
Free Image on Pixabay
ニールセンデジタルの提供するデジタル広告視聴率が Nielsen Digital Ad Ratings (DAR) です。
日本の DAR に YouTube アプリの広告が追加されたことが、ニールセンから正式発表されました (2017年10月) 。YouTube アプリ内広告は、6月にアメリカで追加され、10月のこのタイミングはカナダと日本とのことです。
参考:ニールセン、日本で YouTube のモバイルアプリのリーチ計測を開始|ニールセン デジタル株式会社
今回のエントリーは、以下について書いています。
- DAR とは何か、DAR の仕組み、DAR の本質
- YouTube アプリ広告の追加が意味すること
- DAR の提供価値とその源泉、これからの広告視聴率に期待すること
Nielsen Digital Ad Ratings (DAR) とは
ニールセンの DAR は、オンライン広告の視聴率データです。
スマホやパソコンのオンライン広告の GRP (Gross Rating Point: 延べ視聴率) やリーチを見ることができます。GRP やリーチはテレビ広告の視聴率で使われる指標です。DAR では、テレビと同じ指標をオンライン広告でも見ることができます。
DAR の仕組み
DAR の仕組みを、使われるデータと視聴率算出方法に分けて説明します。情報ソースはニールセンが公開しているプロダクト詳細シートです。
参考: Nielsen DAR product detail sheet (PDF)
使われるデータ
DAR は大きく3つのデータを統合し、デジタル広告視聴率を算出します。
- 広告が掲載されるメディアからの広告データ
- Facebook のユーザーデータ
- ニールセン デジタルの調査パネルデータ
広告視聴率の算出の方法
DAR の広告視聴率の算出プロセスは次の通りです。
- 広告主 (DAR 利用企業) がキャンペーンに Nielsen タグを実装する。メディアがタグから広告データをニールセンに提供
- 広告データと Facebook ユーザーデータを照合し、性別・年齢などの属性データを広告接触者に付与
- ニールセンのパネルデータを使って補正し市場代表性を担保し、日本全体の広告視聴率を拡大推計
なお、DAR では、算出された広告視聴率は翌々日に提供されます (2017年10月現在) 。データは、ニールセンが提供するインターフェイス内で見られます。
DAR の本質
DAR の本質は、サンプリングからのパネルデータからではなく、全数データによる広告視聴率です。
パネルだとサンプルサイズの制約から、広告出稿規模がある程度大きくないとパネル内の広告接触者の出現率が十分ではなく、視聴率の算出ができない場合があります。
DAR はメディアからの広告データが全数データなので、小規模の広告キャンペーンでも視聴率を出せるようになります。ターゲット顧客の分解も、より細かく見られることが期待できます。
YouTube アプリ広告の追加が意味すること
これまで、DAR で対象だった YouTube 広告は、パソコンやスマホからのウェブのみでした。
スマホからの YouTube 利用はアプリが多く、特に YouTube アプリがプリインストールされている Android のスマホではアプリからの利用がより多くを占めます。
DAR では、スマホ・パソコン・タブレットの各種端末で、デバイス間のユーザーの重複を排除した視聴率がわかります。YouTube アプリ広告が広告視聴率の対象になり、YouTube 広告全体のリーチ・フリークエンシー (接触回数) ・ GRP が見られるようになりました。
YouTube アプリ広告が DAR に追加されたことを DAR 広告測定の仕組みから見れば、広告メディアである YouTube が、アプリ内広告のデータをニールセンに提供することを決めたことを意味します。従来はウェブでの YouTube 広告データの提供のみでした。
DAR の提供価値
DAR の特徴
DAR の特徴を一言で言えば、オンライン上の異なるメディアを、ニールセンという第三者の中立性を担保した指標で比較できることです。
各メディアが提示する広告接触データ (ファーストパーティデータ) はありますが、異なるメディア同士を厳密に横比較することはできません。
理由は2つあります。メディアごとに広告接触測定の方法が異なることと、本質的にファーストパーティデータには自社メディアを良く見せたいというインセンティブが含まれ中立的なデータではないからです。
DAR のもう一つの特徴は、人ベースで広告視聴率が見られることです。
ネットの広告データは通常、インプレッションや Cookie ベースの数字です。DAR は異なるアプリやブラウザ、デバイスの重複を除いた人ベースです。メディアからの広告接触データに、フェイスブックユーザーとニールセンの自社パネルを組み合わせて実現しています。
利用企業にとっての価値
DAR 利用者である広告主や広告会社にとっての価値は、以下のことを事後評価できることです。
- 実施したオンラインの広告が、どのくらいリーチしたのか。人ベースで何人に配信され、何回表示されたか
- リーチした人のうち、男女や年齢ごとの分布。ターゲット顧客にどの程度リーチしたのか
- 広告のメディアごとのリーチ。メディアごとの出稿額と合わせて、リーチ効率を比較
DAR の強みは、全数データによる小規模な広告キャンペーンでもリーチが見られること、より小さい粒度でのユーザー分解ができることです。
DAR の提供価値の源泉
DAR のデータ収集および視聴率算出の仕組みは、以下の3つのプロセスでした。
- メディアからニールセンへの広告データ提供
- 広告データと Facebook ユーザーデータを照合し属性データ付与
- ニールセンのパネルから日本全体の広告視聴率に拡大推計
3つとも、DAR の提供価値の源泉です。ニールセンの独自資源として、それぞれ次のように見ることができます。
- 独自資源 1: メディアからの信頼。メディアから、ニールセンなら自分たちの広告データを提供してもよいと思われている
- 独自資源 2: フェイスブックとの良好な関係。フェイスブックのユーザーデータベースにアクセスし、データマッチングをする許可を得ている
- 独自資源 3: 市場代表性のある独自パネルの保有。モバイルとパソコンそれぞれの調査パネルを持っているので、日本全体への拡大推計ができる。モバイルとパソコンのクロスデバイスでのデジタル広告視聴率が算出できる
第三者による広告視聴率に期待すること
今回の日本の DAR への YouTube アプリ広告の追加は、DAR の価値を高めるものです。
ただし、理想はデジタル広告だけではなく、テレビも含めたクロスメディアでの広告視聴率の実現です。特に、テレビ広告にも出稿するような広告予算が大きい広告主、広告会社にとってです。
アメリカでは、ニールセンには TAR (Total Ad Ratigns) があります。DAR がデジタルだけに対して、TAR はテレビとデジタルの両方です。
ニールセンはアメリカでテレビ視聴率ビジネスをやっています。しかし、日本ではニールセンはテレビ視聴率調査は手掛けていません。以前は一時的にやっていましたが、2000年3月に撤退しました。
日本ではニールセンはテレビ視聴率データは持っていないので、TAR を独自に日本で開始するハードルは高いです。DAR のように、日本でもテレビとデジタルの広告視聴率のサービスを全数データの規模で実現することを期待します。