USJ を劇的に変えた、たった1つの考え方 - 成功を引き寄せるマーケティング という本には、戦略とは何かがわかりやすく書かれています。
戦略とは 「資源配分の選択」
戦略とは、「何か達成したい目的を叶えるために、自分の持っている様々な資源を、何に集中するのかを選ぶこと」 です。短く表現すれば、戦略とは目的を達成するための資源配分の選択です。
戦略の上位には目的があります。目的を達成するために、自分たちが何をやるかを明確にしたものが戦略です。ビジネスの文脈で言えば、やることが決まれば、人やお金などの資源 (リソース) を配分することができます。
やることを決めるとは、「やらないこと」 を決めることでもあります。この意味で 「戦略とは捨てることである」 です。
選択と集中とは、やらないことを決めるという取捨選択があるからこそ、やることに集中できるのです。
「目的 - 戦略 - 戦術」 の関係
ここからは、戦略と戦術、そして戦略の上位にある目的についてです。
戦略と戦術の違いを言えますか?
戦略と戦術の違いは、混同されがちです。例えば、以下のようなことはビジネスパーソンであれば、経験があるのではないでしょうか。
- 上司である部長が戦術だとして言っていることは、戦術ではなく戦略ではないか
- 部下が話している内容は本人は戦略と言っているが、戦術のことを話しているように聞こえる
なぜこのような状況が起こるのでしょうか?
戦略と戦術の違い
本書は、戦略と戦術の違いを次のように説明します。
- 戦略:目的を達成するための資源配分の選択
- 戦術:戦略を実行するためのより具体的なプラン
戦略は what 、戦術は how です。戦略は選択と集中を明確にした状態ですが、具体的に何をやるかまでは落とし込まれていません。具体的なやるべきことが戦術です。
目的と戦略と戦術の関係
戦術の上位には戦略があります。戦略の上位には目的がきます。
順に並べると3つは、目的 → 戦略 → 戦術の関係です。目的は why なので、3つを並べると why → what → how です。
本書には、目的・戦略・戦術の説明が、夫婦喧嘩の後の夫の状況を例にわかりやすく書かれていました。夫が妻と仲直りをしたいと考えた時に、3つは次のようになります。
- 目的:妻と仲直りする
- 戦略:妻は甘いものが好きなので、スイーツで気を取り直してもらう
- 戦術:お土産に人気のロールケーキを買って帰る
妻と仲直りをするという目的を達成するために、戦略の選択肢は色々あります。上記以外の候補は、自分の気持ちや考えを普段とは違ったやり方で伝える、妻が好きなブランドの装飾品で機嫌を直してもらう、などです。
戦略の時点では、具体的にどうすればいいかまでは落とし込まれていません。
戦略と戦術の関係は、what と how です。本書の例では、戦術として人気のロールケーキをお土産に買って帰りました。
もし戦略が、自分の気持ちを普段と違うやり方で伝えることであれば、戦術である how は、例えば普段は行かない高級レストランの静かな雰囲気で妻と語り合うことです。
立場によって、同じことが戦略になったり、戦術にもなる
先ほど、戦略と戦術について 「上司の言っていることは戦術ではなく戦略に聞こえる」 「部下は戦略と言っているが自分には戦術のことを話しているように聞こえる」 と書きました。
なぜこうなるかは、立場によって同じことが戦略とも戦術にもなり得るからです。本書では 「戦略のカスケードダウン」 という考え方から、これを説明しています。
戦略のカスケードダウンとは、戦略が上位組織から末端の下位組織まで下方展開されていくことです。
一定規模の会社では、会社全社・本部・部・課と、組織階層があります。それぞれの組織レベルで 「目的 → 戦略 → 戦術」 が設定されます。
戦略のカスケードダウンでは、 「目的 → 戦略 → 戦術」 が組織階層でつながっていきます。具体的には、上位組織の 「戦術」 が、下位組織では 「目的」 になります。流れとしては、以下です。
目的 → 戦略 → 戦術 = 目的 → 戦略 → 戦術
例えば、全社レベルの戦術は、本部レベルでは目的になります。同じことが本部から部、部から課への展開でも起こります。
具体的には次のように 「部の戦術」 が、「課の目的」 とつながります。
✓ 部レベル
- 目的:部の売上と利益率の目標をともに達成する
- 戦略:価格が高く、かつ利益率の高い商品の販売に力を入れる
- 戦術:新しく開発されたサービスを重点的に売る
✓ 課レベル
- 目的:課の売上目標を達成するために、新規開発サービスの販売に注力する
- 戦略:新サービスを従来顧客に提案する (既存サービスは注力しない)
- 戦術:自分たちが対応できていない顧客課題を発見し、新サービスでどう解決できるを提案する
上位組織である部の戦術 (新サービス販売を売る) が、下位組織である課の目的や戦略とつながっています。これが、戦略が、立場によっては同じ内容でも戦術になるということです。
良い戦略を見極めるための 4S
本書では、良い戦略か悪い戦略を見分けるために、4S が紹介されています。
4S とは以下の4つの頭文字をとったものです。
- Selective (選択的か): 「やること」 と 「やらないこと」 を明確に区別できているか
- Sufficient (十分か):投入する資源は勝利するために十分か
- Sustainable (継続可能か):短期ではなく中長期で維持継続できるか
- Synchronized (自社の特徴と整合するか):自社の特徴である強みや持っている経営資源を有利に活用できるか
1つ目の選択的かどうか (selective) は、戦略そのものです。何をやるか・何をやらないかが明確になっていなければ良い戦略とは言えません。
2つ目の十分か (sufficient) は、資源の逐次投入は筋の悪い戦略ということです。戦略はやることを絞るからこそ、集中して十分な資源を投下できます。
3つ目の継続可能か (sustainable) は、短期的にはよくても、中長期では競合にすぐに真似されてしまう戦略は良いとは言えません。2つ目の sufficient と関連して、投入する資源が枯渇して継続できない戦略もよくありません。
4つ目の整合性があるか (synchronized) は、例えば自社に高い技術力があるのであれば、技術力を活かす戦略は整合性があります。競合と比べ差別化できている自社の特徴を活かした戦略が、良い戦略です。
4つの S の全てが当てはまるケースは多くはありません。現実的に、戦略はどこかに不安や不確定要素を持っているからです。
著者は、4つが平均的に当てはまるよりも、4つのうち3つは当てはまり、そのうち1つが突出していたケースがホームランになったと言います。
戦略とマーケティング
本書のサブタイトルが 「成功を引き寄せるマーケティング入門」 とあるように、書かれていることはマーケティングがテーマです。
マーケティングだけではなく、戦略についても紙面を使い丁寧に説明されています。
これは、著者の次のような考え方からです。マーケティングを知るには、戦略的なものの見方が必要不可欠であるというものです。著者は、マーケターになるための第一歩は、戦略的に考えられるかだと言います。
この本では、戦略とマーケティングがビジネスの文脈でわかりやすく説明されています。
マーケターの真髄は消費者理解
書かれていたことでその通りだと思ったのは、マーケターとは消費者理解の専門家であるべきということです。
消費者理解はマーケターの真髄であり、マーケティングは消費者理解に始まり、消費者理解に終わるという言葉は印象に残りました。