#マーケティング #コンバージョンエントリーポイント #本
うちの商品の良さが伝わらない…。マーケティング施策を打っても成果が出ない…。
陥ってしまっているのは 「自分たちが伝えたいこと」 だけを発信し続ける罠かもしれません。世の中のデジタル化が加速し、消費者の購買行動が複雑化する今、従来型のトップダウン型の戦略だけでは、もう立ち行かなくなっています。では、どうすればいいのでしょうか?
今回は、書籍 「顧客を見れば、戦略はいらない - 解像度を上げるボトムアップマーケティング (川端康介) 」 から、顧客理解を中心に据えた 「ボトムアップマーケティング」 を解説します。
顧客理解を起点としたボトムアップマーケティングの実践方法について、ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
顧客理解を起点にしたボトムアップマーケティング
生活者行動の中でも、特に購買プロセスの多様化や変化に伴い、従来のトップダウン型の硬直的な戦略だけでは対応しきれない状況が顕在化しています。
本書 「顧客を見れば、戦略はいらない - 解像度を上げるボトムアップマーケティング」 が提唱するのは、実在する消費者やお客さんの顧客理解を中心に据えたボトムアップからのアプローチです。
ひとりの消費者・お客さんを深く理解することによって、マーケティング課題に柔軟かつ効果的に対応する道筋が見えてきます。
顧客理解が 「お客さんから選ばれる理由」 つくる
ビジネスの現場では、ブランドが 「自分たちが伝えたいこと」 だけを発信し続け、お客さんの心に響かないという事態が起こります。その結果、売上の停滞や減少となり、なんとかするために A/B テストの実施頻度ばかりが増えてしまうものの問題は解決されず、組織全体が疲弊してしまうのです。
ブランドが成し遂げたい 「ありたい姿」 を消費者に押し売りをして結果が伴わないのであれば、市場から求められているブランドの 「あるべき姿」 という、お客さんが本当に聞きたい 「自分が言ってほしいこと」 を提示するのがいいでしょう。
そのためには、理想のお客さんではなく 「今ブランドを選んでくれている人」 を理解することが現実的です。消費者やお客さんは何が求めているのかを理解し、その上で現実的なアプローチは何ができるのかを考え、実行していくわけです。
こうした顧客起点を実践し、発信内容に顧客視点を反映することで、マーケティングコミュニケーションは 「伝える」 から 「共感される」 に変わります。出発点となるのが 「顧客理解」 であり、顧客理解から売り手は 「お客さんが選ぶ理由」 「顧客価値」 をつくれるのです。
顧客価値とは
顧客価値とは、本質的には価値かどうかはお客さんが決めるものです。売り手が発見したり見出したとしても、それが本当に価値かどうかは最終的にはお客さんが決定者です。
価値を数式で表すと、次のようになります。
価値 = 便益 - コスト
売り手が提供できるのは 「商品の便益」 にすぎません。商品の便益がお客さんが支払うコストを上回れば、お客さんにとってはお金を払ったり時間をかける以上の価値を感じる商品となります。
CVEP (コンバージョンエントリーポイント) の活用
向き合うべきお客さんとして、この本で重視するのは 「今ブランドを選んでいる人」 や 「今選んでくれる可能性が高い人」 です。本書では、今のお客さんを理解する視点として 「コンバージョン (Conversion (CV) ) への距離」 を提唱しています。
CV への距離とは、「ブランド」 と 「ブランドの便益を享受できる可能性があるお客さん」 との間にある 「購入への難易度」 を指します。この難易度である CV との距離を縮めるためにカギを握るのが 「コンバージョン・エントリー・ポイント (Conversion Entry Point / CVEP) 」 です。
CVEP とは
CVEP は、今選ばれる自社の優位性をつくり続けるために、顧客理解に欠かせない重要な概念です。
CVEP は3つの要素を持っています。「お客さんの置かれた状況」 と 「その状況下でお客さんが求める便益」 、「代替手段では満たされない未充足ニーズ」 です。
- お客さんの状況: お客さんがブランドの便益を最も享受しやすい具体的な状況
- 求める便益: その状況においてお客さんが期待している価値
- 未充足なニーズ: 既存の代替手段では満たされないお客さんの望み
3つを具体例に当てはめると、たとえば、忙しい平日のランチタイムという場合です。
時間があまりない昼休みの休憩時という状況にある人が (お客さんの状況) 、短時間で栄養が摂れる食品を求めています (求める便益) 。
この人にとっては、いつも行くコンビニのお弁当などでは栄養成分が足りないと感じているので (未充足なニーズ) 、自社商品の訴求を一日の栄養がこれひとつで 75% を摂れる食品とすることによって、この状況にある消費者から選ばれることを狙います。
状況をとらえる
お客さんのニーズを的確に捉えるためには、そのニーズが発生する 「状況」 を理解するというアプローチが有効です。因果関係で言えば、ニーズという結果の原因となる状況を把握するわけです。
状況は 「When (いつ) × Where (どこで) 」 で解像度を上げるといいです。例えば、When と Where の組み合わせは次のようなイメージです。
- 母の日が近い時に、たまたま寄ったデパ地下で
- 育児に疲れていた時に、同じような境遇のママの投稿を見たインスタで
- 忙しくて自分の身なりをきちんとしていなかった時に、10年ぶりの中学校の同窓会が決まって
- 次のミーティングまで 30 分しかない時に、少しでも何か食べておきたいランチタイムに会社で
以上のように、お客さんが 「When (いつ) × Where (どこで) 」 という状況において発生したニーズは何かを見極めます。逆からたどれば、ニーズという結果として生じた事象だけを見るのではなく、ニーズが生まれた環境要因や背後にある心理を捉え、ニーズの原因となる構造要因を状況から体系的に理解するわけです。
状況とニーズというお客さんの 「条件文脈」 を捉えることにより、どうすれば自社商品を選んでもらえるのかという、打ち出す便益へのアイデアや具体的な施策に落とし込めるのです。
顧客ニーズの多様性
お客さんが商品やサービスを選ぶ理由は、その時々のニーズによって異なります。本書では、顧客ニーズを大きく3つに分類します。
- 「~ が欲しい」 という所有欲求
- 例: 新しいスマートフォンが欲しい、憧れのあのブランドのバッグが欲しい
✓ DO ニーズ
- 「~ したい」 という行為欲求
- 例: 痩せたい、旅行をしたい、疲れを癒したい
✓ BE ニーズ
- 「~ になりたい」 という存在的欲求
- 例: 自信を持ちたい、成功したい、幸せになりたい
3つのニーズはお互いに影響を及ぼし合います。
例えば、Do ニーズを満たすために、ツールや手段として Have ニーズが生まれます。
具体的には Have ニーズで手に入れたおいしいごはんによって、空腹を満たしたいという Do ニーズが満たされます。さらに、ごはんにより満腹感を得ただけではなく満ち足りた気分になれば、幸せになりたいというという Be ニーズも叶えることができるというふうにです。
CVEP を理解する問い
CVEP の要素である、状況、便益、未充足ニーズの3つを理解するためには、次のような問いで整理をしていきます。
- どんな状況でニーズが発生したのか
- どんな便益を求めたのか
- どんな代替手段を選んでいたのか (想起していたのか)
- 代替手段にどんな不服や不満、未充足なニーズがあるのか
また、自社商品や競合商品への現状のニーズの充足度合いを知るには、以下のような視点で掘り下げます。
- 期待値を超えた体験は何か
- 期待値通りだった体験は何か
- 代替手段にスイッチした要因は
- 代替手段にスイッチせず使い続ける要因は
こうした切り口から、商品・サービスの一度目の体験をした後に再び購入を続ける、または続けない (リピートしない) という意思決定には何が影響を与えたのかを、お客さんの立場になって理解していきます。
CVEP を起点する価値訴求
未充足なニーズに対してのアプローチとして、次のような定型構文を使うことで、お客さんが感じる未充足なニーズを課題化し、解決するための具体的な便益を効果的に伝えられます。
- 〇〇 しなくても、〇〇 できる (例: 時間をかけなくても、おししい食事を楽しめる)
- 〇〇 しても、〇〇 にならない (例: 甘いものを食べても、体重増加になりにくい)
これらのメッセージパターンを見せられたり言われることにより、お客さんは 「今まではこうしていたけれど、それをしなくても満足できる」 というような解決策を理解でき、現状の課題感を明確に認識するようになります。
CVEP を活用するマーケティングの流れ
CVEP を起点にするマーケティングでは、消費者にとっての 「便益」 を、置かれている 「状況」 に沿って訴求し、商品の魅力を高めることを目指します。
自社の優位性を生みだし続けるためには、今使ってる代替手段からのスイッチを促す必要があります。「状況 × 便益 × 未充足ニーズ」 の3点を抑え、どの CVEP が最もブランドにとって CV との距離を近づけられるかを検証し、戦略的に 「お客さんから選ばれる理由」 をつくるのです。
通常のカテゴリーエントリーポイント (CEP) は、お客さんの状況にフォーカスした概念です。それに対してコンバージョンエントリーポイント (CVEP) は、お客さんの 「状況」 だけではなく、その状況で生じている 「ニーズ」 、ニーズを満たすためにお客さんが求めている 「便益」 と 「代替手段での未充足ニーズ (その状況で未だに満たされていないニーズ) 」 に焦点を当てます。状況、ニーズ、便益、未充足ニーズという流れです。
お客さんに、自社商品の便益が認識できる状況を伝え、その状況の下で現在選択している代替手段では満たされていない未充足なニーズを認識してもらうことによって、お客さんの中で自社商品への自分ごと化を促します。そして必要なブランドであるとの認識を持ってもらうことでブランドスイッチを狙います。
お客さんへのコミュニケーションでも、お客さんの状況、求める便益、既存商品・サービスの未充足ニーズから成る CVEP という切り口を使います。どの状況のお客さんにどんな便益を伝えることがブランドスイッチを可能にするのかという視点です。
顧客満足度の階層的理解 (狩野モデル)
顧客満足度を考える上では、「狩野モデル」 を活用することによって、品質要素を細分化でき、お客さんの期待値への解像度を高められます。
狩野モデルは、品質を次の5つに分類します。
- 当たり前品質: あって (充足されても) 満足度は上がらないが、もしない (不充足している) と不満に感じる品質要素。例: 飲食店の清潔さ
- 一元的品質: あると満足度が上がり、ないと不満につながる品質要素。例: 携帯キャリアやインターネットプロバイダーの通信速度
- 魅力的品質: あれば満足度が上がるが、仮になくても不満にならない品質要素。例: ホテルのウェルカムドリンクサービス
- 無関心品質: あってもなくても顧客満足度に影響を与えない品質要素。例: 電化製品の過剰なモード設定 (実際はいつも同じ設定でそんなに設定を使い分けない)
- 逆品質: あることで逆に満足度が下がり、むしろないほうがうれしい品質要素。例: 宣伝色が強く多すぎるメルマガ
狩野モデルのフレームを使うことにより、売り手はどの品質要素に注力すべきかを判断できます。
まとめ
今回は、書籍 「顧客を見れば、戦略はいらない - 解像度を上げるボトムアップマーケティング (川端康介) 」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 消費者行動の変化により、従来のトップダウン型の戦略だけでは対応が難しくなっている。顧客理解を起点にしたボトムアップマーケティングを取り入れることが有効
- 今ブランドを選んでいる人を深く理解することに焦点を当て、CVEP (Conversion Entry Point) に注力する。CVEP はお客さんとブランドの間にある購入への距離を縮めるためにカギを握る
- CVEP を捉えるには、次の問いで掘り下げる。① どんな状況でニーズが発生したか、② 求める便益は何か、③ 代替手段に不満や未充足なニーズがあるか
- 状況 → その状況で生じるニーズ → ニーズを満たすために求める便益 → 状況下での既存への未充足ニーズを理解するという一連のつながりでの顧客文脈理解が大事
マーケティングレターのご紹介
マーケティングのニュースレターを配信しています。
気になる商品や新サービスを取り上げ、開発背景やヒット理由を掘り下げることでマーケティングや戦略を学べるレターです。
マーケティングのことがおもしろいと思えて、すぐに活かせる学びを毎週お届けします。レターの文字数はこのブログの 3 ~ 4 倍くらいで、その分だけ深く掘り下げています。
ブログの内容をいいなと思っていただいた方にはレターもきっとおもしろく読めると思います (過去のレターもこちらから見られます) 。
こちらから登録して、ぜひレターも読んでみてください!