#マーケティング #リブランディング #リマーケティング
ブランドには、「ブランディング」 と 「リブランディング」 という言葉があります。
では、この関係を 「マーケット」 と 「マーケティング」 に当てはめると、どのような本質が見えてくるでしょうか。
サントリー 「角瓶」 のハイボール復活を手がかりに、マーケットをつくり直す活動について考えます。
ブランドをめぐる 3 つの言葉
ブランド、ブランディング、リブランディングの関係から整理します。
ブランドとブランディング
ブランドとは、商品や企業に対して、お客さんの頭の中に形成された価値イメージです。信頼できる、自分に合っている、少し高くても選びたいといった認識が、購入や利用を後押しします。
企業はブランド名やロゴを決められます。お客さんが実際に持つイメージは、商品を使った経験、広告や売り場で見た情報、店員とのやり取りなどを通じて形づくられます。
ブランディングは、企業が目指す価値イメージを、お客さんの頭の中につくり育てる活動です。商品、サービス、価格、広告、店舗、接客など、ブランドに触れるさまざまな場面を通じて伝えていきます。
ブランドは、お客さんの中に形成された価値イメージを表します。ブランディングは、そのイメージをつくり続けるプロセスです。
リブランディング
リブランディングは、目指す価値イメージを定め直し、新しいイメージをつくっていく活動です。社会やお客さんの変化、事業領域の広がり、競争環境の変化などを受け、ブランドの進む方向を見直します。
現在どのように見られているかを確かめ、これから誰に、どのような価値を持つ存在として選ばれたいかを考えます。
新しい方向に合わせて、商品やサービス、メッセージ、デザイン、売り場、顧客体験も見直します。ロゴやパッケージの刷新は、定め直した価値を目に見える形で伝える手段の一つです。
ブランディングでは、目指す価値イメージに向けて活動を重ねます。リブランディングでは、目指す価値イメージから定め直し、商品や顧客接点を新しい方向へそろえます。
マーケットをつくり直す
ブランド側の関係から着想を広げ、マーケットとマーケティングについて考えます。
マーケットとマーケティング
マーケットとは、顧客と事業者の間で価値の交換が成り立つ市場です。誰がどのような困りごとを抱え、どの選択肢を比べ、得られる価値にいくらを支払うのかという関係まで含みます。
マーケットの範囲は、顧客が置かれた状況や、困りごとを解決するために思い浮かべる選択肢によって変わります。同じ商品でも、使う場面や比較される相手が変われば、競争する市場も変わります。
マーケティングとは、顧客にとっての価値をつくって届け、価値の交換が続くマーケットをつくり育てる活動です。顧客を理解し、商品やサービスを用意し、知ってもらい、買ってもらい、使い続けてもらう流れを整えます。
ブランドとブランディングは、価値イメージと、そのイメージをつくる活動という関係にあります。マーケットとマーケティングも、市場と、その市場をつくり育てる活動という関係で捉えられます。
「リマーケティング」 とは
リブランディングがブランドの目指す姿を定め直す活動なら、マーケティングにも、マーケットの成り立ちを定め直す活動があると考えられます。
ここでは、この活動を独自に 「リマーケティング」 と呼びます。マーケットを支える前提を見直し、顧客との価値交換を新しい形へ組み直す活動です。
デジタルマーケティングで使われるリマーケティングは、一般にリターゲティングのことを指します。Web サイトを訪れた人など、過去に接点を持った人へ再び広告を届ける手法です。
それに対して、今回考えたい 「リマーケティング」 はリターゲティングとは異なる概念です。顧客、問題設定、競合、ソリューション、顧客価値、価格という 6 つの視点から、マーケットの成り立ちを見直すことを指します。
顧客や問題設定を変えると、競合や解決方法、届ける価値、価格にも影響が広がります。変更した部分に合わせて 6 つのつながりを整え、新しい価値交換が続く形をつくります。
サントリー角瓶に見る 「リマーケティング」 の実践
出典: サントリー
ウイスキーのサントリー 「角瓶」 のハイボールとしての復活は、長く販売してきた商品を起点に、マーケットをつくり直した事例として捉えられます。
縮小していたウイスキー市場
日本のウイスキー市場は 1983 年に消費量のピークを迎え、その後は長く縮小しました。2007 年の販売量は、ピーク時の 6 分の 1 まで落ち込んでいました。
サントリーの調査では、若い世代のウイスキー離れが課題として浮かびました。ウイスキーには、価格が高く、中高年が氷を入れたグラスでゆっくり飲む酒というイメージがあり、若者には選びにくい存在になっていました。
当時はビール以外の低アルコール飲料も広がり、居酒屋では気軽で飲みやすいお酒が選ばれていました。若い世代がお酒を楽しむ場面に、ウイスキーが十分に入り込めていなかったのです。
サントリーは、若い世代が選びやすい飲み方と利用場面を考えました。角瓶の中身を大きく変えず、誰が、どこで、何と一緒に、どのように飲むのかを捉え直しました。
ハイボールへの転換
サントリーは 2008 年、角瓶を使った角ハイボールの活動を本格的に始めました。居酒屋で食事と一緒に楽しむお酒として、ウイスキーの新しい飲み方を提案しました。
飲食店でおいしい一杯を出せる環境も整えました。たっぷりの氷、冷えたジョッキ、強い炭酸、角瓶とソーダの 1 対 4 という割合など、提供方法を具体的に決めています。
店舗向けのマニュアルをつくり、安定した品質で提供しやすいハイボールタワーも開発しました。営業担当者は飲食店を訪ね、角ハイボールを扱うお店を増やしました。
2008 年末にハイボールを取り扱う店は約 1 万 5,000 店でした。2009 年には約 6 万店へ増え、若者の認知度も 3 割から 8 割近くまで上がりました。
サントリーの採用サイトでは、2008 年に始めた角ハイボール復活プロジェクトが、翌年のウイスキー市場の 17% 拡大に貢献したと紹介されています。2009 年、サントリーのウイスキー販売は前年比 114% 、角瓶は同 131% と伸びました。
その後は角ハイボール缶も展開し、飲食店で知った味を家庭でも手軽に楽しめるようにしました。
6 つの変化
角ハイボールの取り組みを 「リマーケティング」 の 6 つで整理すると、サントリーが何を変え、何を生かしたのかが見えてきます。
6 つとは、顧客、問題設定、競合、ソリューション (問題の解決策) 、顧客価値、価格です。
顧客では、ウイスキーを好む既存の愛好者に加え、ウイスキーに親しみの薄い若い世代へ力を入れました。居酒屋で食事を楽しむ人を、角瓶が向き合う顧客として捉えています。
問題設定では、食事と一緒に気軽に楽しめるお酒を選びたいという需要に注目しました。強そう、重そう、飲み方が分からないというウイスキーへの抵抗感も、解消する課題として捉えました。
競合は、ほかのウイスキーだけに収まりません。ビール、チューハイ、カクテルなど、居酒屋で食事中に注文されるお酒と比べられるようになりました。
ソリューションにおいては、角瓶という商品に加え、冷えたジョッキ、氷、強い炭酸、決められた割合、飲食店での提供までを含みます。一杯の角ハイボールとして、おいしく飲める体験を整えました。
顧客価値には、食事と合わせやすく、ウイスキーに詳しくなくても気軽に注文できる楽しさが加わりました。爽快で飲みやすいことも、若い世代が選ぶ理由になりました。
価格では、ボトルを購入する形に加え、飲食店で一杯ずつ注文できる形が広がりました。缶の発売後は、家庭でも一回分を買いやすくなり、支払う単位と購入方法が増えました。
角瓶という商品を生かしながら、顧客、利用場面、競合、飲み方、顧客価値、購入単位を組み直しました。角瓶が選ばれる市場は、ウイスキー愛好者の市場から、食事と一緒に楽しむお酒の市場へ広がっていきました。
リブランディングと 「リマーケティング」 からの再設計
サントリーの角ハイボールの事例には、リブランディングと 「リマーケティング」 の両面があります。
リブランディングの視点では、角瓶に持ってもらいたい価値イメージを更新しました。中高年がゆっくり味わうウイスキーという見られ方から、若い人も居酒屋で食事と一緒に楽しめるお酒へ印象を変えています。
「リマーケティング」 の視点では、顧客との価値交換を組み直しました。若い世代に向け、食中酒と比べられる飲み方をつくり、飲食店で一杯ずつ注文できる環境を広げました。
サントリーは、若い世代に向けた価値イメージの更新と、角ハイボールを実際に注文して飲める環境づくりを並行して進めました。広告、提供方法、営業活動がつながり、知った人が試せる機会も増えていきました。
リブランディングは、お客さんの頭の中にある価値イメージを見直します。「リマーケティング」 は、顧客との価値交換が起こるマーケットを組み直します。角瓶の事例では、ブランドの見られ方とマーケットの仕組みが一緒に変わりました。
まとめ
ブランディングとリブランディングから着想を得て、「リマーケティング」 を新しく捉え直してみました。
学びのポイントをまとめておきます。
- ブランドはお客さんの頭の中にある価値イメージであり、ブランディングは望ましいイメージをつくり育てる活動。目指す価値イメージから見直すときは、リブランディングとして商品や顧客接点も新しい方向へそろえる
- マーケットは顧客と事業者の価値交換が成り立つ市場であり、マーケティングは価値交換が続く仕組みをつくり育てる活動。顧客がどの場面で何と比べて選ぶかによって、競争する市場の範囲も変わる
- 「リマーケティング」 では、顧客、問題設定、競合、ソリューション、顧客価値、価格を見直す。変更した要素に合わせて全体のつながりを整え、新しい価値交換が続く形へ組み直す
- 既存商品の成長余地は、使う場面、提供方法、競合、購入単位を変えることで見つかる。商品の強みを残しながら、選ばれる理由と利用する場面を変えることで、新しい市場を開ける
- 価値イメージを変えるリブランディングと、価値交換を組み直す 「リマーケティング」 は連動する。伝え方と実際に商品を選び使える環境をそろえることで、新しいブランドの見られ方が顧客体験につながる
