティングのあり方を読み解いていきます。

花王 THE ANSWER

出典: 花王

THE ANSWER は、花王が 2024 年秋に発売したハイプレミアム価格帯のヘアケアブランドです。

発売から約 10 ヵ月で出荷本数 150 万本を突破し、販売店におけるシェア 4% 強を獲得。「@cosme ベストコスメアワード 2025 上半期」 では、シャンプー・トリートメント史上初となる総合大賞を受賞するなど、THE ANSWER は高い評価を獲得しています。

THE ANSWER の注力顧客は 「誠実でバランスの取れた生活をしたい」 というニーズを持つ自立志向の強い女性です。こうした女性がヘアケアに求める価値は 「成分」 や 「信頼性」 、「品質の高さ」 です。

THE ANSWER は 「完全栄養シャンプー」 をコンセプトに、花王 100 年の研究から得た世界初の 5 大必須成分配合など、こだわりがひと目で伝わるシャンプーです。

花王が見出した 「ヒト・コト・ココロ」 

THE ANSWER の成功を紐解く鍵は、「ヒト・コト・ココロ」 という 3 つの視点にあります。

お客さんを理解し (ヒト) 、体験を設計し (コト) 、感情に寄り添う (ココロ) 。これらをバラバラではなく、ひとつの物語として紡ぎ直したのです。

[ヒト & ココロ] 機能の飽和と 「正解迷子」 という顧客心理

ヘアケア市場は機能のコモディティ化が急速に進んでいました。ハイプレミアム製品が市場の 40% を占める中、生活者は 「どれを選べばいいかわからない」 「情報があふれすぎて迷う」 という心理状態に陥っていたのです。

この状況は、消費者の中で何かモヤモヤした気持ちでした。

  • 髪を良くしたい
  • だけど何が正解かわからない
  • 成分やエビデンスを見たいけれど判断しきれない

シャンプーを 「安心して選びたい」 という感情ニーズが購買要因にシフトしていたということです。花王はここに気づき、従来の研究開発の強さから打ち出す機能軸から、感情軸への訴求に転換しました。

[ココロ] 機能軸から感情軸へのシフト

感情軸を明確にするために、花王が用いたのは外部調査会社が提供する 「Kantar NeedScope」 にもとづいた感情分類です。

縦軸にエネルギー (高い / 低い) 、横軸に志向 (個人 / 集団) を置き、4 象限で 6 つの感情ニーズをマッピング。そして 「髪が美しくなった結果、人はどうなりたいのか?」 を明確にしました。ここで重要なのは、ブランドのポジショニングを機能ではなく感情に置いたことです。

THE ANSWER は 6 つの感情ニーズのうち、「Balance / 調和 / 誠実さ」 の感情領域に設定されました。

出典: MarkeZine

これにより、パッケージ、香り、成分、使用体験、仕上がり、コミュニケーションというあらゆる要素において、お客さんの感情 (ココロ) に一貫性のあるブランド体験を設計しました。

出典: MarkeZine

注力顧客の感情に刺激するよう体系立て、どんな気持ちにりたいかという 「ココロ」 にブランドを紐づけたのです。

[コト] 顧客体験の設計

THE ANSWER の顧客体験は 「知覚品質フロー設計」 によって形づくられます。

知覚品質フローとは、ヘアケアに関する消費者の行動を細分化し、「予洗い → 手に取る → 塗り広げる → 洗う → すすぐ → 乾かす → 翌日の髪」 という 7 ステップそれぞれに、どのように価値を感じるかです。

そして、花王は各ステップで五感による体験の仕掛けを組み込みました。

  1. 手に取った瞬間の粘度
  2. 泡立ちのスピード
  3. 香りの立ち方
  4. 洗い上がりの軽さ
  5. 翌日のまとまり

こうした価値を実感する体験が積み重なることで、お客さんは 「これは私に合っている」 という納得感が得られることでしょう。顧客体験から逆算した設計という点が重要です。

共創と成果

では、「ヒト・コト・ココロ」 はどのような体制で実現していったのでしょうか?

一貫性した顧客価値をつくる 「スクラム体制」 

花王の THE ANSWER の成功は 「部門横断のスクラム体制」 抜きには語れません。

というのも、花王は従来は開発・研究・デザイン・マーケティングが分業体制で行われてきました。しかし今回は、異なる部門から 30 名以上がワークショップに参加してコンセプトづくりからはじめ、その後も研究からデザイン、マーケティングまでがひとつのチームで走りました。

出典: MarkeZine

ワンチームの体制により、以下が実現しました。

  • プロセスを共有することでリスペクトと相互理解が生まれる
  • 意思決定が速くなる
  • 全員が設定した 「Balance / 調和 / 誠実さ」 という共通基準で判断できる

部門の壁を越えることで、「お客さんに価値を届けるにはどうすべきか」 という共通言語が生まれます。縦割り組織では実現できなかった、顧客起点の姿勢がここにあります。

これにより、ヒト (顧客) 、コト (体験) 、ココロ (感情) がつながり、お客さんにもたらしたい顧客体験がブレることなく一貫性が生まれます。

顧客とのブランド共創

スクラム体制は商品開発だけで終わりではありません。THE ANSWER の発売後、お客さんの声を取り込みながら、ブランドを育てる共創フェーズへと進化していきました。

THE ANSWER の担当者たちは発売後は SNS のオーガニック投稿を毎週分析し、リアルタイムでマーケティングに反映しました。

例えば、当初は THE ANSWER の成分訴求をメインにする予定でしたが、SNS で 「塗り洗い」 に驚きの反応が多数見られました。チームはさらに検証を進め、「理にかなった洗い方だ」 という発話が元になっていることを発見。

SNS での消費者からの評価には、新規性、他との明確な差異化、納得性という 3 つがそろっていることから、即座に塗り洗いの動画制作、店頭での販促 POP 、メッセージコピー開発を追加し、さらなる拡散を生みました。

ここにあるのは、企業が話したいことではなく、生活者が語りたい価値や感情を軸にするという顧客起点の徹底です。

 「ヒト・コト・ココロ」 の成果

花王は 「ヒト・コト・ココロ」 をこう実現しています。

[ヒト] 顧客設定を明確にし理解する

  • トレンドではなく 「どうなりたいか」 という情動をマッピング
  • 顧客のシャンプーに対する 「正解迷子」 状態を洞察
  • 組織内で部門を超えて共通の顧客理解像を共有

[コト] 五感設計で体験価値をつくる

  • 知覚品質フローで体験プロセスを解像度高く設計
  • 新しい洗い方 (塗り洗い) も体験価値として発見・育成
  • ブランド体験の一貫性を担保

[ココロ] 生み出したい感情でブランドをポジショニング

  • 6 分類の感情ニーズでマッピング
  • THE ANSWER は 「Balance / 調和 / 誠実さ」 で統一
  • パッケージから香りまで感情がぶれないようイメージを構築

ヒト・コト・ココロが有機的につながることで、ブランドはお客さんに寄り添う存在へと進化します。

VUCA 時代の勝ち筋

花王の THE ANSWER の成功のポイントは、次の 3 つのかけ算にあります。

  • 機能の差異化だけでは選ばれにくいカテゴリーでは、ヒト・コト・ココロをつなげた顧客価値が選ばれる理由になる
  • 部門横断によって、共通の顧客設定と顧客理解、商品コンセプトから顧客価値の設計までで認識を合わせる
  • 発売後も顧客の声を聞き、ブランド価値を共創する

この 3 つがそろうことによって、プロダクトアウト一辺倒ではなく顧客起点がぶれないマーケティング体制を構築できます。

完璧な計画よりも、重要なのは変化に応じて最善のことをやり続ける 「仕組み」 と 「チーム」 です。花王の事例は、顧客起点を中心に据え、組織の壁を越えて顧客と共創する── そんな VUCA 時代のマーケティングのあり方を示しています。

まとめ

今回は、花王の THE ANSWER の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 機能が飽和した市場では、顧客 (ヒト) の 「感情ニーズ」 (ココロ) に寄り添うことが突破口になる。お客さんの 「どんな気持ちになりたいか」 を起点に、一貫した体験 (コト) を設計することで選ばれるブランドになる
  • 顧客体験は細部まで解像度を上げて設計する。五感で感じる各ステップの積み重ねが、共感や納得感、安心感などの感情価値を生み出し、ブランドへの信頼につながる
  • 部門横断のスクラム組織は、顧客起点を組織全体で共有する文化を生む。また、発売後も顧客の声をすみやかに反映する体制をとることで、顧客との共創によってブランド価値を育てる
  • VUCA 時代に求められるのは完璧な戦略ではなく、変化に応じて最善を尽くす仕組みとチーム