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取り上げたいのは、クラウゼヴィッツの 「戦争論」 です。
戦争という極限状態から生まれた戦略論は、ビジネスの世界にも示唆に富みます。そこで今回は、戦争論の概念を紐解き、いかにその知見をマーケティングに活かすかを考察します。
ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
「戦争論」 (クラウゼヴィッツ)
クラウゼヴィッツの 「戦争論 (Vom Kriege) 」 は、19世紀のプロイセン (現ドイツ) の軍人であるカール・フォン・クラウゼヴィッツによって書かれた、戦争と軍事戦略に関する著作です。
戦争論が執筆された時期は、主にナポレオン戦争終結後の1816年から1830年にかけてです。著者のクラウゼヴィッツが陸軍大学校の学校長として勤務している時期に大部分が書かれました。
戦争論は戦争に関する哲学的・戦略的な理論書であり、戦争の本質や戦略のあり方について深く考察しています。現代に至るまで軍事や政治に影響を与えている本です。
では、クラウゼヴィッツの 「戦争論」 の主なポイントを見ていきましょう。
戦争は 「政治の延長」 である
クラウゼヴィッツは、戦争とは 「政治的目的を達成するための手段のひとつ」 と捉えました。
戦争は純粋な軍事的な活動ではなく、政治的な目標を達成するための手段であり、戦争は国家の目的を達成するためのツールという位置づけです。
政治目的とは、たとえば他国の領土を自国の領土にして拡大したい、他国の資源を獲得したいなどです。
戦争は軍事行動だけで単独で開始されるのではなく、政治的な目的のためにあり、政治と戦争は密接に結びつきます。主従関係で言えば、政治が主、戦争は従であるという考え方を 「戦争論」 ではとります。
摩擦と不確実性
クラウゼヴィッツは戦争における 「摩擦 (Friction) 」 という概念を強調しました。
摩擦とは、計画通りに進まない状況や、予期しない事態が生じる現実的な要素のことです。
たとえ完璧な計画が立てられても、実際の戦争では不確実性や偶然に起こる要因が影響を及ぼし、計画通りに進むことはほとんどないという指摘です。よって、指導者には摩擦を考慮した柔軟な対応が求められます。
重心
戦争での 「重心 (Center of gravity) 」 とは、敵の力が集中し自国から見て最も重要で脆弱な点のことです。
クラウゼヴィッツは、戦争で勝つためには重心を攻撃することの重要性を説きました。重心となる敵の最も重要な要素 (例: 首都, 軍事力, 指導者など) を攻撃することで、全体に大きな影響を与えられるという考え方からです。
全体戦争と限定戦争
クラウゼヴィッツは、戦争には 「全体戦争 (Total War) 」 と 「限定戦争 (Limited War) 」 があるとし、2つを区別します。
全体戦争とは制限のない戦争のことです。国家が全ての資源を総動員し、敵を完全に打ち負かすことを目指す戦争です。一方、限定戦争は政治的・社会的制約がある戦いです。特定の目標を達成するために制限された規模で行われる戦争を指します。
クラウゼヴィッツは、戦争の目的と手段がバランスよく適応されることが重要だと考えました。
理想と現実
戦争には理想的な状態と現実のギャップがあるとクラウゼヴィッツは指摘しています。
理想的な戦争である完全な勝利や完全な制圧は理論上は可能かもしれませんが、実際の戦争では多くの変数が絡み合い、理想的な結果を得ることは難しいというのが現実です。指導者や戦略家は理想に向けた計画を立てつつも、現実的な制約や予測不能な要素を考慮しなければなりません。
ビジネスへの示唆
今回は戦争をテーマにしていますが、大前提として戦争は決して起こしてはならない行為です。
ただし、戦争のない世の中を目指すからといって、クラウゼヴィッツの 「戦争論」 で書かれていることを捨て去ったり、否定することは違います。むしろ、人類が経験した多くの戦争からの知見や教訓として受け取り、現代にも活かす姿勢をとりたいと私は考えます。
この文脈で、クラウゼヴィッツの 「戦争論」 はビジネスの世界にも通じる貴重な示唆を与えてくれます。
では、戦争論からのビジネスへの教訓を見ていきましょう。
目的と手段
クラウゼヴィッツは、戦争を政治目的を達成するための手段と考えました。
ビジネスに置き換えると、ビジネスの目的を達成するための手段として、商品開発、営業活動やマーケティング活動が位置づけられます。営業やマーケティングの活動は単独ではなく、全体の目的を達成するために他の部門と連携し、戦略的に行われることが大事です。
営業やマーケティングは、企業のビジネス目標に向けた具体的なアクションであり、商品やサービスを売るためだけにとどまりません。市場における企業の役割を確立し、お客さんとの関係をつくり、最終的には企業の目的を達成するためにあります。
摩擦と不確実性
クラウゼヴィッツが戦争論で示した 「摩擦」 とは、予期せぬ事態が計画に影響を与える要素を指します。
ビジネスでも同様に、計画が完璧に見えても、実際の実務の現場では予測不可能な出来事や変動が起こり、計画の通りに進まないことが一般的です。
例えば、市場の移り変わり、競合他社の動向、技術の進歩、規制の強化や緩和、消費者の嗜好の変化など、様々な要因が計画の遂行を妨げるビジネスにおける 「摩擦」 となり得ます。こうした予想外の事象は、自ずと計画に影響を与えます。
よって、柔軟な対応力、不測の事態に備えるリスク管理がビジネスにおいて大切になります。複数のシナリオを用意し、それぞれから代替案 (プラン B) を持っておくことが大事です。
勝ち筋の見極め
クラウゼヴィッツの言う 「重心」 とは、戦争での敵の力が集中する最も重要なポイントのことでした。
ビジネスに適用すると、ビジネスにおける 「重心」 は、企業の競争優位性を決定づける中核的な要素になります。スポーツのボーリングのセンターピンを狙うように、ビジネスにおける 「勝ち筋」 を見極めることが大切です。センターピンを見極め、資源を集中することで、最大の効果を得ることができるわけです。
問題を解決するために課題に対処していく際には、全体に波及効果を与えるような中心的な問題を特定し、その問題解決にリソースを集中させることが効果的です。例えば、商品やサービスの特定の改善が他の関連する問題も一網打尽に解決するようなら、その改善すべき場所が 「重心」 になります。
全体活動と限定活動
クラウゼヴィッツは、全力を尽くす 「全体戦争」 と、目標を絞って行う 「限定戦争」 のバランスの重要性を示しました。
ビジネスでも、すべてのリソースを投入して一気呵成に市場を攻める場面もあれば、リソースを抑えて部分的に展開すること局面もあります。
例えば、新しい市場への参入を考えた場合、全てのリソースを投入する戦略もあり得ますが、リスクを減らすためにテストマーケットを活用して限定的にリソースを割くことも有効です。
他にも、全面的な活動に当てはまるのは、社内の他部署で横断する大規模なプロジェクトです。それに対して限定的な活動は、既存製品の部分的な改良、特定セグメントへのマーケティング活動、段階的な組織変更があります。
全面的活動と部分活動において、限られたリソースの中でどこに集中すべきかをバランスよく組み合わせ、リスクを管理することで、成長の機会を最適化することができるでしょう。
理想と現実の間の戦争
クラウゼヴィッツは、戦争における理想と現実のギャップを認識する必要性を説きました。
ビジネスの世界でも理想的には競合他社に完全に勝利することが望ましいかもしれませんが、現実的にはそれが難しい場合が多いでしょう。
ビジネスでの勝利は相対的であり、状況に応じて定義されるべきです。そのため、どこまでを 「勝利」 と見なすかを事前に明確にし、必要以上にリソースを投入しないようにすることが求められます。完全な市場独占や競合の完全な排除を図るのではなく、現実的で達成可能な目標を設定することが大事です。
市場で 100% のシェアを目指すのではなく、利益を最大化できる適切なシェアを狙い、競合他社とお客さんを分け合うという考え方をとるような現実的な戦略も、少なくとも検討はしておくといいでしょう。
過剰なリソース投入は他の重要な機会を逃すことにつながりため、慎重に判断する必要があります。
まとめ
今回は、クラウゼヴィッツの 「戦争論」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 戦争論では、戦争を政治目的を達成するための手段とした。ビジネスに置き換えると、ビジネスの目的を達成するための手段として、営業活動やマーケティング活動がある。営業やマーケティングの活動は単独ではなく、全体の目的を達成するために他の部門と連携し、戦略的に行われることが大事
- クラウゼヴィッツが戦争論で示した 「摩擦」 とは、予期せぬ事態が計画に影響を与える要因を指す。ビジネスでも柔軟な対応力、不測の事態に備えるリスク管理が重要。複数のシナリオを用意し、それぞれから代替案 (プラン B) を持っておく
- クラウゼヴィッツの言う 「重心」 とは、戦争での自国の力を敵に集中させるべき最も重要なポイント。問題解決と課題対処には、全体に波及効果を与えるような中心的なセンターピン (勝ち筋) を特定し、リソースを集中させることが効果的
- 戦争論は、全力を尽くす 「全体戦争」 と、目標を絞って行う 「限定戦争」 のバランスの重要性を示した。ビジネスでも、全てのリソースを投入して一気に市場を攻める場面もあれば、リソースをあえて抑えて部分的に展開することも必要になる
- クラウゼヴィッツは、戦争における理想と現実のギャップを認識する必要性を説いた。いつも完全勝利を目指すのは現実的ではなく、どこまでが 「勝利」 と見なすかを事前に明確にし、必要以上にリソースを投入しない
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