投稿日 2011/05/01

アイデアをつくるシンプルな原理と方法

「アイデアのつくり方」(ジェームス W.ヤング)という本を読みました。帯には60分で読めると書いてありますが、文庫本サイズで100ページほどで、著者自身の説明はわずか60ページ程度。早い人なら60分もかからないかもしれません。ただ、この本の内容はなかなかに深いことが書いてありました。

■アイデアをつくる原理

著者は、どんな技術を習得する場合でも大切なことが2つあると言います。第一に原理であり、第二に方法です(p.25)。これは本書の主題であるアイデアをつくり出す場合にも当てはまり、本書ではアイデア作成のための原理と方法が記されています。

それでは、アイデアをつくるための原理とは何でしょうか。著者によれば、1.アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない、2.既存の要素を新しい一つの組み合わせに導く才能は、事物の関連性をみつけ出す才能に依存するところが大きい、という2点に集約されます(p.28)。要するに、アイデアは組み合わせであり、そのためには関連性を見分ける才能が重要ということです。

■アイデアをつくる方法

次に方法です。著者はアイデアの作成には一定の明確な方法に従うと言います。よって、この技術を意識して修練することでアイデアをつくり出す能力は高められるとしています。アイデア作成の方法をまとめると以下の通りです。
1.資料・データ集め
2.資料・データの咀嚼
3.問題を放棄し、心の外にほうり出してしまう
4.アイデアの誕生
5.アイデアを具体化し、展開させる

■なぜ「ステップ3」で問題を放棄するのか

あらためてこの5段階の方法を見ると、3から4に至る間になぜアイデアが生まれるのかと思ってしまうかもしれません。ここで、もう一度アイデアをつくる原理に立ち返ってみると、アイデアは既存のもの組み合わせからできるということでした。そして組み合わせがどこで発生しているかと言うと、まさに3と4の段階で起こっています。

著者によれば、アイデアが現れるのはその到来を最も期待していない時だと言います。例えばお風呂に入っている時や真夜中に目を覚ました時で、そのためステップ3において、いったん忘れろとしているのです。だから著者が薦めるのは、音楽を聴いたり、劇場や映画に出かけたり、詩や探偵小説を読んだりすることでした。ただ、これも何のためかを考えると、自分の想像力や感情を刺激するためであり、つまりは頭の中で新しい組み合わせが起こりやい状況をつくるためなのでしょう。こう考えれば、ステップ3は組み合わせをする段階とも言えます。

■アイデアは組み合わせである

アイデアは既存の要素の組み合わせであるという著者の主張は、なるほど確かにその通りかもしれません。この視点で身の回りを考えてみると、実はいろいろなものがA+Bに要因分解できることに気づきます。

例えば世界で6億人以上のユーザーがいるFacebookですが、もともとは顔写真入りの紙の学生名鑑をオンラインで実現したという名簿+ネットという組み合わせでした。もちろん、ここまでユーザーが増加した要因は様々あり、戦略的にユーザーを増やしたこと、ユーザー増に耐えうるサーバー増築、フェイスブック上の友達の更新情報が1つに集約されるニュースフィードの公開、広告によるマネタイズなど、上記のアイデア作成の方法のステップ5である、具体化・展開で成果を出した結果なのでしょう。(このあたりは書籍「フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)」に詳しく書かれています)

繰り返しになりますが、このアイデア作成の方法は意識することで能力を高められると書かれています。アイデアをつくり出すのは別に1人だけで行なうものではなく、組み合わせを複数人で実施してもいいのです。あるいは、アイデアの具体化や展開もむしろ他人の目を入れることで、より強固なアイデアになるかもしれません。

ステップ3から4の工程は、当然ながら言うほど簡単ではありません。ただ、これは今のところ人間がコンピューターに勝てる領域だと思います。コンピューターはデータの保存は得意でも、忘れることは苦手です。そして、今までにはない組み合わせを試みるのも不得手なのではないでしょうか。

「アイデアは組み合わせである」。深い内容ですね。



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投稿日 2011/04/24

羽生善治の情報検索・取捨選択と梅棹忠夫の情報整理の考え方

将棋棋士である羽生善治氏は著書「大局観  自分と闘って負けない心」(角川oneテーマ21)の中で情報検索について、何かを調べようとする時にはGoogleなどの検索サイトを利用することが多いと言っています。その一方で、羽生さんは次のように書いています。「検索をかけながら、検索の世界からは逃げて行く」(p.121)

■羽生善治の情報検索と取捨選択への考え方

羽生さんは検索については非常に有効・有能なツールであると認めた上で、検索に依存してしまうと、自分の可能性を小さくしてしまうのではないかとしています。というのも、情報を取得するとともに不要なものを排除していかないと、ユニークなこと・変わったことを考えたり試したりする機会が減ってしまうことを危惧しているからです。検索と同時に、自分の頭で懸命に考えて情報の選択をすることも大事であり、このプロセスから得られる発見や気づきは検索では得られないような気がする、そんなことが書かれています。これが、冒頭で引用した検索をかけつつ、検索から逃げるという言葉の意味するところです。

羽生さんは情報について、選択肢が多ければ多いほど色々な可能性があるものの、しかしその分、迷いや選択後の後悔も多くなると言っています。ほぼ無限に存在する膨大な情報とどう向き合っていけばいいか、そのための1つが取捨選択です。自分にとって不要なものを捨てる一方で、必要な部分を残しておくことです。

そうは言っても、情報に当たった時点で本当にその情報が現時点で、あるいは将来的に必要なものかを判断するのは簡単ではありません。羽生さんでさえも、捨ててしまった棋譜(互いの対局者が行った手を順番に記入した将棋の記録)があとから必要になり、あらためて見直すことがよくあるそうで、それで良いのだと言っています。「捨ててしまった時点ではまだ自分に見る目がなく、後で必要になり理解が深まって、自分にとって本当に必要な知識となる。拾い上げた情報を基本にして新たに創造をし、情報の発信側に回れる」。個人的にこの本で印象に残っている考え方です。

■故梅棹忠夫の情報整理への考え方

思うに、後から必要になった情報をすぐに取り出せるようにしておくことが重要であり、また自分の課題です。情報整理についてのこの考え方は、書籍「知的生産の技術」(岩波新書)で以下のように書かれていたのを読んだのがきっかけでした。
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ものごとがよく整理されているとうは、みた目にはともかく、必要なものが必要なときにすぐとりだせるようになっている、ということだとおもう。(p.81)
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情報や知識はあくまで手段であり、例えば自分の意思決定や行動などの目的ありきです。目的によって、同じ情報でも重宝することもあれば、その逆に不要な場合もあります。ただ、いずれにしてもいかに必要な情報を入手するか、整理しておくか、必要な時に取り出せるようにしておくか、そして、自分の知識として活用するか。これらへの追及には完成形はないのだと思っています。自分の今のやり方もベストだとは思っておらず、インターネットやクラウドサービス、スマートフォンなどの情報端末の進化はこれからも続き、であるが故にその時々で対処の仕方も変わります。

最後に、前述の「知的生産の技術」で著者である故梅棹忠夫氏が述べていたことをそのまま引用しておきます。ちなみにこの本の初版は40年以上も前の1969年です。
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くりかえしていうが、今日は情報の時代である。社会としても、この情報の洪水にどう対処するかということについて、さまざまな対策がかんがえられつつある。個人としても、どのようなことが必要なのか、時代とともにくりかえし検討してみることが必要であろう。(p.15)
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投稿日 2011/04/23

これからのテレビは多様な視聴スタイルになってほしい

テレビ番組を見るのはどこで、いつ見ることが多いでしょうか?回答はいろいろありそうですが、最も多いのはテレビが設置してあるリビングなどで、その番組が放送している時間に見ることだと思います。放送中にテレビを見られない場合は、ハードディスクなどに録画しておき後から見ることもあるかもしれません。あるいは家のテレビではなく、電車の中で携帯電話のワンセグから見る場合も考えられます。

■時間シフトと場所シフト

録画で放送時間より後から見ることを「時間シフト」、ワンセグなどにより屋外も含めた見たい場所で見ることを「場所シフト」とすると、冒頭の視聴の仕方は次のように位置づけができます。


ワンセグ放送を活用したユニークな商品をソフィアデジタル株式会社が提供しています。アレックス6というチューナーレコーダーで、ワンセグの6チャンネルを24時間自動で録画されます。1テラバイトのハードディスクがあれば2ヵ月くらいの番組データが保存できるとのこと。視聴はLAN経由でPCから、あるいは専用のアプリを使えばiPhoneやiPadからもマルチデバイスで視聴できます(ただし家庭内)。全て録画されているので、放送後翌日に友達やツイッター上で話題になった番組をその後で見るなど、「全て録画する・録画したものから探して視聴する」という新しい視聴スタイルです。

時間シフトと場所シフトで言えば、家庭内とはいえこれまでの視聴方法とはやや異なるポジションです。


■SPIDERのユーザーインターフェイスとソーシャル視聴

番組を全部撮るということを同じようにできるのが株式会社PTPのSPIDERというビデオレコーダーです。1週間分(大容量オプションでは1ヶ月分)のテレビを全て自動録画し、その中からあらゆる番組シーンの検索が可能です。法人向けのSPIDER PROと家庭向けのSPIDER ZEROがあり、地デジ対応のPROは2011年5月23日、ZEROは2011年末に発売されるようです。

実物は見たことないのですが、同社HPの動画や、有吉社長×佐々木俊尚氏の対談記事を見ると、SPIDERでは使いやすさを徹底的に追求しているようです。動作している動画や、とりわけ非常にシンプルなリモコンが特徴です。

出所:SPIDER ZEROの機能紹介ページより引用

もう一つSPIDERで興味深いのが、ソーシャル視聴を目指している点です。SPIDERの中に「みんなの感想」という機能があり、気になるシーンにコメントを投稿することができるとのこと。この投稿はSPIDERユーザーの誰もが見ることができ、ユーザーの「おもしろい!」がみんなで共有されます。(個人的にはニコニコ動画などのようにツイッター、あるいはフェイスブックとの連携を目指した方がいいようにも思いますが)

■ソーシャル視聴の効果

ソーシャル視聴というと何か新しいような響きがありますが、やっていることはみんなでわいわい同じ番組を見ることだと思っています。従来は家族や友人同士で集まって見ることだったのが、TwitterやSNSを使うことでソーシャル視聴と言われる所以です。

個人的にソーシャル視聴のおもしろさを感じたのは、昨年のサッカーW杯でした。日本の活躍ももちろんですが、ゴールシーンではツイッターのタイムライン上に流れるコメントを見ると、同じ場所にはいないもののテレビ画面とiPhoneやPC画面の両方を見ることで、あたかもみんなで一緒に見ているような感覚になったのを覚えています。

テレビのソーシャル視聴の効果は実際の数字にも表れているようで、例えば2010年2月にアメリカで開催されたアメリカンフットボールの第44回スーパーボウルでは、放送された中継の視聴者数が1億5000万人で例年は1億人程度であることから大幅増加したとのこと。この要因の1つはソーシャル視聴にあるようです(参考:「スマートテレビで何が変わるか」(山崎秀夫 翔泳社) p.86)

では、なぜソーシャル視聴で視聴者数が増えるのでしょうか。あくまで推測ですが、友人・知人がTV番組について盛り上がっているのをSNSなどで見つけ、いつもは見ないような人まで呼び込んだ結果なのではと思っています。

■これからのテレビの視聴スタイル

このように番組を見つけるきっかけがSNS上などでの話題性がある一方で、今後はインターネットとテレビが融合するスマートテレビでは、これまで以上に番組を「検索する」することも増えてきそうです。先ほどのSPIDERでは、リモコンの十字キーだけで芸能人などの名前、番組名、商品名、企業名から簡単に検索できるようになっています。これ以外にも、「昨日の午前8時20分」のようなあいまいな検索方法や、Wikipediaから探すWikipedia検索、CMソングの曲名からCMの検索も可能のようです。

テレビCMと言えば、録画ではCMをスキップする人が9割もいるという調査結果がありますが、一方で話題となっているCMをあえて見たいというニーズもあるはずです。あるいは30秒や15秒のCMしか見たことないけど、60秒のバージョンが見たいというニーズもありそうです。

いかに番組、CMというコンテンツと出会えるか。そしてそのコンテンツを楽しめるか。このアプローチが、例えば、ひとまず全部撮って後から探すというアレックス6やSPIDER、ソーシャル視聴、これまでのテレビとは違うスマートテレビなのだと思います。

スマートテレビが本格的に普及してゆけば、あらゆる番組がクラウド化され、「見たい時にいつでもどこでも見る」という視聴スタイルになるはずです。アレックス6やSPIDERも完全なクラウドではないものの、考え方の本質はクラウド化と同じ方向性を持っていると思います。

今年の7月24日正午にテレビのアナログ放送が終了し、地上デジタル放送に切り替わります。とは言え、現時点での地デジ化のメリットは単に「アナログよりも画面がきれいになった」程度や番組表が表示されるくらいにすぎません。放送電波をデジタル信号にすることで、ネットとの相性もよくなり、今後はテレビとネットの融合はきっと起こってくると思います。

テレビのクラウド化によって時間シフトと場所シフトの自由度が上がり、見たい時にいつでもどこでも見られるようになること。ユーザーインターフェイスに優れた検索やソーシャル視聴により、おもしろいコンテンツが見られること。これからのテレビにはこんな視聴スタイルを期待しています。


※参考情報

アレックス6
SPIDER PRO
SPIDER ZERO
2011年、SPIDERが変えるテレビの「未来」と「可能性」 有吉昌康(株式会社PTP社長) 第1回|現代ビジネス
「ソーシャル」こそが再びテレビを甦らせる 佐々木俊尚×有吉昌康(株式会社PTP社長) 第2回|現代ビジネス
もう一度、「戦後」から始めれば、新しい時代の本田宗一郎や盛田昭夫が生まれてくる 佐々木俊尚×有吉昌康(株式会社PTP社長) 第3回|現代ビジネス
「録画視聴ではCM飛ばす」9割―首都圏調査|JCASTテレビウォッチ


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。