#経営 #官僚組織 #組織マネジメント
会社の意思決定が遅い、部門間の連携が悪い、新しいことが生まれない。
問題が続くと、ピラミッド型の組織や「官僚組織」そのものが原因として語られ、組織改編が解決策として持ち上がることがあります。
しかし、そもそも「官僚組織」とはどのような仕組みで、本当に組織構造まで変えるべきなのでしょうか?
今回は、現場・ミドル・トップの役割や部門間の連携、組織改編と役割変更の違い、さらにイノベーションや人材育成までを取り上げます。
今の組織で問題が起きたときに、何を直し、何を残し、どこに新しい仕組みを加えるべきかを判断するための視点を一緒に考えていきましょう。
官僚組織とは何か
官僚組織と聞くと、役所や行政機関を思い浮かべる人は多いのではないでしょうか。「官僚」という言葉から、国家公務員の組織を連想しやすいからです。
「官僚」という名称が生む誤解
組織論でいう官僚制は、行政機関に限った仕組みではありません。大企業、大学、病院など、多くの人が働く組織にも広く当てはまります。
もうひとつ、官僚組織にはネガティブな印象もあります。縦割り、前例主義、意思決定の遅さ、融通の利かなさといったイメージです。
縦割りや前例主義は、官僚制が行き過ぎたときに実際に起こり得ます。官僚制が持つ基本的な仕組みと、その行き過ぎによる弊害は分けて捉えたほうが実態を理解しやすくなります。
官僚組織が本来目指しているもの
本来の意味での「官僚組織」は、多くの人が関わる仕事を安定して動かすための仕組みです。
誰が何を担当するのかを決め、権限と責任を明確にし、仕事の手順をある程度そろえる。専門性に応じて役割を分け、重要な判断は適切な階層で行います。
役割や手順が明確だから、担当者が変わっても一定の品質を保ちやすくなります。判断のばらつきを抑え、責任の所在も明確になります。
企業が大きくなるほど、個人の経験やその場の判断だけで会社を動かすのは難しくなります。「官僚組織」は、大人数で複雑な仕事を分担しながら、会社として一つの方向に進むための仕組みだと捉えるとわかりやすいでしょう。
大きな組織だからこそ必要になる分業・階層・標準化
10 人ほどの会社なら、全員が集まって相談し、その場で決めることもできます。人数が 100 人、1,000 人と増えれば、同じやり方では調整に時間がかかります。
そこで役立つのが分業です。営業は営業、開発は開発、経理は経理というように専門領域を分ければ、それぞれの仕事に集中できます。
階層にも役割があります。すべての判断を経営トップが行うのは現実的ではありません。現場、課、部、事業、全社と見る範囲を分け、それぞれの階層に判断を委ねれば、大きな組織でも意思決定を分散できます。
標準化も同じです。何をするにも毎回ゼロから方法を考えるより、繰り返す仕事は手順をそろえたほうが速く、品質も安定します。
分業・階層・標準化は、組織が大きくなるにつれて増える複雑さを扱うための仕組みです。「ピラミッド型だから古い」と片づける前に、なぜピラミッドが生まれたのかまで目を向けたいところです。
安易な脱官僚化・組織改編をどう考えるか
官僚組織に問題が起きているからといって、すぐに組織構造まで変えるべきとは限りません。まず、今の組織のどこが機能していないのかを見極めます。
問題が起きたから組織を壊す、という飛躍
意思決定が遅ければ階層を減らし、縦割りが強ければ部門をなくし、新しいことが生まれなければフラットで自律的な組織へ変えるという発想はわかりやすいものです。ただ、問題の原因から解決策へ一足飛びに進むと、組織を変えたあとにも残る課題を見落とすことがあります。
大きな組織では、最終的に誰が決めるのか、部門間の利害を誰が調整するのか、限られた人員や予算をどこに配るのかという問題は残ります。
組織図から階層を減らしても、人と人の影響力の差まで消えるとは限りません。公式な権限が曖昧になると、声の大きい人や情報を多く持つ人が非公式に強い影響力を持つ場合もあります。
組織を壊す前に、「今の階層のどこがうまく機能していないのか」を見たほうが、問題の場所を捉えやすくなります。
「組織を変えれば問題が解決する」という幻想
経営上の問題が起きたとき、組織改編はわかりやすい打ち手です。新しい本部をつくったり、部門を統合したり、組織図を書き換えたりすれば、目に見える変化が生まれるため、会社を大きく変えた実感も得やすくなります。
ただ、組織図を変えただけで日々の仕事まで自動的に変わるわけではありません。
たとえば営業本部とマーケティング本部を統合して、新しい顧客戦略本部をつくったとします。旧営業のメンバーが以前と同じ営業目標だけを追い、旧マーケティングのメンバーも以前と同じ仕事を続け、意思決定権や評価指標まで同じなら、看板が変わっても仕事の進み方はあまり変わりません。
組織変更によって、報告関係や意思決定の単位、情報の流れを変えられます。組織構造が問題になっていると見極めたときに、組織改編は力を発揮します。
組織という箱より、役割・権限・責任を先に見直す
組織の問題を考えるときは、「組織を変えるか」と「人の役割を変えるか」を分けてみると整理しやすくなります。
現状維持を除けば、選択肢は大きく 3 つあります。
- 組織構造を変え、役割は大きく変えない
- 組織構造は維持し、役割・権限・人員配置を変える
- 組織構造と役割の両方を変える
組織改編の前に検討したいのが 2 つ目の選択肢です。
たとえば課長が現場業務に入りすぎているなら、課を分割する前に、課長が担う仕事を見直せます。現場作業の比率を下げ、組織全体の優先順位づけ、人材育成、他部門との調整に時間を使えるようにする。組織図を変えなくても、課の動きは変わります。
まず何がうまくいっていないのかを特定し、本来は誰が何を担うべきかを考える。権限や責任、評価、時間の使い方に問題があれば、そこから変えます。それでも今の組織構造が邪魔になるなら、組織改編に進みます。
官僚組織をどう健全に機能させるか
組織構造を変える前に、今の官僚組織が本来の役割分担で動いているかを確認してみます。
現場が安定して仕事を遂行する
本来的な意味での「官僚組織」がうまく動く土台は、現場が日々の仕事を安定して遂行できる状態です。
通常の業務や定型的な判断を現場で処理できれば、上司が一つひとつ細かく確認せずに済みます。問題が起きたときも、一定の範囲までは現場で解決できます。
現場でミスやトラブルが続くと、課長や部長が火消しに入る時間が増えます。管理職が担当者と同じ仕事を抱え始めると、組織全体を見る時間や、部門間の調整に使う時間が削られていきます。
ミドルが「ミドルにしかできない仕事」をする
課長や部長などのミドルマネジャーには、担当する組織全体を見る役割があります。
課長なら課、部長なら部について、目標や優先順位を決め、人員や予算を配分し、判断すべきことを引き取ります。
ミドルには、縦方向をつなぐ役割もあります。経営や上位組織の方針を、現場が動ける具体的な目標や仕事に落とし込みます。現場で起きていることをまとめ、上位の意思決定に使える情報として伝えます。
横方向では、現場だけでは調整しきれない他部門との利害や優先順位を調整し、組織の境界をまたぐ問題を前に進めます。
ミドルが現場の仕事に入り込みすぎると、組織全体を見る時間が減ります。現場が安定して働き、ミドルが組織全体を見る役割分担が機能すれば、ピラミッド型の階層にも意味が生まれます。
トップが会社全体を見る
トップマネジメントは、会社全体を見て経営の方向を決めます。
個別の案件や一つの部門に入り込まず、どの事業に資源を配分するか、どこに投資するか、どの事業から撤退するかといった経営判断に時間を使います。
現場の問題がミドルで処理できず、トップが日々の個別案件まで判断するようになると、経営に使える時間は減ります。組織図の上では階層が存在していても、実際の仕事は一段ずつ上に持ち上がっている状態です。
縦の階層と横の部門連携を機能させる
「官僚組織」は縦方向の役割分担をつくりやすい一方、横方向の連携は意識して動かしていくものです。
たとえば商品開発は、商品企画だけでは完結しません。研究開発、製造、マーケティング、営業、物流など、複数の部門が関わります。
各部門が専門性を高めて仕事を進めても、部門ごとの合理性と会社全体の最適な判断が一致しない場面があります。
現場同士で調整できることは現場で進め、部門をまたいで現場だけでは決められない問題はミドルが調整します。複数の事業にまたがる資源配分などはトップが引き取り、扱う問題の大きさに応じて横の連携を担う階層を分けます。
現在を回しながら、未来をどうつくるか
官僚組織が安定して動いていても、既存業務を回すだけでは将来の成長までは保証されません。探索と人材・組織能力の形成は、現在の運営とは異なる時間軸で捉えます。
探索・イノベーションに別の時間軸を持つ
新規事業や新しい商品を探す活動では、最初から正解がわかっているわけではありません。
初期には売上も利益も小さく、試した案が失敗することも多くあります。短期の成果だけで評価すれば、将来の可能性が見える前に活動が止まりかねません。
探索では、予算の持たせ方、意思決定の範囲、評価の期間を既存事業と分けます。安定運営の仕組みを残しながら、探索に合った仕組みを加えます。
トライ・エラー・ラーンを許容する仕組みをつくる
探索では、最初から高い打率を求めるのは難しいものです。仮説を立て、小さく試し、確かめ、学んだことを次の試みに反映するというサイクルを何度も回します。
ひとつの失敗で大きな損失を出さないよう、小さな単位で試せる状態をつくります。失敗したときに「なぜ失敗したか」「次に何を変えるか」が学びとして残れば、次の打席につながります。
初期段階では、売上や利益に加え、何を検証し、どんな事実がわかり、次に進む根拠がどこまで増えたかも評価します。
将来の人材・組織能力をどう育てるか
未来をつくるには、数年後を見据えて人材や能力も計画的に育てていきます。
今の仕事が得意な人を同じ仕事に置き続ければ、目の前の業務は効率よく進みます。一方で、次の役割を担える人や新しい仕事に対応できる人を増やすには、少し難しい仕事を任せる、他部門との仕事を経験させる、専門性を深めるといった経験を意図的につくります。
会社全体では、新しい商品をつくる力、顧客を深く理解する力、データを活用する力、複数部門をまたいで仕事を進める力など、将来の事業を支える能力を意識して蓄積していきます。
新しい事業の種を見つけても、それを商品化し、販売し、事業として大きくする力がなければ成長にはつながりません。採用、配置、育成、実務経験、知識の共有を重ねながら、人と組織の能力を育てていきます。
官僚組織は、その名称から役所的な組織だと誤解されやすく、行き過ぎによる弊害から否定的に捉えられることも多いです。本来の機能を取り戻し、探索や人材育成の仕組みを加えていけば、今も十分に有力な組織のあり方になり得ます。
まとめ
- 官僚組織は役所の組織だけを指すものではない。本来の意味は、大人数の仕事を分業・階層・標準化によって安定して動かす仕組み
- 組織で問題が起きたときは、すぐに脱官僚化や組織改編で解決しようとしないほうがいい。役割・権限・責任や今の階層のどこが機能していないのかを先に見る
- 「官僚組織」を健全に動かすには、現場・ミドル・トップがそれぞれの役割を担い、縦の階層と横の部門連携を機能させる
- 将来の成長に向けて、既存事業を安定して運営しながら、新しい事業や商品を試し、商品化・販売・事業化できる人材と組織を育てていく