投稿日 2025/07/17

ユニクロのマーケティングに学ぶ、ハレとケの相乗効果をつくる戦略

#マーケティング #二種類の棚 #ハレとケ

マーケティングでは、商品の特徴や価格帯、店頭への展開、ブランドイメージなどさまざまな要素を組み合わせながら 「お客さんから選ばれる状況」 をつくっていきます。

今回は 「二種類の棚」 という考え方と、それに通じる日本の伝統的な概念である 「ハレとケ」 について、ユニクロの事例からマーケティングに学べることを解説します。

二種類の棚


売場の棚を大きく二種類に分けて運用するというアプローチがあります。

特別な棚

1つ目の棚は、高級商品や季節限定品、コラボ商品などの希少性があったり、利幅が大きい商品を並べる棚です。年に数回しか販売されない希少な限定フレーバー、豪華なパッケージをあしらった商品などがこの棚に並ぶイメージです。

この棚には特別感のあるアイテムを揃えられ、価格も高いので少ない販売数量でも利益を得ることができます。こうした 「特別品の棚」 はブランドの魅力を高めることを目指します。

ただし、特別な棚だけでは規模が限定されてしまうのが現実です。希少性が高いぶん、水平方向 (市場全体) にブランドが広がりにくいからです。高級感や限定感に魅力を感じても、価格や入手難度の面から日常的に手に取る顧客数は限られてしまいます。

手に取りやすい商品を並べる棚

そこで重要になるのが2つ目の棚です。収益性は高くないものの、多くの顧客が気軽に手に取れる価格帯の商品を並べる棚です。

例えば、毎日の食卓に上るような定番品や長く愛されるロングセラー商品が該当します。この 「基本的な商品を並べる棚」 は多くの消費者の手が届きやすいので、ブランドをより大きく広めることにつながります。

2つの棚のバランス

このように2つの棚、すなわち 「特別な気分やシチュエーションのときに選んでもらう特別品の棚」 と 「日常的に購入してもらう商品を並べる棚」 の両方があることによって、ブランドイメージを高めつつ、幅広い層に認知と顧客接点を増やすことができます。

ただし、元々の日常的なイメージと特別品のイメージがあまりにもかけ離れすぎると、ブランドの一貫性が崩れてしまう場合もあります。2つの棚が相互に影響し合うよう設計し、バランスをとることが大切です。

ハレとケ


 「特別品の棚」 と 「日常使いの商品を並べる棚」 の組み合わせは、日本の伝統的な文化概念である 「ハレとケ」 に通じます。

非日常と日常

ハレとケは民俗学者の柳田國男が提唱した概念です。ハレは 「晴れ」 、ケは 「褻 (け) 」 と漢字で表記され、ハレが非日常的な祭事や行事を、ケが普段の日常生活を指します。

非日常であるハレの具体例を挙げると、お正月、ひな祭り、クリスマス、冠婚葬祭、成人式、卒業式など、特別なイベントやお祝いごとです。一方のケは、普段の生活や仕事、家事、食事といった日々の営みを表します。

日本人は古くから、このハレとケを上手に切り替えることによって、一年や人生のリズムをつくってきました。

二種類の棚への当てはめ

ここで 「二種類の棚」 に 「ハレとケ」 を当てはめてみます。

ハレは 「特別感のある棚」 、ケは 「日常使いの定番商品の棚」 に対応します。ハレの商品を展開することでブランドへの特別感や憧れを宿し、ケの商品を通して日常的に接点を持ち続けてもらいブランドを身近に感じてもらうわけです。

もしハレの商品ばかりを打ち出してしまうと、消費者やお客さんから見ると 「敷居が高いブランド」 というイメージになってしまい、購入機会が限られてしまいます。その反対に、ケだけに注力しすぎると、いわゆるコモディティ化 (差異化要素の希薄化) につながり、ブランド独自の魅力を打ち出しにくくなるでしょう。

ハレとケを意識しながら、自社の商品やサービスをどう位置づけるかを考えると、ブランディングと販売拡大の両立が見えてきます。ハレとケはどちらも欠かせない要素であり、2つがあるからこそブランド全体の存在感が広がりつつ深まります。

ユニクロのマーケティング


ここまでの 「二種類の棚」 や 「ハレとケ」 の話は、広告や販促といったマーケティングコミュニケーションにも同じように当てはまります。

具体的な事例として、ユニクロを取り上げてみましょう。

ハレのコミュニケーション

ユニクロは店頭の商品棚での品揃えだけでなく、広告展開や販促活動においても 「2つのタイプのコミュニケーション」 をうまく使い分けています。

1つ目はブランディングのためのコミュニケーションです。「LifeWear」 というユニクロのブランドビジョンを映像やビジュアルで象徴的に訴求するものです。


テレビ CM やウェブ上で流れる映像を見ると、ユニクロが目指すスタイリッシュで快適な日常、そして時代にフィットしたライフスタイルが強く印象づけられます。ここでは 「日常の中にある少し特別な服」 というメッセージがしっかりと伝わってきますよね。

ケのコミュニケーション

一方、2つ目のコミュニケーションは、新聞折り込みチラシやウェブのセール告知などを活用した販促活動があります。


ユニクロの創業感謝祭や季節のセール時期には、低価格やコスパの良さを前面に押し出し、お得に商品を手に入れられる期間をユニクロは積極的にアピールしています。

これは日常である 「ケの棚」 に相当する施策です。創業感謝祭などの期間のみという限定でのものですが、打ち出しているのは購入しやすい価格帯で定番商品の魅力を伝え、多くの消費者がユニクロを選ぶ動機をつくり出しています。この意味で 「ケのコミュニケーション」 です。

二種類のコミュニケーション

このようにユニクロのコミュニケーション戦略を 「二種類の棚」 や 「ハレとケ」 に当てはめると、ハレ的な役割を果たすブランディング広告と、ケ的な役割を果たすセールや販促キャンペーンが明確に区別されていることがわかります。

両方の施策があるからこそ、ユニクロはファッション感度や LifeWear に共感する消費者層にも、そして低価格で機能性の高い服を求める消費者層にも、どちらにも魅力的なブランドとして認識され続けているのです。

学びの汎用化


では最後のパートでは、学びの汎用化を整理していきましょう。

相乗効果を発揮する

ハレの施策とケの施策は、一見すると方向性が違うようでいて、実はどちらも欠かせない大切な役割を担います。

ブランドの特別感を保ちつつ、多くの消費者が日常的に手に取れる接点をつくることによって、認知拡大とブランドの世界観の浸透、同時に収益確保が実現できます。

2つが両方あることで相乗効果が発揮されます。どちらか一方に偏ってしまうと、売上規模が伸び悩んだり、ブランドイメージがぼやけたりする可能性が生じます。

目的から落とし込むハレとケ

このような考え方は、アパレルや食品だけでなく、他の業界のマーケティングに応用できます。

高価格帯や希少性のある特別商品と、手ごろで定番化しやすい商品をどう組み合わせるのか。広告でもブランディングに特化したイメージ訴求と、販促をメインとした施策をどう使い分けるのか。

常に目的を定め、どちらに重きを置くかを考えることが大切です。一見すると相反するように見える施策でも、背後にしっかりとした目的から打ち出される戦略や役割分担があれば、2つは機能します。

もしも自社の商品やサービス、展開するマーケティング活動が 「ケ」 に寄りすぎていると感じる場合は、ハレを演出できるような取り組みを考えてみると新しい着想が生まれるはずです。

逆に 「ハレ」 ばかりを押し出していると感じたなら、気軽に買ってもらえるよう定番商品の訴求や、より日常に寄り添うコミュニケーション施策を検討してみるのもいいでしょう。

ハレとケを同時に意識すると、マーケティングのアイデアが広がっていきます。

まとめ


今回は、二種類の棚、ハレとケ、ユニクロのマーケティングを取り上げ、共通点から学べることを掘り下げました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • ハレとケのバランスが大事。ハレに偏ると敷居の高いブランドになり、ケに偏るとコモディティ化 (差異化の喪失) が進むため、両者のバランスを図る

  • ハレの施策とケの施策を組み合わせることにより、ブランドの世界観を浸透させつつ、広く認知を拡大できる

  • 例えば、ハレとなる 「特別品の棚」 と、ケに相当する 「定番棚」 の両方を活用し、トータルでのブランドの一貫性を保ちながら顧客接点を増やす

  • 自社のマーケティング施策が 「ハレ」 か 「ケ」 のどちらに寄りすぎているかを見極め、調整することで新たな着想が生まれる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。