#マーケティング #顧客理解 #選ばれる理由

なぜお客さんは、あなたの商品を選んでくれるのでしょうか。

機能が優れているから?価格が手頃だから?もしその答えが、会議室で考えた理由と全く違うとしたら――。

ザ・ノース・フェイスが、10 人のお客さんの声から見つけた本当の選ばれる理由は、お客さんの中にありました。

今回は、ザ・ノース・フェイスの事例から、ひとりの顧客を掘り下げる n1 マーケティングの本質を考えます。

ザ・ノース・フェイス

出典: THE NORTH FACE

北壁を意味するロゴが印象的なザ・ノース・フェイス。

ザ・ノース・フェイスは、ここ数年、順調に業績を伸ばしています。

ザ・ノース・フェイスを展開するゴールドウィンは、ザ・ノース・フェイスの直営店を起点に、アウトドアから街着へと領域を拡大してきました。2025 年 3 月期の売上高は、輸入販売の開始以来、初めて 1000 億円を突破しました。ザ・ノース・フェイスはキャンプや登山だけでなく、日常生活でも人気を集め、アウトドアを超えた顧客層の支持を獲得しています。

好調な一方で、ザ・ノース・フェイスは製品の機能や品質に自信を持つがゆえの課題を抱えていました。プロダクトアウトの意識が強く、店舗でお客さんの声に接していても、会社全体でそれを活用できる仕組みが不十分だったのです (参考情報) 。

顧客の声を全社的に活かすという課題に対処するために、ゴールドウィンが着手したのが n1 マーケティングでした。ひとりのお客さんを深く見つめることから始めた取り組みは、マーケティングとブランドの本質を教えてくれます。

マーケティングの本質

あらためてマーケティングとは何でしょうか?

マーケティングとは 「お客さんから選ばれる理由をつくる活動全般」 です。活動全般と言っているように、マーケティングを広く捉えています。

お客さんに選ばれるとは、商品を買ってもらえる、使ってもらえる、来店してくれる、指名されることです。こうしたことへの 「選ばれる理由」 をつくり、商品やサービスがお客さんから選ばれ続けることによって、商品は生き残っていけます。ひいては自分たちのビジネスも存続できます。

お客さんから自分たちが選ばれるのを偶然に頼るのではなく、ビジネスの文脈では自社商品やサービスが意図的に選ばれる確率を高めるのがマーケティングの役割です。

マーケティングの出発点は、常にお客さんです。

 「誰に」 価値を届けたいのか、そしてそのお客さんは 「なぜ」 他の商品ではなく自社の商品を選んでくれるのか (あるいは、選んでくれないのか) 。お客さんの立場に立って、深く、そして具体的に理解することが求められます。

選ぶという行為の主体者はお客さんです。誰に、なぜ選ばれるのかを解像度高く理解することが重要になります。

ザ・ノース・フェイスの n1 マーケティング

ゴールドウィンが直面していたのは、もともとプロダクトアウトへの意識が強い状況でした。自分たちが信じる良いモノを作れば売れるはずだという作り手の論理です。

しかしゴールドウィンはそこから一歩踏み出し、お客さんはなぜ数あるブランドの中からザ・ノース・フェイスを選んでくれるのかという顧客起点の問いに向き合い始めたのです。

n1 マーケティングは、この選ばれる理由を感覚に頼るのではなく、意図的に、そして解像度高く理解するための活動でした。

顧客理解の解像度を上げた 3 つのステップ

ゴールドウィンは 3 つのプロセスを通じて、「誰が」 「なぜ」 を具体的にしていきました。

[Step 1] データから顧客像の輪郭を描く

1 つ目のステップは、データから顧客像の輪郭を描くことです。

お客さんの購買履歴のデータ分析から、お客さんの中でも自社商品に多くのお金や複数の商品を買ってくれるロイヤル顧客の具体的な人物像が浮かび上がりました。

ロイヤル顧客の購買傾向から、どんな顧客体験が信頼を生み、次の購買につながっていくのかへの仮説が得られました。

登山やハイキング向けの本格的な機能を備えた製品を中心としたパフォーマンス領域の製品が、ザ・ノース・フェイスの機能への理解と信頼感を深め、そのあとにザ・ノース・フェイスの服を普段も着たいという気持ちが生まれ、ファッション領域の製品の購買に広がる。その結果、購入する製品カテゴリーが拡大し、ロイヤル顧客になってくれるという仮説です。

ロイヤル顧客は、ザ・ノース・フェイスの店舗と EC の両方で買いものをしているという点も発見でした。

[Step 2] アンケート調査から数字で把握する

2 つ目のステップはアンケートデータからの検証です。

自社だけではなく他社製品についても聴取し、ゴールドウィンは市場全体でのザ・ノース・フェイスの立ち位置を確認しました。

すると、登山・ハイキングなどのパフォーマンス領域では、競合ブランドと比べたザ・ノース・フェイスの想起率は 2 倍超という強さを示しました (参考情報) 。ファッション領域でも 2 倍とはいかないまでも比較的高い想起率でした。

さらにお店でお客さんにザ・ノース・フェイスへの購入理由を訊くと、ザ・ノース・フェイスの雰囲気やらしさ、世界観が好きと答えた割合が競合ブランドの平均の約 1.5 倍でした。ザ・ノース・フェイスの品質、耐久性、機能性、デザインに対する評価が高いことも再確認されました。

[Step 3] デプスインタビューで理由の核心に迫る

3 つ目のステップで、顧客理解の解像度が高まります。

ここまでの調査による自社ブランドに対する発見を踏まえ、ゴールドウィンはザ・ノース・フェイスのロイヤル顧客 10 人に対するデプスインタビュー (1 対 1 のインタビュー) 調査を実施しました。男女比は 5 対 5 、年齢は 20 ~ 50 代を対象としました。

インタビューから見えてきたのは、データだけでは決してわからない、お客さんからの選ばれる理由でした。

顧客の人生と結びつく存在

お客さんへのデプスインタビューで明らかになったのは、お客さんの人生とザ・ノース・フェイスが深く結びついていることでした。

例えば、50 歳前後で足に障害のあったあるお客さんは、ザ・ノース・フェイスの製品の機能性だけでなく、ザ・ノース・フェイスが掲げる 「Never Stop Exploring」 、探究をやめてはいけない、冒険を続けるというブランド理念に自身の人生観を重ね合わせ、強い共感を覚えていました。これは製品の機能が良いからという次元を超えた、強い選ばれる理由です。

また、別のある男性はこう語りました。「中高生時代にザ・ノース・フェイスに憧れていたが、当時は値段が高くて買えなかった。大人になり、親になり、子どもと遊ぶために機能的な服が必要になったタイミングで、ついに憧れのザ・ノース・フェイスを手に入れた」 、と。

これはお客さん自身のライフステージという物語の中で、ザ・ノース・フェイスが特別な役割を果たしていることを示します。長年の夢を叶えるという文脈でザ・ノース・フェイスが選ばれていたわけです。

自社商品が選ばれる理由は何か

ザ・ノース・フェイスの事例は、製品中心のプロダクトアウトにとどまらず深い顧客理解を追求し、成功をもたらしました。

ザ・ノース・フェイスは、お客さんのことを深く理解することで自分たちの選ばれる理由を再発見し、そうした体験をより広くお客さんにもたらすことによってブランドをつくりあげようとしています。

特にロイヤル顧客は、自社の製品がお客さんの人生において大切な意味を持っていることを学びました。それは作り手目線だけでは決して気づくことのできない、お客さんの立場になって見出せた顧客価値でした。

あなたの会社の商品が選ばれる理由は何でしょうか――。

その答えはパソコンの中や会議室ではなく、いつだってお客さんの中にあります。お客さんの声にじっくりと耳を澄ませることによって、顧客理解が深まり、顧客価値をつくっていけます。

まとめ

今回は、ザ・ノース・フェイスの事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • マーケティングとは 「お客さんから選ばれる理由をつくる活動全般」 
  • お客さんに選ばれるとは、商品を買ってもらえる、使ってもらえる、来店してくれる、指名されること
  • こうしたことへの 「選ばれる理由」 をつくり、商品やサービスがお客さんから選ばれ続けることによって、商品は生き残っていける
  • マーケティング出発点はお客さんであり、「誰に」 「なぜ」 選ばれるかを解像度高く理解することが大事