#マーケティング #広告
日本広告審査機構 (JARO) が、50年間にわたる広告への消費者からの苦情を分析し、広告に対する人々の不満が、この50年間でどのように変わってきたのかを明らかにしました。
時代が変わっても、消費者が抱く広告への不快感の本質は変わらないというのです。この事実から、私たちはどのような教訓が得られるのでしょうか?
ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
広告の苦情の50年史
日本広告審査機構 (JARO) が 「広告の苦情の50年史」 を公開しました。JARO 設立から50年の歴史を振り返り、広告に対する苦情の変遷をまとめた Web サイトです。
苦情件数の推移
JARO は、時代ごとの件数の推移や広告内容の変化、使用された広告媒体の違いを分析しました。
1974年の設立当初は電話や FAX、手紙による苦情受付が主でしたが、2014年以降はオンラインでの受付も加わり、苦情件数は大幅に増加しています。
年代ごとの変化を見ていくと、件数は年を追うごとに増加しています。1974年度の初年度には54件の苦情が寄せられ、その多くが 「うそ・大げさ・まぎらわしい」 といった消費者を誤解させる広告に関するものでした。
その後、1990年代にはテレビや折込広告に対する苦情が増え、2020年度には違法なネット広告の増加と新型コロナウイルスの影響を背景に、過去最多の年間で1万5100件の苦情が記録されています。
苦情の中身の変化
何の広告への苦情かも変わりました。
最初の10年間 (1974 ~ 1983年度) は不動産や食品広告に対する苦情が多く、1984年度からは人事募集広告への苦情が増加しました。
1994 ~ 2003年度の次の10年にかけては、バブル崩壊の影響で金融・保険業の広告に対する苦情が増え、東日本大震災後の2011年度には多くの企業が CM を自粛し、同じ団体の広告が繰り返し放送されることに対して 「しつこい」 という苦情につながりました。
直近の2014 ~ 2023年度は、特にネット広告への苦情が急増しています。ゲームやマンガアプリの広告における性的表現や恐怖を煽る表現に対する 「見たくない」 「子どもに悪影響がある」 といった苦情が目立ちます。
ここまで見てきたように、50年間の広告への苦情を振り返ると、時代ごとの経済状況や社会情勢、生活の変化、流行に応じて苦情の対象となる商品やサービスが変化していることがわかります。
苦情の本質は今も昔も変わらない
50年で日本の社会は変わりましたが、JARO の広告についての見解によれば、消費者がどのような広告に対して不快感や問題意識を抱くかという点に関しては、基本的な傾向は50年前と今で大きく変わっていないと感じられるとのことです。
「うそ・大げさ・まぎらわしい」
具体的には、時代の経過とともに広告媒体や形式が変化し、確かに苦情の対象となる商品やサービスは異なってきたものの、消費者が広告に対して抱く基本的な反応や懸念は根本的には変わらないということです。
たとえば、1974年度の JARO の設立当初に多く寄せられた苦情は 「うそ・大げさ・まぎらわしい」 という内容でした。消費者が広告に対しての誤解や欺瞞を感じたときに生じた不満によるものです。
この種の不満は、消費者が広告を信頼できないと感じたときに発生します。このような広告に対する反感や不快感は現代においても依然として存在しています。事実、2020年度にはネット広告に関して 「違法性や誤解を招く表現に対する苦情」 が急増しており、消費者は依然として広告の正確さや透明性を求めていることがわかります。
消費者が広告に対して望むことは昔も今も同じ
JARO は近年はネット広告に対しても、同様の不快感が寄せられていると報告しています。特にゲームやマンガアプリの広告における適切ではない表現に対して、「見たくない」 や 「子どもに悪影響を与える」 という苦情が増えていました。
時代や媒体が変わったにもかかわらず、消費者が広告に対して望む安心感や倫理性に対する期待が、昔も今も同じであることを示します。
消費者が広告に対して敏感になるのは、誇張や不正確さ、過度な感情的な訴求 (恐怖や性的表現) といった内容であり、こうした広告への不快感は50年前から変わらず今なお続いているのです。広告が時代とともに変化する一方で、消費者の広告への基本的な価値観や期待は大きくは変わっていないことを示唆します。
広告への苦情の歴史からの教訓
では、広告への苦情の歴史から、私たちが得られる教訓について掘り下げていきましょう。
JARO の広告についての苦情の50年史から、マーケティングコミュニケーションにおいて気をつけたいポイントを汎用化して考察します。
消費者の生活や価値観の理解
JARO の50年史の分析からも明らかなように、広告に対する消費者の反応は、時代の経済情勢や社会の価値観と深く結びついています。
広告メッセージが消費者の日々の生活や価値観に寄り添っているほど、自然で共感されやすいものとなり、不快感を抱かれにくくなります。
マーケティングコミュニケーションにおいては、まず注力する消費者やお客さんの生活背景や価値観の理解が土台となります。市場調査や消費者インサイトなどの消費者理解を通じて、注力顧客の生活習慣や価値観、行動の変化を把握することが重要です。消費者がどのようなメッセージや製品に共感するかが見えてきます。
時代とともに変わる生活者の価値観を尊重することで、より自然で受け入れやすいコミュニケーションを目指します。
信頼性と透明性の確保
広告に対する苦情の多くは、誤解を招く表現や誇大広告に対して寄せられます。1974年の JARO 設立当初から 「うそ・大げさ・まぎらわしい」 という広告への苦情が続いており、消費者は広告の信頼性や透明性を重視していることがわかります。
広告が信頼されるには、製品やサービスについて正確かつ誠実に伝えることが不可欠です。
倫理的な表現と社会的配慮
近年ではネット広告における過激な表現、特に性的表現や恐怖を煽る表現が問題視されています。
消費者からは 「見たくない」 とか 「子どもに悪影響を与える」 との苦情が多く寄せられ、広告が倫理的かつ社会的に適切であることが問われています。消費者に安心感を持ってもらうためには、表現が適切であることが大切です。
感情に訴える表現におけるバランス
広告は消費者の関心を引くために、感情に訴えることが多くありますが、恐怖や不安、過度な期待を煽るような表現は、逆効果となります。
消費者からの拒絶反応を起こさないように、表現の内容と手法にはバランスが求められます。具体的には、共感や親近感を呼ぶポジティブな表現を心掛けることで、消費者が安心して広告を受け入れられるようにします。
また誇張表現も避けるべきです。消費者に不安を感じさせるような表現を抑え、過度な恐怖や不安を煽することなく、消費者が安心して広告を受け入れる広告表現にします。
ターゲット層に応じたパーソナライズ
年代や媒体によって広告に対する反応が異なることから、消費者の属性に応じて広告内容を実現するパーソナライズが重要です。
ネット広告の普及に伴い、特定の消費者層のニーズや関心に応じたメッセージができるようになっており、消費者ごとの違いに丁寧に対応することが信用関係の構築につながります。
以上の5つのポイントから、消費者の生活や価値観に寄り添い、信頼性と透明性を確保しつつ、適切で倫理的な表現を用いることによって、消費者に共感されやすいマーケティングコミュニケーションになります。
まとめ
今回は、JARO が発表した広告への苦情の50年の歴史を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 広告への苦情の本質は今も昔も変わらない。時代ごとに広告の媒体 (メディア) や形式が変わっても、広告での誇張や不正確さ、過度な感情的訴求に対する消費者の不快感は50年前から今も同じ
- 広告への苦情の歴史からの教訓は、① 消費者の生活や価値観の理解、② 信頼性と透明性の確保、③ 倫理的な表現と社会的配慮、④ 感情に訴える表現におけるバランス感、⑤ ターゲット顧客の顧客文脈に合わせたパーソナライズ
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