#マーケティング #顧客文脈 #顧客価値

今回は、サッポロビールとミズノが協働開発したノンアルコールビール 「サッポロ SUPER STAR」 の事例を取り上げます。

顧客文脈をもとにターゲティングするマーケティングを解説します。

サッポロ SUPER STAR

出典: サッポロビール

まずは商品の概要から見てみましょう。

 「サッポロ SUPER STAR (スーパースター) 」 は、サッポロビールとスポーツ用品メーカーのミズノが協働開発した、スポーツの後に飲むことを想定したノンアルコールビールです。2026 年 2 月 25 日から、近畿エリア限定で通年販売が始まりました。

パッケージには、サッポロとミズノのブランドロゴを上下に大きく配置しています。一般的なノンアルコール飲料とは用途が異なる 「スポーツノンアル」 だと、一目でわかるデザインです。

成分にはクエン酸と電解質 (ナトリウム) を配合しており、一般的なノンアルコールビールにはあまり見られない設計です。

100ml あたり 10kcal と、カロリーも控えめです。味わいはビールにかなり近く、香りや喉越しもビールらしく仕上げられているとのことです。

ここからは、この商品が生まれた背景を、顧客文脈をもとにしたターゲティングという観点から掘り下げていきましょう。

顧客文脈でターゲティングする

サッポロ SUPER STAR の事例からは、顧客文脈をもとにターゲティングするという、マーケティングで大切な考え方が見えてきます。

顧客文脈とは

顧客の解像度を上げるには、年齢や性別などの属性に加えて、お客さんが置かれている 「文脈」 まで理解することが大切です。

ここで言う顧客文脈には、お客さんが置かれた状況、その中で感じている困りごとや望み、ニーズ、何に価値を感じるかといった要素が含まれます。

サッポロ SUPER STAR の事例で注目したいのは、ミズノが顧客文脈を理解するために、5000 人以上の消費者を対象として、大人がスポーツを続ける際の課題を幅広く調査したことです。

調査では、「運動後のビールのためなら頑張れる」 と答える人が多くいました。そこから見えてきた顧客文脈を整理すると、次のようになります。

  • 状況: 大人になると運動が続きにくい。健康診断やダイエットのために一時的に始めるが長続きしない
  • 望み: 運動を頑張った後のご褒美としてビールを飲みたい。それが運動のモチベーションにもなる
  • 困りごと: アルコールには脱水や筋肉分解の懸念がある。せっかく運動したのにビールを飲むと罪悪感がある
  • ニーズ: ご褒美としてのビール体験はそのままに、後ろめたさを感じずに飲めるものがあればいいのに

  「運動後にビールを飲みたいけど、罪悪感がある」 という気持ちは、特定の年齢や性別に限ったものではありません。お客さんが置かれた状況までたどることで、こうした本音が見えてきます。

未顧客が買わない合理的な理由

次に、運動後にノンアルコールビールを飲んでいない 「未顧客」 の視点から、この事例を考えてみましょう。

ノンアルコールビール市場には、すでに多くの商品があります。その多くは、「ビールの代わりに晩酌で飲むもの」 というイメージで定着しています。

運動後に既存のノンアルコールビールを買わない人にも、その人なりの合理的な理由があります。

  • 既存のノンアルビールは晩酌用のイメージが強く、運動後に飲む発想がそもそもない
  • スポーツドリンクやプロテインドリンクなどは、運動後のご褒美感は生まれにくい
  • ノンアルとはいえビール味の飲料を運動後に飲むのは、なんとなく後ろめたい
  • ビール会社が 「運動後にノンアルを」 と言っても、スポーツ文脈での説得力が弱い

こうした理由は、売り手の立場だけで考えていると見落としやすいものです。運動をする人の立場から見れば、いずれも自然な判断でしょう。

サッポロの気づきと方向転換

サッポロは当初、BCAA (分岐鎖アミノ酸) などを配合した、機能性の高いビールテイスト飲料を検討していました。スポーツ愛好家が関心を持ちそうな機能を加え、商品の違いをつくろうと考えていたわけです。

調査を重ねると、機能性の高い飲料はスポーツ中には歓迎される一方で、スポーツ後に飲むノンアルコールビールとしては、それほど魅力を感じてもらえないことがわかりました。

調査で強く表れたのは、「ビールならではのご褒美感」 を味わいたいという気持ちです。

もう一つわかったのが、爽快感は欲しいものの、ビール味が強すぎると、ノンアルであっても後ろめたさが残り、飲むのをためらってしまうという心理です。

サッポロはこの複雑な消費者心理を受けとめ、「ご褒美感がありながら、罪悪感は少ない」 というバランスを探りました。この調整が、サッポロ SUPER STAR の開発で重要なポイントになりました。

顧客文脈に合わせてブランドの提供価値を再解釈する

顧客文脈を理解した後は、その文脈に合わせて、ブランドが果たす役割や提供価値を捉え直します。

ミズノはスポーツ用品メーカーとして、シューズやウエア、スポーツ用具などを提供してきました。今回、「大人になるとスポーツが続きにくい」 という課題に向き合い、スポーツ用品の範囲を超えた取り組みを選びました。

スポーツ用品を繰り返し購入してもらうには、まず運動を続けてもらう必要があります。「運動後においしいノンアルが飲める」 ことが運動を続けるきっかけになるなら、スポーツメーカーとして提供できる価値になり得ます。こうした発想から、ミズノは飲料という新しい分野に踏み出しました。

サッポロも、ノンアルコールビールの価値を 「晩酌時にビールの代わりとして飲むもの」 から、「スポーツ後に楽しむご褒美飲料」 へと広げました。

ビール会社だけで 「運動後に飲むノンアルコールビール」 と伝えても、スポーツとのつながりは感じてもらいにくいでしょう。スポーツメーカーのミズノと組むことで、運動後に飲む商品としての納得感が生まれます。

パッケージにサッポロとミズノのロゴを並べたことにも意味があります。「ビールの専門家とスポーツの専門家が一緒につくった」 という事実が、運動後に飲む理由となり、消費者が感じる後ろめたさをやわらげています。

特定の文脈で選ばれるブランドを目指す

サッポロ SUPER STAR は、「スポーツノンアル」 という新しい文脈で、最初に思い浮かべてもらえるブランドを目指しています。

注目するのは、「運動を頑張った後のご褒美に、ノンアルビールを飲みたくなる」 という具体的な場面です。この文脈に商品を結びつけることで、その場面で選ばれる可能性を高められます。

サッポロは、海外ではすでに 「運動 × ノンアル」 のマーケティングが行われている一方、日本ではこの用途の商品がまだ定着していないことに着目しました。新しい飲用場面を早い段階から育て、先行する狙いがあります。

販売戦略にも文脈ターゲティングを貫く

販売戦略にも、文脈をもとにターゲティングする考え方が反映されています。

たとえば、「散歩の後にいかが?」 という POP を使い、運動後の場面を思い出してもらうコミュニケーションを行います。広い層に一度に伝えるよりも、「スポーツをした後のご褒美」 を求める人に、その場面で商品を思い出してもらう狙いです。

近畿エリア限定で販売を始めたことも、新しい飲用場面を丁寧に育てるための選択です。小さく始めて一人一人の声を拾い、どのような状況で商品が求められるのかを詳しく捉えていきます。その積み重ねが、「スポーツノンアル」 という新しいカテゴリーを育てることにつながります。

サッポロ SUPER STAR の 「鍵穴」 と 「鍵」 

最後のパートでは、マーケティングを 「鍵穴と鍵」 にたとえて整理します。

マーケティング活動は、顧客文脈という 「鍵穴」 を見つけ、そこに合う 「鍵 (顧客価値) 」 を提供するプロセスとして捉えられます。

鍵は、お客さんが置かれた状況で生じるニーズや望みを満たす商品やサービスです。鍵によって鍵穴が開く状態は、お客さんが商品やサービスを通じて、求めていた価値を得られたことを表します。

鍵穴 (顧客文脈) 

この事例で 「鍵穴」 となる顧客文脈は、次のようなものでした。

運動後にビールを飲み、ご褒美感を味わいたい。一方で、アルコールによる脱水や筋肉分解が気になります。機能性ドリンクではご褒美感が足りず、ビールらしい味は欲しいものの、味が強すぎると後ろめたさが生まれます。

こうした複数の気持ちが重なった、運動後の消費者の状況が鍵穴です。

鍵 (顧客価値) 

サッポロ SUPER STAR は、この 「鍵穴 (顧客文脈) 」 に合う 「鍵 (顧客価値) 」 として、次の価値を提供しました。

  • ビールに近い味わいで 「頑張った自分へのご褒美感」 を提供する
  • クエン酸と電解質の配合、低カロリーにより 「運動後に飲んでも大丈夫」 という安心感をつくる
  • サッポロビールはスポーツメーカーのミズノとの協働開発という事実が 「スポーツ後に飲んでいい」 というお墨付きとなり、後ろめたさを解消する

サッポロ SUPER STAR は、「ご褒美感」、「罪悪感のやわらぎ」、「スポーツ後に飲むことへの納得感」 を組み合わせ、運動後の複雑な顧客文脈に応えています。

まとめ

サッポロビールとミズノが協働開発したノンアルコールビール 「サッポロ SUPER STAR」 の事例から、顧客文脈をもとにターゲティングする方法を見てきました。

学びのポイントをまとめておきます。

  • 顧客の属性に加え、置かれた状況や心理、望み、困りごとといった 「文脈」 まで深掘りすることで、表面的なニーズの奥にある本音が見えてくる
  • 未顧客が買わない理由には、その人なりの合理性がある。未顧客の文脈に立って理由を理解することが、新たな市場機会の発見につながる
  • 顧客文脈を見つけたら、自社ブランドの提供価値を捉え直す。既存カテゴリーや既存顧客の用途に縛られず、顧客文脈に合う新しい価値の伝え方を探ることが大切
  • 特定のシチュエーションという 「文脈」 をもとにターゲティングすることで、その場面で選ばれやすい状況をつくれる
  • マーケティングは、顧客文脈という 「鍵穴」 を見つけ、そこに合う 「鍵」 となる顧客価値を提供するプロセス。顧客文脈を先に理解し、その後で顧客価値を設計する