#マーケティング #ビジネスモデル #集客力

駅直結の商業施設は数多くあります。でも、なぜルミネ新宿だけが圧倒的な集客力を持ち続けるのでしょうか。

その答えは、立地の良さだけでは説明できない、精緻に設計され実行される 「欲しいを先取りする仕組み」 にありました。

ルミネ新宿の圧倒的な集客力

出典: 新宿観光

日経リサーチ 「施設と駅のセンサス」 (2025 年版 首都圏商業施設 集客力ランキング) で、ルミネ新宿は 4 年連続の 1 位を獲得しました (リリース) 。

約 7 万人の回答をもとにした実利用調査での首位は、伊勢丹新宿や銀座三越といった百貨店を抑えての結果です。

駅直結の立地だから強い、では説明できません。ルミネは、駅直結という強みを前提としながらも、「お客さんの欲しい」 を先取りする仕組みを全方位的に磨き続けているからこそ、この地位を確立しているのです。

その本質を整理すると、「事業能力」 、「顧客理解」 、「提供価値」 という 3 つの軸に集約されます。順番に詳しく見ていきましょう。

[事業能力] ルミネの強さを支える 「裏側の仕組み」 

ルミネの強さは、表に見える商品やサービスだけではありません。その裏側には、他社が簡単には真似できない強い事業能力があります。

新宿エリア内での巧みな 「棲み分け」 

ルミネは新宿駅周辺に 3 館を持ちますが、客層を分けて最適な体験をつくっています。

  • ルミネ新宿 (ルミネ 1・2) : トレンドに敏感な働く女性 (30 ~ 40 代) 
  • ルミネエスト新宿: より若い層・カジュアル層 (10 ~ 20 代) 
  • NEWoMan (ニュウマン) : より上質で本物を求める大人の女性 (40 代以上) 

このように、ターゲット顧客層ごとに世界観、MD (マーチャンダイジング: 商品計画や販売活動) 、空間、サービスを変えています。

同じ新宿駅直結でも、提供価値を変えることで 1 つの巨大ターミナル駅を複数の市場に分解している点が卓越しています。

これらの施設が近隣にありながらもターゲットを明確に分けることにより、お客さんの奪い合いではなく、ライフステージに合わせたルミネ全体での 「回遊」 を生み出しているのです。

生活圏エコシステムの活用

ルミネの自社アプリ 「ONE LUMINE」 を軸としたデジタル戦略が、集客を単発の 「点」 から連続性のある 「線」 に変えています。

ルミネは JR 東日本グループの一員として、他社には真似できない生活圏データの統合が可能です。Suica の購買・移動データ、乗降客データ、商業施設データ、そして JRE や駅サイネージといった広告媒体など、鉄道・不動産・小売が連動する 「都市 OS」 とも言える巨大なエコシステムを持っています。

駅を中心とした生活圏支配により、生活者の行動文脈を深く理解し、精度の高い仮説を立てることができるわけです。

金融・ポイント・購買データを統合した CRM の強さも際立っています。

ルミネカード会員データで顧客像を理解し、購買体験の可視化で MD (商品構成) を精密化。ポイントと決済でリピートを促進する。金融レイヤーで生活者接点を強固にすることで、商業施設と金融の掛け合わせによる 「行く理由」 と 「戻ってくる理由」 の両方をつくっているのです。

テナントとブランドとの共創関係

ルミネは場所貸しではなく、ブランドと一緒に売れる仕組みをつくるプレイヤーです。

新興ブランドの登竜門としての役割を担い、ルミネ社員が自らリサーチして精度高くブランドを発掘。販促・売場づくり・商品構成をテナントと共同開発し、若年層向けの流行を日々キャッチする情報交換チームを持っています。施設とブランドが共に勝つ関係ができています。

 「ルミネスト」 に代表される接客レベルの高さ

EC サイトが普及する中で、リアルの店舗に行く理由をつくるのは 「人」 です。

ルミネは全館のショップスタッフから接客のプロフェッショナルを選出する 「ルミネスト大会」 を長年実施しています。テナントスタッフ (ルミネの直接雇用ではない) に対しても手厚い研修や表彰制度を設け、「ルミネで働くことへの誇り」 を醸成します。

これにより、マニュアル通りの対応ではなく、来店客の心に寄り添う高いレベルの接客体験が実現し、「またあの人に会いに行きたい」 と思わせる店員を生み出しています。

[顧客理解] 「誰の」 「どんな文脈に応えるのか」 の明確さと深さ

高い事業能力や強い事業基盤があっても、それだけでは消費者から選ばれ続けることはできません。

ルミネの集客力の強さは、消費者を深く理解し、お客さん文脈に寄り添う姿勢にあります。

顧客目線が根付いた組織文化

ルミネの表輝幸社長がかつて JR の駅弁で学んだという 「顧客の声を聞く姿勢」 は、ルミネ全体の文化として根づいています。

社長自身も売場に立ち、顧客の行動を観察する。価値創造の原点は常に 「お客さんは何を喜ぶか」 にある。各館・各チームが日次で 「顧客の兆し」 を共有し、トライアルと改善を躊躇しない。

システムだけでなく、こうした 「顧客理解が習慣になっている組織文化」 こそが、模倣困難な強さの正体です。顧客理解が習慣になっている組織は強いのです。

 「データ × OMO」 で生活文脈を読み解く

ルミネはデジタル (アプリ・Web) とリアル (店舗) を連動させ、お客さんの生活動線・時刻・気分まで含めた文脈データを細かくつかんでいます。

アプリからは回遊・お気に入り・チェックイン情報を、取り置き・オンライン予約からは購買意図を可視化し、SNS から流行・気分の兆しを先読み。店舗では 1 日単位で改善できる実行と学習サイクルを回しています。

数値には表れにくい小さな変化をすぐにキャッチする感度の高さが、トレンドを先取りの源泉となっています。

顧客理解からの価値定義

ルミネは、10〜40 代の女性を中心に、なりたい気分、その日の文脈、求める体験を徹底的に捉えて MD やサービスに落としています。

仕事帰りのご褒美買い、休日の気分転換、ランチの選ぶ楽しさ、仕事服・美容・食のワンストップ体験。コアターゲット層に圧倒的に強くなることで、その価値が周辺層にも波及するストーリー構造を作り上げているのです。

[提供価値] どう選ばれるかをつくる価値設計

深い顧客理解を、具体的な価値提案に変えることによって、初めてお客さんから選ばれる理由が生まれます。

 「半歩先」 のトレンド提案

先進的すぎて消費者が理解できないものではなく、ルミネはターゲット層が今まさに欲しい、明日着たいと思う 「半歩先のトレンド」 を提案し続けています。

この半歩先という絶妙な距離感が重要です。ファッション業界では、あまりに先鋭的なトレンドは一般消費者には届きません。一方で、すでに広まりきったトレンドでは新鮮さがなく、わざわざルミネに足を運ぶ理由になりません。

ルミネは、Instagram や TikTok などの SNS で微かに兆しが見え始めたスタイルや、海外のストリートスナップで注目され始めたアイテムを、いち早くキャッチ。それらをターゲット層が取り入れやすい形にアレンジして、店頭に並べます。

たとえば、韓国で流行しているスタイルを日本の働く女性の体型や生活スタイルに合わせて微調整したブランドを誘致したり、パリのセレクトショップで人気のアイテムを、日本初上陸として展開したりというようにです。

ルミネが生活者の半歩先の価値を提案する 「編集者」 の役割を担うので、お客さんは安心してルミネの商品を手に取り、「新しい自分」 を楽しむことができるのです。

顧客の感情に訴えるマーケティング

ルミネの広告コピーは、単なる商品の宣伝ではなく、女性の深層心理や葛藤、希望を表現した 「文化」 として定着しています。

 「わたしらしくをあたらしく」 といったスローガンに代表されるように、ターゲット層のライフスタイルや価値観に寄り添うメッセージを発信し続けています。

広告ビジュアルから館内の装飾、BGM に至るまで、お客さんが 「ここは自分たちの場所だ」 と感じられる空気感を徹底して作り込んでいます。

 「イイトルミネ」 に象徴される総合体験

2024 年に登場した食特化型新業態 「EATo LUMINE (イイトルミネ)」 は、ルミネの価値づくりの最先端と言えます。

国内外の知る人ぞ知る名店を発掘し、施設内のフロアやお店を色々と巡りながら食の新発見が生まれる場所です。ターゲット層の女性の日常にフィットし、グルメ目的の来館動機を生み出します。

さらに、ファッション・美容・雑貨も含め、ライフスタイル全体でその日の気分に寄り添う体験を編集しています。目的買いだけでなく、ふらっと行けば何かいいことがあるという期待感によって、つい寄りたくなる理由がルミネには何層にも重なっているのです。

ルミネの強さの本質

ルミネ新宿が集客力トップを維持し続けるのは、単なる駅ビルだからではありません。

それは 「事業能力 × 顧客理解 × 提供価値」 という 3 つを高いレベルで統合し、お客さんがまだ言葉にできていない 「欲しい」 を先回りして提案し続けているからです。

JR 東日本グループのエコシステムという強固な基盤の上に、徹底した顧客理解と共創の姿勢を持ち、お客さんの感情に響く体験と価値を丁寧に編集する。この三位一体の構造が、ルミネの圧倒的な集客力の源泉なのです。

まとめ

今回は、ルミネ新宿を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 顧客層を全方位に広げる前に、コアターゲット層を明確に定め、その層に高い価値を届けることで、周辺層への波及効果が生まれる
  • 提供価値は、先進的すぎず遅れすぎない 「半歩先」 のタイミングが大事
  • 顧客の欲しいを先取りするには、消費者や顧客のデータを活用し、顧客文脈を深く理解する仕組みが必要
  • 事業能力・顧客理解・提供価値の 3 つを統合し、お客さんに寄り沿う顧客目線の組織文化が、持続的な集客力の源泉となる