投稿日 2015/07/15

書評: 日本はなぜ、「基地」 と 「原発」 を止められないのか (矢部宏治)




日本はなぜ、「基地」 と 「原発」 を止められないのか という本を興味深く読みました。大きな全体像の中で、戦後から現在における日本の根本 (国体) の実態が浮き彫りにされていたからです。


敗戦後の日本の扱いは、壮大な戦後構想の一部だった


本書には、第二次世界大戦の敗戦国である日本を、戦勝国である連合国がどのように位置づけたかが書かれています。日本は、アングロアメリカンの戦後秩序構想から描かれた壮大なグランドデザインの一部にすぎなかったと指摘されています。


驚いたのは、ポツダム宣言・日本国憲法・日米安保条約や日米地位協定も、1941年8月14日 (日本がポツダム宣言を受諾するちょうど4年前) に英米間で調印された大西洋憲章の内容を引き継いだものになっていることでした。

つまり、第二次世界大戦の最中から直後において 「大西洋憲章 → 連合国憲章 (国連憲章) 」 ができ、その延長でポツダム宣言や日本国憲法がつくられたという位置づけです。

つまり、大きな全体像として、以下のような流れなのです。

大西洋憲章 → 連合国憲章 (国連憲章) → ポツダム宣言 → 日本国憲法 →日米安保条約 → 日米地位協定


今なお続く、日本は潜在的敵国とみなす敵国条項


日本は、今なお潜在的敵国と見なされていると本書に書かれています。連合国であったアメリカやイギリスなどの現在の常任理事国や世界の多数の国々からは、日本への 「敵国条項」 が除外されていないのです。

アメリカが日本をどう見ているかというと、「同盟国 & 属国」 というよりも、より本質的には 「同盟国 & 潜在的敵国」 と著者は言います。

在日米軍が持つ役割は二面的であると指摘します。

  •  (憲法9条を持つがゆえに) 軍事的空白地帯の日本の防衛
  • 日本の過去の侵略政策の再現を防ぐため

前者はよく言われることですが、後者は今も日本を潜在的に敵国になる可能性があるので、それを防ぐ目的で日本国内に米軍を展開しているという見方です。


米軍基地や原発は憲法よりも上の存在


タイトルにあるように、本書の論点は、日本はなぜ基地と原発を止められないのかです。

この問いに対して本書で提示されたのは、国の最高法規である日本国憲法よりも、米軍基地や原発に関する安全保障問題は上位にあることでした。

歴史的な経緯は次の通りです。

1959年の砂川裁判で、本来は国の最高判断基準となる日本国憲法よりも上位に、安保を中心としたアメリカとの条約群が位置づけられたからです。

なぜなら、日米地位協定などの日本の国家レベルの安全保障問題は最高裁は憲法判断をしないという判決だったからです。これが意味することは、憲法よりも上位になったものは、法的コントロールが及ばず、実行者を罰することができないということです。この状況が今なお続いています。

原発は安全保障問題ということで、在日米軍問題 (沖縄や本土の基地) だけではなく、原発も憲法よりも上位に含まれてしまったと本書には書かれています。

日本国憲法で謳われている基本的な人権を侵害していようが、その憲法よりも上位法に基づく米軍基地や原発は、止めることができないのです。


 「天皇 + 米軍」 という戦後日本の支配体制


もう1つ、興味深い内容だったのは、戦後の日本の対米従属路線をつくったのは、昭和天皇とその側近グループであったとの記述です。

日本の天皇制と米軍が結びつき、戦後日本の国家権力構造がつくられたという指摘でした。戦後日本は、昭和天皇を平和と民主主義のシンボルとする 「日米合作の新国家」 として再起を図ったとのことでした。

歴史的経緯のなかで、米軍駐留を希望したのは日本人自身であり、そこには昭和天皇とその側近の意向が大きく影響していたと書かれています。今も続く異常な米軍の法的権力の本質的な原因は、米軍駐留を日本側から、何より昭和天皇が日本の支配層の総意としてアメリカに要請したことだと述べられています。


 「在日米軍基地」 「憲法9条第2項」 「国連憲章の敵国条項」 の3つを同時に解決を


著者の主張は、「在日米軍基地」 「憲法九条 (特に第二項) 」 「国連憲章の敵国条項」 の3つが密接にリンクしているため、同時に解決する必要があるということです。

また、憲法をどう変えても、その上位法として存在する日米安保法系との上下関係を修正しないかぎり、憲法は事実上機能しないと言います。違憲と訴えても憲法を超える存在なので、最高裁は 「憲法判断をしない」 、つまり罰することができない構図だからです。


最後に


本書は読んでいると、強い虚無感に覆われます。日本の根本にある問題はあまりにも深いからです。読み進めるのが嫌になったのは一度や二度ではありませんでした。

それでいて、次々にくる驚きから最後まで読まずにはいられませんでした。一人でも多くの日本人に読んでほしいと思う本です。



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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。