#マーケティング #顧客理解 #顧客文脈と自社の強みを結ぶ

コメダ珈琲店のコーヒーは 1 杯 460 円 ~ 700 円。コンビニコーヒーの 4 倍以上の価格です。

それなのに、お店はいつもお客さんがいます。コメダの 「高いのに選ばれる」 という現象の裏側には、マーケティングへの大事な本質が隠れています。

コメダ珈琲店とは

出典: コメダ珈琲店

まずはコメダ珈琲店の概要から見ていきましょう。

コメダ珈琲店は 1968 年に名古屋で創業した喫茶店チェーンです。「コメダ」 という名前の由来は、創業者の家業が米屋だったことから 「コメ屋の太郎」 にちなんでいます。

2025 年 2 月末時点で全国に 1,055 店舗を展開し、スターバックス、ドトールに次ぐ国内第 3 位のカフェチェーンです。2013 年に 500 店舗だったのが、10 年で倍増という拡大を遂げました。

スターバックスやドトールとの違いは、コメダ珈琲店はフルサービス型の喫茶店であることです。お客さんが自分でやるセルフサービスではなく、コメダ珈琲店ではスタッフが席まで注文を取りに来て、できたての料理やドリンクを運んでくれます。

コメダ珈琲店は名古屋の喫茶文化が根付いており、ドリンクを注文するとトーストやゆでたまごが無料で付いてくるモーニングサービスも特徴です。

シロノワール (出典: コメダ珈琲店

名物のシロノワールをはじめ、ボリュームたっぷりのサンドイッチやスナックメニューも充実し、コーヒーだけでなく食事でも満足できるお店として人々から親しまれています。

コメダ珈琲店ではコーヒーをお店で 1 杯ずつ丁寧に提供され、温度が下がりにくいように設計された厚手のオリジナルカップで出てきます。

地元の名古屋だけではなく、全国のお客さんからの支持は厚いものがあります。

コメダはなぜ選ばれ続けるのか

では、ここからが今回の本題です。

コメダ珈琲店が売っているものの正体について探っていきましょう。

コメダが本当に売っているもの

コメダ珈琲店のコーヒーは、コンビニコーヒーと比べれば何倍もの値段がします。スターバックスやドトールと比較しても高めの価格設定です。

しかし、いつ行ってもお客さんで賑わっています。この現象を理解するカギは、コメダが売っているものの捉え方にあります。

結論から言うと、コメダが本当にお客さんに提供しているものとは、コーヒーではなく 「リビングのような、くつろげる時間と空間」 です。

コメダ珈琲店は自らのお店を 「街のリビングルーム」 と位置づけています。

お店がまるで自宅のリビングルームの延長線上のように元気や英気を養える場所となることを目指しているのです。コメダ珈琲店が心まで安らげる場所であるために、おいしさ、おもてなし、居心地に徹底的にこだわっています。

くつろぎを実現する空間設計

コメダのくつろぎは偶然の産物ではなく、一つひとつが緻密に設計されたものです。

コメダ珈琲店の店内に入ると、木とレンガを基調にした温かみのある空間が広がります。

漆喰をモチーフにした壁、天井の木材、安定感のあるやや大きめの椅子、ふかふかのソファ、厚みのあるしっかりと固定されたテーブル、そしてプライバシーを守るさりげないパーテーション。これらすべてがくつろぎを演出する舞台装置として設計されています。

おもしろいのは木材の経年変化を計算に入れた設計思想です。

できたばかりのコメダ珈琲店の新店舗ははちみつ色の明るい木目ですが、年月が経つにつれて栗色に変わり、40 年経ったお店は深い色合いになります。木材をふんだんに使っているからこそ、時間の経過が味になるわけです。テーブルも厚みのある木材をしっかり固定しており、もし傷がついたり汚れたりしても表面を削ることで再生できます。

おしゃれなカフェが追求する洗練された、しかしどこか緊張感のある雰囲気とは真逆で、コメダ珈琲店は 「ずっとそこにあったような懐かしさ」 を大切にしています。

こうした店舗体験への投資が、他のカフェチェーンにはないコメダ独自のくつろぎ空間を生み出しているのです。

また、最近の店舗設計では 「おひとり様」 への配慮もされています。

カウンター席にも仕切りを設けるところもあり、隣の人と視線が合わない工夫がなされています。座席の背もたれも高く設計することで個室感が生まれ、家族連れでもひとりで訪れても、自宅のリビングにいるようにリラックスできるのです。

接客で生み出すくつろぎ

空間設計だけではなく、コメダ珈琲店は接客にもこだわりがあります。

来店からお会計、退店までフルサービスで対応するのがコメダ流です。

印象的なのは 「くつろぎは十人十色」 という考え方です。決まったマニュアルに頼るのではなく、スタッフ一人ひとりがお客さんとの距離感や空気感を肌で感じ、最適なおもてなしを考えます。

常連のお客さんには 「いつものやつ」 に応えられるサービスを、初めてのお客さんにはコメダのくつろぎを丁寧に提供する。お客さんによって居心地の良さが違うからこそ、画一的ではない接客が行われます。

温かいものは温かいうちに、冷たいものは冷たいうちに。これはおいしさの基本であると同時に、お客さんがくつろぎの時間をゆったりと過ごすための前提でもあります。

清掃の行き届いた店内、明るい笑顔の挨拶、そして振り返りたくなるようなお見送り。一連のサービスのすべてが、コメダ珈琲店で感じる 「くつろぎ」 という顧客価値に紐づいています。

コメダ珈琲店は 「1.5 プレイス」 である

では、さらに考察を深めてみましょう。コメダ珈琲店が提供している価値を別の角度から見てみます。

スタバの 「サードプレイス」 とは違う立ち位置

カフェの提供価値として比べたいのが、スターバックスが掲げる 「サードプレイス」 (第三の場所) という概念です。これは自宅でも職場でもない、第三の居場所としてのカフェという位置づけです。

それに対してコメダ珈琲店が提供しているのは、言うなれば 「1.5 プレイス」 です。家 (ファーストプレイス) の延長線上にある場所であり、自宅のくつろぎをそのまま外に持ち出したような空間という意味で 「1.5」 です。

コメダ珈琲店は郊外のロードサイドに多く出店し、広い駐車場を備えています。近所にあって車でさっと行ける気軽さがあり、長居しても心理的なハードルが低く、コメダにはむしろ長居を歓迎する姿勢があります。自宅の居間や職場の応接室のように、ふだん着のままゆったりと過ごせる場所なのです。

スタバのサードプレイスが 「日常から離れた特別な空間」 だとすれば、コメダの 1.5 プレイスは 「日常の延長線上にある、くつろげる場所」 です。だからこそ、週に何度も通う常連が生まれやすいのでしょう。

コメダの 「高いのに選ばれる」 の正体

ここまで見てくると、コメダ珈琲店の提供価値の本質が見えてきます。

確かにコーヒーの値段だけを比べれば、コンビニコーヒーの方がはるかに安いです。しかしお客さんがコメダにお金を支払っているのは 「コーヒー代」 ではなく、「自分の家のようにくつろげる空間と時間への対価」 です。

コメダならではふかふかのソファに座り、広い席でゆったりと過ごし、フルサービスの接客を受け、いつもの味のコーヒーやボリュームのあるメニューを楽しむ。

この一連の全体でのコメダの体験に対して、「むしろお得だ」 と感じるお客さんがコメダには集まっているのです。コーヒー 1 杯の値段で判断すれば高いけれど、得られる体験の総量で考えるとお値打ちに感じるということです。

 「お客さんの本当の望み」 と 「自社の強み」 を結びつける

最後のパートでは、コメダ珈琲店の事例からマーケティングの本質を考えてみましょう。

コメダ珈琲店の事例から見えてくるのは、マーケティングとは 「お客さんが本当に求めているもの」 を深く理解し 「自社の強み」 と結びつけることだということです。

コメダの場合、お客さんが本当に求めていたのは安いコーヒーではなく、自宅のリビングのようにくつろげる場所での顧客体験でした。それに対してコメダは、ふかふかのソファ、広い席、丁寧な接客、いつもの味のメニューという自社の強みを一つひとつ結びつけていきました。

こうして生まれたのが 「コメダ "で" いい」 ではなく、「コメダ "が" いい」 というお客さんからの選ばれ方です。

この 「で」 と 「が」 の助詞のたった一文字の違いには、大きな意味があります。

 「コメダでいい」 は消去法による選択であり、他に良いところがあればそちらに流れてしまうでしょう。しかし 「コメダがいい」 は能動的な指名です。お客さんが自ら選び取り、わざわざ足を運びたくなる存在になっているということです。

コメダ珈琲店が 「コーヒーが高い」 と言われながらもいつもお客さんがいる理由は、この 「が」 で選ばれ続ける状態をつくっているからなのです。

価格の安さではなく、お客さんにとっての 「くつろぎ」 という提供価値に正面から向き合い、空間も接客もメニューも、その一点に向けて磨き続ける。これがコメダ珈琲店の強さの源です。

まとめ

今回はコメダ珈琲店を事例に、「顧客文脈」 と 「自社の強み」 を結びつけるというマーケティングの本質を見てきました。

最後に、学びをまとめておきましょう。

  •  「◯◯ "で" いい」 という消去法的な選ばれ方ではなく、「◯◯ "が" いい」 と能動的に指名される状態をつくることが競争優位となる
  • お客さんが買っているのは商品そのものではなく、商品がもたらす体験や価値。お客さんが本当に求めている望みを見極めることがマーケティングの出発点になる
  • 自社が持つ強みを、お客さんが求める価値に結びつけることがマーケティングの役割