本書のあらすじ
以下は、文庫本の裏表紙からの引用です。
休職中の刑事、本間俊介は遠縁の男性に頼まれて彼の婚約者、関根彰子の行方を捜すことになった。自らの意思で失踪、しかも徹底的に足取りを消して――
なぜ彰子はそこまでして自分の存在を消さねばならなかったのか?いったい彼女は何者なのか?謎を解く鍵は、カード社会の犠牲ともいうべき自己破産者の凄惨な人生に隠されていた。
推理小説 + 社会小説という内容
始めは、手がかりと呼べるようなものがほとんどない状況から、少しずつベールが剥がれていきます。
それとともに、あらすじの最後にある 「カード社会の犠牲ともいうべき自己破産者の凄惨な人生」 も見えてきます。別の言い方をすると借金の魅力と怖さが、登場人物の人生とともに明らかになっていきました。
ストーリー自体にはここではあまり深く触れませんが、この小説が読み応えがあったのはストーリー設定以外にもおもしろさがあったからです。
文章構成と表現
1つは文章構成と表現です。ストーリーの起承転結において、文量がほどよいバランスだと感じました。小説によっては、起と承が長く時にはダラダラと続く作品もあったりします。その後、ストーリーが急展開し (転) 、結末が自分の中では盛り上がらないケースです。
文章表現も、情景や登場人物の動作・心情・それまでの生き方や人生など、凝り過ぎることなくうまい表現だと感じました。
学びのあった小説
もう1つ、おもしろかったのは小説を読み進めることで、色々な学びがあったことです。学びというのは単にノウハウのようなものではなく、ストーリーに沿って疑似体験ができることです。
あらためて考えさせられたのは、クレジットカードの利便性と、その表裏一体である気軽にお金を借りることのリスクです。クレジットカードを使うことも 「借金」 と表現すれば、自分自身も日常で使っています。
一方で、ローンを組んだり、消費者金融に私は経験がなく、使う動機は何なのか、利子が利子を生み、借金地獄から逃れられない状況、その果てに何が起こるのかを垣間見ることができました。
ストーリー自体はフィクションですが、あながち現実から離れているとは思えませんでした。
各登場人物を通して自分とは全く異なる人生を体験できる疑似体験が、小説がおもしろいと感じる理由です。特に、悩みや葛藤や苦しみから、人は何を感じ、どういう行動を取るのかです。つい自分はどう考えるかと思いながら読み、そのほとんどが自分とは違う発見があります。
最後に
「火車」 の時代設定は1990年前後です。2014年現在とは変わらないものと変わったものがあり、その比較も興味深かったです。
1990年というと平成2年で、今とは全く違うものにインターネットと携帯電話があります。推理小説なので主人公は様々な方法で情報収集を行ないます。例えば、関連する事件については図書館で当時の新聞記事に当たる、同僚の刑事に電話をかけるなどです。
同じことを現代でやると、必ずと言っていいほどネットやモバイル端末を使うでしょう。時代の変化をあらためて考えさせられました。