投稿日 2025/07/21

カロリーメイトが 「自宅で手軽に栄養補給」 を訴求。利用シーンを増やすことでの "水平方向" と "垂直方向" のマーケティング

#マーケティング #選ばれる回数 #利用シーン

自社のこの商品を、もっと多くの人に買ってもらうためにはどうしたらいいのか?

ビジネスの成長には、新規顧客を開拓する 「水平方向」 と、既存顧客の利用頻度を高める 「垂直方向」 の両方を狙う視点が欠かせません。

では、消費者やお客さんから商品を買ってもらうために、具体的にどのように 「選ばれる機会」 を増やしていけばいいのでしょうか?

今回は、カロリーメイトの事例からマーケティングの役割を見ていきます。ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。

カロリーメイト 「自宅で手軽に栄養補給」 を訴求


大塚製薬が1983年に発売したカロリーメイト。忙しい学生や社会人がどこでも簡単に食べられる栄養補助食品として長く支持されてきました。

カロリーメイトは 「外出先で便利に食べられる」 というブランドイメージに加え、「家庭内での栄養補給」 という新たな利用シーンを打ち出し始めています。

出典: PR TIMES


たとえば、子育て中の家庭で忙しい朝の栄養不足をサポートしたり、リモートワーク中のちょっとした休憩の時に栄養を摂る食べ物や飲料としてもらったりです。

カロリーメイトは自宅でも手軽に栄養補給ができるというメッセージを積極的に発信することにより、家庭内での需要も取り込みたいという狙いです。

もともと外出先での軽食用途でカロリーメイトを買っていた人だけでなく、「在宅中心の生活だけれど、栄養バランスが気になる」 「子どものおやつがわりにもう少し栄養のあるものを与えたい」 と考える消費者も利用してくれることが期待できます。

マーケティングの本質は 「選ばれる回数」 を増やすこと


では、カロリーメイトの事例から学べることを掘り下げていきましょう。自社商品がどのように 「選ばれる回数や確率」 を増やせるのかに示唆があります。

マーケティングとは 「お客さんから選ばれる理由をつくる活動」 です。ここにマーケティングの本質があり、商品が使われるシーンを増やしたり変えたりすることで、新たな 「選ばれる状況」 をつくりだせるのです。

利用シーンを増やすためには、自社の商品は 「いつ・どこで・誰が・なぜ使っているのか」 を見直し、新しい視点で 「こんなシチュエーションでも実は便利です」 と提案することが大切です。

カロリーメイトの場合は、それまでは 「外出先で手軽に食べられる栄養補給食品」 というポジションでしたが、新たに 「家庭での手軽な栄養補給シーン」 を訴求しました。

ではさらに学びを深めていくために、新しい利用シーンの打ち出しが生む効果を、二つの方向である 「水平方向」 と 「垂直方向」 に分けて見ていきましょう。

新しい利用シーンの開拓が生む 「水平方向」 の効果


まずは水平方向の効果です。水平方向とは、市場で新規顧客を開拓することです。

新規顧客層の拡大

カロリーメイトの事例に当てはめれば、従来は 「忙しくて朝ご飯が食べられないビジネスパーソンが出勤中や出社して食べる」 や 「塾の合間に時間がない受験生が行き帰りにコンビニで買って食べる」 など家の外での食事が想定されていたカロリーメイトの主な利用シーンでした。

ここに 「家庭内での栄養補給にもカロリーメイトは便利」 という新しい利用シーン (喫食シーン) を打ち出すことによって、これまでカロリーメイトを食べていなかった消費者層にも届きやすくなります。

顧客文脈に沿っての利用シーン提案

今までは外出先で食べられるカロリーメイトは必要ないと思っていた消費者にも、「自宅で時間がないときにも栄養のあるものが手軽に食べられる」 、「在宅ワーク中のちょっとした休憩時においしく栄養補給ができる」 というメッセージは魅力的に映るはずです。

こうした新しい利用シーンである自宅で手軽に栄養補給ができるという訴求があることで、外出はあまりせず自宅中心で暮らす人や、子育てに追われる主婦・主夫など、今までカロリーメイトは自分向けではないと思っていた消費者が、新しいお客さんになってくれることが期待できます。

自宅で食べるシチュエーションならではの顧客文脈に合わせた訴求をすることによって、新しいお客さんの選択肢にカロリーメイトが加わりやすくなります。必要になるのは、商品の特徴と消費者が置かれている状況をつなぐ打ち出し方です。

新しい利用シーンの提案が生む 「垂直方向」 の効果


続いては 「垂直方向」 の効果です。垂直方向とは既存顧客の利用頻度を高めることを指します。

既存顧客が別の場面でも使ってくれる

すでに商品を買ってくれているお客さんに対して 「実はこんなシーンでも使えます」 と追加の使い方を提案することにより、同じお客さんが使う頻度や買う回数を増やすことを狙います。

カロリーメイトの場合は、通勤時などの外出で簡単に食べられる存在としてカロリーメイトを食べていた人が、自宅でのリモートワークの日にも食べるのもいいかもしれないと思ったり、家で子どものおやつにもカロリーメイトは良さそうと思えば、自宅用に買い足すようになるかもしれません。

既存のお客さんが、別の利用シーンでカロリーメイトを新たに食べてくれるので、一人あたりの消費量と購買量が増えます。

ブランドへのロイヤルティ向上

カロリーメイトのことを 「会社や外出のときだけではなく、家でも使えるから便利」 や 「忙しい朝ご飯の代わりにもなって、しかも子どもにも安心」 と思ってもらえれば、消費者は自分の生活シーンで思い出したり食べる機会が増え、さらにカロリーメイトへの愛着が高まることでしょう。

お客さんにとってカロリーメイトがなくてはならない存在に近づくと、お客さんの頭の中では他とは物理的にも心理的にも代えがききにくいブランドになります。ロイヤルティ向上は、長期的に安定した顧客基盤づくりにもつながります。

新しい利用シーンを打ち出すために


では最後のパートでは、新しい利用シーンを打ち出すためのポイントを整理します。

利用シーンの開拓と提案には顧客文脈の理解が不可欠

自社商品の新しい利用シーンを生み出すためには、商品を使う顧客文脈や消費者文脈を理解することが大事です。

カロリーメイトの例でも、従来の外出先だけにフォーカスしていては、家庭での利用拡大は難しかったことでしょう。そこで 「在宅勤務が増え、家庭で過ごす時間が長くなった人が増えている」 、「子どもの習い事や塾など、家庭内でも時間に追われるシーンが多い」 などの消費者文脈を踏まえたうえでの提案を行ったわけです。

ポイントは、お客さんの置かれた状況、その状況下で生じているニーズ、一方で既存商品では満たせていない未充足ニーズを深く理解することです。

順番に見ていくと、お客さんの置かれている状況とは、年齢、家族構成、ライフスタイル、日常生活の送り方、仕事の仕方などの文脈です。たとえば子育て家庭なら 「朝は子どもを起きたあとすごくバタバタする。自分のことをする時間が全然ない。親も子どもゆっくりと朝食を食べてる暇なんてない」 という状況への理解です。

次に、その状況下で生じているニーズを捉えます。

忙しい朝の自宅で準備の手間なく手軽に食べたい、朝ごはんの栄養不足を補いたい、子どもに安心して与えられるといった具体的な望みや悩みが、お客さんの置かれた状況の下で発生しています。そのニーズはどんな状況で表れているのかというニーズへの因果関係を読み取れます。

同時に、既存商品で満たせていない未充足ニーズも見出すことが重要です。

お菓子やインスタント食品だと栄養がなさそう、スナック菓子や清涼飲料はおいしいが、砂糖や身体によくない油が多そう、手軽さと栄養バランスを両立する食べ物はなかなかないなど、消費者が抱えている不満や不便さです。

実在する消費者のリアルな状況とそこから生じるニーズ・未充足ニーズを深掘りすることで、まだ自社商品が捉えきれていないニーズや利用シーンを見出すことができます。

顧客理解にもとづいて利用シーンを訴求する

そして重要なのは、顧客理解にもとづいて利用シーンをわかりやすく訴求することです。

具体的なシーン描写があると、消費者は自分の生活と重ね合わせることができ、例えば 「自分も家でも使えそう」 と想像しやすくなります。自分ごと化されて初めて商品を試してみようという気持ちになります。

商品やサービスの魅力を高めるには 「どんな利用シーンで役立つか」 をいかに多角的に提示できるかです。

商品開発やマーケティングを考えるときには、ぜひ 「この商品はどんなシーンで、どんな人の困りごとやニーズに応える存在になれるか」 を掘り下げてみてください。

リアルな消費者を思い浮かべ 「この場面でも使えそう」 「このときに困っている人にも役に立つはず」 と新たな文脈を発掘できれば、自社商品・サービスはより多くの人に価値あるものになっていきます。

マーケターの役割は、お客さんから選ばれる状況をつくることです。お客さんから選ばれる機会を 「水平方向」 と 「垂直方向」 のいずれも増やしていく――。マーケティングで大切なことです。

まとめ


今回は、カロリーメイトの事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • ★★9:25自社のビジネスの成長には、水平方向 (新規顧客の開拓) と、垂直方向 (既存顧客の利用頻度向上) の両面を狙う

  • 既存の利用シーンに加えて、新しい利用シーンの訴求により新たな顧客価値を提案することで、これまで接点のなかった層にも商品を届けられる

  • そのためには、顧客文脈 (状況, その状況下で生じるニーズ, 既存の方法では叶えられていない未充足ニーズ) を理解することが重要。誰が・どんな状況で・何を求めているのか・どのニーズが満たされていないのかを掘り下げ、新しい利用シーンを打ち出すための洞察をする

  • マーケティングの本質は 「選ばれる機会」 を増やすこと。どのような状況でどう役立つのかを伝え、より多くの消費者に実際に選ばれる機会を創出する


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。