投稿日 2025/08/15

13歳からのアート思考が大人のビジネスパーソンに教えてくれること。アート思考をビジネスに活かす創造的発想法

#マーケティング #アート思考 #本

私たちは気づかぬうちに 「正解」 にとらわれたり、常識の枠の中で物事を考えがちです。しかし、世の中に新しい価値を生み出す人たちは、今の枠組みで正解を探すのではなく、自分なりの問いを立て、探究し続けています。

ご紹介したい書籍 「自分だけの答え」 が見つかる 13歳からのアート思考 (末永幸歩) では、アートを通じて、そうした 「自分の視点で考える力」 を育む方法がわかりやすく語られています。


不確実な時代だからこそ、誰かの決めた答えではなく、自分だけの解を見つける思考法を身につけることが大事です。

アート思考とは何か、そして仕事やマーケティングの現場でどう活かせるのか――。アート思考を実践するための具体的な方法について、ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。

本書の概要



こちらの本 「自分だけの答え」 が見つかる 13歳からのアート思考 (末永幸歩) は、美術教師である末永幸歩 (すえなが ゆきほ) さんによって書かれた本です。

13歳とあるタイトルからわかる通り、中学生向けに書かれた内容ですが、大人が読んでも学びや気づきが多い一冊です。

本書の大きなテーマは 「アート思考」 です。

アーティストである芸術家のように、自分ならではの視点や発想で物事を捉えるアプローチを、本書では実在の美術作品の実例とともに紹介しています。美術史やアーティストの背景やエピソードから、アーティストではなくても自分だけの答えを見つけるための方法や心構えをわかりやすく導きます。

目次の流れ

本書は、6つの大きな 「Class (授業) 」 で進んでいきます。

各クラスで登場するアーティストは、近代・現代アートの歴史をつくった20世紀に活躍した人物です。マティス、ピカソ、カンディンスキー、デュシャン、ポロック、ウォーホルなどの作家です。

それぞれの章で作品や逸話を具体的に紹介しながら、美術史やアーティストの個性をなぞるだけでなく、「あなた自身だったらどう考え、どう感じるか?」 と問いかけるワークが用意されています。美術や作品鑑賞に苦手意識を感じる人でも楽しめるように、わかりやすい言葉でガイドをしてくれます。

章の構成は次のようになっています。

  • ORIENTATION アート思考ってなんだろう
  • CLASS 1 「すばらしい作品」 ってどんなもの?
  • CLASS 2 「リアルさ」 ってなんだ?
  • CLASS 3 アート作品の 「見方」 とは?
  • CLASS 4 アートの 「常識」 ってどんなもの?
  • CLASS 5 私たちの目には 「なに」 が見えている?
  • CLASS 6 アートってなんだ?
  • エピローグ 「愛すること」 がある人のアート思考

本書の目的

この本が目指すのは、ひとつの正解に縛られない思考法を身につけることです。

美術教育というと、上手に描くための技術や美術史の知識を教わるイメージがあるかもしれせまん。しかし著者は、それ以上に 「自分の中から問いを発する力こそが大事である」 と説きます。

一人ひとりで違う感じ方や発想があるからこそ創造的でおもしろいはずなのに、学校の美術の授業ではうまく描けるかどうかが評価基準になってしまっています。

本書を読むと、アートにおいては必ずしも 「上手 = 価値がある」 ではないことに気づかされます。むしろ、どれだけ自分独自の視点を持ち、自分なりの見方から新しい問いや解釈を生み出せるかが大切なのです

著者は 「13歳からのアート思考」 と銘打ち、中高生の皆さんも含め、子どもから大人までアート思考を体験してほしいという想いで書かれていることが伝わってきます。

アート思考とは


では、アート思考とは具体的にどんな思考でしょうか?

本書では著者は、アート思考は、常識や正解にとらわれず、自分の内側にある興味をもとに、自分のものの見方で世界をとらえ、自分なりの探究し続け、新たな問いと答えを生み出すことだと説明しています。

ビジネスの世界では、論理的思考が長らく重視されてきました。大切な思考方法ではありますが、アート思考は正解が決まっていない世界で、どのように問いを立て、その問いにどう向き合うかにフォーカスしているところが特徴です。

たとえば美術の歴史を振り返ると、本書で紹介される芸術家であるマティスやピカソたちは、こう描くのが正解とされてきた当時のアートの常識を次々と覆しました。芸術家たちは 「本当にその常識は正しいのか?」 と疑い、新たな答えを自分たちで導き出そうと挑戦したのです。

ビジネスの場面でも、正解のない課題と向き合わなくてはいけない状況は日常的に起こります。そんなとき、アート思考のエッセンスを取り入れると、独自の問いを立てられたり、新たな視点からアイデアを考えることができるはずです。

ビジネスパーソンが学べること


では、本書からビジネスパーソンが学べることを掘り下げていきましょう。

自分の視点で問いを立てる

ビジネスでは、つい正解を求めていないでしょうか。しかし、実際に仕事をしていると 「そもそもこれは何のためにやっているんだろう?」 というモヤモヤした状況に直面することも珍しくありません。

そのときに必要になるのが自分だけの視点で問いを立てる力です。

自分ならではの独自の視点で問いを立てることが、アート思考です。

本書が示すアート思考は、まず疑問や違和感、興味を大切にするところから始まります。そもそも、なぜこれが問題なのか、普通なら見過ごしてしまう部分におもしろいヒントはないかといった視点で問いを立てます。ときには既存の常識そのものに疑問符を投げかけます。

問いの立て方が変わるだけで、見えてくる世界がガラリと変化します。

マーケティングでも、データや常識では見えてこない消費者のインサイトを探り当てるとき、自分なりの問いや視点が突破口になります。表面的な分析だけにとどまらず、視点を変え、問いを立て、問いをズラしていく習慣を持つことによって、ユニークな着想が得られるでしょう。

不確実性の中で答え (価値) を創造する

アート思考は、不確実性の中で価値を創造する力の源になります。

仕事では、正解がひとつに定まらない状態は当たり前のようにあります。そんなときこそ、アート思考的なアプローチが活きます。

わからないことはアートの世界で常に存在するテーマです。アーティストは、はじめからハッキリとした答えを持っているわけではありません。描きながら問いを深め、考え続けることにより、新しい価値を生み出しているのです。

ビジネスも同じです。先が読めないからやめてしまうのではなく、先が見えないからこそ、自分なりに仮説を立て、実行しながら学びを得ようとする姿勢が大切です。たとえそれがまだ仮説レベルであっても、まずは発想をアウトプットしてみる。そこから新たな着想が生まれたり、周囲のフィードバックが得られたりします。

アート思考からの自分が納得するまで問いを追求してみるという態度が、仕事でも武器になるはずです。

自分の外に発信していく

アート思考を育むのに欠かせないのがアウトプットです。

本書では、アート作品を見て 「感じたこと」 に対して、作品のどこからそう感じたのかの 「事実」 を探る、あるいは作品の特徴などの 「事実」 に対して、自分がどう思うかの 「意見」 を述べる、そんなシンプルな問いかけのやり取りを積極的に行うことをすすめています。

こうした自分の外に発信していくことがアート思考では大事なプロセスです。

アウトプットが苦手な人ほど、頭の中だけで考えて終わってしまいがちです。けれど実際は、アウトプットをして頭の中のことを一度出してみると、それだけで考えが整理できたり、新たな気づきが生まれたり、周囲のフィードバックによって自分の考えが磨かれるという恩恵が得られます。

アート思考というと芸術的な才能のある人だけの特殊な能力のように感じるかもしれません。しかし、思ったことや感じたことを外に言葉として出してみるというのは誰にでもできます。

普段の仕事でアート思考を実践する方法


とはいえ、いきなりアート思考って言われても、具体的にどうすればいいのかと疑問に思うかもしれません。

この本には、読者が実際に試してみたくなるようなワークが多数掲載されています。ここでは、私がビジネスシーンでも応用できそうだと感じたポイントをいくつかピックアップします。

モノや出来事を見たときに 「なぜ?」 を問いかける

本書では、美術を見るとき、これは何がどうなっているんだろうと自分に問いかけることが推奨されています。

同じように、ビジネスの場でもたとえば人気の商品のことを知ったら 「なぜそのデザインなのか」 や 「なぜこのキャッチコピーなのか」 、「消費者はどこに魅力を感じているか」 などと自問してみるといいでしょう。

自分が何かに対して 「おもしろい」 とか 「なんだか違和感がある」 と感じたときこそ、アート思考を実践するチャンスです。

仮説を立てて、自分なりの解釈を言語化する

アートを見るとき、完全な正解がない作品ほど自分の内面を映し出す鏡のようになります。

ビジネスの現場では、今までの自分の常識や経験が通用しない場面がそれに当たります。そのときに 「わからない」 で終わるのではなく、「もしかするとこういう狙いがあるのではないか」 、「こういう顧客ニーズを想定しているのでは」 と自分なりの仮説を立ててみるといいでしょう。

声に出す、ノートに書く、同僚や家族に話してみる、それができなければ自分の頭で独り言のように言葉にするだけでも、問いを立て仮説をつくることでアート思考を実践していることになります。

再度、自分の興味や問いに立ち返って深掘りする

アーティストが作品を発表し、批評や感想を受けるように、私たちも 「こんなアイデアどうだろう?」 と社内や周囲に公開してみるわけですが、決してそこで終わりではありません。

まわりに発信や共有をし、得られた意見・フィードバックをきっかけに、また自分の視点で 「なぜ」 を問い直してみるというのもアート思考の体現です。

自分自身との対話を通じて、さらに発想が広がり、そして深まることでアイデアが生まれたり育っていきます。

* * *

アートの世界を学ぶメリットは、美術品や絵画に詳しくなるだけではありません。

そもそもを問い直す姿勢、常識や正解にとらわれず探求する態度、自分なりの答えを見つけ、そこから価値を生み出す創造力――。これからはますます重要になっていくのではないでしょうか。

アート思考を知り、少しでも実践していくことにより、きっと今ままでとは違う視点で物事を捉えられるようになるはずです。

まとめ


今回は、書籍 「自分だけの答え」 が見つかる 13歳からのアート思考 (末永幸歩) を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • アート思考とは、常識や正解にとらわれず、自分の内側にある興味をもとに、自分のものの見方で世界をとらえ、自分なりに探究し続け、新たな問いと答えを生み出すこと

  • 美術教育は技術や知識よりも 「自分の中から問いを発し、自分なりの答えを見つける力」 を育むことが重要

  • アート思考の実践のために、
    ① 驚きや違和感を見逃さない
    ② 自分の視点で問いを立てる
    ③ 仮説を立て、自分なりの解釈を言語化する
    ④ 自分の外に発信していく
    ⑤ 得たフィードバックから再度自分の問いを立て深掘りする


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。