2015/01/04

書評『「病院」がトヨタを超える日 医療は日本を救う輸出産業になる!』

『「病院」がトヨタを超える日 医療は日本を救う輸出産業になる!』という本に書かれていた、「医療崩壊の正体は”医療費崩壊”である」という指摘が目から鱗でした。
結論から先にいいましょう。医療の現場が荒廃し、医療崩壊が叫ばれている原因は、一にも二にも財源不足です。
患者が増えて医療が高度化・複雑化するほど人手が必要になるのに、支払われる医療費はとても採算ベースに乗るものではなく、働けば働くほど赤字になることさえ珍しくありません。そして病院は人を雇うお金がないまま、医師や看護師に限界を遥かに超えた超過勤務を強要し、それが彼らの離職や医療事故へとつながっていく。結果として、国民全体の命が危険にさらされる。
いわゆる医療崩壊の本質は、ここにあります。医療崩壊とは、なによりもまず「医療費崩壊」なのです。

■日本の医療費は抑制されている

そもそもとして、日本の医療費は高いのでしょうか?低いのでしょうか?

一般的な人々の認識としては、増え続ける医療費・抑制/削減をしないといけない、だと思います。

厚生労働省によると、2013年度(平成25年度)の日本の医療費は約39兆円です(厚生労働省の発表)。OECD加盟国と比べると、日本の医療費は多くもなく少なくもないという状況でした。2011年のデータで総医療費のGDP比率は9.6%。OECD平均の9.3%をやや上回る程度です(厚生労働省の発表)。

単純に数値だけを横比較すると、日本だけが突出しているわけではなく、むしろ医療費の抑制はできているようにも見えます。

■医療費を抑制する国民皆保険は今の日本に合わない制度

日本の医療費は本来はもっと高くてもよいのではないか、という視点に立つと、違ったものが見えてきます。詳しくはぜひ本書をご覧いただきたいですが、簡単に書くと、
  • 医療費が抑制されているのは「国民皆保険」という制度による
  • 国民皆保険の前提として、診療にかかる費用は全国どこでも同じ金額。この全国一律の料金は、国の諮問機関が定める「診療報酬」に基づく。1点 = 10円の点数制
  • 過去数十年で日本の医療水準は大幅に向上したが、診療報酬点数はほとんど伸びていない(抑制されている)
  • 民間から価格決定権を奪い、国が価格を決定して全国一律サービスを目指そうとする国民皆保険は、そもそもが社会主義的な発想である

本書を読んで思ったのは、国民皆保険とは万能の制度ではないということでした。その国の社会構造によって、とてもよくできた仕組みにもなるし、社会に合わない仕組みにもなります。

国民皆保険と相性の良い社会とは、①右肩上がりの経済成長、②病気になる人が少なく(≒ 高齢者が少ないピラミッド型人口構成)、病気の人を支える人が多い。つまり、戦後から高度経済成長までの日本にはよくできた制度でしたが、現在の日本にはそぐわない仕組みです。これは、日本の年金制度にも共通する課題です。

■医療を「産業」とみなす発想転換を

医療崩壊の根っこの原因が低すぎる医療費だとすると、医療崩壊の解決のために、単に人手を増やすだけでは、問題解決にはなりません。

本書での大きな提言はシンプルで、解決策は総医療費を増やすことだとします。

医療費増 → 社会保障費増 → 保険/税の財源をどうするのか、という議論になってしまいます。これに対してなるほどと思ったのは、考え方の発想転換が必要という本書での指摘。
どうして彼ら(引用者注: 国)は「総医療費の高騰が国を滅ぼす」と考え、ひたすら医療費抑制に努めるのでしょうか?
答えは簡単で、医療を「産業」として見ていないからです。
医療をなんの儲けも生み出さない、税金を食いつぶすだけの「施(ほどこ)し」と考えているから低く抑えようとする。総医療費を減らすほど経済がよくなると考える。
しかし、医療を「35兆円規模(引用者注: 2009年度)の巨大産業」だと考えたら、少子高齢化の時代に向けてこれほど有望な成長分野もないことがわかるはずです。
別に、税金や保険料を上げる必要はありません。まずは株式会社の医療参入を認めること。医療法人という縛りをなくすこと。医療を「施し」から「産業」に変えること。これだけで劇的に変化します。




■実践者の提言だからこそ価値がある

本書では、そのための具体的な提言や、すでに自分たちで実践している内容が詳しく書かれています。

価値があると思うのは、著者は日本では八王子で、そして海外ではカンボジアで、自分が描く理想を実現するために行動を起こしているということ。

八王子での一例としてワンコインドックという診察は画期的だと思いました。



これだけ見ると、医療費の削減とも見えますが、診察プロセスをシンプルにし、従事者も採血であれば看護師/検査技師でも可能なので、医者は本来の自分にしかできない仕事に注力できます。著者はこのワンコインドックにより開業医の8割は不要になってしまうのではと言います。

カンボジアで医療展開をするのも、単にカンボジアで儲かるという理由ではなく、カンボジアの人々のため、さらにカンボジアでの成功事例を日本に逆輸入することで、既得権益で固まった日本を変えようとしています。




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