#マーケティング #新規顧客 #ロイヤル顧客
人が J リーグのファンになっていくプロセスがおもしろかったです。
この話は、スポーツビジネスの枠を超えて、顧客育成に応用できる示唆を含んでいると思いました。
今回は、この J リーグの事例を紹介し、マーケティングへの学びを深めていきます。
ロイヤル顧客へ導く 4 段階モデル
消費者 1 万人規模の調査で見えた実態と、熱心な J リーグサポーターへのインタビューから浮かび上がった 「コアファンへの共通ルート」 (参考情報) 。そこには、ファンベースを拡大するためのヒントが隠されていました。
出典: MarkeZine
ファンに共通してみられたのは、「認知 → 他者誘因 → 感動体験 → 定着」 という 4 段階のプロセスでした。順番に見ていきましょう。
[第 1 段階: 認知] きっかけや自分ごと化の機会創出
J リーグの事例では、幼少期からのサッカースクール、学校での W 杯の話題、ゲームや選手名鑑といった多様な接点が 「サッカーのことがなんとなく好き」 という好意を形成していました。
J リーグの立場では、この段階では、スタジアムへの来場などをいきなり促すよりも、J リーグが生活の中の話題として現れる状態を目指します。
ここで人々の心理内に形成されるのが、購買場面でブランドのことが想起される 「メンタルアベイラビリティ」 の基盤です。
サッカーの話題が出たとき、友人がスポーツの話をしたとき、「週末に何をしよう」 と考えたとき——。こうした日常の文脈で、J リーグや特定のクラブチームが自然と思い浮かぶ記憶の構造をつくるというのがメンタルアベイラビリティの考え方です。
事業者側にとって大事なのは、単一の顧客接点に頼らず、注力顧客の生活の様々なシーンにブランドを埋め込むことです。そうすることで、「スポーツといえば」 「週末のアクティビティといえば」 「家族で楽しめることといえば」 といった複数の文脈から思い出してもらえる確率が高まります。
そして、メンタルアベイラビリティに加えて、欲しいときに買える状態になっているという 「フィジカルアベイラビリティ」 の種まきも大事です。
J リーグの場合、クラブの存在、スタジアムの場所、チケットが身近で買いやすい状態になっていると、いざ 「行ってみようかな」 と思ったときのハードルが下がります。
[第 2 段階: 他者誘因] 最初の体験への入口
J リーグファンへのインタビューでは、対象者 3 名全員が誰かに誘われて初めてスタジアムに足を運んでいました。一人で行く心理的ハードルを、誰かと一緒に行くことが下げていたのです。
友人や家族から 「今度の週末、サッカーを観に行かない?」 と誘われたとき、「あり得る選択肢」 として受け入れられるのは、既にクラブについての記憶があるからでしょう。「あのチーム、名前は聞いたことがある」 という程度でも、誘いを受け入れる心理的な障壁は下がります。
また、招待券やペア観戦企画は、金銭的な負担を下げながら同伴者も確保します。スタジアムへのアクセス、チケット購入、座席選択のわかりやすさも、最初の行動を後押しします。
[第 3 段階: 感動体験] ロイヤル顧客への転換点
熱心な J リーグサポーターがコアファンになる直前には、優勝の瞬間、劇的な勝利、惜しくも負けてしまったなど、心が揺さぶられる体験がありました。
こうした忘れられない体験を通じて、「一緒に戦っている気持ちになる」 「自分の応援がチームを後押しする力になると実感する」 という感覚が生まれ、自分ごと化が進みます。ここで起きているのは、受動的な消費者から能動的な参加者への変容です。
メンタルアベイラビリティも、「スポーツといえば」 という一般的な想起から、「自分の週末」 「自分の人生の一部」 という個人的な想起へと深化します。こうした個人的な文脈と結びつくことで、想起の頻度と深度が高まると考えられます。
フィジカルアベイラビリティへの向き合い方も変わります。J リーグファンは試合日程を自分で確認し、チケットを購入するなど、自ら観戦機会を探して活用するようになります。
J リーグや各クラブができるのは、感動体験が生まれやすい環境や仕組みを設計することです。J リーグでの劇的な試合を意図的につくることはできませんが、スタジアムの雰囲気、応援の一体感、選手との距離感は設計できます。
[第 4 段階: 定着] ライフスタイルへの共生
最終段階では、観戦体験が生活に定着し、趣味を超えて日常やライフワークになります。
「1 日の中で何度もクラブや選手の SNS をチェックする」 という行動が習慣となり、応援するクラブが生活に組み込まれた状態です。
メンタルアベイラビリティは常時接続の状態になり、試合がない日も応援するクラブが意識の片隅にあります。シーズンチケットを購入する、グッズを買う、動画配信サービスに加入する、SNS をフォローするなど、クラブが用意した接点も自発的に活用するようになります。
この段階への移行を促すのが、「継続的な接点設計」 と 「参加機会の提供」 です。定期的なコミュニケーション、新しい体験、ユーザー同士の交流、ブランドストーリーへの参加を通じて、応援するクラブを生活の一部として定着させます。
実現へのヒント
4 段階モデル (認知 → 他者誘因 → 感動体験 → 定着) をマーケティングに落とし込むには、各段階の目的と施策を明確に区別することがポイントです。
1. 認知
コンテンツマーケティング、SNS 運用、PR 活動などで多様な接点をつくり、基礎的な好意とメンタルアベイラビリティを形成します。同時に、商品・サービスへのアクセス経路や基本情報を見つけやすくし、フィジカルアベイラビリティの土台を築きます。
2. 他者誘因
紹介プログラム、トライアル施策、ペア割引などで心理的・金銭的ハードルを下げ、「誰かと一緒に」 という初回体験を促します。購入プロセスの簡素化や明確な価格設定も重要です。
3. 感動体験
期待を超える体験を通じて 「自分ごと化」 を促します。オンボーディング、カスタマーサクセスの伴走、成功を支援する仕組みによって、顧客が自身の努力や選択が成功に寄与したと感じられる設計が必要です。
質の高い体験を提供できれば、メンタルアベイラビリティが深まり、顧客は能動的にフィジカルアベイラビリティを活用し始めます。
4. 定着
サブスクプラン、ロイヤリティプログラム、会員限定イベント、ユーザー交流の場などを通じて継続的な接点をつくります。メンタルアベイラビリティを常時接続の状態に保ち、フィジカルアベイラビリティを日常的に活用できる環境を整えます。
認知では広く浅く想起の種を蒔き、他者誘因では行動のハードルを下げ、感動体験では想起を深く強固なものに変え、定着では常時接続の状態を維持します。
各段階でメンタルとフィジカルという二つのアベイラビリティを設計することで、ライト層をロイヤル顧客へと育てていくことができます。
まとめ
J リーグサポーターに共通した没入プロセスから、お客さんをロイヤル顧客へと導く 4 段階モデルを考えました。
学びのポイントをまとめておきます。
- 顧客育成は 「認知 → 他者誘因 → 感動体験 → 定着」 という 4 段階で設計できる。偶然ではなく、意図的な仕組みづくりが可能
- メンタルアベイラビリティ (想起される状態) とフィジカルアベイラビリティ (買える状態) を、各段階で適切に設計する
- 認知では多様な文脈で顧客接点をつくり、想起の種を蒔く。「なんとなく知っている」 という状態でよい
- 感動体験が、受動的な消費者から能動的な参加者への転換点となる。「自分ごと化」 できる設計が鍵
- 定着では、継続的な接点とコミュニティの力でブランドを生活の一部に組み込み、常時接続の状態を維持する


