投稿日 2025/04/09

異性より同性?若者たちの恋愛観と友情観から考える、マーケティングへの示唆

#マーケティング #顧客理解

Z 世代の若者にとって、友人関係で本当に大切なものとは何になるのでしょうか?

友だちの数よりも質、恋愛よりも長く続く安心感を求める彼ら・彼女らは、異性よりも同性の友人につながりを感じているようです。こうした価値観の変化に対し、マーケティングはどのように応えるべきなのでしょうか?

今回は、若年層の友情観と、マーケティングへの示唆について考えていきます。

Z世代の交友関係に見る新しい価値観


現代の若者の交友関係には、これまでと異なる新しい価値観が現れています。

例えば、同性の友人とのつながりを重視するというのはそのひとつです。

博報堂生活総合研究所が実施した30年間の調査データによれば (調査対象は19 ~ 22歳の未婚男女を対象 (参考記事) ) 、Z 世代の若者たちにとって 「同性の友人」 や 「ローリスク仲間」 は大切な存在のようです。

主な調査結果を詳しく見ていきましょう。

同性の友人が重視される背景

調査結果からの興味深いのは、誕生日プレゼントの贈り先に見られる変化です。

1994年と2024年の調査を比較すると、恋人や異性の友人ではなく、同性の友人にプレゼントを贈る若者が増加しています。これは、同性の友人がより深い絆を築く対象として選ばれていることを示しています。

さらに、友人関係を取り巻く環境にも変化が見られます。

SNS の普及により、高校以前からの古い友人関係が途切れたりリセットされにくくなり、大学進学後や就職後もそのつながりが継続することが一般的になりました。また、中高一貫教育校の増加も、6年間という長期間で固定化された友人関係になる一因となっています。

若者たちは友人の数よりも質を重視し、気の合う少数の友人との関係に価値を見出すようになっているようです。

恋愛から距離を置く傾向

若者が同性の友人を重視する理由は、恋愛やデートへの関心の低下とも関係しています。

博報堂生活総合研究所の同じ調査によれば、恋愛やデートに対する願望が30年前より減少しており、異性との関係よりも同性の友人との時間を優先する傾向が強まっています。

同性を選ぶのは 「一緒にいて楽しい」 や 「落ち込んだ時にそばにいてほしい相手」 という理由からで、心理的に同性との時間がより快適で安心できるものと捉えられます。

同性の友人が 「ローリスク仲間」 に

同性の友人が重視される背景には、ストレスのない関係を求める心理も関係しています。若者たちにとって同性の友人は、長く続くサステナブルのような関係として維持しやすく、恋人や異性の友人よりも気を遣わずに済むというものです。

さらに、現代は情報過多であり、同性の友人は 「情報戦の戦友」 としての役割も果たしています。同じ情報ニーズを持つ仲間との情報交換は、ネット上の情報よりも信用できるものであり、クローズドな環境での信頼感にもとづく人間関係です。

一方で、異性間のコミュニケーションでは、性に関する話題や誤解を避けるための配慮、コンプライアンス意識が含まれたルールを守ることが求められ、気軽なコミュニケーションが難しくなる傾向があります。このような背景から、同性の友人は 「コンプラ解放区」 として、自由で安心できるコミュニケーションの場となっているようです。

心理的安全性が鍵

VUCA (不確実性や複雑性の高い時代の総称) と言われる現代において、若者が同性の友人を求める理由の根底には、心理的安全性へのニーズがあります。

若者は、同性の友人との間に 「ありのままの自分でいられる」 や 「恥ずかしい姿を見せられる」 といった心理的な安心感を見出しています。こうした心理的安全性は、忙しくストレスの多い現代社会の中で重要な要素なわけです。

同性の友人とのつながりは、若者たちにとって安心して自分をさらけ出せる特別な存在であり、恋愛や異性との付き合い以上に重視される関係性です。

マーケターへの示唆


では、若者の価値観を浮かび上がらせた調査から、私たちは何が学べるでしょうか?

消費者やお客さんが 「何に価値を見出しているかの価値観」 を顧客視点で理解することは、企業やブランドがマーケティング活動において欠かせないことです。

前半の内容をおさらいすると、若者たちは友人同士やコミュニティ・界隈を重視し、共感を大切にし、信頼できる関係を築くことを求めています。その中でも特に 「同性の友人」 を大事にするという若者の心理と行動の背景には、心理的安全性、共感、信頼性といった要素が絡んでいます。

こうした価値観に企業やブランドがどう応えるべきか、3つの観点から考察していきます。

心理的安全性を重視したコミュニケーション

若者たちが同性の友人を 「ローリスク仲間」 として選ぶ背景には、気を遣わない関係であることが挙げられます。

心理的安全性を重視する価値観に応じて、ブランドが提供するコミュニケーションやサービスにも 「ストレスフリー」 が求められます。例えば、複雑な手続きを簡略化したり、チャットボットによる迅速な対応を提供するなど、お客さんが余計な心理的・物理的な負担を感じずに利用できる工夫が必要です。シンプルで直感的に利用できるサービスや、強引な押し売りを避けることも求められます。

また、サービス体験の中で 「安心できる空間」 を作り出すことも重要です。実店舗やオンラインの場で、ユーザーが気軽に参加できる機会を提供することで、ブランドは 「信頼できる存在」 として認識されることを目指します。例えば、友人同士で気軽に参加できるコミュニティイベントや、趣味を共有できる場をつくることによって、若者にとって魅力的な接点を作り出せます。

共感を生み、仲間同士のつながりを支援する仕組み

若者が同性の友人に求めるのは、浅い付き合いの枠を超えた 「仲間としての共感」 や 「一緒に情報を交換できる関係」 です。この価値観をブランドが支援するためには、つながりを促進する仕組みをつくりことが大事です。

ブランドや企業は、ユーザーやお客さん同士が共感を深められるような活動を積極的に企画するといいでしょう。同じ趣味やライフスタイルを持つ人々をつなぐコミュニティや、特定のテーマにもとづいたイベントを実施することにより、お客さん同士の横の関係で自然なつながりを生み出すことができます。

また、共同プロジェクトやチャリティ活動、チームチャレンジといった、参加者が一緒に目標に向かって取り組める活動を提案することで、より強い共感とつながりを築けます。ブランドは仲間の集まる場の提供者として認識されるようになることを目指します。

さらに、広告やコミュニケーションにおいても 「共感」 を意識することがポイントです。

若者が自身の価値観に共鳴できるような実体験やストーリーをもとにしたメッセージを発信することにより、ブランドとお客さんの間に感情的なつながりが生まれます。「あなたもここに属している」 「私たちは共にいる」 という帰属感や仲間意識を醸成することが、特に若者へのアプローチには効果的です。

誠実で信頼できるブランドポジションの確立

若者が同性の友人に 「信頼できる情報源」 という役割を求めるように、ブランドもまた、誠実で信頼できる存在として認識される必要があります。

そのためには、透明性を確保した情報提供が問われます。例えば、商品の製造プロセスやサステナビリティへの取り組みを開示し、お客さんや社会に向けて正直でオープンな姿勢を示すことが大切です。

また、フェイクニュースや誇張した広告に敏感な若者に対しては、実際のユーザーの声や事実にもとづく情報を使ったコミュニケーションが求められます。

例えば、ユーザーのレビューを SNS で共有したり、実際の顧客インタビューにもとづくコンテンツを発信することでブランドの透明性を打ち出せます。お客さんが 「このブランドなら信頼できる」 と思えるような情報発信を心がけるといいでしょう。

さらに、Z 世代が敏感だとされる環境問題や社会的な課題に対して積極的に取り組むことによって、若者の共感を得るとともに、ブランド価値を高めることにもつながります。

心理的安全性、共感、信頼性。これら3つの視点を軸にしたマーケティングは、若者に刺さるだけでなく、長期的に支持されるブランドを構築する上でも大切です。

まとめ


今回は、若者の価値観を取り上げ、マーケティングへの示唆を考えました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • Z 世代の若年層は、異性の友人よりも同性の友人を重視する傾向がある。SNS の普及や中高一貫教育校に進学する生徒の増加により、長期的な友人関係が維持されやすくなっている。友人の数よりも質を重視する

  • 恋愛やデートに対する関心が減少し、代わりに心理的な快適さと安心感を同性の友人に求めるようになっている。同性の友人は 「ストレスフリーな関係」 や 「コンプラ解放区」 として、異性間に見られる配慮からの負担が少なく、自由で安心できる存在

  • Z 世代は同性の友人との関係に 「心理的安全性」 を求めており 「ありのままの自分」 でいられることが大切にしている

  • マーケティングへの示唆として、ブランドは若者が求める心理的安全性、共感、信頼性を提供することが重要

  • ストレスの少ないサービス提供、共感を促す活動、誠実で透明性のある情報発信によって、若年層に支持されるブランド構築を目指す


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。