投稿日 2025/09/21

好調な日本のスターバックスに学ぶ、「志は大きく、目線は低く」 の重要性

#マーケティング #ミッション #顧客目線

今、世界で苦戦するスターバックスを尻目に、日本のスタバは絶好調です。

日本市場での成功の裏には、商品力や居心地の良い店舗だけにとどまらず、組織運営の要因があります。キーワードは 「志は大きく、目線は低く」 。

今回はスタバの事例をもとに、理想と現実をつなぎ、持続的な成長を実現するための組織のあり方を紐解きます。

スターバックスの現状 (2025年前半) 


あなた普段、スターバックスを利用されますか?スターバックスはどこのお店に行っても賑わっていて、特に日本では、その勢いは留まるところを知らないように見えます。

しかし、海外に目を向けると、スターバックスは必ずしも順風満帆というわけではないようです。アメリカの本社では CEO (最高経営責任者) が交代したり、人員削減が行われたりと、苦戦している様子が伝えられています。

世界と米国本社の現状

2025年の最近のスターバックス本社は、人員削減やメニューの縮小など、コストの圧縮に力を入れ始めています。

新しい CEO の就任や組織改革のニュースは米国内でも話題になっています。

背景には売上高が横ばい気味で、コストが増加したため営業利益や純利益は前年から約 8% 減少した状況があります (参考情報) 。特に北米での既存店売上高の伸び悩みと、中国など一部地域での需要停滞が、スターバックスのグローバル業績を押し下げています。

そこでスターバックスはリストラ策やメニュー削減を矢継ぎ早に行いました。

狙いはオペレーションをシンプルにして収益改善を図ることです。フラペチーノなど手間のかかる商品を減らし、店舗の現場スタッフの負担も軽減させ効率を高めようと試みているわけです。

日本国内の好調な業績

アメリカなどの海外の現状に対して、日本国内のスターバックスは好調です。

売上高は2019年比で約1.6倍まで成長し、1店舗あたりの平均売上も伸びています (2024年9月期の決算より) 。

注目すべきは店舗数の伸び率 (105.4%) よりも売上高の伸び率 (111.1%) のほうが高い点です。これは店舗を増やしているだけでなく、一つひとつの店舗が生み出す売上、つまり店舗の生産性が向上していることを意味します。

日本のスターバックスの店舗は全世界の店舗数の 4.9% ですが、売上では日本は 5.9% のシェアを持つ存在感を示しています。

* * *

では、スターバックスの事例から学べることを掘り下げていきましょう。

スターバックスから学べるのは 「志は大きく、目線は低く」 の重要性です。

 「志は大きく、目線は低く」 


 「志は大きく、目線は低く」 とは、壮大なビジョンやミッションを掲げつつも、現場や顧客の具体でのリアルな視線を大切にするという考え方です。

志は大きくとは高い視座になることです。企業やブランドが目指すビジョン (実現したい世界観, ありたい姿) 、果たすべきミッション (成し遂げる使命) を明確に掲げ、そこに向かって進むことです。

目線は低くは、高い志を実現するために、お客さん一人ひとりのニーズや期待、そして業務オペレーションを行う現場の状況に寄り添い、具体的で地に足のついたアクションを粘り強く実行し続けることを指します。

志と顧客・現場目線のふたつの視座を、バランス良く持ち続けることが大事です。

もし志だけが高すぎるだけでは、現実離れした理想論に陥り、顧客や現場の実態から乖離してしまいます。他方、目線だけが低すぎると、目の前のことや日々の業務に追われるばかりです。長期的な方向性を見失い、大きな成長を描けなくなってしまいます。

どちらか一方に偏るのではなく、高い理想を目指しながらも、足元をしっかりと見つめ、具体的な行動を積み重ねていく――。この両立こそが大切なのです。

では、「志は大きく、目線は低く」 を日本のスターバックスに当てはめて詳しく見ていきましょう。

志は大きく - ミッションを重視する姿勢

スターバックスのミッションは、1990年代から掲げられている 「この一杯から広がる、心かよわせる瞬間、それぞれのコミュニティとともに― 人と人とのつながりが生みだす無限の可能性を信じ、育みます」 という理念に端を発します。

文言はアップデートされつつも、本質的には 「コーヒーを通じて人をつなぎ、コミュニティを豊かにする」 という考え方で一貫してきました。

日本のスターバックスは、グローバルで共通するミッションをかけ声で終わらせず、徹底的に社内教育の中心に据えているのが特徴的です。

約40時間をかけてブランドやコーヒーについて学習するという研修制度は、一杯のコーヒーを提供すること以上の顧客価値をスタッフ一人ひとりに再認識させることにつながります。

日本のスターバックスは、大きな志としてミッションをまず共有することによって、会社やブランドとしてのぶれない軸をつくっています。新商品や新サービスを開発する際にも、そもそも我々は何を成し遂げたいのかを常に問い直す土台があるのです。

目線は低く - 地に足をつけた現場対応

日本のスターバックスは高い志を掲げる一方で、お客さんや現場に寄り添った 「低い目線」 での具体的な取り組みを続けています。

日本独自の新商品開発

具体的には、季節ごとの限定フラペチーノやご当地メニューといったスターバックスの日本独自の商品展開です。新しいものが登場するごとに SNS やメディアでも話題になります。

例えば、春の限定商品として登場した 「春空 ミルクコーヒー フラペチーノ」 です。

出典: PR TIMES

 「春空 ミルクコーヒー フラペチーノ」 は、いちごのボールを割る体験を取り入れるなど、遊び心のある商品です。フラペチーノ季節限定シリーズは、ほぼ月 1 ~ 2 回というペースで投入され、常に新鮮さを提供します。

また、コーヒーだけでなく、お茶の分野にも力を入れているのは日本のスターバックスの特徴です。2020年から始まったティー専門店 「スターバックス ティー & カフェ」 は、日本独自の業態として人気を集め、店舗数を増やしています。

日本人好みの味付けを目指し、スターバックスでの新しい飲食体験そのものを提案します。世界共通のスターバックスブランドを踏襲しつつも、日本での現場目線ならではの柔軟なアプローチです。

立地や客層に合わせた店舗開発

店舗立地や来店客層に合わせて店舗レイアウトを調整する姿勢も日本のスターバックスは徹底しています。

具体的には、世界一美しいスタバとして有名な富山県の 「富山環水公園店」 、渋谷スクランブル交差点が一望できる 「SHIBUYA TSUTAYA 店」 、子連れでも利用しやすい 「越谷レイクタウン mori 3階店」 など、店舗ごとにまったく異なるコンセプトを打ち出しています。

それぞれの店舗が周辺環境や利用客層に合う形で設計されており、一級建築士をはじめとする専門スタッフがその地域と人を考え抜いた空間づくりを行っているのが日本での店舗開発です。地域・コミュニティに根差し (= 低い目線) での店舗づくりを追求しています。

デジタル対応と顧客体験 (CX) の強化

日本のスターバックスが力を入れているのが、デジタル技術を活用した顧客体験 (Customer Experience = CX) です。

モバイルアプリを通じてキャッシュレスで決済したり、購入金額に応じてポイント (Star) が貯まり、ドリンクやフードと交換できるロイヤルティプログラム 「スターバックス リワード」 です。

会員登録不要の 「App Clip」 を導入するなど、頻繁にはスターバックスを訪れない人にとっても利用するハードルを下げる工夫を入れています。

テクノロジーで店舗現場のスタッフがスムーズに運用できるようにし、利用者にストレスを与えないよう配慮している点が、スタバ流の目線を低くした取り組みです。

実践することでの効果


ここまで見てきたように、日本のスターバックスは、人と人とのつながりをつくる高い志を掲げながら、同時に顧客や現場に寄り添った地に足のついた活動を進めています。

最後のパートでは、この 「志は大きく、目線は低く」 を実践することで、どんな効果があるかを掘り下げていきしょう。

従業員満足度の維持・向上 (インターナルマーケティング) 

大きなビジョンやミッションを掲げ、企業や組織内の皆で共有することによって、自分は何のために仕事に取り組んでいるのかをあたらめて考えたり、腑に落ちて理解しやすくなります。

日々の業務が大きな目標に結びつくと思えば、働きがいも高まりやすいです。同時に、実際の現場で具体的な成果を感じられるような仕組みが整備されていれば、成功体験や達成感も得やすくなります。

志への共感と、現場での手応えという両方が満たされることにより、従業員の満足度は高まります。質の高いサービスへとつながっていきます。従業員も広い意味で "顧客" と捉える 「インターナルマーケティング」 に通じます。

顧客満足度の継続的な向上 (エクスターナルマーケティング) 

スターバックスは、お客さんの声を細かく拾い、店舗ごと、商品ごとに最適化を図っています。

お客さんにとっては、自分の好みやライフスタイルに合った魅力的な新商品、居心地の良い空間、ストレスのない購買体験といった、徹底した顧客視点 (低い目線) でのサービス提供が、満足度を高める要因となります。

スターバックスのお客さんは 「ここは自分が求めるサービスをわかってくれている」 と感じるとはずです。そして、スターバックスが掲げるミッション (高い志) への共感にもつながるでしょう。

目線の低さで期待に応え、志の高さで心をつかむ――。お客さんとの長期的な関係性が構築され、継続的な利用というエクスターナルマーケティングです。

ブランドの一貫性と信頼の確立

志と目線が結びつき、一貫したメッセージとして社内外に発信され続けることで、他にはない 「スターバックスらしさ」 というブランドイメージと信頼が確立されます。

高い理想を語るだけでなく、日々の商品やサービス、店舗空間、従業員の立ち振る舞いといった具体的な体験として、顧客が実感できる一貫性が、ブランドへの信頼と愛着を深めるのです。スターバックスらしさは、ロゴやコーヒーの味などに加え、スタバの店内で過ごす時間と空間での店舗体験への価値からも形成されます。

大きな志をブレずに持ちながら、実際の現場対応を地道に磨くことによって、ブランドとしての統一感と高い顧客満足度が共存できます。

まとめ


今回は、スターバックスを取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  •  「志は大きく、目線は低く」 での志を大きくとは、組織や事業が目指すべき大きな理想像や社会的使命などのビジョン・ミッションを掲げること

  • 目線を低くとは、高い理想を追求しつつも、顧客一人ひとりのニーズや現場の実情に常に注意を払い、具体的で地に足のついた行動を粘り強く続ける

  • 従業員が自らの仕事の意義を理解し、現場での手応えを感じることでモチベーションが高まり、組織全体の力が向上する (インターナルマーケティング) 

  • 日々の業務で具体的な成果を実感できる環境が、高品質なサービス提供につながり顧客満足度を高める (エクスターナルマーケティング) 

  • 掲げる理想と日々の具体的な行動が一貫することにより、組織やブランドに対する社会的な信頼の獲得、他にはない 「らしさ」 が確立される


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。