#マーケティング #顧客起点 #本
今回ご紹介したい本が 「新聞記者がネット記事をバズらせるために考えたこと (斉藤友彦) 」 です。
300万 PV 超のヒット記事を生み出すまでの実践的な文章術が、この一冊にぎゅっと詰め込まれています。
本書の概要
著者は、共同通信社が配信するウェブ 「47NEWS」 でオンライン記事を作成し、これまで300万以上の PV (ページビュー) を数々叩き出してきました。
ベテランの新聞記者が、ウェブで記事を多くの人に読んでもらう方法をわかりやすく解説した本です。
ベテラン記者による文章のアンラーニング
著者は共同通信社の記者やデスクとして長年活躍した後、ウェブ媒体 「47NEWS」 で長文記事を手がけることになります。
新聞業界で培ってきた経験とスキルに自信を持っていたものの、ウェブの世界では全く通用しないという厳しい現実に直面します。「良い内容の記事なのになぜ読まれないのか?」 という根本的な問いから、著者の挑戦は始まります。
この本がユニークなのは、紙の新聞記事とネット記事の書き方の違いを、具体的な失敗談や成功事例とともに徹底的に分析している点です。
著者は、自分が信じてきた新聞記事の 「常識」 や 「成功法則」 が、スマホで記事を読む読者にとってはむしろ読みにくさを生んでいることに気づきます。例えば、記事の要点を最初の段落 (リード文) に持ってくる 「逆三角形型」 の文章構成。新聞紙面の制約から生まれたスタイルですが、ウェブでは読者にはとっつきにくさや読みにくさを生み、記事から離脱する原因になっていました。
本書は、読まれる文章を書くテクニック集にとどまりません。ネット時代にジャーナリズムがどう生き残るかまでを考察します。
一人の記者が自らのプライドや成功体験を捨て、読者のことを徹底的に考え抜くことにより、文章の 「アンラーニング (学び直し) 」 をする物語でもあります。
この本をマーケティング視点で読み解くと
本書で描かれている著者の試行錯誤のプロセスは、マーケティングの実践そのものです。
それまでの新聞記者としての経験や常識を一度リセットし、読者は誰なのか、どんな状況で、どのように記事に触れているのかを、身近な人たちへの n1 インタビュー (一人ひとりにじっくりとインタビューをする方法) から解き明かしていく。これはマーケティングの原点である 「顧客起点」 への転換です。
読み手の立場と状況を具体的に想像することで、新聞とデジタルでは読者の記事に対する 「モード (心理的な姿勢) 」 が全く違うことを痛感します。
新聞や雑誌の読者は、情報を得るために能動的に媒体を手に取ります。一方で、ネット記事の読者の多くは、暇つぶしでスマホを眺めているときに不意に出会うという受動的な状態です。
著者はこうした顧客理解にもとづき、読者ファーストを徹底的に追求していきました。顧客起点になり、少しずつウェブで読まれるコンテンツを生み出していく過程は、ビジネスパーソンにとって学びがあります。
顧客起点の文章とは
著者は、ヒットした記事を分析し、そこにはいくつかの共通点があることを見出しました。
新聞記事スタイルはネットには合わない
著者が自身の考えを180度変えるきっかけとなったのが、様々な世代の人たちに率直に行ったインタビューでした。
新聞記者を長く続けてきた自分がこれまで良いと信じて、疑うことすらしなかった新聞記事の文章形式、例えば記事の冒頭のリード文について、皆が異口同音に 「重すぎる」 と言いました。
これは Z 世代という若年層に限らず、中高年にも共通する印象でした。
「記事の最初にいきなり固有名詞や情報が大量にあるので、すっと頭の中に入らない。なんならもうこの時点で読みたくなくなる」 。この声に象徴されるように、効率的に情報を伝えるために磨かれてきた新聞の文章スタイルが、ネットの閲覧環境においては、かえって読者の読む気を削いでしまっていたわけです。
この気づきから、新聞スタイルを一度全てを否定するくらいの覚悟で書き方を見直すようになりました。
読者ファーストで書く
この本に書かれているのは、「読者が知りたがっていることは何かを突き詰め、そこに焦点を当てて取材し、内容をストーリー形式で書く」 ことの重要性です。
書き手が伝えたいことを一方的に詰め込むのではなく、読者の読む状況とモードに合わせて、興味関心を起点に文章を作るという顧客起点の考え方です。読者ニーズを起点に構成を組み立てれば、「伝わる記事」 になると。
本書が強調するのは 「読者を迷子にしないように、読者の手を取って文末まで導く」 という考え方です。デジタル読者は移り気で、少しでも分からないと感じたり、文章の流れを見失ったりすると、すぐに離脱してしまいます。
だから記事が 「読者に負担を与える形」 になっていないかどうかを注意深く見て、ストレスを感じさせないような文章構造や言い回しに変えていく必要があるのです。
読み手のモードの違いを理解する
デジタル読者の特徴を理解することが大切です。
新聞の読者は 「世の中に起きていることを、効率よく把握したい」 という能動的なモードで記事を読んでいます。
一方、デジタルの読者は 「暇つぶしにスマホをいじりながら、なんとなくタップした記事を、気軽に読み進めたい」 という受動的なモードです。
こうしたモードの違いを理解することが、読まれる記事づくりの第一歩になります。気軽な気持ちで記事に触れた読者を、いかに引き込み、最後まで読んでもらうか。そのための工夫が求められます。
ネットで読まれる文章の共通点とテクニック
では、具体的にどうすれば読まれる記事になるのでしょうか?
ネットで読まれる記事の5つの共通点
本書は、バズった記事文章には無味乾燥な 「説明文」 ではなく、読者が感情移入できる 「物語 (ストーリー) 」 がありました。
著者の分析から、ネットで読まれる文章は、おおむね次の5つの要素のいずれか、もしくは複数が含まれているとします。
- 共感や感動
- ストーリー性
- 最新ニュースとの関連性
- 記事タイトルとサムネイル画像・写真の結びつきの強さ
- コメントの盛り上がり
順番に補足します。
人は 「自分の経験や気持ちと重なる」 と感じると強く心を動かされます。
文章が単なる情報の羅列ではなく、読者の感情に触れるエピソードや言葉を含んでいると共感が広がります。感動の瞬間を描き込むことにより、読者は 「誰かの物語を追体験している」 という感覚になり、記事を最後まで読む姿勢になります。
説明ではなく物語にすること。著者は本書で何度もここを強調しています。
例えば事件や出来事を報じる場合でも、登場人物がどんな経緯でその場に至ったのかを描き、感情や場面を挟むと読者は記事に没入できます。
いくら良い記事でも、時流に乗らなければ広がりにくいものです。
著者は最新ニュースに関連する関連記事は人々の興味をひくと分析しています。いま世の中で注目されている出来事と結びつける切り口を持てば、記事の入口が一気に広がります。需要の波に乗るというアプローチです。
記事の入口となるのがタイトルと関連画像です。
この組み合わせが記事の魅力を直感的に伝えられるかどうかが、クリック率に直結します。著者は 「文字数は長くてもいい」 「タイトル内に本文から感情を動かす言葉を拾う」 といった工夫を重ねました。
タイトルとサムネイルを単独で考えるのではなく、読者の立場ではセットでどう見えるかを意識することが重要です。
これは記事にコメント欄があり、読者がコメントを書くことが自然になっているプラットフォームに限定される話ですが、記事が読まれ続けるかどうかは、コメント欄の熱量にも左右されます。
読者が感想を残し、ときには読者同士で議論を交わす。そこからさらに他の読者が流入する。記事自体が一つのコミュニティを作る状況になると、想像以上の広がりを生むことがあります。
記事は書いて終わりではなく、その後の読者との共創によって生き続けます。
書き方の工夫ポイント
本書が示している具体的な文章術をあらためてまとめます。
- 記事は説明文ではなく物語にする
- 出だしは場面描写から始める
- リード文の末尾に 「匂わせ」 を入れて続きを誘う
- 主人公を立てて感情を織り込む
- 出来事は時系列の順に書く
- 一文は短くテンポ良く
- 接続詞や指示語をあえて多めに入れ、流れを明確にする
- 読者に読む負担やストレスを与える省略表現はなるべく避ける
要は 「読者を迷子にしない」 「読者のモードや気持ちに寄り添う」 ということです。
ネットで文章を読む人は能動的にコンテンツを探すわけではなく、ふと出会った記事を読み始める傾向にあります。だからこそ、出だしで心をつかみ、最後まで違和感なく導く文章スタイルが適しています。
実践的なテクニックとして、特に印象的だったポイントは次の通りです。
1つ目は 「場面描写から始める」 です。
記事の出だしは、いきなり結論や抽象的な情報を書くのではなく、具体的なシーンの描写から入ります。読者が情景を思い浮かべて興味を引かれる導入を心がけるといいでしょう。
2つ目は 「リード末尾の匂わせ」 にあります。
導入部の最後には、本文を読み進めたくなる謎かけや予告という 「匂わせ」 を入れます。結論を最初に全部言わずに問いを残すことで、続きを読みたいという気持ちを誘発することを狙います。
3つ目のポイントは 「主人公を立てるストーリー化」 です。
記事の中に一人の主人公を設定して、その人物が感じたこと・考えたことを適宜盛り込みます。読者は主人公の感情に共感しやすくなり、物語に没入して読み進められるようになります。
4つ目は 「時系列で文章を構成する」 です。
未来や過去、現在などの時間を行き来せず、出来事を過去から現在へと時間の順に書きます。複雑な時系列の入れ替えは読者を混乱させて離脱を招きやすいからです。スマホでなんとなく記事を読む読者には、順序立てたストーリーが読みやすいのです。
5つ目に 「タイトルの工夫」 があります。
- 文字数は 50 ~ 60 字超と長くなっていい
- 書き手ファーストではなく読者ファーストで
- 記事のテーマが一目で分かるワードをタイトルの前のほうに入れる
- タイトル内に本文から読者の感情を動かす表現を使う
文章のタイトルはマーケティングにおける 「商品名とパッケージ」 のようなものです。
入口で消費者に興味を持ってもらえなければ、中身を見てもらうことはできません。記事のタイトルも同じです。
まとめ
今回は、書籍 「新聞記者がネット記事をバズらせるために考えたこと (斉藤友彦) 」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 顧客起点で読者モードを理解する。お客さんである読み手がどんな状況で、どんな心理状態で文章を読もうとしているかを徹底的に分析する。読者ファーストで文章を構成する
- 読者を迷わせない文章設計とする。結論を無理矢理に冒頭に詰め込みすぎない。出来事を時系列で追い、接続詞を適切に使うなど、読者の思考・読む負担を減らし、最後までスムーズに読み進められるように導く
- 説明文ではなくストーリーに。情報の羅列や論理的説明に偏りすぎず、ひとりの主人公を設定した物語として文章を構成する。登場人物の感情や体験を織り込み、読者が自分ごと化でき、共感し感情移入できる内容にする
- 導入で興味を引き継続を促す。リード部分の末尾に 「匂わせ」 や謎かけを入れて続きを読みたくなる仕掛けを作る。最初に結論を全て言わず、読者の興味を持続させる工夫を取り入れる
- タイトルの工夫。50字を超える長いタイトルでも良いので、読者ファーストでタイトルをつける。記事内容が一目で分かり、感情を動かす表現を本文から拾って盛り込むといい
28年のキャリアを持つベテラン記者が自分の常識を疑い、読者起点で読まれる文章術を確立していった過程は、マーケティングの観点でも実践的で学びの多い内容です。
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