2017/07/17

書評: 働かないアリに意義がある (長谷川英祐)


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今回のエントリーは蟻についてです。働かないアリに意義がある という本をご紹介します。



本書の内容


以下は内容紹介からの引用です。

働き者として知られる働きアリだが、実はその7割はいつも休んでいて、1割は一生働かない!だがこの事実にこそ、組織存続への秘密が隠されているのだという。これを発見した生物学者が著した、新感覚の生物学。

この本では、アリの他にも蜂などの生態系から昆虫社会の意外な特徴が紹介されています。昆虫と人間社会との共通点や違いが、わかりやすく書かれています。

なぜ働かないアリがいるのか?


なぜ、一部のアリは働かないのでしょうか。単純に考えれば、働かないアリはいないほうが集団全体でより多くの仕事ができるように思います。

アリたちの答えは逆です。全員が一斉に働くのではなく、あえて非効率を保っています。理由はバッファーを持っておくためです。

人間の会社で例えると、働かないアリがいない状態とは、日常業務で全メンバーがフル稼働している状況です。これ以上は仕事が増えなければよいですが、もし突発的な急ぎの仕事が入ると逼迫し、組織がまわらなくなります。

働かないメンバーがいれば、急な案件が入ってきても対応ができます。バッファーを持ち、余力がある状態です。

働くアリと働かないアリの違い


本書を読んで興味深いと思ったのは、働かないアリと働くアリの違いです。

なぜ差が出るのかは、各アリがそれぞれ持っている 「反応閾値」 にあります。

反応閾値とは、行動を起こすのに必要な最低限の刺激量です。ある一定の刺激量を超えれば行動に移せますが、しきい値を超えなければ反応しません。

例えば、あるアリは反応閾値が50、別のアリは100だとします。人間が落としたクッキーのかけらを巣に運ぶという仕事の刺激量が70だとすると、この仕事をするのは反応閾値が50のアリです。後者の100のアリは、刺激量が70しかなく自分の閾値を超えないので働きません。

反応閾値は 「腰の軽さ」 です。反応閾値が低いアリは腰が軽く、すぐに行動することができます。

興味深いのは、よく働くアリだけを集めてきても、結局その集団の中には働かないアリが一定数存在してしまうことでした。

反応閾値はアリ同士の相対的なもので、よく働くアリだけを集めても、それぞれが持っている反応閾値には差があります。ある刺激に対して行動するアリとしないアリに分かれ、一定数は働かないようです。

働かないアリを人間社会に当てはめてみると


働かないアリの話は人間社会に示唆があります。

1つ目は、先ほども書いたように普段から組織内には余力を持っておくことです。常に 100% のリソースを投入するのではなく、緊急事態の逼迫した状況になっても対応できるようにしておくことです。

2つ目は、組織内の多様性です。

各部署からエースだけを集めてきた組織よりも、あらかじめメンバー間で仕事ができるかできないかに差があったほうがチームとしては実はいいのではないかという示唆です。

もちろん、ワザとサボるメンバーがいるとよいわけではありませんが、メンバーそれぞれが異なる強みや経験を持っている多様性のある組織です。

個人への示唆


働かないアリは、個人のあり方にもヒントがあります。働かないアリの話からの示唆を整理すると、次の3つです。

  1. 余力やバッファーを持っておく
  2. 個性や多様性がある
  3. 短期的には非効率でも長期では合理的かどうかを考える

この3つを個人レベルに当てはめてみます。

  1. 余力やバッファーを持っておく:常に目いっぱいの状態よりも、余裕を持って行動する。余力を持っておけば急なことにも対応できる
  2. 個性や多様性がある:自分は人と違っていてよい。自分の興味があることに取り組むことは、たとえすぐに役に立たなくても自分自身に多様性を持っておく観点から望ましいと考える
  3. 短期的には非効率でも長期では合理的かどうかを考える:今やっていることが必ずしも合理的でなくても、後から考えると役に立つことがある (点と点がつながる)

最後に


本書で書かれていた働かないアリは興味深く読めました。

アリたちは集団をつくり自分たちの社会を形成しています。働かないアリという個性が、集団では余力になり、非常時には活躍できる役割を果たします。

冒頭の内容紹介で引用したように、7割のアリはいつも休んでいて、1割は一生働かないということは、普段は3割だけでまわっている社会です。どんなに逼迫した事態でも、9割のアリたちで支えられる社会だと言えます。

普段はなかなか目を向けない地面や巣の中で、興味深い社会の仕組みがあるのです。



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多田 翼 (書いた人)