投稿日 2024/06/17

スーパードライクリスタルの 「AR パックマンゲーム」 。点と点をつなげるマーケティング

#マーケティング #点と線 #費用から投資へ

キャンペーンが目標売上に貢献するだけではなく、未来への投資につながる可能性はあるのでしょうか?

今回は、「アサヒスーパードライ ドライクリスタル」 のユニークなキャンペーン事例から、一過性の盛り上がりを超えた、長期的なマーケティング資産を築く方法を考察します。

アサヒスーパードライ ドライクリスタル


出典: アサヒ

アサヒビールが2023年10月に発売した、アルコール度数を 3.5% に抑えたビールが 「アサヒスーパードライ ドライクリスタル」 です。

売れ行きは好調とのことですが、背後にはユニークなプロモーション施策がありました。往年の名作ゲーム 「パックマン」 を最新 AR (拡張現実) 技術でアレンジし、缶そのものをゲームに使うというキャンペーンです。

缶を使った AR ゲーム


缶そのものをゲームに使う斬新なキャンペーンを展開 (出典: 日経クロストレンド

パックマンの AR ゲームにすることで、ドライクリスタルを届けたいと考えている 「ビールを普段飲まない」 層で、その中でも若者たちの心を動かすことにつながりました。

このキャンペーンが仕組みとしておもしろいのは、ドライクリスタルの缶を常にスマホで映し出した状態でないと AR ゲームを遊べないという設計になっていることです。

ビールの缶をかざす角度によって AR 内で見え方が変わり、手元にある現実の缶のデザインが AR によって拡張されます。現実と仮想の世界がつながるというゲーム体験ができます。

公式 LINE アカウントと連動


この施策から LINE に新たなファンの流入を促した点も見逃せません。

キャンペーンではドライクリスタルとパックマンがコラボした AR ゲームを遊ぶために、LINE上での友だち登録を必須にしました。

また、ゲームを遊んでランキング上位に入った人たちが結果を SNS でシェアすることで、アサヒのパックマン AR ゲームの認知や興味を生む流れが拡散していきました。

従来の商品をプレゼントするなどのキャンペーンでは、どうしても用意できる物理的な商品の数に限りがあり、効果の範囲が一定以上は広がりません。

一方のアサヒの今回のキャンペーンは、うまく設計されていました。ドライクリスタルを買ってゲームを遊びたい人が次々と登録し、アサヒによれば約25万人がパックマンの AR ゲームを遊び、LINE 公式アカウントの友だち数が大きく増えたとのことです (参考記事) 。


学べること


では 「アサヒスーパードライ ドライクリスタル」 の事例から、学べることを掘り下げていきましょう。

アサヒクリスタルドライの事例から学べるのは、キャンペーン施策を一過性で終わらず、「資産」 として積み上げることの重要性です。

一時的な 「需要の先食い」 となってしまう施策


ゲームの要素やエンタメ性のあるキャンペーンはおもしろいですが、一時的な盛り上がりで終わることも少なくないでしょう。

確かに実施した時は売上が伸びるものの、ともすると単なる需要の先食いにしかなりません。盛り上がった後は反動で売上が減り、期間を延ばして平均化すればトータルではあまり増えなかったということも起こりかねないわけです。

一時的な売上の伸びは見かけ上の成功に過ぎず、長期的なブランド価値の向上や顧客基盤の拡大にはつながりにくいものです。こうした一過性の変化のためにお金を使っても、それはお金を消費するだけの 「費用」 になってしまいます。

 「費用」 から 「投資」 へ


しかし今回のアサヒドライクリスタルの事例では、パックマンの AR ゲームで盛り上がりを見せただけでは終わりませんでした。

公式 LINE アカウントへの友だち登録が増えたことによって、今後の継続的なマーケティングコミュニケーションのために活用できる 「お客さんとの直接の顧客接点」 を新しいつくることができたのです。

これが意味するのは、キャンペーンへの予算が、一過性に終わり効果が蓄積しない 「費用」 ではなく、顧客接点の獲得という事業資産につながる 「投資」 になったということです。

1つ1つの 「点」 を 「線」 につなげる


アサヒの事例からの学びを汎用化すると、1つ1つの施策を dot という 「点」 で終わらせず、「線」 としてつなげて、未来に向けての資産をつくる投資にする重要性を示しています。

ビジネスで大事なのは長期的な視点です。目の前のことへの短期的な視点だけではなく、視野を広げて中長期でものごとを捉えることが大切です。

企業やブランドは、キャンペーンやプロモーションを通じて一時的な注目を集めたり売上を上げる短期的な成果の追求だけでなく、未来への 「投資」 によってどのように長期的な顧客関係やブランドの価値向上を実現するかを考えることが大事です。

こうした視点からの施策設計は、一過性のキャンペーンを超えた持続可能な成果をもたらすカギとなります。


まとめ


今回は 「アサヒスーパードライ ドライクリスタル」 のパックマンの AR ゲームの施策から、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • アサヒドライクリスタルの AR ゲームキャンペーンは、売上増加に貢献しただけではなく、公式 LINE への友だち登録増により長期的なマーケティングコミュニケーションの顧客基盤という 「資産」 を築いた

  • キャンペーンを短期的な 「需要の先食い」 にならず、顧客接点の拡大やブランド価値向上への 「投資」 として捉える視点が大事

  • 長期的視点を持ち一時的な成功にとらわれず、各施策を 「点」 ではなく 「線」 としてつなげ、将来に向けた資産形成につなげよう


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。