投稿日 2017/10/23

既存の競争ルールを無力化することの重要性 (イノベーションと差別化戦略)


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競争戦略についてです。イノベーションと差別化について考えます。

エントリー内容です。

  • 競争ルールの発見と無効化
  • 競争戦略の視点で深掘りする
  • 書籍 「大本営参謀の情報戦記」 のおもしろさ


競争ルールの発見と無効化


大本営参謀の情報戦記 - 情報なき国家の悲劇 という本に、「既存の競争ルールを無力化する」 という視点で興味深く読める内容がありました。



今の競争のルールを無力化できないかは、シェアが二番手以降のチャレンジャー企業にとってだけではなく、市場リーダー企業にも必要な視点です。トップ企業であっても、競合に競争ルールを変えられるくらいなら、自らで変えることが求められます。


鉄量を制する者が戦場を制する


本書の主人公・堀栄三は、かつて陸軍大学校の生徒であった時、教官からある課題が出されました。その課題は次のようなものでした。

 「1932年の第一次上海戦で、日本軍の進軍速度は1日あたり 500m であった。しかし第二次上海戦は 100m 以下となった。日本軍は精鋭の第九師団であったにもかかわらず、なぜ苦戦したのか」

堀の答えは 「鉄量の差」 でした。

鉄量とは、大砲・爆弾・銃弾などの武器の総量です。陸地の戦場において、自動小銃や大砲などの火力による戦闘で勝敗を決めるのは、戦場に投入する鉄量の多さであるという考え方です。

本書で堀は、「鉄量を破るものは鉄量以外にない」 と書いています。


鉄量という競争ルールの無効化


その後、陸軍参謀になった堀は、かつて自らが見抜いた鉄量という戦略指標を無効化する作戦を提示します。作戦の概要は以下でした。

  • 海からの米軍の艦砲射撃が届かないように、島の中央部や山間部に自軍の陣地をつくる
  • 敵戦艦からの大砲攻撃に耐えるため、基地の防護壁は厚さ 2.5m のコンクリートを構築

陸地での戦場で勝利を左右するものが鉄量だとすると、相手よりも多い大砲や爆弾鉄量を投入する戦い方になります。

堀の作戦は、鉄量である大砲・爆弾・銃弾の攻撃が威力を発揮しない戦闘方法でした。島の奥深くの山に陣地をつくり、防壁を厚くし敵軍の砲撃からの被害を最小にする戦い方です。鉄量という競争ルールの無効化です。

注目すべきは、堀が、自己否定となる作戦を自らで立案したことです。自分が見出した鉄量という既存のルールでどう勝つかではなく、無力化するにはどうすればいいかをゼロベースで考えたのです。


競争戦略の視点で深掘りする


堀栄三の作戦を、ビジネスの競争戦略という視点で考えてみます。具体的には、以下の2つです。

  • イノベーション
  • チャレンジャーの差別化戦略


堀の作戦をイノベーションの文脈で理解する


堀栄三がやったことが意味するのは、現在の言葉で言うイノベーションです。

マーケットで勝つため (例: ターゲット顧客の支持を得るため) の成功要因をゼロベースで見直し、全く新しい競争原理 (ゲームのルール) を持ち込んだということです。

現代におけるイノベーションの実現は、次のように一般化できます。

  • マーケットで勝敗を左右する既存の競争ルールを見極める
  • そのルールを無効化する新しい競争原理を持ち込む

例えば、端末側の性能やデータ保存容量をいかに強化するかという競争から、クラウドサーバーやクラウドコンピューティングの導入によって端末側ではなくクラウド側の競争になったという変化です。


チャレンジャーの差別化戦略


堀栄三の作戦は、チャレンジャーとしてリーダーに挑むための差別化戦略と見ることもできます。

資金や人員の豊富なシェアトップのリーダー企業に、業界二位以下のチャレンジャー企業が挑む場合、リーダー企業と同じことやればチャレンジャーは体力的に不利です。

チャレンジャー企業が生きる道は、徹底した差別化戦略です。中途半端な差別化ではリーダーに真似され潰されます (同質化戦略) 。リーダー企業が模倣しようと思ってもできないくらいの差別化を図ります。

この文脈で堀栄三の作戦を考えると、堀のやったことは鉄量で勝負をするという強者と同じ土俵には上がらず、徹底した防御体勢を構築し持久戦に持ち込んだことです。島の地形を活かした差別化戦略でした。

トップ企業が強いのは、既存の競争ルールにおいてです。既存ルールで戦う限り、二番手以降の企業は不利な状況です。ここに、既存の競争ルールを無力化することの重要性があります。


最後に ( 「大本営参謀の情報戦記」 のおもしろさ)


今回のエントリーで取り上げた 大本営参謀の情報戦記 - 情報なき国家の悲劇 という本は、2つの視点で興味深く読めます。

1つめは、太平洋戦争において日本の軍部、特に大本営は情報をどのように扱っていたのか、参謀・堀栄三の目から日米を比較した際に、日本は情報を軽視し、敗戦に向かっていった当時の状況という歴史的な観点から読めることです。

2つめは、堀栄三の情報参謀としての考え方や振る舞いは、現在のビジネスにおいても示唆が多く得られることです。

堀栄三が見抜いた 「鉄量を破るものは鉄量以外にない」 という競争ルール、その後にこの競争ルールを自ら無効化する作戦構築には、現代のビジネスにおいて示唆がありました。イノベーションをどう実現するか、特にチャレンジャー企業はいかにリーダー企業に立ち向かうかへのヒントです。



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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。