#マーケティング #テストマーケティング #勝ちパターン
今回はドン・キホーテ (ドンキ) が行っている、「狼煙マーケティング」 というユニークな手法をご紹介します。
リテールメディアは、店頭販促やデジタル広告を行うことがメインでしたが、ドンキはその枠にとどまらず、ブランディングや話題づくりまでを一貫して行う仕組みを構築してきました。
では、その中で狼煙マーケティングが、どのように実践されているのでしょうか?ドンキから得られるマーケティングへのヒント、ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
ドンキの 「狼煙マーケティング」
ドンキの 「狼煙マーケティング」 とは、売れる・売れないを最もシビアに検証できる店頭で小さくテストを行い、そこでつかんだ勝ちパターンをマーケティング全体に広げるという手法です。
店頭で 「勝ちパターン」 をつくる
テストマーケティングと呼ばれる手法は以前から存在しますが、ドンキは消費者が実際に商品を手に取る現場であるお店の買い場を 「企画の起点」 に据えている点が特徴です。
ドンキの店頭での企画が成功し、十分な手応えが得られた状態をドンキでは 「狼煙を上げる」 と表現します。このコンセプトはウケる、この組み合わせなら売上アップが期待できるといった勝ちパターンが実証されたら、そこから一気に広告戦略や販促計画に反映し、さらなる認知拡大を目指すというアプローチです。
ドンキでは、この一連の仕組みを 「狼煙マーケティング」 と呼んでいます。
ドンキが実践できる理由
なぜドンキは店頭発のマーケティングを実践できるのでしょうか?
ドンキでは、お店のいたるところに手書きの POP や大胆な陳列など、店全体がエンターテインメントの空間のようになっています。
こうしたドンキならではの店内になっていることにより、ドンキでしかできない買い場体験が生まれます。ドンキを訪れる消費者は 「ワクワクする買い物体験」 や 「お宝探しのような買い物」 を楽しみにしています。
このような心理状態やモードになっている来店客は、新商品にもアンテナが自然と張られ、欲しい・欲しくないの反応が出やすいのでしょう。売れる・売れないをシビアに検証する店頭でのテストとなる狼煙マーケティングにつながるわけです。
また、1,600万人を超えるドンキのアプリ 「majica (マジカ) 」 の購買データを活用できるのも、狼煙マーケティングを実践できる理由です。
majica のデータを使って分析すれば、どの年代のどんな顧客層がどのような商品を買っているのか、一緒に買われる商品には何が多いのかといった切り口で詳細に把握できます。
店頭での販売経験とデータによる知見の両方があるからこそ、「こういう企画がウケるのではないか」 という仮説からテスト実施までをすみやかに行えます。
狼煙マーケティングの事例
では、狼煙マーケティングの実例を見てみましょう。
カバヤ食品 「タフグミ」 とサントリー 「ゾーンエナジー」 のコラボ企画です (参考記事) 。
きっかけ
タフグミは 「硬い食感で集中力を高めたいときに食べたいグミ」 というコンセプトのもと、柔らかい一般的なグミとは一線を画すグミです。
カバヤ食品にとっては 「まだタフグミを食べたことのない消費者にどうやって新しいお客さんになってもらうか」 という新規顧客の獲得が課題でした。
この課題を受け、ドンキがまず行ったのは SNS や購買データの分析でした。そこで見えてきたのが、タフグミとエナジードリンクの併売率が高いという買われ方でした。SNS 上でも 「タフグミを噛みながらエナジードリンクを飲むと目が冴える」 などの声が見られました。
それをヒントに、カバヤ食品 「タフグミ」 とサントリー 「ゾーンエナジー」 のコラボ棚をつくりました。
小規模からテスト
ドンキは最初から全国規模でドンキ全店に展開するのではなく、10店舗限定という小規模から狼煙マーケティングを始めました。
タフグミとゾーンエナジーを並べて陳列し、手書き POP や売り場装飾を工夫。来店客へ 「一緒に買うとおもしろいかも」 とアピールしました。テスト期間中はドンキの公式 SNS でも 「硬いグミ × エナジードリンク」 の組み合わせを話題化し、拡散を狙いました。
得られた成果
テストの結果、タフグミの売上は施策前に比べ 77% の増加を記録しました。コラボ相手のゾーンエナジーの売上も好調で、2つの双方が新たな顧客獲得に成功した形です。
カバヤ食品からは 「小売の売場を使ったテストマーケティングで、実際に売上がどう変化するかを検証できた」 、「メーカー同士のコラボが実現し、新たな座組みができた」 との評価が寄せられました。
タフグミとエナジードリンクのコラボ事例は、ドンキの売場を起点とした狼煙マーケティングの成功例です。
狼煙マーケティングを成功させるためのポイント
狼煙マーケティングは 「ドンキだからこそできる (うちにはできない) 」 と思われるかもしれませんが、他の小売や、異なる業態の飲食店、EC サイトでも応用できます。
狼煙マーケティングのポイントを整理してみましょう。
データ活用と仮説設計
ドンキでは、購買データの履歴や SNS の分析によって 「何が、いつ、どの客層に売れているか」 を把握しています。
テスト施策の前にデータからの仮説にもとづいて、各企画に合った棚作りや宣伝のアイデアをつくり出しています。データ活用では、自社会員カード、アプリ、EC の購入データなどがあればそれを分析し、仮説を立て、仮説を検証するという明確な意図のもとでテスト企画に進めます。
店頭のエンタメ化
実際のお店というリアルな顧客接点を最大限に活用するためには、売り場での見せ方が重要です。
ドンキが得意とする手書き POP 、大胆な陳列、期間限定の売り場装飾といったエンタメ演出は、商品への興味を刺激し、SNS 映えを狙った投稿も誘発してくれます。今までのやり方を急には変えられないかもしれませんが、テストという枠内であれば店頭風景をエンタメ化するという手が使えます。
ドンキの店頭実現も私たちが学べるポイントです。
オンラインとの連動
店頭で火がついた企画が SNS や Web メディアで広がると、さらに話題になるという好循環が生まれます。
狼煙型マーケティングを成功させるためには、企業の公式 SNS の発信でも消費者から見て 「おもしろそう」 とか 「買ってみたい」 と思わせる工夫が欠かせません。店頭というオフラインと、SNS などのオンラインをいかに有機的につなげるかで狼煙の拡散範囲も変わってきます。
リアル店舗がない EC 販売でも、オンライン上でテストキャンペーンを展開し、SNS でユーザーの反応を見極めることは十分可能です。オフラインの企画イベントや期間限定のポップアップストア出店と組み合わせてもいいでしょう。
小ロット・小規模テストで始める
最初から大々的に展開するよりも、期間を限定したり、実施する店舗も一部にするなどの形で小さく始めるのもポイントです。テストなので、うまくいくこともあれば想定通りに消費者の心に刺さらないことも決して珍しくありません。
たとえ失敗しても許容できる範囲とする意味でも、小さく早く始めるという方針が狼煙マーケティングでは有効です。テストできる店頭スペースや販売チャネルを確保し、やってみた結果をもとにすばやく打ち手を修正していくアプローチをとります。
成果を共有しすばやく横展開
小規模テストで成果が見られたら、今度は規模を拡大していく流れを組みます。テスト段階で成功パターンが見えたら、いち早く他店舗や他商品にも横展開できる組織体制と実行力が問われます。
ドンキでは商品部や企画部、さらにマーケティング部門が連携しながら情報を共有し、結果をスピーディーに次の企画へ活かしています。
部署や部門間の連携体制を整え、どのタイミングで横展開を決め着手するのかをあらかじめ見込み、可能ならルール化までしておくと、スピード感のある展開が実現しやすいです。
まとめ
今回は、ドンキの狼煙マーケティングを取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ドンキ流の 「狼煙マーケティング」 とは、店頭での新商品やプロモーションを小規模テストで実施、消費者の反応を検証し、成功パターンを特定したら広告戦略や販促計画に横展開する手法
- 狼煙マーケティングを成功させるポイントは、購買データや SNS での分析をもとに、売れる可能性が高い組み合わせや企画の仮説を立ててテストを行う
- また、手書き POP や買場演出による店頭のエンタメ化と、SNS や Web でのオンラインと連動させて拡散を促進する
- 小規模なテストとスピーディーな横展開がカギ。最初は限定店舗や短期間で実施し、成功したら他店舗や関連商品へ速やかに展開する
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