投稿日 2026/02/12

小型スーパー 「まいばすけっと」 に学ぶ戦略の要諦。「やらないこと」 の決め方と 「戦う場所」 の見極め方

#マーケティング #戦略 #戦場

多くのビジネスが陥りがちなのが、戦略と称して 「やることリスト」 を増やすだけの足し算の発想です。

しかし、本当の戦略には何をやらないかが明確になっている 「引き算の思考」 があります。

今回は、都市部で急成長する小型スーパー 「まいばすけっと」 を題材に、戦略の本質を解き明かします。

小型スーパー 「まいばすけっと」 


出典: 日経

まいばすけっとは、イオングループが展開する都市型の小型スーパーマーケットです。

特徴は、コンビニとほぼ同じくらいの店舗面積 (約50坪) に、スーパーマーケットとしての機能を凝縮している点にあります。生鮮食品を含む約3,300品目を揃え、価格はコンビニより3 ~ 4割安く、コンビニのサイズ規模のスーパーといった感じです。

まいばすけっとは 「近くにあると便利」 をコンセプトに、徒歩や自転車で気軽に立ち寄れる立地に出店しています。昨今の物価高の中でも力強い成長を続け、今や首都圏で1200店舗を超える規模にまで拡大しました。

* * *

では、小型スーパー 「まいばすけっと」 の事例から学べることを掘り下げていきましょう。

まいばすけっとからは、戦略の観点で学びが得られます。

戦略とは


戦略とは、目的を達成するための 「やること」 と 「やらないこと」 の決めごとです。

戦略の本質

もう少しだけビジネス的な表現にするなら、戦略とは目的達成のリソース配分の方針です。リソースとは人・物・金です。個人でも同じで、何に時間やエネルギーを使うかです。

目的達成への 「やること」 と 「やらないこと」 において、戦略の肝は後者の 「やらないこと」 にあります。何をやらないかが明確だからこそ、残ったやることにリソースを注力できるわけです。この意味において、戦略をつくるのは 「やらないこと」 を明確にするためと言ってもいいくらいです。

戦略としてやることを 「あれもこれも」 と考えうる全てのことに手を出すのは、戦略的ではありません。戦略の要諦は意志を持って何を捨てるかだからです。

戦略では 「あれもこれも」 ではなく、「あれかこれか」 という A or B です。算数で表現すれば足し算でやることを積み上げるのではなく、引き算の発想をします。

まいばすけっとの戦略

まいばすけっとの戦略には、徹底的に 「やらないこと」 を明確にしたことが見て取れます。

まず店内調理は一切やりません。多くのスーパーやコンビニが惣菜やパンを店内で作って差別化を図る中、まいばすけっとはこれを完全に捨てました。

特売やチラシも手を出していません。スーパーの常識である 「今日は肉の日」 「火曜市」 といった集客手法をとらず、毎日同じ価格で勝負します。

クリスマスケーキやおせちといった季節商品も扱っていないのも、まいばすけっとの特徴です。年間を通じて同じ商品構成を貫きます。コンビニが当たり前に提供する宅配便の受付、公共料金の支払い、チケット発券などもやらず、レジ業務をシンプルに保っています。

興味深いのは 「繁盛店」 を目指さないという姿勢です。通常の小売業なら各店舗の売上最大化を目指しますが、まいばすけっとは全店を 「平均店」 にすることを選びました。店舗ごとの裁量や品揃えの多様化は認めず、どの店も同じ運営を徹底しているのです。

まいばすけっとは、これらの 「やらないこと」 を意志を持って決めたからこそ、限られたリソースを本当に必要なことに集中できるわけです。

都市部での生活者が最低限で必要とする生鮮品と日配品を、EDLP (Everyday Low Price) で提供し、品出しと清掃というシンプルで標準化されたオペレーションを、わずか 2 ~ 3 人で回す。こうした徹底した引き算の発想により、コンビニ並みの店舗面積でも営業利益率 2.9% という、スーパー業界平均の2倍以上の収益性を実現しているのです (参考情報) 。

戦力と戦い方が活きるのは 「戦場」 次第


ビジネスで重要なのは、「どこで戦うか」 という戦場の見極めです。

 「どうやって戦うか」 の前に 「どこで戦うか」 という戦う場所を定めることが大事です。

戦いの前提となる 「戦場」 の選択と理解

戦い方という方法論の前に、前提としてどういった環境や状況に身を置いているのかという戦場の特性を理解することが大事です。

戦い方は、それを取り巻く環境や状況という戦場によって変わります。自分たちがいるのはどのようなビジネス環境なのかという 「戦場」 の特性、持っている 「戦力」 を把握することが先決なのです。

 「どこで」 「誰に」 「何を」 「どうやって」 という、戦場、戦略、戦術、そして実行まで整合性を持たせることが大切です。

自社の強みを活かせる戦場を選択することで、大きな企業ではない小さな企業や商品が生き残り、成長する道を見つけることができるのです。

まいばすけっとの戦場の選択

まいばすけっとは 「スーパーマーケット」 や 「コンビニエンスストア」 という既存の巨大な戦場で真っ向勝負を挑みませんでした。

まいばすけっとが見出したのは、首都圏の都市部に存在する 「スーパー空白地帯」 という戦場です。

大型スーパーが出店するには土地がなく賃料も高すぎる。コンビニはあるけれど生鮮食品が買えない。そんな場所が東京23区には意外なほど存在します。

ちなみに東京23区の車保有率は5人に1人以下くらいです。生活圏での買い物は徒歩か自転車が基本になります。近くに生鮮食品を買える店がないと買い物難民になってしまうわけで、まいばすけっとはこの構造的な問題に着目し、狭小立地でも成立するスーパーという新しいポジションを取りに行きました。

既に強いブランドが確立された市場で戦うのではなく、「近所で生鮮食品が買える小型店と言えば、まいばすけっと」 というイメージを目指したわけです。

戦場の次は 「戦力」 の把握


戦場の後に戦力がきます。

戦場を理解した後で次に考えるべきは自身の戦力、すなわち、持っているスキルや利用可能なリソースのことです。

戦場によって活かせる戦力は変わり、逆に言えば自分 (たち) の戦力を理解し、戦力をどの戦場で活かすかを考えることが重要だということです。

まいばすけっとの戦力

まいばすけっとは自社の戦力を冷静に分析し、最大限に活かす戦略を取りました。

戦力は傘下のイオングループが持つ日本最大級の調達・物流インフラです。全国13,000店舗のスケールメリットを活かし、小規模な店舗でも生鮮品を安定的に低コストで供給できます。コンビニチェーンには真似できない独自資源です。

生鮮三品の調達ノウハウや鮮度管理の仕組みは、長年スーパーマーケットを運営してきたからこそ持てる強みでした。

注目したいのは、イオンが首都圏で弱かったことが、まいばすけっとには功を奏したことです。イオンは東京でのスーパー事業もコンビニ事業 (ミニストップ) も競合他社に比べて手薄でした。通常なら弱みとされるこの状況が、既存事業とのカニバリを恐れることなく、新業態へのリソース配分を可能にしたと考えられます。

もしですが、東京で既に100店舗の規模のスーパーを持っていたら、その近くに小型店を出すことは躊躇したでしょう。しかし、持っていないからこそ、思い切った展開ができたわけです。弱みを強みに転換する逆転の発想です。

戦場と戦力があっての 「戦い方」 


戦場の特性と自らの戦力を理解した上で、戦い方を決めることが大事です。

狭小立地という戦場とイオンの調達力という戦力を組み合わせ、まいばすけっとは独自の戦い方を編み出しました。

全店舗で品揃え・価格・オペレーションを完全に統一することにより、どの店でも同じ買い物体験を来店客に提供できます。

研修コストを最小化し、2020年に導入したスポットワークシステムでは、従業員がアプリで近隣店舗のシフトを確認し、どの店でも2時間から働ける仕組みを実現しました。人手不足の時代に、1200店舗のネットワークを活かした解決策です。

また、セルフレジを積極導入し、業務を品出しと清掃に絞ることで、平常時は2人、繁忙時でも3人という驚異的な少人数運営を可能にしました。宅配はウーバーに任せ、商品の袋詰や決済も店員はノータッチです。

このような 「戦い方」 で、まいばすけっとはコンビニ並みの店舗面積で日販66万円を2 ~ 3人で回すという生産性を実現しています。

首都圏のスーパー空白地帯で、車を持たない消費者に、生鮮食品を含む生活必需品を、徹底したローコストオペレーションで提供する。戦場の選択から戦力の活用、そして戦い方までが噛み合った事例です。

まとめ


今回は、小型スーパーの 「まいばすけっと」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 戦略とは、目的達成のための 「やること」 と 「やらないこと」 の決めごと。リソース (人, 物, 金) を配分する方針となるもの

  • 戦略の大事なのは 「やらないこと」 を明確にすること。やることを 「あれもこれも」 と全てに手を出すのではなく、意志を持って何を捨てるかを決める。足し算ではなく引き算の発想

  • 意志を持って 「やらないこと」 を定めることで、初めて限られたリソースをやるべきことに集中させることができる

  •  「戦場」 を決めることが戦略の前提。どう戦うかという方法論より先に、どこで戦うかを定めることで、顧客への価値の出し方が決まる

  • 戦場の特性と自社の戦力を適合させる。選んだ戦場の環境 (競合状況や顧客ニーズ) を理解し、自社が持つスキルや資源などの事業資産を棚卸し 「どこで・誰に・何を・どうやって」 を一貫させる。戦力は戦場によって活き方が変わる

  • 戦力に合った戦い方を設計する。戦場の特性と自社の戦力を理解した上で、最適な戦い方を決定する。自社の強みが最大化される場所で戦えば、限られたリソースでも勝ち筋が見えてくる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。