#マーケティング #プロジェクトマネジメント #本

マーケティングの定石を学び、筋のいい施策を考えた。それなのに、社内で話が進まず実行までたどり着かない。そんな経験はないでしょうか。

書籍『なぜ定石だけでは組織は動かないのか? マーケターのための人心を動かす 「社内調整」 の技術 (垣内勇威) 』は、マーケターが日々向き合う社内調整を、戦略、人間関係、 KPI 、権限、組織文化、プロジェクト推進まで広げて考える本です。

正しい戦略を実行に移すために、マーケターは何をすればいいのか。本書から学べることをご紹介します。

本書の概要

本書『なぜ定石だけでは組織は動かないのか? マーケターのための人心を動かす 「社内調整」 の技術』は、マーケティング戦略が実行されない理由を、人・権限・ KPI ・組織文化・社内政治・プロジェクト推進といった組織の問題から捉え、どう人と組織を動かすかを解説した本です。

マーケティングでは、顧客理解や戦略立案、施策づくりといった 「何をやるべきか」 に目が向きます。しかし実際の仕事では、経営層の理解を得て、関係部門に協力してもらい、予算や権限を確保し、プロジェクトを前に進めるところまで求められます。

プロジェクトマネジメントを社内向けマーケティングの視点から捉え、社内調整をどう進めれば組織が動くのかを具体的に扱っています。

一言の主題

本書の主題を一言で表すなら、正しいマーケティング戦略を知るだけでは成果にならず、人の利害や感情、 KPI 、権限、組織文化まで含めて 「実行される状態」 をつくるところまでがマーケターの仕事だ、ということです。

マーケティングの定石を学ぶことは以前より簡単になりました。検索すれば多くの事例やノウハウが見つかり、生成 AI に聞けば施策案や分析の切り口もすぐに出てきます。 AI によって 「何をすべきか」 を考える手間は、今後さらに減っていくでしょう。

一方、施策を会社の中で通して実行する難しさは残ります。 Web サイトを改善したくてもブランド部門から反対されたり、問い合わせを増やそうとしても営業部門の対応余力がなかったりします。システム改修が必要なら、情報システム部門との調整も発生します。

 「正解を知ること」 と 「正解を実行させること」 には、それぞれ別の能力が求められるのです。

全体構成

本書全体は、

  • 戦略をつくる
  • 経営の意思にする
  • KPI ・権限・文化で組織の力学を変える
  • 人間関係を調整する
  • PM (プロジェクトマネージャー) によって実行を支える
  • 外部との関係までつくる

いう流れで進みます。

社内調整を、戦略を実行できる状態へ持っていく一連のマネジメントとして捉えている点が特徴です。

本書には、マーケティングでは顧客視点を持つだけでなく、そこから得た考えをもとに利害関係者を動かすところまで担うという考え方があります。マーケターは顧客を理解して戦略を考え、社内の意思決定につなげ、経営層や営業、開発、外部パートナーを動かして実現まで進めます。

本書は、戦略が曖昧だったり、部門ごとに KPI が食い違ったり、権限関係や人間関係が複雑だったりして意思決定が止まる状態を 「組織のデッドロック」 と呼びます。関係者が互いの出方を待つほど、仕事は進まず調整の手間だけが増えていきます。

目指すのは、社内調整を円滑にして負担を減らし、マーケターが顧客や市場に向き合う時間を増やすことです。

学べること

では、後半のパートでは、本書を読んで私が学べたことを紹介していきます。

 「正解」 と 「実行」 は別物

顧客を理解し、データを分析し、戦略を立て、施策を考えるのがマーケティングの前半です。施策を社内で採用してもらい、関係部門に協力を依頼し、予算を確保し、プロジェクトを動かして成果まで持っていくのが後半です。

生成 AI の進化によって前半の作業は効率化されます。その分、後半にある社内調整やプロジェクト推進の力が、マーケターの仕事で占める比重は高くなります。

著者は、デジタルマーケティングのコンサルティングでは、クライアントの担当者がすでに正解を知っている場合も多いと説明します。それでも外部コンサルタントが役立つのは、専門家の見解を加えることにより社内で提案を通しやすくなるからです。

専門知識を持っていることに加え、その知識を組織の実行へつなげる力が問われます。

人は正論だけでは動かない

営業部門には営業部門の KPI があり、経営者には経営者の責任があります。ブランド部門には守りたいものがあり、現場には積み重ねてきた経験があります。論理的に正しい提案でも、相手の立場から採用する理由が見えなければ話は進みません。

マーケターは普段、お客さんが何を求め、何に困り、どんな状況にいるのかを理解しようとします。社内でも同じように、誰がキーマンなのか、その人は何を重視し、何を不安に感じているのかを把握します。つまり、社内関係者を 「顧客」 と見るわけです。それも、物わかりがあまりよくない 「お客さん」 くらいに見立てます。

そこから、専門家の見解、客観的な証拠、顧客の声などを使い、必要なら 1 対 1 で事前に話します。協力してくれた人に成果を共有する姿勢も、次の協力につながります。

重要な意思決定ほど、会議の場で初めて説得しようとせず、事前の対話で懸念を減らしておきます。本書では、会議を合意を正式に確認する場として考えます。

組織の問題を 「個人の問題」 で片付けない

 「営業が協力してくれない」 、「上司が短期的な数字ばかり見ている」 、「現場に顧客視点がない」 。こうした問題は、本人の性格や意識だけから生まれているとは限りません。

営業部門の評価が今月の売上だけで決まるなら、数年後の顧客育成に時間を使いにくくなります。マーケティング部門が問い合わせ件数だけを追えば、質の低い問い合わせまで営業へ渡す可能性があります。それぞれが自分の KPI に対して合理的に動いた結果、部門間の摩擦が生まれるわけです。

そこで本書は、KPI ・権限・文化という 3 つの観点から組織の力学を見ます。誰かを説得し続けるより、望ましい行動を取りやすい仕組みに変えたほうが、個人の力量だけに頼らず運用できます。

戦略の曖昧さにも注意が必要です。目的や注力顧客が定まっていれば、顧客にとってどちらがよいかを判断軸にできます。基準が曖昧なままだと、議論は 「私はこう思う」、「営業としてはこうしたい」、「うちの部署では困る」 といった部門ごとの都合に寄りやすくなります。

戦略から実行へ

戦略をつくる材料として、本書では 「戦略の種」 という言葉が使われます。

役職が上がるほど、顧客や日々の実務から離れる時間が増えます。社長や役員は意思決定を求められる一方、顧客の声や現場の小さな変化を直接知る機会は少なくなります。

現場の担当者は、顧客の声や行動、仕事の中で感じる違和感、新しい兆しに触れられます。現場が見つけた戦略の種を役職者に提供し、役職者自身の意思として 「錦の御旗」 を掲げてもらえば、会社として動きやすくなります。

実行段階では KPI ・権限・文化が組織の行動に影響します。たとえば KPI を置けば、人はその数字を達成しようと動きます。成果を促す力になる反面、一つの数字を追いすぎると本来の目的から外れる可能性もあります。

本書では、主要 KPI と合わせて 「牽制 KPI」 を置く考え方を紹介しています。獲得件数を増やすなら費用対効果も見る、新規契約を増やすなら継続率も見る、といった具合です。特定の指標だけを追って行動が偏らないよう、別の指標で歯止めをかけます。

社内調整を特定の人の経験だけに頼らないため、 PM の役割も重視されています。 PM はスケジュールを管理するだけでなく、プロジェクトが止まる前に現れる小さな違和感にも目を向けます。

本書は、返信が少し遅くなる、ある部門の反応が以前と変わる、小さな不満が聞こえるといったプロジェクトの炎上につながりそうな兆候を 「ざわめき」 と表現します。早い段階で気づいて対処すれば、問題が深くなる前に手を打てます。

こうした PM を社内で育てれば、プロジェクトを動かした経験や知識が組織に残ります。外部パートナーに任せる場合も、学習の積み重ねが競争力につながる領域は社内に残し、専門性が必要な領域では外部の力を借りるという判断が求められます。

発注側と受注側には、それぞれの事情や利益があります。相手が何を目指して行動するのかを理解し、役割や期待する成果を事前にすり合わせることで、協働しやすくなります。

社内調整は敬意を払われるべき仕事

社内調整に多くの時間を使うと、顧客理解や戦略づくりに時間を使えていないと感じることがあります。

しかし、意思決定者の合意を得る、複数部門の利害を調整する、必要な人を巻き込む、プロジェクトが止まりそうな兆候を拾うといった仕事がなければ、考えた戦略は実行に移りません。

本書は、社内調整ができる人を 「仕事ができる人」 として評価する組織が望ましいと考えます。マーケターの価値はアイデアの質だけで決まらず、会社の意思決定につなげ、人と組織を動かし、顧客にとって意味のある成果まで進められたかにも表れます。

まとめ

  • マーケティングでは、正しい施策を考える力と、組織の中で実行まで進める力の両方が求められる。生成 AI が前者を支援するほど、社内調整やプロジェクト推進の比重は高まる
  • 人を動かすには、相手の立場・評価軸・不安を理解し、根拠や顧客の声を使いながら事前に合意をつくる。顧客理解で使う視点は、社内の利害関係者を理解するときにも活用できる
  • 部門間の対立を個人の性格だけで捉えず、KPI ・権限・文化がどんな行動を促しているかを見る。主要 KPI と牽制 KPI を組み合わせれば、特定の数字への偏りも抑えやすい
  • 現場には顧客接点から得られる戦略の材料 (種) があり、経営には会社の意思として方針を掲げる役割がある。両者をつなぐことで、現場の気づきを組織の行動へ移しやすくなる
  • 社内調整や PM は、戦略を実行するための仕事として評価されるべき。小さな違和感を早めに拾い、関係者との調整を進めることにより、プロジェクトの停滞を防ぐ