#マーケティング #顧客文脈 #価値創出
自社のお客さんが本当に求めているものを、どのように捉えていますか?
顧客ニーズの把握を表面的にとどめてしまいがちですが、同じ商品でも、お客さんの置かれた 「状況」 や心理的・身体的な 「状態」 によって、お客さんにとっての価値はまったく異なるものになります。
今回は、顧客ニーズを 「手に入れたい」 「やりたい」 「こうありたい」 の3つに分類し、それぞれの相互関係を紐解きながら、顧客文脈をどのように理解し、お客さんにとっての価値を創出できるのかを考えます。
ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
三種類のニーズ
マーケティング活動を効果的に進めるには、お客さんのニーズを理解することが不可欠です。
カタカナにした日本語での 「ニーズ」 という言葉は意味する範囲が広く、顧客ニーズを的確に捉えるためにはニーズへの解像度を高めることが大事です。
そこで、ニーズを大きく三種類に、すなわち 「手に入れたいニーズ (Get) 」 「やりたいニーズ (Do) 」 「こうありたいニーズ (Be) 」 に分類し、それぞれの特徴と相互関係を詳しく見ていきましょう。
手に入れたいニーズ (Get)
人が 「これが欲しい」 や 「あのブランドのものがいい」 と具体的な対象への入手や所有を求めるニーズです。
具体例には次のようなものがあります。
- このブランドのスニーカーが欲しい
- 最新のスマートフォンを手に入れたい
- 自分の推しの限定グッズをなんとしてもゲットしたい
手に入れたいというニーズは、具体的でわかりやすいですが、裏を返せば同じ目的を満たす多くの選択肢が市場に存在します。そのため、Get のニーズを満たすためには 「なぜその商品が欲しいのか」 という奥にある気持ちまで掘り下げることが重要です。
やりたいニーズ (Do)
2つ目は、人が 「これをやりたい」 や 「こうしたい」 という行為を求めるニーズです。やりたいニーズは、行為そのものが目的化しています。
たとえば、以下のようなものがやりたいニーズの例です。
- おいしい食事を食べたい
- 運動して体を動かしたい
- 旅行に行ってリフレッシュしたい
こうありたいニーズ (Be)
人が 「こうありたい」 「こうなりたい」 と願う、自分自身やまわりとの関係性について状態や存在に関わるニーズです。
こうありたいニーズの具体例を挙げると、次のようなものがあります。
- 健康的な体でありたい
- 家族から頼られる存在になりたい
- 幸せを感じたい
Be というありたいニーズは、普遍的かつ深層的な動機から生まれます。
三種類のニーズの相互関係
ここまで見てきた三種類のニーズは互いに独立しているわけではなく、結びついた階層的な関係性を持っています。
「やりたいニーズ (Do) 」 は、達成手段として 「手に入れたいニーズ (Get) 」 を必要とします。
そして 「こうありたいニーズ (Be) 」 は、「やりたいニーズ (Do) 」 と 「手に入れたいニーズ (Get) 」 によって最終的に満たされることが多いです。たとえば 「健康的な自分でありたい (Be) 」 を持つ人は、「運動したい (Do) 」 という行動につながり、そのために 「運動用のシューズが欲しい (Get) 」 と考えるとういふうにです。
このように 「こうありたいニーズ」 が根本にあり、それを満たすための具体的な手段として 「手に入れたいニーズ」 や 「所有したいニーズ」 が発生するわけです。
ニーズを理解するための鍵は 「状況」 と 「状態」 にある
ここまで、ニーズを3つに分類して見てきました。
認識として大事なのは、ニーズはあくまで結果だということです。ニーズの背景にはお客さんの置かれた 「状況」 や、お客さんの心理的または肉体的な 「状態」 というニーズが生まれる原因があるのです。
お客さんの置かれた状況や状態を理解することで、ニーズを 「点」 としてではなく 「線」 として捉えられ、お客さんの文脈を構造的かつ立体的に把握することができます。これはお客さんを深く理解するために欠かせない視点です。
では3つのニーズのそれぞれにおいて、背景となる 「状況」 や 「状態」 について見ていきましょう。
手に入れたいニーズ (Get) の状況と状態
手に入れたいニーズは、特定の商品を入手したり所有を求めるものでした。
「これが欲しい」 というニーズの裏側にある状況や状態は、たとえ次のようなものです。
- 状況: SNS で友人が新しいスニーカーを買ったことを画像付きで投稿していた
- 状態: 自分は何年も履き続けている古いスニーカーしかなく、魅力的な靴を持っていないことで自分だけが取り残されたような気持ちになった
やりたいニーズ (Do) の状況と状態
やりたいニーズは、人が特定の行為を求めるものですが、これもまた、その瞬間の状況や状態が引き金となっています。
「これをやりたい」 というニーズをつくり出す状況や状態の例としては、以下があります。
- 状況: 仕事で残業をして、長時間働いた一日の終わりには身体的に疲れを感じている
- 状態: 明日もまた仕事なので、疲れを取りたい。エネルギーをチャージし活力を取り戻したいという心理状態
こうありたいニーズ (Be) の状況と状態
こうありたいニーズは、普遍的で深層的な欲求ですが、発生するには個々人の状況や状態が影響します。
「こうありたい」 や 「こうなりたい」 というニーズの源となる状況や状態の例は、次のようなものです。
- 状況: 健康診断の結果が返ってきて、要注意となった項目が明らかに去年より増えた
- 状態: そろそろ健康についてちゃんと考えないといないという気持ちが芽生え、健康管理への意識が高まった
こうありたいニーズは、目に見える行動よりも心理的なことに根差しています。特定の状況と状態が、その人にとってどのような意味を持つのかを捉えることによって、こうありたいニーズをつかむことができるでしょう。
お客さんにとっての価値をもたらすために
では最後のパートでは、お客さんのニーズを満たし、顧客価値をつくるためにはどうすればいいかを考えていきましょう。
そのためにまず大事なのは、顧客起点になることです。
顧客起点になるとはどういうことか
ビジネスにおいて顧客起点になることの重要性は、今さら声を大にして言うことではないかもしれません。
しかしあらためて今回の議論を踏まえると、顧客起点になるとは、お客さんの 「状況」 「状態」 「ニーズ」 を起点として、顧客文脈に沿った価値は何かをお客さんの立場になって考えることです。
ニーズを 「点」 として見るのではなく、背景にある状況と状態を結ぶことで、ニーズをストーリーのある 「線」 として理解できます。
たとえば、ある人が 「運動用シューズが欲しい」 という手に入れたいニーズを持っている場合、その背景に 「最近運動不足を感じている (状態) 」 や 「周りの同僚がランニングを始めた (状況) 」 があるかもしれません。
商品の顧客価値とは、文脈に意味を与えること
お客さんにとっての商品やサービスがもたらす顧客価値とは、「その状況で」 「その状態にある」 お客さんにとっての 「意味のある便益」 のことです。
先ほどのランニングの例を続けると、置かれた状況と状態までわかれば、売り手にとっては、シューズを提案する際にはランニングの楽しさや、同僚と走ることを共有しあえるコミュニティの魅力まで伝えることが効果的であると判断できます。
線としての顧客理解は、的確な価値提案を可能にします。このアプローチは、次のような重要なポイントを含みます。
- 状況に合った価値提案: お客さんが特定の状況に置かれたとき、その状況に寄り添った便益を提供する
- 状態を変える価値: お客さんの感情や身体的な状態をより良いものに変える価値をつくり出す
- ニーズを満たす便益: お客さんが求めているものに直接的、または間接的に応える価値をもたらす
重要なのは、商品そのものに価値があるというよりも、商品がお客さんの文脈において使われたり保有されることで意味を持ち、初めてお客さんにとっての価値が生まれるということです。
お客さんにとっての文脈において価値という意味を与えることが、ニーズに応えるということの本質です。
顧客文脈を理解することが価値創出の源泉
売り手や作り手が、お客さんの状況や状態と結びついたニーズを深く理解することは、お客さんにとって 「価値とは何か」 を見極める上で重要です。
置かれた状況や状態というお客さんの文脈 (コンテクスト) を理解しないままでは、自社商品やサービスが本当にお客さんにとって意味を持つかどうかを判断することはできないでしょう。当然ながらニーズを満たせません。顧客文脈までの理解こそが 「お客さんにとっての価値」 を定義する起点になるのです。
相手の文脈を把握し、お客さんのニーズとその背後にある状況と状態に寄り添うことが、顧客起点でマーケティングを行うことが大事です。
まとめ
今回は、顧客ニーズをどのように捉え、お客さんにとっての本当の価値をいかにつくり出すかを考察しました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ニーズは大きく 「手に入れたいニーズ (Get) 」 「やりたいニーズ (Do) 」 「こうありたいニーズ (Be) 」 の3つに分類される。3つは階層的に関連し、「こうありたいニーズ」 が他の2つのニーズの原動力となる
- ニーズは結果であり、背景には 「状況」 や 「状態」 が存在する。状況と状態まで理解することでニーズを 「線」 として捉えられ、顧客文脈を立体的に把握できる
- 同じ商品でも、お客さんの置かれた状況と状態によって意味する価値は異なる。商品やサービスの価値は、その商品自体ではなく、お客さんの文脈 (状況と状態) で求められる便益によって決まる
- 顧客文脈を理解しないままでは、お客さんにとっての意味のある価値を実現することはできない。よって顧客起点のアプローチからお客さんの具体的な状況と状態に寄り添い、顧客文脈に即した価値を提案することが重要。
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