2016/08/13

羽生善治氏のリスクについての考え方は、適切なリスクテイクのあり方を教えてくれる




勝負哲学 は、岡田武史氏 × 羽生善治氏 の対談本です。



将棋とサッカーの違う立場で、2人の対談は興味深く読めます。特に印象的だったのがリスクをどう取るかでした。


いかに適切なリスクを取るか


羽生さんは、リスクテイクについて次のように語っています。

将棋は究極の個人競技ですから、チームワークや一体感とは無縁で、勝つも負けるもすべて自己責任です。当然のことながら、あらゆる手を自分の判断で自主的に選ばなくてはなりません。

そのとき、考えの真ん中にあるのは 「いかに適切なリスクをとるか」 ということです。リスクとの上手なつきあい方は勝負にとってきわめて大切なファクターです。

将棋が急に弱くなることはありませんが、少しずつ力が後退していくことはあって、その後退要因としていちばん大きいのが 「リスクをとらない」 ことなんです。リスクテイクをためらったり、怖がったりしていると、ちょっとずつですが、確実に弱くなっていってしまうんですよね。

私は強い将棋よりも、いい将棋を指したい気持ちが強いタイプの棋士ですけど、だからといって弱い将棋でいいとは全然思っていませんから、必要なリスクは果敢にとりに行っているつもりです。


リスクを取らない安全策は自分の力を弱める


羽生さんの発言である 「リスクテイクをためらったり、怖がったりしていると、ちょっとずつですが、確実に弱くなっていってしまうですよね」 を受け、岡田さんは 「リスクを取るのをためらうと弱くなること」 について、「もうちょっと掘り下げてほしい」 と促します。引用を続けます。

長くやっていると、過去の成功体験、失敗体験が経験則として積み重ねられてきますよね。それは危機と安全の境界を見きわめる頼りがいのある測定器である反面、安全策の中に自分を閉じ込めてしまう檻 (おり) にもなります。

経験を積むと、この戦法ではこのくらいのリスクがあるということがかなり正確に読めるようになってきて、リスクの程度や影響度が計算できるようになるんです。すると、どうしても危ない橋は渡りたくなくなります。

つまり勝ちたいがために、リスクをとるより、リスクから身をかわすことを優先するようになる。でも、周囲はいつも変化し、進歩もしていますから、安全地帯にとどまっていると、その周囲の変化にだんだん取り残されてしまいます。

結果、安全策は相対的に自分の力を漸減させてしまうんです。それがイヤなら、積極的なリスクテイクをしなくてはならない。だから私は、経験値の範囲内からはみ出すよう、あえて意図的に強めにアクセルを踏むことを心がけているつもりです。


羽生善治のリスクの取り方


羽生さんのリスクテイクの考え方を整理すると、

  • リスクとの上手なつきあい方は勝負にとって大切な要素。だから 「いかに適切なリスクを取るか」 を考えるようにしている
  • 将棋で少しずつ力が後退していく要因として最も大きいのが、リスクを取らなくなること。勝つためにリスクを取らず安全策にとどまっていると、周囲の変化に取り残される、進歩についていけなくなる。結果、自分の力が弱くなっていく
  • それを避けるために積極的なリスクテイクが必要。だから必要なリスクは果敢に取りにいくことを心がけている

リスクと聞くと、リスク = 危険 = 避けるべきもの、とイメージしてしまうのではないでしょうか。正確には、リスクとは不確実性の尺度であり、リスクが高いとは結果予想が見えにくく、結果の振れ幅がプラスにもマイナスにも大きいことです。

羽生さんのリスクテイクの考え方からの示唆は2つでした。

  • リスクとはやみくもに避けるべき対象ではない。リスクと正しく付き合うことが大事という認識に変える
  • いかに適切なリスクを取っていくか


少しずつリスクを取る


特に後者の、適切なリスクテイクをどうすればよいかです。

適切なリスクを取るために心がけたいのは、下の3ステップです。

  • 自分にとって何がリスクかを理解する。リスク自体が見えていない状態から、リスクがあることを意識する
  • どの程度のリスクなのか不確実性を見極める
  • リスクを取るかどうかの決断。やみくもに避けるのではなく、正しく付き合う

対談では、羽生さんは 「リスクを少しずつ取るようにする」 と言っています。

たとえば、トータルでこれくらいのリスクをとろうと目安を決めたら、それをいっぺんに引き受けるのではなくて、そのときの自分が消化できるサイズにまで小分けして、毎回少しずつとっていくんです。

これはリスクテイクのヒントになります。一か八かでリスクを一度に大きく取るのではなく、少しずつ取っていけば、リスクテイクにより仮に失敗をしたとしてもマイナスを小さくできます。

リスクを少しずつ取るとは例えば、仕事で少しだけやり方を変えてみることです。仮に失敗しても、取り返しができるレベルでリスクを取ってみるのです。

リスクを取るとは、変化することです。重要なのは、自らの判断で主体的に変化をつくること、そして、変わり続けるというスタンスです。


リスクをとった自分に納得できるか


もう1つリスクテイクについて大切なのは、リスクを取ったことの結果ではなく、リスクを取ったという自分の判断もフォーカスすることです。リスクテイクの結果がうまくいったかどうかだけではなく、リスクをとった自分自身に納得できるかどうかです。

羽生さんは岡田さんとの対談で 「今リスクテイクすることは、未来のリスクを最小限にすること。自分にそう言い聞かせている」 と言っていました。これもリスクを取る時のためらいを減らしてくれる考え方です。



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多田 翼 (書いた人)


外資系 IT 会社にてマーケティングリサーチ マネージャー (LinkedIn) 。

1981年 (昭和56年) 生まれ。名古屋出身。学生時代は京都。家族4人で東京23区内に在住、2人の子どもの父親。気分転換は毎朝 8km のランニングとピアノ。

書いている内容は、所属組織や会社の正式見解ではなく個人の見解です。