#マーケティング #顧客理解 #本
自社のビジネスでは本当に 「お客さんのこと」 を理解できているでしょうか?
少なくない企業が、お客さんの行動や心理を十分に掘り下げていないまま施策を進め、思うような成果を得られていないのではないでしょうか?
マーケティングで大事なのは 「お客さんのことを本人以上にマーケターが理解すること」 です。
ご紹介したいのは、 「ビジネスの結果が変わる N1 分析 - 実在する1人の顧客の徹底理解から新しい価値を創造する (西口一希) 」 という本です。
ひとりのお客さんを徹底的に理解する 「N1 分析」 は、顧客視点で価値をつくり出す手法です。お客さんからの 「選ばれる理由」 を見出す具体的なアプローチについて、ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
目指したい顧客理解とは?
西口一希さんの著書 「ビジネスの結果が変わる N1 分析 - 実在する1人の顧客の徹底理解から新しい価値を創造する」 。
この本は、サブタイトルにあるようにひとりのお客さんを 「N1 分析」 という方法で徹底的に理解することで、新しい価値をつくり出す方法を詳しく解説する一冊です。
お客さんのことを本人以上に理解する
マーケティングの土台になるのは、「お客さんのことをお客さん自身が理解している以上に、マーケターが理解すること」 です。
私自身の経験からも言えるのは、顧客理解が浅かったときにはマーケティング、もっと言えばビジネスはうまくいかないということです。消費者やお客さんについて深く理解し、顧客理解にもとづいて戦略や施策を考えていくことによってビジネスの成果につながります。
マーケティングを進める上で 「人間への興味」 は必要不可欠な素養です。常に消費者やお客さんの行動や心理に目を向けることがマーケティングの成功のカギを握ります。
世の中の関心事や流行っているトレンド、人気商品に興味を持ち続け、なぜ人気なのかを自分なりに掘り下げ言語化し、解像度を上げることが重要です。
全社的な顧客理解
企業において、顧客理解はマーケティングを専門とする組織だけに任せておけばいいわけではありません。
顧客理解を全社的に取り組み、理解した洞察を組織内で共有し合うことで、企業全体が顧客起点の組織に生まれ変わります。現場の担当者だけではなく、マネジメント層、事業責任者や経営層も顧客理解に努めなければ、本当の意味での顧客起点になった会社にはなれません。
顧客理解を組織全体で共有すれば、部門間の連携がスムーズになります。
部署ごとに異なる役割を担っていても、「どのお客さんに何を提供するべきか」 という顧客戦略のベースがそろっていれば、マーケティングのみならず商品開発や営業などの全体のビジネス活動において一貫性が生まれます。そして、顧客起点になった一枚岩での推進が実現します。
「N1 分析」 の考え方
この本での顧客戦略の考え方は、あらゆるビジネスは 「顧客 (Who) 」 と 「商品の提供価値 (What) 」 の組み合わせによって成り立つとします。
顧客価値への捉え方
商品の顧客価値には 「便益」 と 「独自性」 のふたつの要素があります。
お客さんが商品に対して便益 (買う理由) と、独自性 (他の商品を選ばない理由) を見出したときに、初めてお客さんにとっての価値が成立します。逆に言えば、いくら売り手が自社商品に価値があると思っていても、消費者やお客さんがそのように感じたり認識しなければ、商品には価値がないわけです。
ここまでの顧客戦略と価値の捉え方を前提にすると、マーケティングでやることは次の活動に集約されます。
- 商品の便益と独自性をつくる、今ある価値を強化し改良する
- コミュニケーションを改善し、価値を効果的に伝えていく
- 商品の存在を知らない潜在顧客層に認知を広げる
- 新たな価値を生む商品を開発する
N1 分析とは
N1 分析とは、ひとりの消費者やお客さんに焦点を当て、その人を深く理解することで、ビジネスへの洞察を得る手法です。
一般的に、既存の仮説や理論を検証して施策を設計する 「演繹的アプローチ」 と、具体的な事例を観察して共通パターンや法則を見出す 「帰納的アプローチ」 のふたつがありますが、N1 分析は後者の帰納的アプローチです。
N1 分析という帰納的なやり方に演繹的なアプローチを組み合わせることで、さらに強力な方法になります。ひとつひとつの事象から帰納的に新たな仮説を発見し (N1 分析) 、それを演繹的な手法で検証する (例: アンケート調査の定量データから仮説を検証する) ことによって、より確かな結論を導き出せるでしょう。
N1 インタビューの実践方法
N1 インタビューでは、お客さんの 「認知」 「購入」 「使用」 のそれぞれにおいて、相手の行動や心理を掘り下げます。
4W1H で訊く
インタビューでぜひ活用したいのが 「4W1H」 のフレームです。たとえば認知においては、次のように質問します。
- When (いつ) : この商品を知ったのはいつですか?
- Where (どこで) : どこでこの商品を知りましたか?
- What (何を) : 何が気になりましたか? どの部分が目につきましたか?
- Who (誰が) : 誰から聞きましたか? どんな人と一緒のときに知りましたか?
- How (どのように) : どのようにして商品を知りましたか? そのとき、どう感じましたか?
4W1H の質問により、消費者やお客さんの行動変化を時系列で整理し、背景にある心理的変化を洞察します。なお、人は自分の心理変化を言語化できないことは普通なので、インタビューをする側が質問を通じて無意識のニーズや動機を引き出すことに注力します。
お客さんの 「心が動いたポイント」 に注目する
お客さんが 「認知」 から 「購入」 、そして 「使用」 「ロイヤル化」 に至るプロセスでは、それぞれにおいて心が動いたポイントが存在するものです。
各ポイントを特定し、再現可能な形でマーケティングに活用することにより、効果的なマーケティング施策が可能になります。
たとえば、購入前後での心理的な変化や行動の変化を時系列で分析することにより、お客さんは何をきっかけに商品・サービスを選択をしたのかを明らかにできます。この洞察が新規顧客の獲得やロイヤル顧客の移行につながるのです。
話の脱線から新しいアイデアを引き出す
N1 インタビューでは、お客さんが 「変わったこと」 を話し始めたときが深掘りをするチャンスです。
一見すると本筋から外れた話に思え聞き流したくなるかもしれませんが、実はここに新しい価値を生むヒントがあるのです。自分たちの想定範囲や常識の外側にある 「Out of the box (思考という箱の外) 」 こそが、新たな洞察やアイデアを生む可能性を秘めています。
既存顧客と潜在顧客へのインタビューの違い
N1 分析では、消費者や顧客を理解するために、既存顧客と潜在顧客それぞれに対するインタビューの目的と方法を明確に区別しています。それぞれの特性に応じたアプローチを取ることで、より洞察を得られます。
ロイヤル顧客から順番に見ていきましょう。
ロイヤル顧客へのインタビュー
ロイヤル顧客とは、特定の商品やブランドに強い愛着を持ち、頻繁に購入・利用してくれるお客さんのことを指します。ロイヤル顧客層に対するインタビューの目的は大きく2つです。
1つ目は、ロイヤル顧客を増やすためのアイデアを探ることです。
そのために、ロイヤル顧客が初めて商品を購入したときの行動や心理を詳しく聞き出します。どんな状況で商品を知り、なぜ購入を決めたかを掘り下げることで、新規のお客さんを増やす糸口が見えてきます。
例えば、「初めての購入時に友人の紹介があった」 や 「特定の広告が印象的だった」 といったエピソードは、新たな顧客獲得施策のヒントになります。
2つ目の目的は、ロイヤル顧客が継続利用するためのアイデアを探ることです。
既存の商品やサービスのどこに魅力を感じているのか、長期での利用の理由を明らかにします。加えて 「さらにどんな体験や提案があれば、より満足感が高まり続けて利用したいと思うか」 を具体的に探ります。
極端な例かもしれませんが、「このお客さんが永遠に離れないためには何を提供すべきか」 を考える視点でインタビューを行うことが有効です。
離反顧客へのインタビュー
離反顧客とは、かつては購入していたが現在は購入を止めているお客さんのことです。
離反顧客層へのインタビューの目的は、離反顧客が戻るためのアイデアを得ることにあります。
購入をやめた理由を直接訊くのではなく、再び購入したいと思わせる条件を探ることがポイントです。例えば、「この商品を再び購入するとしたら、どんな条件になることが必要だと思いますか?」 や 「価格以外にどんな価値があれば購入を考えますか?」 といった質問をします。
価格を下げる以外の方法で商品の便益や独自性を強調し、魅力的な提案を考えることが重要です。
認知未購入の潜在顧客へのインタビュー
認知未購入の潜在顧客とは、商品・サービスの存在を知ってはいるものの、まだ一度も購入したことがない消費者のことです。
この潜在顧客層に対するインタビューの目的は、初めての購入につながる条件を探ることです。「どのような便益や独自性があれば購入を検討しますか?」 といった質問を軸に、購入を促進する要因を見極めます。
例えば、なぜこの商品を知っていても購入しないのか、どのような情報や提案があれば興味を持つのかを尋ねます。現在の商品が十分に価値を伝えられていない要因を明らかにます。
競合商品や代替品のロイヤル顧客へのインタビュー
競合他社の商品を好む顧客層の視点を知ることは、自社商品の改善において大事です。
競合のロイヤル顧客へのインタビュー目的は、競合商品の隙 (自社商品の勝ち筋) を見つけることにあります。
現在利用している商品の満足度や不満点を探ることで、競合商品が満たしきれていないニーズを明らかにします。例えば、「競合商品で特に気に入っている点は何ですか?」 や 「その商品に不足しているものや、不満に思うことはありますか?」 といった質問です。競合他社の商品にない便益と独自性を提案する視点で競争優位性を生み出す方法を模索します。
認知していない潜在顧客へのアプローチ
自社商品のことを認知していない消費者は、そもそも自社商品やブランドの存在を知らないため、便益や独自性を伝えるチャンスすらありません。
この層に対しては、インタビューで訊いていくのはコミュニケーションできる機会や場所 (メディア) を探る質問です。
また、そもそも自社商品の存在を知らないので、自社商品を買わないのは知らないからという理由以外のものはなく、どうアプローチをすれば知ってもらうかへの洞察を得ることが大事です。どのような媒体やチャネルを使うべきか、どんなメッセージが効果的かを見定める材料となります。
顧客層ごとで目的と質問を変える
N1 分析にもとづくインタビューは、各顧客層ごとに明確な目的を持って行うことが大切です。
ロイヤル顧客には購入頻度や単価を増やすためのヒントを得ようとする姿勢が求められます。一般顧客にはロイヤル化を促進する施策を探り、潜在顧客には認知から購入に至る条件を見つけることが重要です。
また、競合顧客に対しては競合商品の隙を突いた提案を設計し、離反顧客には再購入を促すための新しい価値を提案する必要があります。
このように、既存顧客と潜在顧客へのインタビューは、それぞれ異なる目的と質問で行われます。顧客層ごとの行動と心理の違いを深く理解することで、的確で持続的なビジネスへの成長に貢献できます。
まとめ
今回は、書籍 「ビジネスの結果が変わる N1 分析 - 実在する1人の顧客の徹底理解から新しい価値を創造する (西口一希) 」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ビジネスで大事なのは、お客さんをお客さん自身が理解している以上に深く理解すること。お客さんの行動と心理を洞察し、なぜその商品やサービスが選ばれるのかを言語化する
- お客さんが選ぶ理由となる商品の価値とは、お客さんが商品に 「便益」 と 「独自性」 を見出すことで生じる
- 顧客理解はマーケティング部門だけの役割ではなく、企業全体で共有すべき取り組み。部門間をつなぐ横串としての顧客理解をもとに、「誰にどんな価値を提供するのか」 を全社的に統一することで、顧客起点からの一貫した活動になる
- N1 分析は、ひとりのお客さんに焦点を当て徹底的に理解し、洞察を得る手法
- N1 インタビューは、顧客の 「認知」 「購入」 「使用」 の段階を 4W1H (いつ, どこで, 何を, 誰が/誰と, どのように) の視点で掘り下げる。お客さんの行動の変化や心理的背景を洞察し、お客さんの 「心が動いたポイント」 を見出すことで、新規顧客獲得やロイヤル顧客育成につなげることができる
- ロイヤル顧客、離反顧客、潜在顧客それぞれに異なる目的と質問でインタビューを実施する。ロイヤル顧客からは満足の理由や継続のヒントを、離反顧客からは再購入の条件を探り、潜在顧客からは購入につながる要因を発見する
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