投稿日 2024/05/16

訪日客が 「ネオ冨嶽三十六景」 を発見!- "答え" はお客さんの中にある

#マーケティング #顧客理解 #顧客価値

お客さんが何を求めているのか、その奥にある望みや不満、ものの見方や価値観までを本当に理解できているでしょうか?

売り手が見落としているお客さん自身が発見する商品の使い方、その背後には、売り手が想定していなかった価値があったりします。

今回は訪日外国人の人たちの意外な人気スポットを取り上げ、ビジネスにおける顧客理解を深める重要性と、それを実現するための秘訣を紐解きます。

外国人訪日客が 「ネオ冨嶽三十六景」 を発見


出典: 日経

インバウンドの訪日外国人の観光客が多く訪れる富士山周辺で、人気の撮影スポットに異変が起きています。

多くの外国人観光客がカメラを構えるのは、コンビニエンスストアや踏切、古くからある商店街など、日本人からすると日常的に思える風景です。しかし、そこに背景のバックに富士山が重なることで、葛飾北斎もきっと驚くであろう 「令和の冨嶽三十六景 (ふがくさんじゅうろっけい) 」 となるのです。

富士山がローソンの屋根のようになる (出典: 日経

駅から徒歩3分ほどで着く 「ローソン 河口湖駅前店」 。店の後ろに富士山がそびえ立つ様子を収めようと、数十人がスマホやカメラを手に行列を作っていた。確かに景色はいいが、なぜローソンなのか。 (中略) 

友人と2人でタイから来たという女性 (26) は 「インスタグラムでこの景色を見て、撮影したいと思った」 と話す。彼女によると 「コンビニと富士山というのがすごく『日本っぽい』」 という。

富士河口湖町の担当者によると、この場所はインスタグラムでの人気がきっかけで23年始めごろから訪日客が増え始めたという。検索してみると、確かに多くの投稿が。「日本で最も美しいローソン」 「ローソンに富士山の屋根がかかっている」 などのコメントがあった。看板の青と富士山の青がマッチするのも人気の理由の1つのようだ。

横の路地を通り抜けた所にある踏み切りも人気スポットだ。家族で訪れた中国人の女性 (34) は 「富士山と電車と踏み切りが一緒に写ってすごくすてきな風景。踏み切りの黄色がアクセントになっていて美しい」 と目を輝かせる。「 (踏み切りの周辺にある看板に書かれている) 日本語のフォントもカワイイ」 

同じく日常的な風景で注目されているのが、山梨県富士吉田市にある本町通りの周辺だ。繊維産業で栄えた昭和30年代の町並みがそのまま残り、まっすぐ続く商店街の背景に大きな富士山が見える。

写真が撮りやすい交差点に数十人の観光客が集まっていた。香港から来たという女性 (26) は 「見たことのない景色」 と何十枚も写真を撮っていた。

学べること


では富士山の 「ネオ冨嶽三十六景」 から、学べることを掘り下げていきましょう。

お客さんが自ら見出す価値


この事例をマーケティングの観点で捉えると、「お客さんに買ってもらうための "答え" はお客さんの中にある」 ということです。

売り手である自分たちが思ってもみなかった魅力を、お客さん自身が時には勝手に見出している場合があります。

訪日外国人の人たちの富士山との記念撮影がまさにそうです。

コンビニや踏切、商店街などはどれも日常的に目にするもので、記念撮影で一緒に写真を撮りたい対象には日本人からするとならないことでしょう。むしろ日本人の感覚からすると、富士山の写真には日常感を出したくないので、コンビニなどは写真の中に映ってほしくないと思えるかもしれません。

しかし、インバウンドの外国人観光客にとっては違う捉え方がされます。

  • コンビニと富士山がすごく日本っぽい
  • ローソンに富士山が重なり、ローソンの看板の青と富士山の青がマッチする
  • 富士山と電車と踏切が一緒に写りすてきな風景
  • 看板に書かれている日本語のフォントもカワイイ
  • 昭和30年代の町並みの商店街は見たことのない景色

このように、立場や視点が変われば、日本の富士山周辺でしかできない観光や撮影体験に変わるわけです。

 "答え" はお客さんの中にある


ビジネスやマーケティングへの示唆として一般化すれば、お客さんが自ら、行きたい理由や買う理由を見つけているということです。

売り手は広告などのマーケティングコミュニケーションや販促活動から、ぜひお客さんに買ってほしいと 「商品を買うべき理由」 をあれこれと提案します。

もちろん、こうした商品訴求によって興味を持ったり、買いたいという購入意向が生まれることもあるでしょう。

一方で、今回の事例から見てきたように、お客さんが欲しいと思ったり、行きたい、買いたいと思うきっかけは、売り手が想定していない側面をお客さん自らが見出しケースもあるわけです。

場合によっては、お客さんが発見した着眼点のほうが、商品の本質的な価値を切り取っていたりします。

 「答えはお客さんの中にある」 。この言葉が意味するのは、お客さんのことをお客さんの立場になって理解し、売り手や作り手には知られざる商品のことも理解しようとする好奇心や探究心を持つことの重要性です。


まとめ


今回は、外国人訪日客が富士山周辺で日本人には気づかなかった魅力を、「ネオ冨嶽三十六景」 として発見しているという話題を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • お客さん自らが、売り手には想定していなかった商品の魅力を発見することで、売り手の提案する 「商品を買うべき理由」 でなく、お客さん自身が独自の理由を持っていることがある

  • マーケティングで重要なのは、顕在化したニーズだけではなく、お客さんの中に内在する本当の望みや奥にある不満、ものの見方や思考のクセ、何に価値を見出すかの価値観までを理解すること

  • お客さんを深く理解するためには、お客さんの立場に立ち、お客さんが商品・サービスに見出す本質的な価値は何かを発掘する好奇心や探究心が大事


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。