
売れる商品は見ただけで惹かれる
楡周平の小説 象の墓場 に、まさにということが書かれていました。消費者が欲しいと思う商品は、ぱっと見て欲しいと思える、という内容です。
果たして、早苗は痛いところを突いてくる。「消費者が欲しいって思う商品って、説明なんかいらないものなんじゃないかしら。ぱっと見て欲しい!って思うものは黙っていても売れて行くものなんじゃないの (中略) 」
(中略)
これができる。あれもできる。この部分が優れている――。製品を開発し、販売する側に立つ者は、長所、利点を消費者に訴える。だが、それが真に消費者が待ち望んでいたものならば、本来そんな説明は無用であるはずなのだ。面白そうだ、美味しそうだ、便利かも――。見ただけで、ちょっと触っただけで、興味を惹かれる。本来売れる商品とはそういうものであるに違いないのだ。
物を売る側の熱意、思惑と、市場の反応は別物だ。そして多くの場合、作り手側は裏切られる。それが市場だ。
提供側、それも自分が開発したサービスや商品であれば、何がすごいかはユーザー以上にわかっているものです。サービスや商品の裏側になるアイデアや着眼点、技術的に何がすごいのか、これまでと何が違うのかです。
しかし、本当にそれがユーザーが求めているものなのかです。そこにギャップがあるのではないでしょうか。あらためて考えさせられたのが上記の引用部分でした。
仕事以外から仕事に役立つことを学ぶ
引用部分を読んだ時に思い出したのが、ライフネット生命の代表取締役会長兼 CEO である出口治明氏へのインタービュー記事でした。
参考:20代の社員に 「アホは出口さんです」 と言われました|日経ビジネスオンライン
出口氏はインタビューで、仕事以外のところから、仕事に役立つことを学ぶしかない」 と言っています。
20世紀は、仕事に役立つことは仕事の中でだけで学べば、通用する時代でした。会社で出世もできました。それは戦後日本がゼロから高度成長期の波に乗り、右肩上がりでどんどん伸びていったからです。会社でマジメに働いてさえいればハッピーでいられたからです。
日本が国際連合に加盟した1956年からバブルの90年までの間の、日本の経済成長率は、平均で約 7% です。つまり、10年で経済規模は倍になる数字です。こんなスピードでの成長を34年間続けていたのです。ある意味で、マジメに働く、というのが最大の戦略で、仕事のことは仕事で学べばいい時代だったのです。
ただし、こんな夢のような時代は、先進国で老人大国で少子化の進む今、そしてこれからの日本には2度とやってきません。少なくても私たちの生きている間はたぶんない。
何も考えずに、同質の人だけが集まる会社で仕事をしてさえいればハッピーになれた34年間は、もう終わっているのです。
じゃあ、どうすればいいのでしょうか?それは、仕事以外のところから、仕事に役立つことを学ぶしかない。言い換えれば、これまでの常識を捨てる。
仕事以外で学ぶとは、ものごとを消費者や商品やサービスのユーザーとして見ることです。
仕事の視点だと、どうしても提供者側の視点で世の中を見てしまいますが、全く逆の視点で消費者目線で身の回りを観察してみる。
自分が 「ぱっと見て欲しい!」 という感覚。その感覚は自分の何から生まれたのか。そこから、(消費者としての) 自分との対話が大事です。