#マーケティング #両利きの経営 #PDCAとOODA
変化の激しい時代において、企業が成長を続けるためには、既存の延長の効率化や改善だけでなく、不確実な新しい領域への挑戦も欠かせません。
計画が立てやすい既存事業には 「PDCA サイクル」 を、不確実性の高い新規事業には 「OODA ループ」 を――。この使い分けによって、企業は短期の安定収益と長期の成長機会を同時につかむことができます。
両利きの経営
企業が成長し続けるには、今ある事業を磨き上げるだけでは足りません。同時に、未来への種も蒔き続けることが大事です。
深化と探索
両利きの経営とは、既存事業の改善・効率化を追求する 「深化」 と、新規事業・新市場の創出を目指す 「探索」 という、性質の異なる 2 つの活動を並行して行う経営アプローチです。
一般的に企業は、既に成果が出ている深化に偏る傾向にあります。
今までやってきたことの延長なので続けやすいからです。しかし外部環境の変化に対応し、未来の成長を実現するためには、不確実性の高い探索も継続して行う必要があります。
両利きの経営を実践するカギは、深化と探索という異なる活動に対して、それぞれ最適なマネジメントサイクルを適用することです。
深化は PDCA をまわす
両利きの経営における 「深化」 は、既存事業における生産性向上、コスト削減、品質改善など、既にある知識や技術を深く掘り下げる活動です。
既存事業では、すでに確立されたビジネスモデルやプロセスが存在し、過去の実績やデータが蓄積されているため、計画が相対的に立てやすいという特徴があります。
前提条件が比較的安定しているため、精度の高い計画を立て、計画に沿って改善を積み重ねる PDCA サイクルが効果を発揮します。
PDCA サイクル
PDCA とは Plan (計画)、Do (実行)、Check (評価)、Act (改善) の 4 つのステップを繰り返すマネジメント手法です。
深化では PDCA を徹底的にまわすことで、既存事業の競争優位性を高め、安定した収益を生み出す土台が強化されます。
探索は OODA を使う
両利きの経営のもう片方の 「探索」 は、新たな顧客ニーズの発見、革新的な技術の開発、未開拓市場への進出など、不確実性が高く試行錯誤を要する活動です。
探索の活動では、顧客ニーズが不明確で市場も未成熟、参考にできる過去データがほとんど存在しません。状況が刻々と変化し、当初の前提が崩れることもあります。
未来の予測が難しく、計画を緻密に立てることが困難な環境では、現場での観察を重視し、状況に応じて柔軟に方向転換できる OODA ループが有効です。
OODA ループ
OODA とは Observe (観察)、Orient (方向性の見定め)、Decide (意思決定)、Act (行動) の 4 つの段階から成り立っています。
観察から得られた情報をもとに状況を判断し、すみやかに意思決定を行い、行動に移す。実行によって起こる事象を再び観察してループを回すことにより、不確実な環境下でも前進し続けることができます。
ビジネスケースへの当てはめ
ここまでの抽象的な話だけでは、具体的なイメージが湧きにくいかもしれません。そこで架空の老舗菓子メーカー 「サクサク堂」 を例に当てはめて見ていきましょう。
定番商品の改善と PDCA
サクサク堂の定番商品の 「サクサククッキー」 は、売上の柱であり、既存顧客からの信頼も厚い商品です。
サクサク堂は目指す品質水準として、製造ラインの不良品率を 1% 削減し、包装コストを 3% 削減する目標を立てました。
PDCA の計画では、過去の製造データを分析し、不良品発生率の高い時間帯や工程を特定します。実行において、職人による焼き加減の微調整マニュアルを更新し、新しい包装機をテスト導入しました。
評価では、導入後 1 ヶ月間の不良品率と包装コストを測定し、計画との達成度を評価します。改善について、効果が出た場合はそのマニュアルや機械設定を全工場に標準化しました。
PDCA を徹底することによって、サクサク堂は主力商品の安定供給と収益性の向上を確実に進められます。それにより、探索活動のための安定した資金源の確保にもつながります。
新商品の開発と OODA
サクサク堂は、未来の成長の柱を築くための探索として、糖質オフかつ食物繊維が豊富なクッキーの開発チームを立ち上げました。
サクサク堂にとってこれまで挑戦したことがない試みだったので、まずはクッキーのカテゴリーを超えて世の中の実態を把握することから始めました。
ここに OODA ループの 4 つの要素を取り入れました。観察では、他のお菓子カテゴリーや食品の糖質オフ商品の売れ行き、健康食品専門店の顧客動向、栄養士やダイエット層の SNS での意見などの情報を収集します。
観察から見出した新商品開発の方向性として、単に糖質オフなだけでなく、体の特に腸に良い食物繊維も豊富に取れるというベネフィット (便益) も加えることにしました。
開発への意思決定では、まずは 3 種類の異なる試作サンプルを制作し、自社 EC サイトで先行してお客さんに無料モニターとして提供することにしました。行動では、試作品の作成とモニター募集、食べてみての感想などのフィードバックの収集をすみやかに実行します。
モニターから食物繊維のザラザラした食感が、サクサク堂のクッキーに期待していたことと違うというフィードバックが多数寄せられたので、クッキーの原材料の配合や製法を調整して再試作します。
このように OODA を速く回すことで、お客さんの反応に合わせて製品コンセプトを実現する製法を柔軟に修正しながら探索活動を進めることができます。
両利きの経営を実践する5つのポイント
両利きの経営は理論として理解できても、実践するのは簡単ではありません。
そこで、引き続きサクサク堂の話に当てはめて、両利きの経営の実践ための 5 つのポイントを見ていきましょう。
深化と探索に明確な目的と戦略がある
1 つ目は、深化と探索それぞれに異なる役割と目標を設定することです。
深化である定番商品の位置づけは、既存顧客への安定的な価値提供と事業の収益性・効率性の最大化です。一方の探索活動となる糖質オフ・食物繊維クッキーの開発目的は、健康志向の消費者を新たに開拓し、将来の成長ドライバーを確立することにあります。
経営層からの特に探索事業への理解と支援がある
2 つ目の両利きの経営の実践ポイントは、探索への理解と支援です。
探索事業は成功が保証されず、また相対的に長い期間での取り組みになるのが普通なので、初期段階で赤字となることもあります。
サクサク堂の経営層は、新商品を開発する探索チームに対して求めたのは売上ではなく、試作をつくりお客さんからのフィードバックを得たかという、OODA ループをどれだけまわしたかで評価します。試作の失敗を学習するというトライ & ラーンを奨励し、失敗を責めない雰囲気をつくり、OODA ループを恐れずに高速で回せる環境を整えました。
探索には既存事業の資産を活かす
新しいことに取り組む探索といっても、探索活動をゼロから始めるのではなく、既存の資産を最大限に活用することが有効です。
サクサク堂は、糖質をカットし食物繊維を豊富に含む今までになかったクッキーを開発するにあたって、長年培ってきたクッキーをサクサクに焼く技術や味の調整ノウハウを応用しました。
また、既存の卸売ネットワーク、老舗お菓子メーカーとしての安心・信頼のブランドイメージも活用する方針です。
深化と探索で緩やかな連携を図る
両利きの経営では、深化を担う組織と探索を進める組織は、組織体制上は分離させつつも、必要な情報共有や人材交流を行う緩やかな連携が大事です。
サクサク堂のような老舗メーカーでは、深化のチームにいるベテラン職人を探索チームの技術アドバイザーとして参加してもらったり、探索チームが得た消費者理解や洞察を既存商品の改善を行う深化のチームと共有をします。
緩やかな連携を維持することで、深化と探索の相互理解にもつながります。
共通のアイデンティティを持たせる
そして 5 つ目の両利きの経営の実践ポイントは、共通するアイデンティティがあることです。
深化と探索のメンバーは別々の質的に異なる目標を追いますが、会社や組織全体としてひとつのビジョンと価値基準でつながっていることが重要です。
サクサク堂の会社としてのビジョンは、「健康的で美味しい洋菓子を食べる人々の生活が豊かになっている社会」 です。こうした世界観を実現したいと思い、長年にわたって形づくられた企業文化が、深化と探索という異なる活動を行う組織間の対立を防ぎ、共通の目標に向かって協力できる土台となります。
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サクサク堂は、深化を PDCA で定番商品の収益性を安定させ、探索を OODA で新商品開発という未来の種を育てます。
深化の持つ資産やノウハウ、生み出す利益が探索の試行錯誤を支え、探索で得た知見が深化の活動にもフィードバックされるという好循環が期待できます。
両利きの経営において、PDCA と OODA という性質の異なる 2 つのマネジメントサイクルを使い分けることで、既存事業の競争力の強化と新規事業による成長領域の開拓を両立させ、持続的な企業成長を実現していくのです。
まとめ
今回は、両利きの経営を取り上げ、実践するためのポイントを考えました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 両利きの経営では 「深化」 と 「探索」 という性質の異なる活動に対して、それぞれ最適なマネジメントサイクルを適用する
- 深化では 「PDCA サイクル」 を活用し、既存事業の効率化、品質向上、収益基盤の強化を図る
- 探索では 「OODA ループ」 を取り入れ、不確実性の高い領域で素早く観察し、判断と意思決定、行動を繰り返して新たな機会を見極める
- 深化と探索での目的をそれぞれ明確にする。2 つの組織体制を分離しつつも、緩やかに連携し資産や知見を相互に活用する
- 両方の活動を共通のビジョンのもとで推進し、短期の安定と長期の成長を両立させ、持続的な競争優位を実現していく

