2018/01/15

書評: 考えの整頓 (佐藤雅彦) 。身のまわりから本質を見抜くおもしろさ


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考えの整頓 という本をご紹介します。



エントリー内容です。

  • 本書の内容、なぜこの本を面白いと思ったか
  • 印象に残ったエピソード ( "差" という情報)
  • 身のまわりから本質を見抜く


本書の内容


著者は、メディアクリエイターの佐藤雅彦氏です。

佐藤氏は CM プランナーとして、湖池屋のスコーン・ポリンキー・ドンタコスや、NEC の 「バザールでござーる」 などを手がけたことで有名です。また、NHK 教育テレビ 「おかあさんといっしょ」 で、「だんご3兄弟」 の作詞とプロデュースを務めました。

この本は、雑誌 「暮しの手帖」 の連載コラムである、佐藤氏の 「考えの整とん」 が単行本になったものです。ともすれば見過ごしてしまう日々の不可解なことを、著者独自の視点で考察した内容です。

あとがきには次のように書かれています。

その連載をする上で守っていたことがひとつあります

それは、毎回毎回、強弱はあっても、必ず自分の心のどこかに引っかかってきた不明なものを見据えようということでした。そして、その不明なものを、この文章に書くことで少しでも明らかなものにしていこうと思ったのでした。

 「面白い」 という言葉は、本当のことが分かって、目の前が開けて明るくなるという語源を持っています。

 (引用:考えの整頓)


なぜこの本を面白いと思ったか


本書を興味深く読めたのは、まさに上で引用したことにあります。

著者が日常生活で気になったことや何か違和感を持ったことを、「なぜ自分はそう思ったのか」 「自分は何に引っかかったのか」 を掘り下げるプロセスが書かれています。本のタイトル通りの 「考えの整頓」 が鮮やかにされ、読み手にとっても知的な楽しさを味わえます

各エピソードで著者が心に引っかかったことは、どれもありふれた日常の一コマです。読者にとっても身近に起こり得ることです。

普通ならそのまま忘れてしまうようなことです。しかし、自分の気になったことをなぜそう思うのかを立ち止まって深く考え、著者の過去の体験とも照らし合わせたりして、自分にとってどういう意味を持つのかが書かれています。

面白く読めるのは、日常生活の引っかかりから新しい発見をするという著者の体験を、文章を通して共有できる感覚を持てるからです。


印象に残ったエピソード


本書の中で印象的だったエピソードは、「 "差" という情報」 でした。


 "差" という情報


著者はある冬の朝、これから着る Y シャツをオイルヒーターの上に乗せ、少しでも温かくしてから着ようとしていました。

温まったシャツに腕を通したときに、袖が濡れているように感じました。しかし、確かめてみると袖は実際には濡れていませんでした。著者は急いで出かけなくてはいけなかったのに、今の湿った感触、冷たいような感触は何だったのかを考え込んでしまいます。

気づいたのは、温度差でした。ヒーターでシャツを暖めた際に、袖と胴体部分で温まり方が均等ではなく、袖は冷たいままでした。

著者が興味を持ったことは、着ようとした腕が袖の温度差を感じ取り、その温度差から 「濡れている」 と誤った感覚を脳が得たことです。

誤認の根拠が、絶対的な温度ではなく相対的な温度差から、実際には袖は濡れていないのに濡れているという情報 (錯覚) をもたらしたという発見でした。著者はこれを面白いと感じたのです。


点と点がつながるおもしろさ


本書を興味深く読めたもう一つの理由は、各エピソードでの著者の日常の出来事と、著者の別の体験とが結び付けられることです。

著者が心に引っかかったことから何かしらの発見が書かれ、そこからさらに、別の思い出されたことが加わり、各エピソードの話が深みを増します。読んでいて、点と点がつながる瞬間は、知的興奮を体験できました。


あるクリスマスプレゼントの話


先ほどの、Y シャツの温度差の話の続きです。エピソードの後半で 「ファミリー・クリスマス」 という話が紹介されます。とても貧しい一家のクリスマスプレゼントの話です (実話とのことです) 。

その一家は貧しいので、クリスマスプレゼントを買える余裕はありませんでした。クリスマスイブの夜、家族は沈んだ気持ちで眠りにつきます。しかし、翌朝に起きてみると、プレゼントの山を発見します。

箱を開けて出てきたのは、何ヶ月も前に失くしたと思っていたショール・帽子・スリッパなどでした。家族みんなはプレゼントがうれしく、失くしたものが見つかり、笑いに包まれたクリスマスの朝を迎えられました。

実は、家族の一番下の弟が、何ヶ月も前から失くなっても騒がれないような物を少しずつ隠してしました。クリスマスプレゼントにするという計画を立て、家族の誰にも気づかれることなく実行していたのでした。

 「情報の差」 という視点で見ればこの話は、失くなったと思い諦めていた物が戻ってくるという、つまりマイナスからゼロになった 「差」 によって、幸せが訪れたということです。

寒い日にヒーターで温めた Y シャツの部分の温度差から身体が誤反応した自分の体験、実話として知っていたクリスマスのある家族の話という、2つの全く違う点が 「情報差によって人は意味を見い出す」 という観点でつながるのです。


なぜ 「差という情報」 が印象に残ったのか


本書から興味深かったエピソードの紹介として、「差という情報」 を取り上げました。

ここからは、なぜ私自身がこの話をおもしろいと思ったかを考えます。

今の会社での私の肩書は 「シニア マーケティングリサーチ マネージャー」 です。マーケティングリサーチの業務の一つは、データ分析です。分析の本質は、何かと何かを比べ、意味のある知見を見い出すことです。

比較をするとは、対象と対象から 「差」 を見つけ (あるいは 「差がないこと」 を確認し) 、それがビジネスの観点から何を意味するかを考えることです。「差という情報」 は、私自身が普段からデータ分析で扱っているそのものです。

仕事で見ている 「差」 は、数字やグラフになって、パソコンやレポート上にある情報です。

本書での 「差という情報」 のエピソードは、著者がヒーターで温めた Y シャツの胴体と袖の部分の温度差に対して、著者の身体からの情報を脳が誤った反応をしたという話でした。興味深いと思ったのは、袖が濡れていないのに 「濡れている」 と感じただけで終わったのではなく、「人は情報差によって意味を見い出す」 という解釈を著者がしたことでした。

このエピソードが印象に残った理由は、著者の出来事とデータ分析に 「比較をした差という情報から意味を見い出すこと」 という共通する本質があったからです。


身のまわりから本質を見抜く


本書のおもしろさは、著者の日常のちょっとした出来事を起点に、ものごとのおもしろさや本質を見抜く著者の思考回路を読みながら追体験できることです。

自分が何か心に引っかかったこと、違和感を持ったことを、そのまま流して忘れ去ってしまうのではなく、立ち止まってなぜそう思ったのかを考えます。得られる発見や新しい意味を、興味深く読めます。

なぜ引っかかったのか、自分はそう思うかという why 、内省したことは要するにどういうことかの so what です。そこから、子どもの頃の体験などの全く別の話とつながる瞬間。これらを著者は一つずつ丁寧に文章にすることによって、自分の考えを整頓したのです。

本書では27のエピソードを、知的な楽しさを味わいながら読むことができます。



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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 合同会社の代表 (会社概要はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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1981年 (昭和56年) 生まれ。名古屋出身、学生時代は京都。現在は東京23区内に在住。気分転換は毎朝の1時間のランニング。