投稿日 2024/05/14

ロゴレス家電のトレンドから考える、ブランド価値の再定義とロゴの未来予測

#マーケティング #ロゴ #選ばれる理由

家電業界に 「ロゴレス家電」 の台頭が見られます。なぜ大手メーカーから新興企業までの間で、ロゴレスが注目を集めているのでしょうか?

消費者がブランドよりも実用性やデザインを重視するこのトレンドは、ビジネスにどのような変化をもたらし、マーケティングにどんな影響があるのでしょうか?

ぜひ一緒に考察と学びを深めていきましょう。

ロゴレス家電


家電製品におけるブランドロゴを目立たなくする 「ロゴレス家電」 のトレンドが広がっています。

大手メーカーや新興メーカーも


アイリスオーヤマ、シャープ、日立製作所など大手メーカーが相次いで自社やブランドのロゴを入れなかったり、目立たせない家電を出してきています。

出典: 日経

アイリスオーヤマのサーキュレーターは、ロゴを目立たなくしたデザインを採用しました。シャープはドライヤーや空気清浄機でブランドロゴを省略しています。

他には、日立製作所はスティック型掃除機でこれまでは目立つロゴを付けていましたが、エンボス加工に変更しました。

また、大手以外の新興メーカーでも、2007年創業のスリーアップは原則としてロゴを付けていません。

ロゴレス家電トレンドの背景


なぜロゴを目立たせないロゴレス家電が広がっているのでしょうか?

消費者庁の21年の調査によると、製品・サービスを購入する際に 「とても重視する」 要素は 「品質・性能の良さ」 (55%) や 「費用対効果」 (32%) 、「見た目・デザイン」 (22%) などが上位。「有名ブランド・メーカーであること」 は 6% で9位にとどまる。

 「僕ら世代でブランド基準で家電を選ぶ人はいないですよ」 。1月中旬、ジョーシン日本橋店 (大阪市) に新居用の白物家電を選びに来た村橋彰太さん (26) はあっけんからんと話した。「デザインや機能を見て決めるつもりです」 。消費者庁の調査を世代別に見ると 「見た目・デザイン」 を 「とても重視する」 のは40代や50代は 20% 台なのに対し、20代は 35% 、15 ~ 19歳は 42% に達する。

市場調査会社、SVP ジャパン (東京・中央) の橋本雅社長は 「50代以上は最初にブランドを見る人が多いが、若者は自分のライフスタイルやキャラに合致しているかで選ぶ。そこではブランドは『ノイズ』になる可能性がある」 とみる。

博報堂ブランド・イノベーションデザイン局の岡田庄生部長が要因に挙げるのは、情報量の変化だ。「以前は買い物の判断軸が広告や店頭での印象しかなかったが、今はいくらでもネットで情報が調べられる」 。電子商取引 (EC) サイトではメーカー名が商品情報として大きく表示され、「外観やパッケージでロゴが目立つ必要がない」 。

また、岡田部長は 「一部の嗜好品やハイブランドは『このブランドを持っている』という喜びがあるが、多くの製品ではロゴは買った後はおおよそ役割は失う」 と指摘する。「例えばシャンプーは買う際にはブランドを吟味しても、実際に使う際は『無印良品』のボトルに入れて見た目をすっきりさせたいという人は多い」 

足元で潮流が大きく変わったことにはさらに背景がある。各社のデザイン担当者から多く聞かれたのが 「コロナ禍が長引いた影響」 。巣ごもりで消費者が家の居心地をより重視し、家電が空間になじむかを厳しく見るようになった。

家電ライターの安蔵靖志氏は 「組織改編などを通じて、デザイン部門の意見が通りやすくなっている」 と指摘する。きっかけとみるのが 「バルミューダの成功」 (安蔵氏) だ。15年に参入したキッチン家電は、製品ごとの統一感などが評価され軒並み大ヒット。「大手メーカーもデザインを重視する流れになった」 

引用した内容を消費者視点と企業視点のそれぞれの立場から、ロゴレス家電のトレンドの背景や要因を整理してみましょう。

✓ 消費者視点

  • デザインの重視: 消費者が家電をインテリアの一部と捉え、デザインに対する期待が高まっている。シンプルで洗練されたデザインが好まれ、ロゴがデザイン上のノイズと捉えられることも

  • 品質・性能の重視: 消費者は品質や性能を最も重視し、有名ブランドやメーカーであることよりも、製品の実用性や見た目を優先する

  • 情報アクセスの容易さ: インターネットや EC サイトを通じて、さまざまな製品情報を容易に入手できるため、購入のときにブランド名を重視しない

  • 若年層の価値観: 特に若い世代はブランドよりもライフスタイルや個性に合致する製品を選ぶ傾向がある

  • コロナ禍による居心地の重視: 長引くコロナ禍で自宅で過ごす時間が増え、家での居心地の良さを重視するように。家電が空間に溶け込むことがより重視される

✓ 企業視点

  • 市場の変化への適応: 若年層を中心にした市場の変化に対応し、ブランド名よりもデザインや機能を前面に出すことで新しい顧客層を引き付けたい

  • ブランド戦略の変化: 一部の企業は、ブランドロゴよりも独自技術や特定の機能を強調することで、製品の特徴を伝えようとしている

  • デザイン部門の影響力増大: 社内でデザイン部門の意見が通りやすくなっている企業もあり、従来の開発プロセスにおけるデザインの役割が大きくなった

  • 環境配慮の視点: 環境への配慮からロゴを控えめにすることで、持続可能な製造を促進しようとしている

以上の背景から、ロゴレス家電のトレンドが広がりを見せているのでしょう。消費者の価値観の変化、市場の動向に応じた企業の戦略が、ロゴレスのトレンドを推進させる要因となっています。


マーケティング視点での考察


ここまで見てきたように、家電製品におけるブランドロゴを控えめにする、あるいは省く 「ロゴレス家電」 の流れは興味深いです。

ロゴレスにより大手と新興が同じスタート台に


ロゴレス家電について、マ-ケティングでの競争という視点で掘り下げてみます。

家電のロゴを目立たせなくしたり消すという 「ロゴレス家電」 のトレンドで注目したいのは、ベンチャー企業のようなまだ知名度の高くない企業だけでなく、大手の家電メーカーもロゴレス家電を扱うようになっているところです。

ロゴやブランド名、社名の知名度がまだない新興企業や中小企業にとっては、ロゴ認知度という下駄をはかずに大手企業と同じスタート台から、純粋に機能やデザインでの勝負ができます。もちろん流通や販売網での差はあるものの、ロゴへの知名度が高くないハンデがないというのは大きいでしょう。

一方で大手メーカーや有名ブランドにとっては、長年にわたって蓄積してきたロゴという 「独自ブランド資産」 が使えず、アドバンテージを活かせない状況になります。

だからこそ、ベンチャー企業のようなまだ一般的には有名ではない企業だけでなく、家電大手もロゴレス家電を扱うようになっているのは興味深いです。

ブランドロゴの役割変化


売り手からすると、ロゴには他と区別される 「識別子」 としての役割を果たすことを期待します。

しかし、消費者目線ではロゴがむしろ邪魔な存在で、ともするとノイズになるという捉え方がされます。ブランドを理由に選んでいる人は多くはなく、消費者庁による消費者へのアンケート調査では 「有名ブランド・メーカーであること」 は 6% で9位した。

実際のところは、消費者は有名ブランドやメーカーかどうかという基準よりも、機能や性能、費用対効果、全体のデザイン性などの、自分にとっての直接的なメリットを重視して選んでいます。

これらの判断基準の中にロゴがついていることは入っておらず、ブランドロゴは消費者にとってはメリットを生み出していないわけです。

ロゴレス家電の今後は?


では、ロゴレス家電の今後について考えてみましょう。

ロゴを表示させなかったり表示しても小さくとどめるというロゴレスのトレンドは、一過性のもので終わるのか、それとも定番として今後定着するのでしょうか?

長い目で見れば、ロゴレスの流れから 「揺れ戻し」 が起こると考えます。

ただし、そのときにはロゴが単に過去の状況に戻るのではなく、より進化した形を取ることでしょう。

家電にロゴがあることがさらにデザイン性を高くし、そして、ロゴはかわいい・かっこいい、おしゃれな見た目になるなどの、ロゴ自体が消費者にとっての感情的価値につながるものです。

ロゴが本来もつ他とは違うと認識される 「識別子」 としての役割を果たし、そして環境や持続可能性にも配慮されたロゴになるという、ブランドロゴ自体が 「選ばれる理由」 の上位に挙がることに再挑戦することになるのではと。これが私の個人的な見立てです。


まとめ


今回は 「ロゴレス家電」 のトレンドに注目し、考察しました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • ブランドロゴの目立たない 「ロゴレス家電」 が注目され、大手から新興企業まで採用している。消費者は有名メーカーやブランドかどうかよりも、実用性、費用対効果、デザインを重視していること、こうした市場の変化に企業が対応していることがロゴレスのトレンドの背景

  • ロゴレスは、新興企業にとって大手メーカーと同じ出発点から競争できる。大手にとっては既存のブランド資産を活かし切れない挑戦となっている

  • 将来的にはロゴデザインが進化し、ブランドロゴが消費者に感情的価値も提供する方向へ進むだろう。ロゴ自体も選ばれる理由の1つとなり、ロゴレスから揺れ戻しが起こるのではないか


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。