2011/11/27

公式伝記「スティーブ・ジョブズ」から読み解くアップルのマーケティング哲学

Steve Jobs先週は1週間の休みを取り、ペルー旅行(メインはマチュピチュやナスカの地上絵)に行ってきました。ペルーは日本から見て地球の裏側に位置し、移動はさすがに長時間になりました。ペルーへ行くだけでも成田-LA-リマ(ペルー)と、乗り継ぎ時間も合わせると24時間を超えます。そんな長いフライト時間だったのであらためてゆっくり読めたのはスティーブジョブズの伝記でした。(スティーブ・ジョブズ Ⅰスティーブ・ジョブズ Ⅱ

■What creative people could do with the computers

ジョブズの生き方、人生観はすでに過去にエントリーしています。
あらためて考えさせられるスティーブ・ジョブズの死生観|思考の整理日記
スティーブ・ジョブズの死生観とシンプルへの追及|思考の整理日記

伝記を読みそれ以外で印象的だったのは、アップルがMac、iPod、iPhone、iPadなど世界を変えることになる製品を次々に世の中に送り込んだストーリーでした。私自身が新規事業開発のプロジェクトに参画していることもあり、開発経緯の話がおもしろかったです。本書で、特に印象的だったフレーズがあります。

It was designed to celebrate not what the computers could do, but what creative people could do with the computers.
焦点をあてるべきは、コンピュータになにができるかではなく、コンピュータを使ってクリエイティブな人々はなにができるか、だ。

(英文は原作より。訳は日本語版(Ⅱ)p.74より)
※ちなみに、原作は手元にないのですが、ペルーへの乗り継ぎ地点のLA空港の売店に原作本が売っており、せっかくなので上記の文章をお土産に帰ってきました

この表現はアップルの考え方をとてもよく表していると思います。普通であれば「コンピュータになにができるか」、つまり自分たちがつくったものの機能や特徴をユーザーに最大限アピールすることに注力します。しかし、アップルのやっていることはもう1歩踏み込んだところまで考え、実行しています。それが「コンピュータを使ってクリエイティブな人々はなにができるか」。すなわち、単に機能だけを伝えるだけではなく、どんな人たちが使うかを想定し、そのユーザーがどうやって手に取り、さらには利用シーンや使用目的までも考えるのです。だから、「コンピュータになにができるか」にとどまらず、「人々になにができるか」まで力を注ぐ。言い換えれば、アップルはユーザー体験にまで焦点を当てている。スティーブジョブズの伝記では、ジョブズが「ユーザーのことを考えるから、体験全体に責任を持ちたい」という言葉が紹介されています。おそらく、アップルではプロダクトの設計や開発段階からユーザー体験まで深く議論をしているのではないかと思います。

アップルがユーザー体験を重視する考え方は、例えばiPadのCMでもまさにその通りのメッセージを私たちに訴えています。iPadというデバイスが主役ではなく、あくまでユーザーがiPadを使って何ができるかを伝えようとしているように思います。

iPad2 CM 日本版 2 Apple|YouTube

■アップルのエコシステムとユーザー体験

音楽プレイヤーのiPodの開発でもユーザー体験を重視する姿勢が描かれていました。iPodをリリースする前、ジョブズたちは既存の音楽プレイヤーが複雑でとても使いにくと思っていました。もっとシンプルに、もっと使いやすく。そして結論はPCの中にあるiTunesをハブとし、iPodを同期させることでした。iPodはあくまで衛星的な存在であり、曲のプレイリスト作成などの機能をiTunesのみで可能とし、iPodには同期させるだけ。iPodでできることをあえて制限したのです。ジョブズはこの形を「複雑な部分をあるべき場所に移ってゆけた」と表現します。

PCを「デジタルハブ」とするビジョンをジョブズが描いたのは2001年でした。音楽プレイヤーだけではなく、その後のiPhoneやiPadもPCと同期させるという関係性をつくります。PCを中心としたエコシステムであり、とてもうまくコントロールされているのです。

ところがジョブズ自らがこのエコシステムを壊していくことになります。デジタルハブと置いたPCを他のデバイス同様のレベルに降格させ、替わりにデジタルハブとして位置付けたのがクラウドでした。伝記にはクラウドをハブとする構想は2008年ごろに抱いていたことが書かれ、そして2011年6月のWWDC(世界開発者会議)の講演で新しいサービスであるiCloudとして発表されます。2000年代がPCであり、次の2010年代はクラウドがハブとなるのでしょう。アップルのデジタルハブという戦略はぶれることはありませんが、技術や時代に合わせてPCからクラウドに自らで移行しているのです。それもこれも、より使い勝手のよいサービスにしたいという思いから。ハブをクラウドにするという変化の底にはユーザー体験があるのです。

■「全てが一体となって機能する」というアップルのコンセプト

とはいえ、ハブをPCからiCouldにするという変化はまだまだ移行期にあると感じます。iOS5へのアップデート後に実際にiCloudを使っていますが、アプリの取り込みやバックアップの実行は依然としてPC経由でもやっています。今のところハブはPCとクラウドの2つが併存している。この状況はジョブズの言う「抜群の使い勝手」にはもう一歩という感じです。

iPhone、iPadなどのアップルの製品を使っていて感じるのは、「全てが一体となって機能する」使いやすさです。PCに入っているiTunesを中心にしていた世界では、同期させるのは手動でつなげる必要がありました。これがデジタルハブという中心が完全にiCloudになる時、気づけば全てが一体となっているはずです。勝手に同期してくれる分、人々は「なにができるか」に集中できます。「コンピュータになにができるか」ではなく、「人々になにができるか」。これからのアップルにもこの姿勢を期待したいです。


※参考情報

あらためて考えさせられるスティーブ・ジョブズの死生観|思考の整理日記
スティーブ・ジョブズの死生観とシンプルへの追及|思考の整理日記
iPad2 CM 日本版 2 Apple|YouTube
iCloudで携帯電話以来の大変化が起こる...それは未来のコンピューティング|ギズモード・ジャパン

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2011/11/19

Google+でプロダクト全体最適を進めるグーグル

Googleと言えばネットで何かを検索する時には当たり前のように使いますが、それ以外のサービスも色々と利用していることに気づきます。仕事とプライベートのスケジュール管理にはGoogleカレンダーは外せないですし、他にもGmail、Google Reader、Googleドキュメント、などと挙げていくと1つのアカウントで様々なグーグルサービスを活用しています。

■ここ最近のGoogleの動き

ちょっと前になりますが、これら多くのグーグルサービスがデザイン変更をしました。デザインだけの変更であれば新しいデザインも使っていればそのうちに慣れるものの、機能が変わってしまいそれが自分にとって使いづらくなってしまうと前のデザイン(機能)のほうがよかったのに、なんて思ってしまいます。ここは無料で使っているので文句はあまり言えず、一定のデザイン変更期間(新旧両方が使える)が終われば、強制的に新デザインに移行されます。

もう1つ、最近のグーグル関連の大きなニュースとしては、Google Musicのリリースがあります。

Google Music is open for business|Official Google Blog

これまではβ版だった音楽サービスの正式リリースで、主な特徴は、所有している曲は2万曲まではクラウド上に無料保存可能、Android MarketというiTunes Storeのようなマーケットから購入でき、1曲は0.99~1.29ドルで100円以内で買えるイメージです。購入対象曲は現在は800万曲、近々1300万曲まで増えるとのこと。曲のファイルはMP3の320kbps。

印象的だったのは、大手レーベル3社とインディーズレーベル1000社がパートナーになっている、Google+との連携で共有しやすい仕組み、それとオフライン状況でもデバイス保存分は聞くことができること。あとはアーティストとの連携強化も。日本への展開時期は未定のようです。Google Musicにより、グーグルは音楽サービスでもiTunesやAmazon Cloud Playerとぶつかることになります。

他に話題になっていたのは、Google+で企業ページの「Google+ Page」のリリースもありました。

Google+ Pages: connect with all the things you care about|Official Google Blog

リリース段階の時点で、トヨタやユニクロ、ペプシなど、20以上の企業ページが開設されたようです。これはFacebookページと似ていますが、Google+ Pageの特徴はグーグルの強みである検索と強力な連動させている点にあります。Direct Connectという機能の追加がそれで、グーグルで検索でをする際に、企業名やブランド名の前に「+」を付けて検索すると、その企業のGoogle+ Pageをサークルに入れることを推奨するページが表示できるようになりました。

■Google+統合という全体最適化

ここまで、最近のグーグルの動きとして、各種サービスのデザイン変更、Google Music、Google+ Pageを見てきましたが、これら共通していることがあります。それは、全てでGoogle+との連携がされていること。

デザイン変更ではGoogle+のそれと同じイメージになり、Google MusicではGoogle+への共有機能も追加されています。これらの意味することは様々なグーグル提供サービスがGoogle+が軸となる統合で、この動きがGoogle+がリリースされてから一気に動き出していると感じます。

Google+に関して、グーグル幹部のNikesh Arora氏(chief business officer)がある公聴会で印象的な発言をしていました。

Google+, for us, is not a social network, It is a platform which allows us to bring social elements into all the services and products that we offer. So you have seen YouTube come into Google+; you’ve seen Google+ with ‘direct connect’ go into our search business. We are trying to make sure we use social signals across all of our products... It’s not just about getting people together on one site and calling it a social network.”

我々はGoogle+は「ソーシャルネットワーク」とは位置づけていない。Googleが提供する全サービスにソーシャルの要素をもたらすプラットフォームである(YouTubeとGoogle+の連携や、グーグル検索におけるGoogle+のDirect Connectなど)。我々は、人々を一つの場所に集めそれをソーシャルネットワークと呼ぶのではなく、ソーシャルの信号をGoogleの全製品にわたって使えるようにしようとしている。

Google+ 'is not a social network'|Telegraph

すなわち、Google+を使ったあらゆるサービスの連携・統合であり、要するにグーグルは何をしているかというと、Google+をベースにしたグーグルのあらゆるサービスの全体最適化だと思いました。実はこれまでのグーグルの各サービスは、それぞれがバラバラにつくられ提供されていたと思います。これまでのグーグルの特徴をよく表していて、ほんと自由にやっている印象でした。そういう意味では各サービスごとの部分最適がされていて、Googleラボを覗けば新しいサービスが次々にベータリリースされていました。実はこのGoogleラボもGoogle+のリリース後にクローズされています。

More wood behind fewer arrows|Official Google Blog
やっぱり気になる「Google Labs」の閉鎖|ZDNet Japan

Google+への統合と合わせてと考えると、これまでのグーグルが発散型でサービス開発・リリースをしてきたのに対し、Google+のリリースを境に「選択と集中」に舵を切っているのです。

■Googleの方針転換でどう変わるのか

グーグルのこうした動きはとても興味深いものです。Googleが生まれ変わろうとしていると言っても過言ではないように感じます。とはいえ、現時点ではこの方針転換は始まったばかりで、Google+への統合と言ってもユーザーにとっての目に見える変化はGoogle+に簡単に共有できるような仕組みがあることや、デザインがGoogle+のように次々に変わっていることくらいです。

ただ、ユーザーの見えないところではおそらく確実に動き出しているのでしょう。例えばデザインの変更を見ても、ただ単に見た目だけをGoogle+にしただけでは当然ないでしょうし、その裏にある設計思想というか、どうすればGoogle+と連携し統合できるか、それはグーグルにとって、またユーザーにとってどういうメリットがあるのか、等々がGoogle+を軸にした横断的な検討・開発がされているのではないでしょうか。

グーグルというのは、図のような無料でサービスを提供する代わりに、膨大なユーザーデータを取得し、それをさらなるサービスの利便性向上や、ユーザーデータをグーグルの主要ビジネスモデルであるネット広告事業に活かしている。この集まってくる膨大なデータ活用がグーグルの本質的な部分であり、であればここ最近のGoogle+への統合もより一層のユーザーデータ取得のためだと思います。それがひいては広告事業での売上および利益増加につなげたいということ。



あるいは、もしかしたらネット広告事業への収益依存を変えていくのかもしれません。これはちょっと考えてみたのですが、まだ自分の中でどういう具体的な戦略が考えられるかが見えていなくて、広告収入ではなくユーザーから直接課金するのか、ユーザーは個人なのか企業なのか。課金モデルは具体的には何かなど、もう少しグーグルの動きを見ていけばわかってくるかもしれません。

いずれにせよ、方向転換をしつつあるグーグルは気になりますし、その中心に位置しているGoogle+がどうなっていくのかにも興味があります。


※参考情報

Google Music is open for business|Official Google Blog
More wood behind fewer arrows|Official Google Blog
Google+ 'is not a social network'|Telegraph
Google+ Pages: connect with all the things you care about|Official Google Blog
やっぱり気になる「Google Labs」の閉鎖|ZDNet Japan
Google Labsの閉鎖は、Googleによるイノベーションの歩みを止めるのか?|TechCrunch Japan


2011/11/06

失敗を評価する4つの視点


Free Image on Pixabay


失敗学を提唱する畑村洋太郎氏の著書が、回復力 - 失敗からの復活 です。



この本には、人は誰でも失敗をしてしまうこと、だからこそ大切なのはそこからどう失敗を捉え、考え、行動するかが書かれています。


失敗を評価する4つの視点


本書で印象的だったのは、著者が紹介する失敗を評価するための4つの視点でした。

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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 合同会社の代表 (会社概要はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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1981年 (昭和56年) 生まれ。名古屋出身、学生時代は京都。現在は東京23区内に在住。気分転換は毎朝の1時間のランニング。