#マーケティング #顧客理解 #DX
ビジネスの現場では、時間や人材が限られる中で、業務品質や効率をどう維持・向上させるかという課題があります。
JR 西日本のお客様センターも、日々多くの問い合わせを受ける中で、同じような課題に直面していました。そんな状況を変えたのが 「生成 AIの導入」 です。
AI によって業務効率化だけにとどまらず、オペレーターの支援や顧客体験向上を実現した DX 推進でした。JR 西日本の取り組みには DX への示唆があります。ぜひ事例から一緒に学びを深めていきましょう。
JR 西日本のお客様センターの DX 推進
JR 西日本のお客様センターは、日々1日2500件に及ぶ消費者からの問い合わせに対応しています。
こうした膨大な業務を効率的にこなし、顧客の声 (VoC: Voice of Customers) を有効活用するために、JR 西日本は東京大学松尾研究室発の AI ベンチャーの ELYZA (イライザ) との協業を通じて生成 AI の導入を進めました (参考記事) 。
ELYZA は音声認識技術の活用や、応対履歴の自動要約プロセスの設計を支援します。
では、JR 西日本が AI を積極的に導入した背景から順に見ていきましょう。
抱えていた課題と生成 AI 導入の背景
JR 西日本のお客様センターは、慢性的な人材不足と対応品質のばらつきという解決すべき問題を抱えていました。オペレーターのスキルの差による対応品質のばらつきは、顧客満足度を低下させる要因となっていました。
また、人員や取れる時間が不足していたため VoC 分析も全てのデータを活用できず、一部の重要度の高いデータのみに絞らざるを得ない状況でした。
こうした問題を解決するため、JR 西日本のお客様センターは生成 AI を活用して業務フローを全面的に見直し、業務プロセスの効率化とデータ分析の高度化を図る取り組みを始めました。
生成 AI による業務効率化の成果
JR 西日本のお客様センターでは生成 AI の導入により、それまで手作業で行われていた応対履歴の要約作業が自動化されました。
具体的には、音声認識技術によって通話内容が自動でテキスト化され、その後で生成 AI が重要なポイントを抽出して要約を作成します。従来はオペレーターである人が行っていた時間と労力のかかる作業を軽減し、効率化を実現しました。
その結果、1件あたりの要約作成時間が65秒短縮され、特に 「ご意見・ご要望」 の要約作成では230秒の削減が実現しました。また、週報の作成に要していた2時間の作業時間が30分に なり、他には、輸送障害時にも迅速にデータを集計し可視化することができるようにより、オペレーターの負担が軽減されています。
オペレーター業務の高度化
生成 AI による自動要約機能は、オペレーター間のスキルの差を均質化し、データ品質の向上にも寄与しています。
AI によって問い合わせの傾向を客観的に把握できるようになったことで、オペレーターは事前に資料を確認し、適切な対応への準備をできるようになりました。顧客とのコミュニケーションの質が向上しています。
VoC 活用の新たな可能性
従来は、JR 西日本のお客様センターでは一部の重要な顧客データしか分析できていませんでしたが、生成 AI の導入で全ての応対履歴データを分析することが可能となりました。
結果、問い合わせの季節的な傾向や特定の駅に集中する事象など、それまでは見逃されていたパターンを把握。サービス改善や運営計画の見直しにおいて、具体的なデータをもとにした意思決定ができるようになったのです。
さらに、ダッシュボードを活用して、地域別や駅別、キーワード別にデータを可視化することにより、問い合わせ傾向が一目でわかるようになりました。情報の見える化により、サービス改善のアイデアを迅速に導き出すことができ、生成 AI は現場の判断を支える役割を果たしています。
JR 西日本の生成 AI 活用から学ぶ DX 推進
ここまで見てきた JR 西日本のお客様センターの取り組みは、企業での DX の推進において示唆に富む事例です。
デジタル技術を活用した変革 (DX) の進め方は、次の3つのステップに分けて整理できます。
- デジタイゼーション Digitization
- デジタライゼーション Digitalization
- デジタルトランスフォーメーション Digital Transformation (DX)
では、それぞれの段階に当てはめて、DX の推進のポイントを詳しく見ていきましょう。
アナログ作業を効率化するデジタイゼーション
DX の第一歩となる 「デジタイゼーション」 では、従来アナログで行われていた業務をデジタル化します。
例えば、JR 西日本のお客様センターでは音声認識技術を使い、通話内容をテキスト化し、生成 AI が要約を自動作成する仕組みをつくりました。オペレーターの作業負担が軽減され、応対品質の均質化や時間削減といった現場の課題につながりました。
業務プロセス全体のデジタル化による新たな価値創出
次に進むステップは 「デジタライゼーション」 です。
ここでは、業務プロセス全体を見直し、デジタル技術を活用して新たな価値を生み出します。JR 西日本のお客様センターでは、生成 AI により全ての応対履歴を分析対象とでき、結果をダッシュボードで可視化する仕組みをつくりました。
デジタライゼーションにより、地域や駅ごとの問い合わせ傾向やキーワードの頻出パターンを一目で把握することが可能になります。サービス改善のための意思決定が早くでき、さらには顧客ニーズにもとづいたアクションが取れるようになったのです。
業務プロセス全体をデジタル化するデジタライゼーションにより、企業は効率化にとどまらず、顧客にとっての新たな価値を創出する基盤を築くことができます。
ビジネスモデル全体を変革するデジタルトランスフォーメーション
そして最終ステップである 「デジタルトランスフォーメーション (DX) 」 は、組織全体にデジタル技術を浸透させ、ビジネスモデルそのものを変革するところまでを目指します。
JR 西日本のお客様センターでは、生成 AI を活用した VoC 分析環境を構築し、データ処理の効率化にとどまらず、全社的な事業運営に活用する仕組みへと進化させました。
この進化はまず全ての問い合わせの履歴データを分析対象に含め、ダッシュボードによる可視化を実現したことから始まりました。その後、これらのデータを活用して現場での意思決定をサポートするだけでなく、経営層にとってもリアルタイムな情報をもとに戦略的な判断が可能となる体制が整えられました。現場と経営層が同じデータを共有し、組織全体で一貫した顧客中心のサービス改善を実施できるようになったのです。
DX ではデジタル技術を活用して、企業の価値提供のあり方を根本から再定義することが重要です。DX を実現するには、デジタイゼーションとデジタライゼーションでつくりあげた基盤と、顧客視点での取り組みが不可欠です。
お客さんの声を全社で共有し、リアルタイムでサービス提供や業務プロセスに反映した JR 西日本のお客様センターの仕組みづくりは、顧客を中心としたビジネスモデルの変革です。
以上のように、JR 西日本の事例から得られる教訓は、DX を推進する際には、デジタイゼーションから始まりデジタライゼーション、そして DX へと進むアプローチが効果的であるということです。高望みをし性急に一足飛びな DX 化を無理強いをしたり、または単なるツールのデジタル化 (デジタイゼーション) を DX と捉えてしまわないよう、注意が必要です。
それぞれの段階で、技術だけでなく顧客視点や従業員の現場視点も取り入れることによって、効率化だけでなく価値創出へとつなげることができるでしょう。
まとめ
今回は、JR 西日本のお客様センターの DX の取り組みから、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- デジタイゼーション (Digitization) : アナログ工程をデジタル化する。例えば紙のやりとりを廃止してのデータ入力の自動化や手作業の削減
- デジタライゼーション (Digitalization) : 業務プロセス全体を見直し、デジタル技術を活用して利便性や効率化を生み出す。例としてデータの可視化や分析による迅速な意思決定が可能になる
- デジタルトランスフォーメーション (DX) : 経営や事業全体にデジタル技術を浸透させ、ビジネスモデルや業務のあり方そのものを変革する。データ活用を全社的に展開し、社内だけではなく顧客の価値創出を実現する
- DX への重要なポイントは、段階的なアプローチ、技術だけでなく顧客視点の重視、現場と経営層でのデータ共有、継続的なサービス改善
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