#マーケティング #顧客理解 #価値提案
自社の商品やサービスは、お客さんの心の奥深くにある望みに応えられているでしょうか?
表面的なニーズの裏に隠れている、言葉にできないお客さんの本音を見逃していませんか?
今回は、お客さん自身も気づいていない隠れた本音である 「顧客インサイト」 を見つけ出し、商品開発やマーケティングにどう活かすかを、具体的な事例から解説します。
クラシエ 「マー & ミー ラッテ」
クラシエの 「マー & ミー ラッテ」 は、2018年にヘアケア商品として誕生し、その後はスキンケア商品も広げているブランドです。
シャンプー、リンス、トリートメントなどのヘアケア製品はもちろん、洗い流さないトリートメントやリンスインシャンプー、ボディソープやボディミルクまで多くのラインアップがあります。
ブランドのコアターゲットは3 ~ 9歳のお子さんを持つ家庭です。マー & ミー ラッテは 「わたしにも、こどもにも、うれしい。」 というコンセプトに表れているように、特徴は親子で使える安心感を中心に据えている点です。
親子で同じ製品を使えるので、これひとつで済むメリットがあります。それだけではなくお風呂に入るバスタイムを 「子どもとのコミュニケーションを豊かにする」 という思いがブランド全体の軸になっています。
顧客ニーズを掘り下げるとはどういうことか
では、クラシエの 「マー & ミー ラッテ」 の事例から学べることを掘り下げていきましょう。
今回の話は、顧客理解への深め方、顧客理解にもとづいた価値提案に示唆があります。
表面的な顧客理解だと…
一般的に、企業が商品開発を行う際は、想定顧客は今どんな悩みを抱えているかを掘り下げることによって、消費者やお客さんの困りごとを見出します。
例えばヘアケア製品であれば、髪のダメージ、パサつき、うねりなどが主な悩みとして挙がってくるでしょう。調査は、消費者・顧客が普段から自覚している困りごとを把握するのに有効です。
ただし、こうした消費者調査は表面的な顧客理解にとどまりがちです。
ヘアケアの場合は 「髪のダメージを気にしているならダメージケアの成分を強化しよう」 、「香りにこだわっているなら香りを良くしよう」 といった着想になります。これでは、商品カテゴリー (例: ヘアケア) の枠を超えるアイデアまでは生まれにくいわけです。
そのためにどこか似たような商品になってしまったり、店頭価格を無理やり下げることでしか差がつけられない課題がつきまといます。
今回の事例での着眼点
クラシエの 「マー & ミー ラッテ」 では、担当者自身を含む子育て世代の目線から調査を始めました (参考情報) 。
消費者からは、
- 自分の髪や肌もきちんとケアしたいけれど、子どもの世話をしながらだと慌ただしくてゆっくりできない
- 親子同時に時短で済ませたいけれど、子どもが嫌がったり、泡を目に入れないようにしたりと気を遣う
- 子どもの髪や肌を優しく洗えるシャンプーやボディソープがいいと思うが、同じものを自分用に使うと物足りない
こうした実態は、直接 「シャンプーによって髪のダメージが…」 といったひとつのカテゴリーに閉じた話ではありません。もっと根本的に 「子どもとのバスタイムを快適かつ楽しくしたいけれど、大変すぎて思うようにならない」 という子育て中の親としての悩みがあるわけです。
調査からは、子どもがまだ小さいうちに親子で一緒に入浴するのは、大切な時間だが正直手間が多く、作業化しがちになるという声が浮かび上がってきました。子どもとのお風呂は台所での "皿洗い" のようだという本音が聞こえてきたわけです。
クラシエは親子のバスタイムが作業になってしまう "皿洗い問題" を捉え、シャンプーや石鹸などの各カテゴリーレベルではなく、お風呂の時間そのものを消費者は本当はどうしたいかという領域にまで踏み込んだのです。
これは顧客インサイトまでの発掘です。
顧客インサイト
顧客インサイトはマーケティングでの重要な概念です。
顧客インサイトとは
結論から一言で言えば、顧客インサイトは 「お客さんを動かす隠れた本音」 です。
人は日常生活や日常業務の中で 「こんなのあったらいいな」 や 「こうできたら楽なのに」 と感じていても、それを明確に言語化できているとは限りません。あるいは、こうなってほしい理想に本人自身も気づいていない場合もあります。
クラシエの 「マー & ミー」 の消費者調査の中で出てきた 「子どもとのお風呂は皿洗いみたい」 というママの一言。この何気ない言葉には、親の立場で建前では決して他人には言えないような、「子どもと一緒にはいるお風呂がとにかく大変。できるならたまには一人でゆっくり入りたい」 という本音が垣間見えます。
一方で、お風呂の時間は親子で過ごせる大切な時間でもあるので、子どもとの時間をないがしろにしたくないという気持ちもあることでしょう。
良い顧客インサイトの条件
顧客インサイトと思えるものでも、本当に実際に商品開発やマーケティングに役立てるものが良い顧客インサイトです。
見出したインサイトが次の5つの条件を満たすと、ビジネスに活用できるものになります。
- 気づきを与え、ハッとさせる新たな発見や驚きがある
- 発想を拡げるインスピレーションが生まる
- 1行で言い表せ、理解できる
- 自分が心から腑に落ちている
- 人間らしさや人の本質がある
マー & ミーに5つの条件を当てはめると、1つ目の 「気づきを与え、ハッとさせる新たな発見や驚きがある」 は、親子でのお風呂を皿洗いみたいだと捉えた見立ては、消費者のお風呂への本音に気づきを与えるものです。
2つ目の 「発想を拡げるインスピレーションが生まる」 では、お風呂に入ることは作業という位置づけなので、作業から脱却し親子での大切な時間にするためには 「お風呂 = 親子のコミュニケーションの場」 という発想へとジャンプさせる起点になるでしょう。
3つ目の条件である 「1行で言い表せ、理解できる」 については、子どもとのお風呂が親にとって今は "皿洗いみたいになってしまっている" という表現は、端的に消費者が抱くイメージをわかりやすく伝えられ理解できます。
4つ目の 「自分が心から腑に落ちている」 は、当事者として子育てを経験した親であれば誰もが少なからず 「そうそう、まさに小さい子どもとの入浴はそんな感じ!」 と思えます。
5つ目の良い顧客インサイトの条件となる 「人間らしさや人の本質がある」 は、忙しいママやパパが 「子どもとの時間は大事にしたい、現実は実際はしんどい」 という葛藤や本音の気持ちがリアルにうかがえます。
このように、5つの条件を兼ね備えた顧客インサイトは、ブランドや商品のコアバリュー (中核的な顧客価値) の土台になります。
インサイトまでの本音を探り共感できるほどの深い理解ができると、お客さんの立場や置かれた状況、何を大切にしたいかの価値観、顧客ニーズ、ニーズの奥にある顧客インサイトなどの深い顧客理解にもとづいた商品開発やマーケティングにつなげることができます。
実際にクラシエは、発掘した顧客インサイトをもとに親子で一緒に使いやすく、時短もできて、それでいてケアの質は落とさないという 「マー & ミー ラッテ」 の商品ラインアップを展開しました。
顧客インサイトからの価値提案
顧客インサイトを得た後は、インサイトをどうやって顧客価値へとつなげるかが重要です。
クラシエの 「マー & ミー ラッテ」 の事例では、親子での楽しいはずのお風呂の時間が家事の皿洗いのような作業になってしまっている現状を解消し、親子で楽しめるようになることを目指しました。
ブランドコンセプトは 「わたしにも、こどもにも、うれしい。」 です。
商品開発への落とし込み
クラシエは、親が子どもを洗いながら自分のケアもでき、手間も減らしたいというニーズを満たすアイテムとして、マー & ミーのリンスインタイプを投入しました。髪がきしみにくいようにし、子どもと一緒に使っても安心できるやさしい設計が意識されました。
もうひとつはボディケア製品の追加です。お風呂の時間の中で肌のケアも一緒にしたいという消費者の気持ちを捉え、マー & ミーではボディソープやボディミルクもシリーズ化しました。シャンプーとリンスだけにとどまらず、家族で同じブランドを統一してもらうことを狙い、お風呂でのケアタイムをサポートすることを目指します。
コミュニケーション施策
クラシエは、マーケティングコミュニケーションにも顧客理解を反映しています。
具体的には、ファンコミュニティや SNS への活用です。クラシエはママたちの声を定期的に聞く場を設け、自社製品の改良点や新たなアイデアを継続的に発見することに努めています。広告や SNS でも子どもとの入浴を作業ではなく楽しむ時間という世界観を描き、作業感から解放されるストーリーを伝えます。
お風呂で遊べるグッズやお風呂上がりの絵本などを組み合わせるキャンペーンを展開し、親子の時間を楽しむコンテンツによって、親子でのお風呂を楽しいものに変える役割を果たそうとしています。
ブランド体験の創出
マー & ミーは、ブランドコンセプトを一貫させながら、実際の製品や施策に落とし込みました。
この事例が教えてくれるのは、カテゴリーレベルでの顧客ニーズだけではなく、消費者にとってもっと根本にある生活での感情や本音に目を向ける重要性です。
顧客インサイトまで掘り下げ、顧客心理を丁寧に拾い上げ、深めた顧客理解から新たな顧客価値を組み立てることによって、商品カテゴリーの枠を超えた独自のブランド体験を提供できます。
まとめ
今回は、クラシエの 「マー & ミー ラッテ」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 顧客ニーズを理解する際は、表面的なニーズや悩みだけでなく、背後にある本質的な感情や生活課題に目を向けることが重要
- 顧客理解を深めるためには、継続的な対話と、顧客の潜在的な願望や葛藤を丁寧に拾い上げる姿勢が不可欠
- 顧客インサイトとは 「人を動かす隠れた本音」 。他人は言いたくない、言葉にして説明できない、あるいは本人すらも気づいていない奥にある気持ち
- 良い顧客インサイトは、驚きや共感を生み、インスピレーションを生む、簡潔に表現でき、腑に落ち、人間らしさや本質的な感情を捉えている
- インサイトを商品開発やコミュニケーション施策に具体的に落とし込むことにより、商品やサービスの価値提案の起点になる
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