#マーケティング #ブランディング #ブランド連想
自社のブランドは、お客さんの頭の中でどんな状況で思い浮かべてもらえるでしょうか?
顧客文脈のその瞬間にブランドが想起されなければ、どんなに優れた商品やサービスも埋もれてしまいます。
人の記憶ネットワークにブランドが深く入り込むことによって、ブランドはお客さんから選ばれる存在になれます。
今回は、サッポロ黒ラベルの 「大人エレベーター」 キャンペーンを事例に、記憶に残る 「ブランド連想」 を築く秘訣を紐解きます。
ブランド連想
今回のキーワードは 「ブランド連想」 です。
ブランド連想とは、人があるブランドに対して持つ記憶やイメージ、感情などを総合したものを指します。
例えば、あるブランドの名前を聞いたときに、そのブランドのイメージや過去の経験、関連する製品などが頭に浮かぶことです。ブランド連想は、ブランドの認知度や好感度、購買意欲に影響を与える重要な要素です。
ブランド連想が強まるほど、消費者や企業担当者はそのブランドを思い出しやすく (想起しやすく) なり、買うタイミングや検討段階において買う候補に選ばれやすくなります。逆にブランド連想が弱ければ、存在すらなかなか思い出してもらえるきっかけがなく、他のブランドに流れてしまいます。
ブランド連想には二方向があります。
- 文脈からブランドへの連想 (文脈 → ブランド)
- ブランドから文脈の連想 (ブランド → 文脈)
前者は文脈からブランドへの連想 (文脈 → ブランド) です。「◯◯ には (例: 特定のシチュエーション) にはこのブランド」 という思考プロセスです。
もうひとつは逆向きの流れです。ブランドから文脈へ連想 (ブランド → 文脈) で、そのブランドを見たり聞いたりするだけで利用シーンや過去の体験が思い浮かぶという連想です。
では、具体的なマーケティングに事例にブランド連想を当てはめて詳しく見ていきましょう。
黒ラベル CM 「大人エレベーター」
サッポロ黒ラベルは、テレビ CM の 「大人エレベーター」 シリーズを通して独自のブランドの世界観を提案してきました。
「大人とは?」
CM は対談形式で、サッポロ黒ラベルのビール商品そのものを直接アピールはやってません。「大人とは?」 という問いを投げかけた対談がテレビ番組のように流れるのが特徴です。
エレベーターが上昇し年齢と同じ数字の "階" にいる素敵な大人の方と出会い、ホスト役を務める妻夫木聡さんとゲストが対談する様子が CM として流れます。
妻夫木さんが相手に毎回様々な問いかけをしますが、共通しているのは 「大人とは?」 という問いです。大人への捉え方や価値観が入った回答を通してゲストの価値観や人となりに触れていくという内容です。
黒ラベルは大人エレベーターの CM の中で大人とは何かと疑問を投げかけてはいますが、大人とはこうであるという明確な答えは出していません。CM を見た人が 「自分だったらどうだろうか」 「自分はどういうものの考え方をしているのか」 と、CM をきっかけに考えてもらうことを狙っています。
サッポロにとって、このテレビ CM の位置づけは、消費者がビール売場を訪れた時に黒ラベルのことを思い出していもらいたいという思いを実現するものです。
では、大人エレベーターの CM に 「ブランド連想」 を当てはめていきます。
[ブランド連想 1] 文脈 → ブランド
まず、文脈からブランドへ連想を生み出すメカニズム仕組みを見てみましょう。
「大人エレベーター」 は、毎回ゲストと妻夫木聡さんの対話から、大人としての理想や価値観が語られます。ビールが登場するものの、「仕事終わりに最高の一杯」 、「疲れを癒やす自分だけの時間」 など、より広いシーンを暗示しています。
視聴者は、例えば 「仕事終わりにホッとひと息つきたい」 、「仲間や同僚と語り合いたい」 というシーンで、黒ラベルが自然に思い浮かぶように作られています。くつろぎたいときや大人としての自分を意識したいときに、黒ラベルを想起しやすくなることが期待できるわけです。
CM のゲストを変え、季節やイベントに合わせてメッセージを発信しています。例えば、新年度や新生活の時期には、サッカーの長谷部誠さんをキャスティングしました。
新しい環境で踏み出す一歩をイメージするときに、黒ラベルが連想されるよう設計しているといえるでしょう。
[ブランド連想 2] ブランド → 文脈
大人エレベーターというブランドコミュニケーションから利用シーン (利用文脈) が想起されるケースもあります。
コンビニやスーパーなどのお店でサッポロ黒ラベルを見かけたときに、大人エレベーターで流れていた大人らしくビールを自分も楽しむ場面を頭に浮かべるというふうにです。
CM の最後に示される黒ラベルのブランドメッセージの 「丸くなるな、☆星になれ。」 には、商品を買ってほしいとか、何か具体的な意味を示すものではない表現です。
これはメッセージに 「余白」 があることを意味します。余白が視聴者の想像力をかき立て、自分なりの 「大人」 の姿を投影させる役割を担っています。黒ラベルのブランド名やロゴを目にしたときに、「自分だけの大人スタイルを貫く」という文脈が思い浮かぶことでしょう。
さらに、ウェブやお店、他にはリアルイベントによって 「大人エレベーター」 の世界観を拡張し、具体的な利用シーンへと結びつけています。
例えば 「つまみエレベーター」 です。
こちらは、妻夫木聡さんが黒ラベルと合う料理を提案する取り組みです。CM の世界観を食品や飲食店紹介にも展開することで、黒ラベルとの接点の機会で 「この料理メニュ一と一緒に飲みたい」 というシーンが頭に浮かぶようになるはずです。
リアルイベントとの連携
大人エレベーターは CM の中にだけ存在するものではありません。サッポロは 「大人エレベーター DAY」 と題したリアルイベントを開き、CM の世界観を直接体験できる場も提供しています。
原宿のイベントでは妻夫木聡さんをゲストに迎え、過去の挑戦談や 「大人エレベーター」 の制作秘話が語られました (イベントレポートはこちら) 。
イベント参加者は、生のトークを通じて大人エレベーターの背景やメッセージを感じ取ることができ、黒ラベルや大人エレベーターへのいつもとはひと味違う体験が得られました。リアルの施策と CM を横断する体験の接点を生み出すことにより、ブランド連想がさらに強いものになります。
フランド連想を強化する方法
では最後のパートでは、黒ラベルがブランド連想を強固にするために実践しているポイントを整理してみましょう。大きく4つの要素が存在します。
シチュエーション (顧客文脈) との接続
サッポロ黒ラベルの 「大人エレベーター」 の CM は、年3回の頻度で制作され、放映の時期に合わせたテーマやキャスティングが行われています。
新年度のタイミングでは新しいことに挑戦する人を起用し、夏の時期にはリフレッシュや楽しさをアピールするなど、見られる季節などの視聴文脈に沿って発信しています。こうしたシーンやシチュエーション (文脈) にリンクさせるコミュニケーションは、ブランド連想の定着にも効果的です。
体験との連動
広告と体験の両輪を大切にしているのが黒ラベルのブランドコミュニケーションの特徴です。
CM や SNS などで世界観を伝え、実際に飲んでもらう機会をつくるリアルイベントの 「大人エレベーター DAY」 や、店頭イベントなどの施策にも力を入れています。
リアルな体験が加わることで、視聴者は CM で受け取った印象を自分の記憶や感情とリンクさせたり、リアルでの体験から次に 「大人エレベーター」 の CM を見たときにイベントのことを思い出すなど、さらに強いブランド連想へと形作ります。
一貫したメッセージ
黒ラベルの CM 「大人エレベーター」 は、2010年から一貫して 「大人とは?」 という哲学的な問いを続けています。
スタイルも変わらず、対談形式、ホスト役として妻夫木聡さんの起用し、「丸くなるな、☆星になれ。」 というブランドメッセージなど、基本的な構造は変わっていません。
一貫したコミュニケーションの形により、視聴者の頭の中の記憶ネットワーク内で蓄積されていきます。何年も繰り返し同じコンセプトに触れることによって、「黒ラベル = 大人のビール」 という連想が自然に強まることでしょう。
余白のあるコミュニケーション
CM では、「黒ラベルはこういうビールである」 と商品特徴を直接的に語っていません。ゲストと妻夫木さんの何気ないやり取りから、大人ならではの価値観やゆるやかな雰囲気を感じ取れるようになっています。
ゆったりと時間が流れるような対話形式は余裕があり、また、情報量にも余白があります。視聴者自身の解釈の余地を多分に残した余白があることによって、自分なりの大人の理想像や価値観を考えるきっかけにもなるわけです。
余白があることで、その空いたスペースにブランドと自分の体験がセットになって入り、ブランド連想が結びつきます。
まとめ
今回は、サッポロ黒ラベルのブランディングを取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ブランド連想は、人の記憶ネットワークに蓄積されたブランドに関するイメージ・体験・感情の総体
- 連想が強いほど購入候補に上がりやすく、弱いと存在自体を思い出してもらえず他ブランドへ流れる可能性が高まる
- 連想には 「文脈 → ブランド」 と 「ブランド → 文脈」 の二方向がある。前者は特定シチュエーションからブランドを想起し、後者はブランド刺激から利用シーンを思い浮かべる流れ
- ブランド連想を強化させるポイントは、
① 一貫したメッセージ
② シチュエーション (顧客文脈) との接続
③ 顧客体験との連動 (例: 広告とイベント)
④ 余白あるコミュニケーション設計
⑤ 長期的に継続させるブランディング
マーケティングレターのご紹介
マーケティングのニュースレターを配信しています。
気になる商品や新サービスを取り上げ、開発背景やヒット理由を掘り下げることでマーケティングや戦略を学べるレターです。
マーケティングのことがおもしろいと思えて、すぐに活かせる学びを毎週お届けします。レターの文字数はこのブログの 3 ~ 4 倍くらいで、その分だけ深く掘り下げています。
ブログの内容をいいなと思っていただいた方にはレターもきっとおもしろく読めると思います (過去のレターもこちらから見られます) 。
こちらから登録して、ぜひレターも読んでみてください!