投稿日 2025/03/09

ふしぎ駄菓子屋 銭天堂。お客さんの幸せを実現するマーケティング

#マーケティング #カスタマーサクセス #本

お客さんに商品を売ったら、それで終わりだと思っていませんか?

ビジネスにおいて、商品やサービスを売ることはもちろん重要です。しかし、真にお客さんの期待に応え、信頼を勝ち取るためには、その先にある 「お客さんの成功」 を見据えた行動が求められます。

今回は、児童文学 「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂 (廣嶋玲子, jyajya) 」 の世界観から、ビジネスへの洞察を紐解きます。お客さんの幸せこそが自社の成功につながるという、一見単純でいて奥深い真理――。

この物語から学ぶビジネスの本質について、ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。

ふしぎ駄菓子屋 銭天堂



書籍 「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」 シリーズは、2013年5月から偕成社より刊行されている児童向けの人気の小説です。

物語は、叶えたい望みがある人の前にだけ現れる不思議な駄菓子屋 「銭天堂」 を中心に書かれています。


銭天堂・店主は紅子 (べにこ) さんです。紅子さんが、お客さん一人ひとりにぴったりの駄菓子を売るのですが、銭天堂の駄菓子には特殊な力が宿っています。それは買った人の願いを叶える力です。

いくつか例をあげると、「型抜き人魚グミ」 という駄菓子は、食べると魚のような泳ぐ能力が身につきます。このグミを小学校のプールの授業が嫌で仕方なかった女の子が買いました。ただし、型抜き人魚グミには注意点があり、食べた直後にスプーン1杯の塩水を飲まないと、肌に魚のウロコが現れてしまうという副作用が起こります。

他には 「ホーンテッドアイス」 は、一見すると普通のラムネソーダ味のアイスです。しかし食べるとあまりの冷たさに猛暑の暑さも忘れてしまうだけではなく、アイスの食べかけを半分残して冷凍庫に入れてしまうと、家全体がお化け屋敷になってしまいます。

本の構成はオムニバス形式で、章ごとに毎回異なる子どもや大人が銭天堂に偶然訪れ、その人物を中心にストーリーが展開します。銭天堂の駄菓子を食べた人に思わぬ結果が訪れたり、ゾッとするような恐い結末を迎えることもあります。

学べること


では、銭天堂の物語からビジネスに学べることを掘り下げていきましょう。

銭天堂の1巻の最後のエピローグに、次のようなことが書かれています。

    お客さんが駄菓子 (商品) で幸せになれば銭天堂の勝ち、不幸せになれば銭天堂の負け

この言葉は奥が深く、マーケティングにも通じる教訓を教えてくれます。

カスタマーサクセス

得られる示唆の結論から言うと、ビジネスでの 「カスタマーサクセス」 と共通点があります。

カスタマーサクセスでは、お客さんの成功に貢献する姿勢を重視します。お客さんが成功したり幸せになることで、めぐりめぐって売り手である自分たちも成功につながるという考え方です。

銭天堂の駄菓子がもたらす幸せや不幸せという話は、カスタマーサクセスに通じます。

駄菓子というお客さんに買ってもらった商品がお客さんの状況にフィットし、うまく機能すればお客さんの望みを叶えたり、困りごとを解決します。お客さんは幸せになり、その結果として銭天堂も成功を収めるという図式です。

カスタマーサクセスのアプローチはマーケティングにも関係します。

買ってもらった時が勝負のはじまり

売り手にとっては、お客さんに商品を売った時点で "成功" と言えるかもしれません。しかし、立場をお客さんに変えれば、商品を買ったタイミングではまだ本当の価値をお客さんにはもたらしてはいません。

買った商品を必要な時に使い、商品が顧客価値を実現してはじめてお客さんは成功に至るわけです。つまり、売って終わりではなく、むしろ買ってもらった時が勝負のはじまりなのです。

マーケティングの役割

突き詰めて考えると、マーケティングで目指すのはお客さんの成功を実現させることです。

BtoB ビジネスのマーケティングでは 「顧客企業のビジネスの成功」 、BtoC のマーケティングは 「生活者の生活をより良くする」 「生活者に少しでも幸せになってもらう」 ことを目指します。

マーケティングは、もっと言えばどんなビジネスもお客さんがいて初めて成立します。そしてビジネスが存続できるのも、お客さんが自分たちを選び続けてくれるからです。

お客さんが選んでくれるのは、商品やサービスが自分にとって価値があり、支払うお金よりも得られる価値が大きいからです。価値が得られると、お客さんはその商品やサービスがなければできない望みが叶い、困りごとが解消されます。お客さんの成功や幸せにつながるわけです。

逆に言えば、自社商品・サービスが価値をもたらさなければ、お客さんの期待を裏切ることになり、信頼は失われ、ビジネスとしての 「負け」 になります。お客さんが成功し、幸せになることによって、企業側も選ばれ続け、長期的な関係がつくられます。

マーケターの存在意義

銭天堂の物語や店主・紅子さんの商いが示すように、お客さんの置かれた状況を理解し、そのお客さんにぴったり合った商品をすすめること。買ってくれたお客さんが商品によって少しでも成功を収めるところまでを見届けること。

マーケターはお客さんの幸せに誰よりもコミットする人です。時にはお客さん本人以上に相手のことを理解し、お客さんの幸せを願い、そのために行動する人です。

マーケターの存在意義は 「お客さんの成功や幸せの実現」 なのです。お客さんを成功に導くことで、結果的にビジネスの成功を手にできます。

まとめ


今回は、子ども向けの本 「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂 (廣嶋玲子, jyajya) 」 を取り上げ、ビジネスに学べることを見てきました。


最後にポイントをまとめておきます。

  • カスタマーサクセスでは、お客さんの成功に貢献する姿勢を重視する。お客さんが成功したり幸せになることにより、めぐりめぐって売り手である自分たちも成功につながる

  • 商品を売って終わりではなく、むしろ買ってもらった時がスタート。買った商品が必要な時に使われ、商品が顧客価値を実現してはじめてお客さんは成功に至る

  • マーケティングによってお客さんが成功し幸せになることで、企業側も選ばれ続け、長期的な関係ができる

  • マーケターはお客さんの幸せにコミットし、時にはお客さん本人以上に相手の幸せを願い、そのために行動する人。マーケターの存在意義は 「お客さんの成功や幸せの実現」 。お客さんを成功に導くことによって、結果的にビジネスの成功を手にできる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。