#マーケティング #利用シーン #価値提案

イタリアンのファミレスの代名詞、サイゼリヤが朝食市場に乗り込んできました。

低価格と幅広いメニュー、広い座席という強みが、朝の時間帯に当てはまるとどんな価値を生み出すのか。その答えが、マーケティングの観点からも興味深いです。

今回は、サイゼリヤの事例からマーケティングに学べることを掘り下げます。

サイゼリヤが始めた 「朝サイゼ」 とは?

まず、朝サイゼについて概要を見ていきましょう。

ワンコイン以内で食べられる朝食メニュー

出典: サイゼリヤ

2025 年 6 月、サイゼリヤは 「朝サイゼ」 という朝食限定サービスをスタートしました。提供時間は午前 7 時 ~ 10 時で、2026 年 2 月時点では首都圏を中心に 17 店舗で実施中でした。

価格帯は 300 ~ 450 円ほどです。ドリンクバー付きの 「焼きシナモンフォッカチオ コンビ」 が 300 円、ドリンクバーとポテトが付く 「パンチェッタとチーズのパニーニ セット」 が 450 円です。

マクドナルドなどの他の朝食メニューを展開しているお店と比較しても、ワンコイン以内という価格帯は遜色ありません。むしろ、食事の充実度で言えばかなり魅力的な水準です。

豊富な選択肢とカスタマイズ性の高さ

朝サイゼでは単品メニューは 15 品が並びます。150 円の 「フォッカチオ」 をベースにトッピングを組み合わせる即席パニーニや、ミルクジェラートと合わせたマリトッツォ風など、自由なアレンジも楽しめます。

その日の気分に合わせて自分だけの朝食を組み立てられる点が、他のお店のモーニングサービスとの違いです。

注文はモバイルオーダー、配膳はロボット、会計はセルフレジと、サイゼリヤでは DX による省人化が徹底されています。スタッフの数は少ないながらも店内はスムーズに回り、ファミレスというより、セルフサービス型のカフェに近い雰囲気です。

なぜ低価格を維持できるのか

サイゼリヤが低価格を実現できる背景には、食材の生産・加工から店舗販売まで一貫して自社で手がける製造直販モデルと、先ほども触れた省人化を進める DX 推進があります。コストを根本から設計し直してきたサイゼリヤだからこそ、朝食でも低価格でビジネスが成立するのです。

値上げが続く外食業界の中で、サイゼリヤが独自の存在感を持ち続けている理由がここにあります。

マーケティングへの学び

では、朝サイゼから学べることを掘り下げていきましょう。

この事例は、お客さんを見出し、お客さんのことを理解し、自社の強みを顧客文脈に結びつけ、新しい利用シーンで選ばれる理由をつくるという、マーケティングの教科書のような取り組みです。

順を追って見ていきましょう。

注力顧客を決める

どんな事業でも、すべての人に刺さろうとすると、結果的に誰にも刺さりません。

朝サイゼが注力したのは、繁華街エリアで働くビジネスパーソンでした。実際、池袋や新宿などの繁華街立地の店舗は SNS で混雑が話題になるほどの盛況ぶりです。

一方、住宅街の朝サイゼの店舗は比較的客数が少なかったという対比が、ターゲット設定の明確さを物語っています。

このように 「誰に向けたサービスか」 を絞ることで、立地ごとの優先度も自ずと決まってきます。

全店一斉展開ではなく繁華街立地から段階的に拡大するというサイゼリヤの方針も、この考え方と一致します。最初から全方位を狙うより、サイゼリヤは注力顧客をはっきりさせ、勝てる場所を見極めて動いているのです。

顧客を深く理解する

注力顧客が決まったら、次はその人たちの置かれている文脈を理解することが重要です。

出社前の朝の時間、ビジネスパーソンは何を求めているでしょうか。手軽に食事を済ませたい、少し作業をしたい、打ち合わせ前に考えをまとめたい。そういったニーズがあります。

カフェで朝食をとりながら仕事の準備をするという習慣は、すでに多くの人に根づいています。ただ、都市部のカフェは席が狭く、隣との距離も近いことが少なくありません。ゆっくり作業するには少し窮屈に感じる場面もあります。また、席が埋まりやすく、落ち着ける時間が限られることもあります。

ここに、注力顧客にとっての 「なんとなく不満に思っているが言語化していないこと」 が潜んでいます。こうした潜在的な不満を見つけることが、顧客理解では大事です。

顧客文脈に自社の強みを結びつける

顧客文脈が見えたら、そこに自社の強みをあてはめます。

サイゼリヤが持っている強みをあらためて整理すると、次のとおりです。

  • 製造直販モデルと DX 推進による圧倒的な低価格
  • ファミレスならではの広いテーブルと座席スペース
  • ドリンクバーを中心に食事からデザートまで揃う豊富なメニュー

これらはもともとランチやディナー向けに磨いてきたサイゼリヤの独自の仕組みや強みでした。

ビジネスパーソンの 「朝の時間を有効活用したい」 という文脈に当てはめると、「低価格 × 広い座席 × 豊富なメニュー」 が別の価値に変わります。

カフェより広い座席はパソコン作業や打ち合わせに向いています。価格はカフェと同等以下に抑えられています。豊富なメニューはその日の気分で選べることにつながります。

朝サイゼが提案している利用シーンは、単なる 「朝食を食べる場所」 ではありません。ゆっくり座ってパソコンを開いたり、空間と心に余裕を持てるなどの、朝の時間を充実させられる価値です。

450 円でドリンクバー付きの食事ができ、広いテーブルで仕事もできる。こうした具体的な利用シーンと価格の組み合わせが、「朝はサイゼにしよう」 という選択理由につながります。利用シーンが具体的であればあるほど、お客さんは自分ごととして想像しやすくなるのです。

住宅街の立地店舗については、今後は高齢の夫婦や友人同士がゆっくり過ごすグループ客向けの利用シーン提案がカギになります。低価格とゆったりした空間という強みは同じでも、文脈が変われば訴求の切り口も変わります。

同じ会社が異なる顧客層に向けて、複数の 「選ばれる理由」 を設計できるという点も、今回の事例が示しているポイントです。

特徴そのものは変わっていないのに、文脈を変えるだけで届く相手も、感じてもらえる価値も変わる。既存の強みが、新しい顧客文脈の中で 「ちょうどほしかったもの」 に変わる瞬間です。

ここにマーケティングのおもしろさがあります。

まとめ

今回は、サイゼリヤがはじめた 「朝サイゼ」 を取り上げました。朝サイゼの事例は、マーケティングの基本的な考え方を丁寧に実践した好例です。

汎用的にビジネスに応用できる学びをまとめておきます。

  • すべての人を対象にするより、注力顧客を絞ることによって、提供価値が明確になり選ばれやすくなる
  • お客さんを理解するとは、表面的なニーズだけでなく、その人が置かれている文脈や状況まで把握することが大事
  • 自社の強みは固定ではなく、顧客文脈に当てはめることで新しい価値に変わる
  • 新しい利用シーンは抽象的な概念ではなく、お客さんが具体的に想像できる場面として設計する
  • 立地や顧客層が違えば文脈も変わる。同じ特徴でも訴求の切り口を変えることで、異なる顧客に刺さる可能性がある