2015/01/31

書評: 原発ホワイトアウト (若杉冽)




小説 原発ホワイトアウト をご紹介します。



霞ヶ関の現役官僚による内部告発小説として話題になり、2013年のベストセラーの1つです。

ストーリーの舞台は、2012年12月に行われた衆議院選挙後の日本です。原発再稼働か脱原発かで国民が二分する中、電力業界・経済界・政界が三位一体となり、虎視眈々と再稼働に向けて暗躍する様が描かれています。

内部告発小説と言われたのは、著者が現役のキャリア官僚であること (本名や詳細は伏せています) 、さらには内容が関係者しか知り得ないようなものでリアルに見えることです。


電気料金は原価と利益で決まる総括原価方式


電気料金などの公共料金は、日本では総括原価方式と呼ばれる仕組みが導入されています。供給側 (電力会社) の原価と利益を見込んで料金が決まる方式です。

民間会社としてはごく当たり前のように映ります。しかし、小説には総括原価方式から生まれる利権が書かれています。

電力会社は地域独占なので、競争相手に対して少しでも安くするというインセンティブが働きません。かかったお金 (原価) を全て盛り込めることができます。さらには、割高の原価であっても、そのまま電気料金に反映させています。


総括原価方式が生んだ利権


ここに目をつけ、自由競争をする場合よりもあえて2割多い割高なコストで電力会社は仕事を発注します。そして、割高部分の一部マネーを別で貯めておきます。

例えば、電力会社が下請け会社に発注する事業に当てはめてみます。通常の競争環境では発注金額が1億円だとします。しかし実際は、電力会社は2割を上乗せし1億2千万円で発注をします。水増し分の2千万のうちの 5% を貯めておき、残りは下請け会社にいきます。

この 5% 分のお金が、政治家へのパーティー券購入や政治献金に使われます。初めは一つの電力会社でしかやっていなかったのが、いつの間にか全ての電力会社で採用され、電力会社と政治が利権で癒着する構図が小説で描かれています。小説では 「モンスターシステム」 と呼ばれていました。

上記の例で言うと、電力会社は1億円の市場価格よりも2割も高い発注費用を払っても、そのまま電気料金に反映するので自分たちは損はしません。下請け会社にとっても受注額が2割多いのでおいしい話です。政治家にもお金が入ります。

電力会社、その下請け会社 (割高で受注できる) 、政治家の全ての関係プレイヤーが得をする、巧妙な仕組みです。その分、割を食うのは電気料金という形でそれを負担する国民なのです。


世論はいつの間にか誘導されつくられている


この小説を読んで思ったのは、世論とはとても流されやすく、熱しやすく冷めやすいものだということです。反原発の流れも、喉元がすぎれば次第に大衆から冷めていった様子が書かれていました。

ただし、その裏で原発再稼動を国民からは見えないところで誘導していたことが小説で描かれています。

おおよそ、3つの種類の人たちが再稼働を主張し、いつの間にかそれが世論として一定の大きさを持つに至っています。

  • 偉い人が言う (政治家)
  • 賢い人が言う (学者)
  • みんなが言っているように見える (マスコミ)

政治家や学者が、原発を再稼働させないと電気料金がどんどん上がる構図を示します。ワイドショーコメンテーター 「原発事故も嫌だけど、月々の電気料金のアップも困りますよね」 と発言します。

上記3つの方向から言われ続けられた結果、なんとなく大衆の空気が再稼働になったのです。


送電できなくなると原発は緊急停止する


本書では原発が緊急停止し、非常用電源が想定通りに働かず燃料棒の冷却ができないというシーンがあります。東日本大地震直後の福島原発で起こったことの再現です。

なぜ小説では原発が緊急停止をしたかというと、原子力発電所から電気が送られる送電線の鉄塔が破壊してしまったからです。発電所から先に電気が送られない状況では、原発は停止するという仕組みなのです。

これは盲点でした。

東日本大震災では、原発敷地内の事故によって原発が緊急停止をしたのが福島原発でした。福島原発ではその後の原発冷却に失敗しました。小説を読んで知ったのは、原発敷地内の要因ではなく、送電線という原発から遠く離れた場所でのトラブルによっても、原発は緊急停止をすることがあり得るのです。

原発自体への安全性確保に比べて、送電線やそれを支える鉄塔は、あまりにも無防備に立っているのではないでしょうか。




自然災害、経年劣化、あるいはテロなどの犯罪行為によって、送電線や鉄塔が壊れてしまう想定や対策がどこまでできているのかです。そういう話はこれまであまり目にしていない印象を私は持っています。


原発の緊急停止が問題ではない


一方で、原発の緊急停止 = 原発事故、と単純に捉えないようにすることも大事です。

むしろ、事故に対して緊急停止ができるというのは、安全設計が働いていると言えます。重要なのは、原発の場合、重要なのは緊急停止後に冷却措置を正しくとれるかです。安全に原発を止めきれるかです。

実際、福島原発の場合も、地震により緊急停止したまではよかったわけです。問題はその後でした。原発内の燃料棒を冷却するための電源が確保できなくなり、熱暴走を起こし水素が大量に発生し、ついには引火して爆発しました。放射性物質を外部に出してしまいました。

原発を冷やすには電気が必要です。福島原発事故の場合、あらかじめ用意されていた予備電源は全て津波により機能しなくなりました。また、次のバックアップとして、電源車が現場に到着したものの、電源車の電気コンセントが特殊で合わないという、あり得ないようなことが起こりました。そして、全電源喪失、つまり電気で緊急冷却ができないという最悪の事態を招いたのでした。

自然災害というよりも人為的な設計ミスである人災です。

小説では、原発緊急停止後も、様々な悪条件や想定外な事態が重なり、為す術もなく状況だけがただ悪化する様子が描かれています。


小説の内容はどこまでが本当なのか


冒頭でも触れましたが、この小説は現役キャリア官僚が 「内部告発」 という言われ方をされています。また、内容を見ても、実際の人物を連想させる複数の登場人物が描かれています。

原子力再稼働を進める人たちの思惑、原発というカネと票を生む仕組み、利権の作られ方、密室での政治の決まり方など、全て巧妙なところがリアルに描かれています。

その一方で、読んでいて思わざるを得なかったのは、どこまでが本当で、何がフィクションなのかが結局はわかりませんでした。

小説という形が、ストーリーとして原発の裏側がわかりやすいです。リアルに感じます。しかし、作者の素性が伏せられており、情報ソースも書かれていないので、全て作り話という可能性もゼロではありません。もしくは、相当程度に着色されているかもしれません。

自分では、書かれている内容がどこまで本当かは調べようがありません。内容を信じるも信じないも読者次第です。


最後に


ちょうど昨年末 (2014年12月) に、第二弾である 東京ブラックアウト が出ました。機会があれば読んでみようと思っています。




最新エントリー

多田 翼 (書いた人)