2011/10/01

目から鱗だったエネルギーの本質

ここ最近読んだものに、「エネルギー論争の盲点―天然ガスと分散化が日本を救う」(石井彰 NHK出版新書)という本があります。この本の趣旨は、3.11の東日本大震災以降に見られる「原発vs再生可能エネルギー」という議論は不毛であり、今後のエネルギー供給の安定性と二酸化炭素削減を両立するのは天然ガスの活用と資源分散型のスマートエネルギーネットワークをいかに確立するか、というものです。

全体的に読み応えのある内容だったのですが、特におもしろかったのが「そもそもエネルギーとは何か」という根源的な部分の話でした。エネルギーが現代社会に果たしている役割や人類の歴史との関係など、エネルギーに関して本質的な論点が取り上げられており、ここがあらためて考えさせられる内容でした。目から鱗な話だったので、今回のエントリーでは本書で書かれていた内容を中心に書いています。

■現代社会とエネルギー

本書の内容は「なぜエネルギーが重要なのか」という問いから始まります。これに対して筆者は次のように説明します。エネルギー供給、特に安くて安定した大量のエネルギー供給がなければ私たちが暮らす現代文明は一日たりとも維持できない。

どういうことかと言うと、現代人の生活はあらゆるモノに囲まれていますが、これらを生産あるいは輸送のために膨大なエネルギーが使われています。ここでいうモノとは食品、衣服、家・建築物、紙、ガラス、化学・薬品、道路・鉄道、車・船舶などのありとあらゆるものですが、本書によると、日本の場合、モノの生産に全エネルギー消費の約半分が、輸送や配送も含めると全エネルギー消費の3分の2という量となるようです。

もう少し現代文明について考えてみます。現代文明の特徴として、都市部への人口集中と高度に組織化された産業システムの2つあると筆者は言います。都市部に人口が集中することで、例えば私たちが口にする食料を都市部だけでつくりまかなうことはほぼ不可能です。生活に必要な資源も同様です。だからどう対応しているかと言うと、都市の外部で食料が生産され、日々運ばれてきています。上下水道や道路網など私たちが当たり前に使っている社会システムを維持するためにもエネルギーが消費される。都市部への人口集中とそれを可能にするこうした高度な産業システムを支えているのがエネルギーなのです。私たちの生活は大量のエネルギーを消費することが前提で成り立っているわけです。

■人類の歴史とエネルギー

本書では、人類の歴史という観点からエネルギーの説明も書かれていました。筆者は文明化とはエネルギーの多消費化であり、かつエネルギー源の高効率化であると言います。

まずは多消費化から。人類史において、文明化の段階はいくつかありますが、大きくは農業開始、産業革命、現在の情報革命です(このあたりの話は「情報社会のいま ―あたらしい智民たちへ」という本がおもしろかったです)。エネルギー消費で見ると、農業社会に比べ産業革命により3~4倍に増加、さらに産業革命開始時と現在では、エネルギー消費は40倍に増えているのだそうです。(もちろん、この間に人口も増えているので当然社会全体でのエネルギー消費は増えるわけですが、一人当たりエネルギー消費で見ても4倍と増加している)

エネルギーの高効率化について。産業革命前はエネルギー源の主流は薪炭でした。それが、産業革命で石炭が使われるようになり、その後はより効率のよい石油というエネルギー源に移り変わります。本書では、エネルギーの効率さを比較するために「エネルギー算出/投入比率」という指標が用いられています。これは、1単位のエネルギーを取り出す(算出)のに、何単位のエネルギーが必要になるか(投入)という比率です。例えば産業革命以前の主流エネルギー源だった薪炭ではこの比率が2~3倍だったものが、石炭で40~50倍まで効率がよくなります。つまり、1単位の石炭があれば、40~50単位の石炭が取れるということです。これの比率が石油では中東などの巨大油田ではなんと100~200倍ともなるようです。2010年にメキシコ湾で石油会社BPが原油を海に流出させてしまう事故が起こりましたが、これは見方を変えればBPが流出を止めたくても、油田から自ら勝手に噴出してしまうくらいの算出効率の良さであるがために起こったものでした(という記述が本書にありあらためてその算出効率の良さを実感させてくれました)。ちなみに、太陽光のエネルギー算出/投下比率は10倍、風力は15倍程度と説明されています。

■ストックなエネルギーとフローなエネルギー

本書では、以上のようなそもそもエネルギーとは何かという話が、人類の歴史と絡めてあらためて説明されています。それを踏まえ、今後のエネルギー政策をどうするかという論点に移っていきます。このあたりを理解すると、「原発or再生可能エネルギー」という二元論では、私たちの社会を支えているエネルギーの全体像を捉えていないことに気づかされます。つまり考えるべきは原発でも再生可能エネルギーでもない化石エネルギー源の有効活用です。もちろん、長期的には化石エネルギーという過去の地球の資産とも言えるエネルギーの比率を下げ、再生可能なエネルギーでまかなっていくような姿が望ましいでしょう。ただ、現時点で再生可能エネルギーが主流になるのは非現実的であり、原発分の代替にもなり得ません。

現代文明は、前述のように高度に組織化され都市部に人口が集中するという社会システムで、維持するために大量の高効率なエネルギーを投入しています。主流なエネルギー源は石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料で、これは太古の昔から現在にわたって蓄積され濃縮された、いわば貯金のようなストック的なエネルギーです。これに対して水力、バイオ、太陽光・熱、風力などのエネルギーは毎月の収入のようなフローなエネルギーです。貯金に頼らず毎月の収入エネルギーだけで暮らしていた産業革命前と、毎月収入と貯金までも使って築き上げた現代社会。私たちが享受している生活は身分相応以上の贅沢な生活と言えます。しかしだからと言ってもはや産業革命以前の生活に戻れるわけはなく、であるが故に考えるべきは今の主流である化石エネルギーをいかに効率よく使うか(エネルギー供給側での省エネ)、安定的に供給が継続できるような発送電の仕組みのはずです(一方で環境に負荷をかけないという視点も必要)。本書を読むことで、そんなことをあらためて気づかされたように思います。






情報社会のいま ―あたらしい智民たちへ
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2011/09/17

やっぱりグーグル先生の考えることはすごい。Google ローカルショッピングという挑戦

グーグルが実店舗の商品の価格や在庫情報を検索できる「Googleローカルショッピング」の提供を開始したと発表しました(11/9/16)。

参考:Google ショッピングで実店舗の商品を検索|Google Japan Blog


Google ローカルショッピングとは


このサービス内容をもう少し見てみます。


(引用:ヨドバシやマツキヨの商品、1200店の価格をグーグルで在庫情報も|日本経済新聞(2011/9/16))

上図は日経新聞からの引用ですが、現時点ではヨドバシカメラやマツモトキヨシホールディングス、良品計画など流通大手7社と組み、全国の実際の店舗にある商品価格や在庫情報をネット上で見られるようになっています。

Google マップと連携することでその店がどこにあるかや、電話番号・店舗までのルートも表示します。

実店舗での販売商品だけでなく、ネット通販サイトでの価格・在庫情報もわかるので、ユーザーは実際の店舗からネット上の店舗まで商品情報を簡単に比較することができます。

Google ローカルショッピングは無料でユーザーに提供されています。そして、小売の参加料も無料のようなので、グーグルにとっては直接このサービスでお金を稼ぐという位置づけではないようです(ページ上の広告表示はありますが)。

ここにグーグルの哲学を見ることができます。

あくまで情報を集めてきて整理をし、それを使うユーザーを増やすという考え方。つまり、「世界中の情報を整理する」というミッションに沿って、マネタイズはユーザーを増やすことでそこに表示させる広告効果を高めることを通じて実現するというものです。

このローカルショッピングの特徴だと思うのが、店舗の商品価格や在庫情報を小売側から提供を受けている点です。

というのも、グーグルはどちらかというと情報は自分で集めてくる傾向があり、例えば、Web上の情報はクロールロボットを徘徊させることで、ストリートビューはカメラ付きの自動車を実際に走らせていますし、Googleブックスなんかも自分たちで書籍をスキャンしています。

このようにオンラインもオフラインの情報も自分たちの手で集めているのですが、ローカルショッピングにおいては小売から提供してもらっています。

グーグルは12年末までに参加企業を100社程度まで増やすとしているようですが、拡大するにあたり、「精度を重要視している。急速に拡大したいが、密にやりとりして、クオリティを担保できればやっていくという形でパートナーを増やす」(グーグル プロダクト マネージャーの鈴木宏輔氏)という方針のようです。

参考:実店舗の商品価格や在庫も検索できる「Google ローカルショッピング」|CNET Japan


参加する小売側の狙いは Online to Offline


この CNET の記事にはさらに、ヨドバシカメラ取締役副社長の藤沢和則氏の次のようなコメントがあり、小売側にとっても参加する意義があることがうかがえます。

店頭でスマートフォンを見て、ネット販売の価格と比較して帰ると言う方もいる。(Google)ローカルショッピングで『実際の店舗も安い』と分かってほしい。ネットのほうが実店舗より安いという“都市伝説”を崩していく。

O2O(Online to Offline)という言葉をよく見るようになりました。

意味は、オンライン上にある情報がオフラインでの購買行動に影響を与えるというようなことですが、イメージとしては、お店に買いに行く前に価格コムなどで口コミ情報の価格情報を見て、口コミ評価の高い商品を最安値のお店で買う感じです。

パソコンだけではなくスマートフォンなどのモバイルにも対応していることも考慮すると、Google ローカルショッピングはまさにO2Oを促すサービスです。

上記のヨドバシカメラのコメントも、Online to Offline につなげる内容だということに気づきます。

小売にとってローカルショッピングへの参加は無料とはいえ、グーグルへこれまでは(ネット上には)非公開だった情報を提供することになります。

もちろん、今後は自分たちの競合他社も同様に情報を提供することになる可能性があり、グーグルのサービス上で情報が透明化されることで間違いなく価格などの競争が激しくなるでしょう。ローカルショッピングはまさに小売とグーグルの二人三脚です。


Google の挑戦


Googleローカルショッピングでは商品が、どこに・いくらで・どれだけ売られているかの情報や店舗の地図や電話番号がGoogleマップ上に表示されます。

これをグーグルが整理した情報としてユーザー側に提供する、うまく循環すれば、ローカルショッピングを見たユーザーが店舗に足を運び購入し、次もローカルショッピングを使うという形が生まれます。

何か買う時はグーグル先生にちょっと聞いてみるという人が増え、使用頻度も上がること、そして参加企業も拡大し実店舗からというオフライン情報がさらに集まってくる、これがグーグルが描く当面のゴールイメージでしょう(このへんを KPI で目標設定しているのではと思います)。

あらためてローカルショッピングというサービスを通じてグーグルがやっていることを整理すると、これまでは自力ではなかなか取得できなかった実店舗からの情報を、小売から日々定期的に提供してもらえる仕組みが構築できたことになります。

ネット販売の情報であればオンライン上なので情報を集めやすいことに比べ、集めにくかったオフラインの情報が手に入る。それも小売からオフィシャルな形で。実店舗の情報がオンラインに取り込まれ、Google マップなどの既存のオンラインサービスと連携することで価値が生まれます。

当然ここに Google+ などのグーグルが持っているサービスともつながってくるのではないでしょうか。グーグルにとってはこのローカルショッピングは意味のある一歩だなと感じます。グーグルはまた1つオフラインの情報をオンラインに引き込もうとしているのかもしれません。


※参考情報

Google ショッピングで実店舗の商品を検索|Google Japan Blog
ヨドバシやマツキヨの商品、1200店の価格をグーグルで在庫情報も|日本経済新聞(2011/9/16)
実店舗の商品価格や在庫も検索できる「Google ローカルショッピング」|CNET Japan
ヨドバシやマツキヨなどの店頭在庫をググれる「Googleローカルショッピング」始動|Gigazine
Googleがローカルショッピングの検索機能を公開。近隣店舗の商品価格と在庫情報が調べられる|TechCrunch JAPAN

2011/09/04

スティーブ・ジョブズの死生観とシンプルへの追及


2011年8月24日、スティーブ・ジョブズがアップルCEOを退任することを明かしました。その内容はアップル全社員に宛てた短いメールに書かれていましたが、アップル社員だけではなく世界の人々にとってニュースとなりました。

■ Steve Jobs Stanford Commencement Speech 2005

アップルのCEOという立場から退いた今、あらためて考えさせられたのがこれでした。2005年に米国スタンフォード大学卒業式の祝賀式で卒業生に向けて行ったスピーチです。

Steve Jobs Stanford Commencement Speech 2005|YouTube
スティーブ・ジョブスの魂。STAY HUNGRY, STAY FOOLISH|ASSIOMA(日本語訳)

あらためてスピーチ内容を見ると、ジョブズの原点というか、生き方や考え方のベースになっている内容だと思いました。このスピーチは相当有名なのでご存知の方も多いと思いますが、内容を整理すると次のようなものです。

  • 起:点と点をつなぐ(バラバラの経験であっても将来それが何らかのかたちで繋がる)
  • 承:好きなことを仕事にする
  • 転:ジョブズの死生観
  • 結:卒業生へのメッセージ 「Stay hungry, stay foolish.」

■ ジョブズの死生観

このスピーチの中で最も強い印象に残ったのが、ジョブズの死生観でした。

ジョブズは17才の時、次の言葉を知り衝撃を受けたと言います。「来る日も来る日もこれが人生最後の日と思って生きるとしよう。そうすればいずれ必ず、間違いなくその通りになる日がくるだろう」。

その後、ジョブズは毎朝欠かさずに鏡の中の自分と対話をするようになります。「もし今日が自分の人生最後の日だとしたら、今日の予定は、本当に私のやりたいことだろうか?」と。この質問に対する答えが「No」という言う日が続くと、そろそろ何かを変える必要があると考えるのだそうです。

スピーチでは、すい臓ガンを患い発見した際には医師たちから余命が3-6ヵ月であると告げられたことも触れています。これをジョブズは「死の支度をしなさい」と受け取ります。

しかし、その後の診断で、この時のジョブズの腫瘍は極めて稀な形状で手術をすれば治せるものだったようで、無事に成功しています。

ジョブズの死への考え方が印象に残ったのは、「死は我々全員が共有する終着点」と捉えており、さらには「死はおそらく生が生んだ唯一無比の最高の発明品」としている点です。死によって、古きものを一掃して新しきものに道筋を作っていく働きのあるものと言います。

毎朝、今日という日を人生最後の日だと考える、つまり、自分が死と隣り合わせにあることを忘れずに思うこと。ジョブズはこれまで人生を左右する重大な選択を迫られた時には常に、決断を下す最も大きな助けになったとスピーチで語っています。

私自身も、ここまで確固たる死生観とはいかないものの、日常生活のちょっとしたタイミングで自分の死を意識することがあります。朝玄関を出た時に、ふと今日自分が死ぬともうこの家には帰ってこないと思ったりします。特にこれは東日本大震災の後はいつもよりも自分の死を意識する頻度であったりリアリティが強くなりました。

ただ、その後は仕事で忙しかったりするとかで自分の死が頭から離れていくこともあり、時々しか頭をよぎらなくなるのですが。ジョブズの言う、自分の死を意識することで人生の岐路に立った時に決断する手がかりになるということはわかる気がします。人生は一度きりというか、変な迷いがなくなり、そう思うことで吹っ切れます。

■ 本当に必要なこととシンプルさ

ジョブズに戻します。ジョブズは死を意識するとともに、今やっていることが「本当に自分のやりたいこと」かどうかを自問します。おそらく、アップルのCEOをやめる決断をしたことも、これと同じプロセスを踏んだのだと思います。

自分のやりたいこと・大切なことにフォーカスするということは、裏を返せば不要なことは除外するということになります。本当に必要なことだけを取り組む、あるいは残すという考え方は、突き詰めていけば「シンプルさ」にいきつきます。

今自分の手元には、ジョブズのつくり出したiPhoneとiPadがあります。

あらためて手に取り、その他のITや家電製品と比べるとその形状のシンプルさが際立ちます。iPadの正面にはホームボタンというたった1つのボタンがあるだけです。側面を合わせてもスリープボタンなどボタンやスイッチ部分は5つのみです。

本当に必要な機能に極限まで絞り込んだ結果だと思いますが、ここにジョブズの哲学を感じることができます。

徹底してシンプルを追及すること、それはつまり本当に必要なことだけを取り組む姿勢、その背後にはジョブズの死生観があります。ジョブズの功績は、複雑性が増す現代社会で「シンプル」なプロダクトとユーザー体験によって世界に驚きを与え続けたと言えるのではないでしょうか。


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 合同会社の代表 (会社概要はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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1981年 (昭和56年) 生まれ。名古屋出身、学生時代は京都。現在は東京23区内に在住。気分転換は毎朝の1時間のランニング。