#マーケティング #トレードマーケティング #バイヤーインサイト
お店での売場の活性化は、売上を左右する最後のカギを握ります。
家庭用ジャム製品を展開するアヲハタが仕掛けた、お店での 「鉄カゴ山盛りコーナージャック」 は、地味だったジャム売場を一変させました。
今回は、アヲハタの事例をケーススタディとして、そこから学べる 「トレードマーケティング」 について解説します。
アヲハタの営業変革
アヲハタは、家庭用ジャム市場で約3割のシェアを占める企業です。
背景
アヲハタの置かれた状況は、これまでのジャム売場はパン売場の近くの棚に並んでいることが多く、ともすると地味な存在に映るというものです。来店客が進んで手に取るような派手さやワクワク感はなかったのが現状でした。
また、日本のジャム市場はパン需要との連動が強く、春のパン需要が落ち着くと夏場はジャムの売上も減少するという傾向がありました。アヲハタはこうした時期にも売場全体を盛り上げたいという課題感を強く抱えていました。
そこでアヲハタは、自社ジャム 「アヲハタ55」 の55周年というタイミングに合わせ、今まではやっていなかった販促に舵を切りました。ジャム売場のマンネリ化を打破し、季節を問わずジャムの魅力を伝えたいという思いからです。
営業戦略
アヲハタが打ち出したのは、従来のジャムの味や機能性を推すというアプローチではなく、カラフルな色彩による視覚的な訴求の強化でした。ジャムは色合いが美しい商品です。アヲハタは、色映えによって消費者の目を引く施策に振り切りました。
戦略の大枠の方針を決めたのが、アヲハタ営業本部の営業推進部です。ジャム市場をもっとアクティブに盛り上げるのは業界トップの責任でもあるという強い意思がありました。
営業推進部は、小売店のバイヤー向けに 「鉄カゴ山盛りコーナージャック」 というインパクトあるジャムの陳列作戦を提案。全国の営業担当者が各地の店舗へ導入を働きかけたのです。
具体的な取り組みと成果
ジャムを山盛りに置きコーナーをジャックするという陳列は、店内の目立つ場所であるエンド棚に、色別にジャムをたっぷり盛った鉄製のカゴを上下左右に配置するやり方です。
真っ赤なイチゴ、オレンジ色が鮮やかなママレード、青紫色のブルーベリーなど、ジャムの陳列棚に、新しいフレーバーを含めた多彩なラインアップを用意しました。
カゴ単位で整然と山盛りにすることで、まるで宝石箱のようなカラフルな空間を演出。店頭照明でガラス瓶がきらきらと映え、購買者の目を引きます。鉄カゴコーナーを設置した店舗では、売場全体が明るい雰囲気になりました。
来店客の購買意欲を高めるだけでなく、ジャムの売場を盛り上げたいと思っていたバイヤーたちにも刺さったことでしょう。
当初は500店舗程度での導入を目標にしていたものが、最終的には約1000店まで広がる反響を得ました (参考情報) 。
鉄カゴ山盛りコーナージャックで年間を通じてジャムを活用してもらう仕掛けづくりが進み、アヲハタにとっても小売店にも新たな可能性を開いた施策でした。
アヲハタの事例から学べること
アヲハタの取り組みには、トレードマーケティングに学びがあります。小売やショッパーの視点を起点にした売場づくりの重要性です。
では後半のパートでは、トレードマーケティングの概念と、トレードマーケティングの実践方法について詳しく見ていきましょう。
トレードマーケティングとは
トレードマーケティングは、メーカーが流通業 (小売業や卸売業) と来店客 (購買客やショッパー) のニーズを捉え、店頭起点で売上拡大を図るマーケティングのことです。
スーパーやドラッグストアなどのお店の売場において、
- 配荷: どこの店舗にどれだけ置くか
- 棚割り: 棚のどの場所にどれだけの数量を置くか
- 価格: 標準価格やプロモーション価格の設定
- 店頭販促: POP, クーポン配布, 試食など
こうした各要素で最適化していくことにより、自社商品の 「お店での買いやすさ (フィジカルアベイラビリティ) 」 を高めます。
バイヤーの思考とカテゴリー課題
トレードマーケティングで重要なのは、小売のバイヤーのものの見方と思考を理解することです。
小売店でメーカーからの商品の仕入れを担当するバイヤーは、「メーカーごとの各商品の売上」 でなく 「担当カテゴリー全体の客数や客単価」 の向上を考えています。視野が広いわけです。
もし、あるブランドや商品が単独で売れても、売れた分だけそのカテゴリーの中で他の価格の高い商品の売れ行きが悪くなってしまえば、カテゴリー全体の売上は下がります。これでは、カテゴリー全体の売上に責任を持っているバイヤーは評価されないわけです。
ジャムの場合なら 「需要の落ち込む夏場にいかに客数を維持できるか」 や 「付加価値を見せて客単価を上げられないか」 といった視点がバイヤーの中で大切な論点です。アヲハタがリニューアルのタイミングで打ち出した 「夏場でも使いやすい個食タイプ」 や 「季節に合わせたフレーバー」 などは、カテゴリー全体を成長させバイヤーの課題感やニーズに沿った施策でした。
このように、メーカーがトレードマーケティングを進める上で、カテゴリー全体の成長を意識したプランを示すことが重要です。バイヤーの 「売りたいか」 という気持ちにしっかりと応えられます。
トレードマーケティングで重要なインサイトの発掘
トレードマーケティングの要は、バイヤーとショッパーの 「インサイト」 を見極めることです。ここで言うインサイトとは、購買行動における無意識レベルの判断軸を指します。
店頭施策の場合は、来店客のショッパーインサイトだけではなく、小売のバイヤーインサイトの両方に刺さるかが成功を左右します。
- ショッパーインサイト: 来店客が店内で 「これと欲しい」 と感じるその商品を選ぶ理由
- バイヤーインサイト: バイヤーが 「この商品を積極的に売りたい」 や 「カテゴリー全体の売上を伸ばしたい」 と思う決め手
ショッパーインサイトとバイヤーインサイトの双方を的確にとらえることが重要です。
通常のマーケティングでは、消費者心理を捉え、奥にある消費者インサイトを発掘することに注力します。トレードマーケティングでは、消費者インサイトに加え、バイヤーのインサイトも大事です。
バイヤーの思考は、大きく 「売りたいか」 と 「売れるのか」 のふたつがあります。
- 売りたいか: バイヤー自身が抱える問題意識、カテゴリー課題への対処、売場活性化の期待に合致し、バイヤーが 「売りたい」 と思えるか [バイヤーインサイト]
- 売れるのか: 実際にショッパーが買ってくれる要素があること。商品力やショッパーが買いたくなることを示唆するデータ、説得力ある企画などがあることで、バイヤーは 「これなら売れる」 と思えるか [ショッパーインサイト]
アヲハタがジャムの陳列で展開した 「鉄カゴ山盛りコーナージャック」 は、"売りたいか" と "売れるのか" の2軸を意識しています。
地味なジャム売場を変えて、売場全体を盛り上げバイヤーの "売りたい" を満たせます。そして、ジャムの瓶の美しさや色彩にこだわった陳列が来店客の目を引き、思わず買いたくなるというショッパー視点の "売れる" も叶えます。
アヲハタはこうしたインサイトをくすぐったからこそ、ジャムで商品コーナーをジャックするという陳列方法の1000店舗規模という導入実績につながったのです。
まとめ
今回は、アヲハタの営業の事例を取り上げ、トレードマーケティングの観点で学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- トレードマーケティングとは、メーカーが流通業 (小売や卸) とショッパー (来店購買者) のニーズを捉え、店頭起点で売上拡大を図るマーケティング
- バイヤーの意思決定は 「売場活性化やカテゴリー成長につながるか (売りたいか) 」 と 「ショッパーが実際に購入する要因があるか(売れるのか)」 のふたつで決まる
- バイヤーインサイトとショッパーインサイトの両方を捉えることが大事。バイヤーがこの商品を売場に置きたいと思える提案をし、ショッパーが思わず手に取りたくなる仕掛けをつくる
- 配荷・棚割り・価格・店頭販促を最適化し、消費者が店舗で商品を見つけやすく・買いやすくする。お店でのフィジカルアベイラビリティ (買いやすさ) を最大化する
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