2012/12/29

2012年に読んだおすすめの本(後編)

今年読んだ本で書いたエントリーから、特に印象に残っているものをご紹介します。本エントリーは2つに分けた後編です。前編はこちら

なお、仕事関係の書籍は対象外としています(取り上げてもマニアックな内容になりそうなので)。





経営学(小倉昌男)

小倉昌男 経営学1975年当時、今では当たり前の家庭向け宅配サービスは民間業者はどこもやっていなく、「参入すれば絶対赤字になる」と言われていました。そんな常識に果敢に挑んだヤマト運輸。宅配便という民間業者が誰もやっていなかった家庭への宅配サービスへの挑戦。このあたりの新規事業開発、サービスイン、その後の拡大が詳しく書かれていたのが本書でした。

ヤマトの新規事業参入、ビジネスモデル構築の話は「なるほど」と思わせるものばかりで、ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件に出てくるSPとOCの戦略フレームと併せて考えると、おもしろいの一言。

このフレームはStrategic PositioningとOrganization Capabilityの略で簡単に言うと、SPが他社と違ったことを「する」に対して、OCは他社と違ったものを「持つ」こと。ヤマトの戦略は、
  • SP:差別化は翌日配達という利便性・定額というわかりやすい価格体系。翌日配達について、競合だった当時の郵便小包みは到着が早くて3日後、普通は4,5日かかることも珍しくなかった
  • OC:全国規模の配達ネットワークの構築と、セールスドライバー制度や独自トラック開発、情報システム導入。これにより、荷物の密度を濃くし、取り扱い荷物の総量を増やす。トラック一台あたりの集配個数をいかに増やすかで、配達ネットワークは宅配事業を行なう上での肝になるもの
ヤマトの宅配便参入を主導した故・小倉で印象的だったのは、常識に対して「本当にそうだろうか?」と問い、自分の見た/感じたものから自分の頭で考え続けたこと。徹底的に考え抜き、個人からの荷物の宅配は絶対儲かるとの確信に至ったのでした。

「絶対赤字」の非常識に挑んだクロネコヤマトの競争戦略|思考の整理日記
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なぜ、あの会社は儲かるのか? ビジネスモデル編(山田英夫)

なぜ、あの会社は儲かるのか? ビジネスモデル編様々な企業のビジネスモデルが紹介されていて、他の類似本と違うのは単にビジネスモデルを紹介しているのではなく、ビジネスモデルの事例紹介⇒仕組みの一般化⇒他業界にある同様のモデル紹介と、具体化⇒抽象化⇒具体化、で説明されているところ。

同じビジネスモデルでも違う業界に適用されているのを考えるのは頭の体操にもなるし、モデルの本質的な仕組みがわかり示唆に富むものばかり。そのビジネスモデルを自分の業界や、自分の仕事に活かせないかと考えてみる。そんな良書。

あらためて考えさせられたのは、ビジネスモデルが成り立つ条件。以下の2つが重要と理解しています。
  • エンドユーザーや顧客に既存のモデルよりもより高い価値/低いコストが提供される
  • ビジネスモデルの関係プレイヤー(ステークホルダー)全員にWin-Winが成立する
下記の書評エントリーで取り上げたのは、小松製作所のビジネスモデルを構成するKOMTRAX(コムトラックス)というITサービス。上記の2点が満たされているし、すごいと思ったのはコムトラックスで収集する各建機データをうまく活用し、ユーザーや販売代理店への提供価値を上げ、自社の利益向上にもつなげている点。データ収集の仕組み構築と、データをうまく活用し価値を生み出す。コマツのビジネスモデルの中心的な存在になっている。ここにコムトラックスの本質があるように思いました。

KOMTRAX:コマツ建機の美しいビジネスモデル|思考の整理日記
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失敗の本質―日本軍の組織論的研究(野中郁次郎 他)

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)すでに何回か読んでいましたが再読。言わずと知れた名著です。この本がおもしろいのは、6つの戦い(ノモンハン事件、ミッドウェー海戦、ガダルカナル作戦、インパール作戦、レイテ海戦、沖縄戦)から日本軍と米軍の戦略・組織特性比較を明らかにするだけではなく、そこからさらに突っ込んでなぜ日本軍は失敗したのか、そして現在にも活かせる失敗の教訓を残している点にあります。

本書で指摘されているのは、「日本軍の最大の失敗の本質は、特定の戦略原型に徹底的に適応しすぎて学習棄却ができず自己革新能力を失ってしまった」。

特定の戦略原型に徹底的に適応しすぎたとは「ガラパゴス化」であり、学習棄却ができず自己革新能力を失ってしまったとは「イノベーションを起こせなかった」ということ。「成功は失敗の素」となってしまったのです。

背景には環境の変化を認識できず、また気づいていても自らが変わることができなかったことがあります。環境は常に変わっていくもの。「強い者ではなく、環境に適応した者が生き残る」。これは進化論を唱えたダーウィンの言葉です。

こうして見ると当時の日本軍の失敗は、現在の起業や組織にもそのまま当てはまります。個人レベルでも自己革新をすること、時には自己否定もいとわないで変わっていくことも必要だなと。

書籍「失敗の本質」に見るガラパゴス化とイノベーション|思考の整理日記
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MEDIA MAKERS―社会が動く「影響力」の正体(田端信太郎)

MEDIA MAKERS―社会が動く「影響力」の正体メディアに関するいろんな論点が提示され、それでいて随所に示される豊富な具体例(抽象的な内容で終わらない)。読み応えのある本でした。

印象的だったのは、メディアのポジションを考えるための3つの軸:①ストックorフロー、②参加性or権威性、③リニアorノンリニア。源氏物語からニコ動までと、あらゆるコンテンツを分類する3次元マトリックスです。詳細はこちら

もう1つ興味深かったのが下記エントリーでも書いた、メディアの変化がコンテンツにも影響を及ぼし変化させるという考察。これ、メディアという「手段」が「目的」であるコンテンツを変化させるとも言えて、本書では音楽レコード⇒CDというアナログからデジタルの変化で起こったことの例に取り上げ、考えさせられるものでした。

書籍「MEDIA MAKERS」に書かれていた「メディア変化がコンテンツをも変える」論点がおもしろい|思考の整理日記
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経済危機のルーツ ―モノづくりはグーグルとウォール街に負けたのか(野口悠紀雄)
大震災からの出発 ―ビジネスモデルの大転換は可能か(野口悠紀雄)


経済危機のルーツ ―モノづくりはグーグルとウォール街に負けたのか大震災からの出発 ―ビジネスモデルの大転換は可能か2冊をまとめて読んだのがよかったです。世界と日本の経済の全体像が俯瞰されていて、「なるほど」と思うことも多く目から鱗とはこのこと、という感じ。第二次世界大戦から現在の歴史的な時間の流れというタテの比較、日本だけでなく先進国・新興国のヨコの比較により、色々と勉強になりました。

世界経済については、英米⇒独日⇒中露と工業化がシフトしていくとともに、工業化を経てそれぞれの国は繁栄の時代を迎えます。一方で、英米は工業化で一旦は高い成長を実現するも、その後の新興国との競争に敗れていく。次の方向性は脱工業化プロセスでした。

日本経済の失われた20年については、
  • 90年代以降の中国などの新興国の工業化で日本製品の競争相手は新興国製品になり、価格などの比較劣位から日本は次第に負けていく
  • それでも新興国製品に対抗するために行き着いた施策がリストラや非正規雇用への転換。結果、雇用が失われたり所得が減少した
  • 失われた雇用の受け皿が製造業より低生産のサービス業であったため、さらに所得減少に
ここに追い打ちをかけたのが3.11。短期的には東北地方が絡むサプライチェーンが壊れたことで生産・供給不足を引き起こしましたが、より影響が大きいのは中長期的に発生する電力制約。

新たな産業は高生産性サービス業というのが著者の野口氏の意見。例として、情報通信、金融・保険、不動産、医療福祉、教育・学習支援、など。重要なのは、新産業の生産性が製造業よりも高いこと。そうでなければ雇用の移転が起こって維持されても、所得は下がり日本は貧しくなってしまいます。

世界と日本の経済を俯瞰しておこう|思考の整理日記
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そうだ、葉っぱを売ろう! 過疎の町、どん底からの再生(横石知二)

そうだ、葉っぱを売ろう! 過疎の町、どん底からの再生ある田舎町で興した「葉っぱビジネス」について、仕掛け人である横石知二氏が書かれた本。少子高齢化や過疎が進み一時はどん底であった愛媛県上勝町。本書ではそこからいかに葉っぱビジネスが始まり、ビジネスとなり、町を再生していったかが紹介されています。

葉っぱビジネスを立ち上げるストーリーから、印象的だったのは、
  • 全てはビジョンから
  • マーケティング:強みを活かして差異化し価値を届ける
  • 当事者意識が人々と町を変える
詳細は下記エントリーに譲りますが、本書はリーダーシップという視点でも読むとおもしろく、リーダーとは未来のあるべき姿を実現するため、ビジョンを語り、まわりの人を導いていく。そして実現する様が描かれています。

自分たちの強みを活かして差別化し、お客さんに価値・ベネフィットを実感してもらう、というマーケの観点でも考えさせられます。葉っぱビジネスで強みとなったのが、実際の季節よりも先に花をほころばせるとか、狙った時期に小ぶりな葉っぱを採取するなどのおばあちゃんのノウハウ。おばあちゃんたちの根気強さ、丁寧さ、仕事への意欲もまた、上勝町の葉っぱビジネスに大きく貢献しました。

葉っぱビジネス立上げ当初は賛同者がほとんどいなかったのが、次第に「住民みんなが町のことを自分たちの問題として考えられるようなった」とは著者の言葉。当事者意識を持ったおばあちゃん・おじいちゃんが本当に町を変えてったのです。

あるおばあちゃんが横石さんにこんなことを言ったそうです。「世界中探したって、こんな楽しい仕事はないでよ」。葉っぱを売るという生きがいがあり、自分の取った葉っぱがお店でどう使われているかという自分がやっていることの価値を実感している。女の人もお年寄りもみんなが働いている社会。「ここに生まれて、本当によかった」と笑顔で言うおばあちゃん。自分が住んでいる町を誇りに思っている。実現されたのは横石さんのビジョンそのままでした。

おばあちゃんをとびっきりの笑顔にする「葉っぱビジネス」から学んだ3つのこと|思考の整理日記
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